新作料理の評価を終えたウチらは部屋を変えた。
今はアキの部屋でお茶をしながらおしゃべり。
やっぱりアキと一緒の時間は楽しい。
それと、やっぱりアキは単純。
話しているうちにちょっと話題を振ったら、さっきのレシピをあっさり話してくれた。
途中で気付いたみたいで最後まで教えてくれなかったのが残念だけど。
まぁちょっと時間を置いて話せばきっと続きを教えてくれるだろうし、今日はこれくらいにしておいてあげようかな。
そんな会話の切れ目でお茶を口に運んだ時、ウチはふと棚にあるゲーム機に目が行った。
それはウチの部屋には無い物。
アキや坂本たち男子が好きな遊び道具。
そういえば前回来た時はいつの間にか格闘ゲーム大会になってたっけ。
勉強会だったはずなのにね。
確かあの時は坂本の優勝だったかな。
強引にウチと瑞希も参加させられたけど、あっと言う間にアキと土屋に負けちゃって。
あの後、悔しくて何度もアキに勝負を挑んだけど……結局一回も勝てなかったな。
なんだか思い出したらまた悔しくなってきたわ……。
……
よしっ! 今日こそ見返してやるわ!
「アキ、この前のあのゲームで勝負よ!」
「ん? あぁ、前に勉強会した時のあれ?」
「そうよ。今日こそ勝ってみせるわ」
「まだ懲りてなかったんだね。しょうがないなぁ。この僕が直々に相手をしてあげよう」
「その天狗の鼻、へし折ってあげるわ!」
アキはゲームをテレビに接続するとウチの横に座った。
ウチは前回の戦いを思い出しながらコントローラーを握り、画面に集中した。
一方、アキは肩の力を抜いて、とってもリラックスしている。
「随分と余裕じゃない」
「そりゃそうさ。このゲームは相当やり込んでるからね。負ける要素は無いよ」
「大した自信ね。でもウチだって負けてばっかりじゃないんだからね!」
「それじゃ、お手並み拝見と行きますか」
ウチは打撃や投げを得意とする女の子のキャラクターを選んだ。
アキは遠距離攻撃型のキャラクターを選んでいる。
「またそのキャラ? それじゃ僕には勝てないよ?」
「いいのっ! ウチはこの子が好きなんだから!」
この子、動きが機敏で扱いやすいのよね。
それに何か妙な親近感を覚えるし。
確かにこの子は遠距離攻撃には弱い。
でも戦い方によってはこの子だって勝てるはずよ。
だって前回、土屋がこの子を使ってアキに勝っていたもの。
あの土屋のやり方を真似すればウチにだって勝てるはずよ!
さあ勝負開始!
☆
と、意気込んで勝負をはじめたものの、やっぱりウチは勝てなかった。
「ちょっとアキ! 少しは手加減しなさいよ! ウチは初心者なのよ!」
「へへ~そうは行かないよ」
「む~っ! もういいっ! なんとしても勝ってやるんだから!」
「ふふん。雄二と特訓を繰り返してきた僕に勝てるかな?」
確かにアキは大きなことを言うだけはあった。
ぜんぜん歯が立たない。
どうしよう……このままじゃ勝ち目が無いわ。
……
そうだっ!
ちょっと卑怯だけど……こうなったら!
「あ、玲さん」
「げっ! まずいっ! テスト前に遊んでるところ見つかったら――――」
今だっ!
「なんてね。そんな手にはひっかからないよ」
「あっ……」
反撃されちゃった……。
「今日の姉さんは夜まで帰ってこないんだよ。それにその手は今まで散々雄二にやられてきたからね」
そういうこと……。
つまり坂本と同じ手を使ってもダメってことね。
それならまずは坂本の手口を聞き出さないといけないわね。
「じゃあ坂本って他にどんな手使うのよ」
「んー……。脇の下を突っついたり、僕のコントローラーの線引っ張ったり。技を出す直前にテレビの電源切ったりもしたね」
「アンタたちどれだけ卑怯なのよ……。テレビ消したら勝負にならないじゃない」
「大丈夫だよ。雄二が技を出すタイミングは分かるからね」
……勝てないはずね。
見えなくても戦えるってどういうことよ。
わけ分かんないわ……。
……
でも、ウチは勝ちたい!
この子で勝ちたいっ!
この後も勝負を続け、ウチはいくつもの動揺を誘う言葉をアキに掛けてみた。
でもどんな言葉にも全然動じないみたい。
いつものアキからは想像できないくらい落ち着いている。
「む~っ」
「諦めてキャラ変えたら? そのキャラじゃ僕には勝てないって」
「いいのっ! ウチはこの子で勝ちたいの!」
ウチは諦めずに挑み続けた。
でも何度繰り返しても返り討ち。
アキは余裕の笑顔でウチの攻撃に的確な反撃をしてくる。
もうっ! 憎たらしいわね!
ウチがこんなに苦戦してるって言うのに!
「ホント容赦しないわね。初心者に対して」
「情けは人のためならずって言ってね、情けを掛けるとその人のためにならないんだよ」
「え? アキ、それ意味違うわよ?」
「うん? 今度はそういう作戦? その手には乗らないよ」
「ううん本当よ? そのことわざはね、情けをかけることは相手のためじゃなくて自分のためになることだから、誰にでも親切にしなさいって意味なのよ」
「ははっ。美波にしてはよく考えたね。でもそんなことじゃ僕は動揺しないよ」
「嘘じゃないわよ! ウチが今朝勉強してて調べたんだから! 嘘だと思うなら見せてあげるわ!」
学年のはじめに学校で買った本の中に、ことわざ辞典があった。
ウチが今朝見たのはその辞典。
同学年は全員同じ辞典を買っているから、当然アキも持っているはず。
「学校で買った辞典があるでしょ? ちょっと借りるわよ」
ウチは立ち上がって本棚に向かおうとした。
ところが――――
「ちょっ! ちょっと待って美波! いいよ自分で調べるから!!」
アキはそう叫ぶとウチの前に立ちはだかり、本棚に向かうのを阻止した。
何を慌ててるのかしら。
見られちゃ困るものでもあるって言うの?
「アキ、まさかいやらしい本なんかを隠してるんじゃ……」
「そ、そんなところには隠してないよ!」
「じゃあ他のところに隠してあるのね?」
「うぐっ……」
「図星みたいね」
「そっ、そんなことより、ほらこれでしょ! ことわざ辞典! 自分で調べるから美波は座って待っててよ!」
「まぁいいわ。じゃ、調べてみなさい。ウチが正しいことが分かるから」
「わ、分かったよ」
アキは辞典のページをめくり、おぼつかない手つきで調べはじめた。
「ずいぶん綺麗な辞典ね。使ってない証拠よ」
「うっ……。き、気が散るからちょっと黙っててよ!」
「はいはいっ」
この間、ゲームは止めてある。
ウチはアキが調べている間に、この後どう戦うか戦略を練ることにした。
……前に土屋がこの子を使ってすごい連続技を出していたわね。
あれが決まれば勝機はあるはず。
確かあれはああやってこうやって……。
「……」
調べ終わったのか、アキは黙って辞典を閉じ、本棚に戻した。
「どうだった?」
「……美波の言うとおりだった」
「だから言ったでしょう? 納得した?」
「ううっ……」
「さ、勝負再開よ」