ウチと彼と深層心理   作:mos

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part F

 一人になったアキの部屋はとても静かだった。

 時計の針が時を刻む音だけが耳に入ってくる。

 

 ウチはその針の動きをぼんやりと眺めながら、あの時のことを考えていた。

 アキと付き合いはじめて数日後のあの日のことを……。

 

 

 あの日、ウチは話しがあると瑞希に呼び出された。

 話しとはもちろんアキとの関係について。

 きっとお弁当とアキの態度の変化で気付いたんだと思う。

 ウチは瑞希の問いに対し、嘘は言えなかった。

 だからアキとの関係を正直に答えた。

 

 瑞希……。

 涙は見せなかったけど……今にも泣き出しそうだった……。

 もし木下の叱咤(しった)が無かったらウチが逆の立場だったかもしれない。

 逆の立場だったらウチは……我慢できたのかな……。

 

 木下の『瑞希が告白すると言っていた』というのが嘘だったのはこの時わかった。

 理由はどうあれ、結果的にウチは瑞希を出し抜いたことになる。

 だからウチはどんな非難も受ける覚悟を決めていた。

 

 でも、瑞希はこのことを責めたりはしなかった。

 そして自分が想いを寄せていたことを決して言わないようにと、ウチを固く口止めした。

 知ればきっとアキは悩み、苦しむからと。

 瑞希の真剣な訴えに気圧(けお)され、ウチはその願いを聞き入れた。

 

 ……

 

 ウチはあの約束をずっと守っている。

 だからアキはこのことを知らない。

 

 あの時は納得したつもりだった。

 でも、心のどこかでずっと引っかかっていた……。

 

 

 

 本当にこれで良かったのかな……瑞希……。

 

 アキは……どうなんだろう。

 

 もし瑞希と二人で同時に告白していたら……。

 アキはどっちを選んだのかな……。

 

 

 さっきは気にしなかったアキの言葉が脳裏を過った。

 

 ──── 美波の色仕掛けなんて僕には効かないよ ────

 

 自らの体を見下ろしてみる。

 女性ならば本来あるべき山はそこには無く、僅かな丘を携えるのみ。

 

 ……

 

 瑞希はウチよりもずっと女の子らしくて……。

 ウチみたいに意地っ張りでもなく、優しくて頭もいい……。

 

 ウチは……何もかも瑞希には敵わない……。

 

 それでもただひとつ、アキを想う気持ちだけは負けない。

 そう思い続けてきたけど……。

 やっぱり気持ちだけじゃダメなのかな……。

 

 アキは一ヶ月前のあの約束を誠実に守ってくれている。

 でも付き合いはじめてからの一ヶ月間でデートしたのは一度だけ。

 確かにお互いの都合が付かなかったのはあるけど……。

 

 どうしてかな……。

 恋人の関係になれたのに……。

 優しくしてくれるのに……。

 

 ウチ……アキを遠く感じてる……。

 

 ……

 

 思い起こせば、今までウチはちょっとのことですぐに苛立ち、アキに乱暴を働いてきた。

 アキが抵抗しないのをいいことに……。

 そんな接し方をしてきたウチが好きだったなんて、気付く方がおかしい。

 それでもこんなウチの告白にアキは……応えてくれた……。

 

 ……

 

 もしかしてアキ……。

 

 ウチを気遣って付き合ってくれているのかな……。

 

 本当は……瑞希の方が────

 

「お待たせ」

 

 !

 

 突然後ろからアキの声が聞こえ、驚いて振り向いた。

 

 一瞬アキの顔が見えたところで気付いた。

 今、ウチは目に涙を(にじ)ませている。

 顔を見せればきっとアキはウチの暗い表情に気付いてしまう。

 

 ウチはすぐに顔を前に戻して隠した。

 

「美波……?」

「……お、おかえりアキ」

 

 精一杯平静を装って声を出したものの、ウチの声は震えていた。

 

 どうして急にあの時のことを思い出したりしたんだろう。

 アキの言葉がきっかけになったのか。

 静まり返った部屋に一人でいたことで余計に考え込んでしまったのか。

 

 どちらにしても今のウチの心は不安の渦中にあり、それが顔に出てしまっている。

 そしてその異変はアキに気付かれてしまった。

 

「美波、やっぱり変だよ? どこか具合が悪いんじゃないの? うちに来た時も顔が赤いみたいだっだし……」

 

 この言い知れぬ不安に襲われている状態を具合が悪いというのなら、そうなのかもしれない。

 でもこれは薬を飲んだり、寝れば治るようなものでもない。

 

 これを治すには……聞くしかないと思う。

 アキが本当はどう思っているのか。

 

 もしそうなら……ウチは……。

 

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