ウチの望みは……あの時からの願望。
アキが看病してくれたあの日。
熱と驚きで足が立たなかったあの時。
夢みたいだった……。
ううん。
あれから何度も夢に見た。
ずっと言えなかった、ウチの願望。
「えっと……それじゃあ……」
ウチ、もっとアキに触れたい。
もっと触れ合いたい。
それは、ウチから無理やり技を掛けたりとかじゃなくて……。
あの時みたいに……抱っこしてほしい……。
「…………」
「うん? なんだい?」
でも……。
やっぱり抱っこをせがんだりしたら子供みたいよね……。
こんなことお願いしたら変に思われるんじゃないのかな。
そうよ。きっと子供みたいって笑われるわ……。
だから今まで恥ずかしくて言えなかったんだし……。
「なんでもいいよ。僕にできることならね」
……
大丈夫……。アキなら……きっと分かってくれる!
ウチは迷わないって決めたのよ!
勇気を出して言うのよ!
「あ、あのね、アキ」
「うん」
「ウ、ウチね、えっと、その…………だっ、抱っこして……ほしい……な……って…………」
「へ?」
っ──!!
やっぱりダメっ! 恥ずかしい!
「や、やっぱりいいっ! 今のなしっ! 忘れて!」
恥ずかしさで堪らなくなったウチは肩を窄め、頭を垂れて前髪で顔を隠した。
顔が熱くなって、耳まで真っ赤になっているのが自分でも分かる。
だが、相手の耳に届いてしまった言葉は簡単には取り消せない。
きっとアキはウチのことを笑うと思う。
でも……。
ウチの気持ちを少しでも分かってくれるなら……。
そんな僅かな期待を込めて少しだけ目を上げ、アキの表情を確認してみた。
前髪越しに見たアキは薄く口を開け、意外だと言わんばかりの顔をしていた。
や、やっぱり変なんだ……。
あんな顔するってことは絶対変な子だって思ってるわ。
どうしよう……恥ずかしいこと言っちゃった……。
ウチは更に恥ずかしくなって再び顔を伏せた。
全身が熱くて、顔はもう火が吹き出そうなくらい熱くて、頭がクラクラする。
ウチの心の中では、この場から逃げ出したい気持ちがどんどん大きくなる。
その一方で、まだアキと一緒にいたいという気持ちも強く残っている。
二つの気持ちが頭の中でぐるぐると駆け回り、思考をかき乱す。
どうしよう……どうしよう……。
考えようとしても頭が混乱して何も考えられない。
ウチにできることは恥ずかしさに耐えながら座布団の上で身を縮めることだけだった。
あ……れ……?
そうしているうちにウチは不意に目眩のような感覚に襲われ、何かに吸い寄せられるかのように体を倒した。
ウチ……どうしたんだろう……。
のぼせちゃったのかな。
起きなくちゃ……。
体を起こそうとして気付いた。
肩をしっかりと支えるものがある。
なんだろう……?
疑問を感じながらぼんやりした頭で目を開けると……。
目の前にアキの着ていたシャツがあった。
────!?
驚きで意識がはっきりした。
でも何が起きているのか理解できなかった。
ウチは体を少し
わけが分からず目を白黒させていると、頭の上からアキの声が聞こえてきた。
でも、その声は嘲笑のようなバカにしたものでなく、どこか緊張したような、それでいて優しく、いたわるような声……。
「こ、これでいい?」
えっ……?
声のする方を見上げると、ほのかに頬を赤く染め、こわばった笑みを浮かべるアキの顔があった。
「……笑って……(ないの)……?」
アキに問い掛けたつもりだった。
考えていたこととは逆の事態にウチは状況を受け入れることができず、出した声は蚊の鳴くような小さな声になっていた。
「ん? 笑え? あ、そんなに緊張するなってことか。そ、そう言われてもな……それじゃあ、えっと……」
えっ? な、何を言っているの?
ますます混乱しているウチを余所にアキは宙を眺め、顔を
ウチは呆気に取られ、ただアキの考える顔を眺めることしかできなかった。
……
何を考えているのかな……。
数秒程度なのか、数分なのか。
どのくらいの時間アキの顔を眺めていたのか分からないが、いつの間にかウチは思考力を取り戻し、そんなことを考えられるようになっていた。
そうしてようやく自分の置かれている状況も理解することができた。
ウチは体を後ろに倒している。
でも床に寝そべっているわけではなく、ウチの背中を支えるものがある。
……アキの腕だ。
その腕はウチの首を支えるように背中に回り、その先の手は肩に添えられている。
そしてもう片方の腕は反対側から脇の後ろに回り、ウチの体を支えている。
ウチは……アキに介抱されるように……抱かれている……?
……
そっか……。
アキはウチのこんな子供みたいな願いを笑わずに黙って聞き入れてくれたんだ。
だからウチはこうして抱きかかえられているんだ。
やっぱり……アキは優しいな……。
あれ?
そういえばアキ、『笑え?』とか言ってたような……?
あ……。
ウチ、さっきちゃんと声が出てなかったかもしれない。
だとしたら中途半端なウチの言葉を聞いて、アキは何か勘違いをしてるかもしれない。
きっとそうだ……。だからアキは考え込んでるんだ。
大変、言い直さなくちゃ。
「あ、あの──」
どう言い直せばいいのかなんて考えてなかった。
とにかく声を掛けてアキが考えるのを止めないと。
そう思って声を出した。
でも遅かった。
ウチが言いかけた時、アキは何かを閃いたような顔を見せ、再びウチに顔を向けた。
そして――――
「こうかな」
笑顔を太陽のように……輝かせ……。
……
バカ……。
そうじゃなくて……。
……
やっぱり……アキはアキだ。
ホント……アキは……。
……
あったかい。
あったかいな……アキって……。
「美波? えっと……なんか違った?」
「あ……。ううん」
うん。何も違うことなんてない。
やっと……夢が叶った。
ウチ、一度でいいから、思いっきりアキに甘えてみたかった。
……そう。こんな風に……。
ウチはアキの腕の中で
そしてアキの胸に顔を強く押し当て、何度も首を振って擦り付けた。
「ちょっ、み、みなっ、く、くすぐったいよ」
「なんでもするって言ったじゃない。いいでしょ。これくらい」
「そ、そうだけど……く……」
あぁ……アキの匂い。
この感じ。久しぶり。
こうしていると落ち着く。
ウチの家のリビングで一緒に寝た時の安心感。
あの時と同じ感じ。
……ううん。
もっと深く……。包み込んでくれる感じ……。
「ありがとアキ……。ウチがいいって言うまで……こうしていて……」
「ん? あぁ、うん。お安い御用さ」
安請け合いしちゃって。
それならずっとこのままでいてもらおうかな。
ふふ……
後編に続きます。