何番煎じかわからないアビドス前生徒会男子混入もの。
いいものは何度読んでも脳に栄養をくれる。
ユメ先輩とホシノにべた惚れしている主人公が自己嫌悪に陥りながら大切なものを愛でるだけのお話。
展開が既存の作品に似通ってしまうかもしれません。許してください。筆者は先駆者の方々の作品に脳を妬かれて書き始めました。
とうとう手を出してしまった。
対戦よろしくお願いします。
ユメ先輩ヒロインもの少なくない気がしてならない。なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
キヴォトス唯一の男子生徒である西陽カザリ。
彼は銃を撃つには貧弱で、頭を使うにもそこまで出来がいいわけでもなく、またヘイローがないため弾丸ひとつで簡単に死んでしまう夜のピクミンのような存在だ。
ただ、そんな彼にも長所と呼べるものはある。
それはーー
「ユメせんぱーい、ホシノ〜! 家庭科室勝手に使って作ったんだけどめっちゃ美味しいから! これ食べてよ!」
溢れんばかりの善意であった。
ドタドタとアビドス生徒会室に駆け込み、片手に自作した巨大オムライスを彼女たちの机の上にドンッと置いた。
「わぁ! 美味しそ〜! 私か作るより美味しそう! ねぇ食べていい?」
「はぁ……姿が見えないと思ったら何してるんですかあなた……」
目を輝かせる緑髪の少女ーー生徒会長梔子ユメ。
溜め息をつく桃色の少女ーー生徒会副会長小鳥遊ホシノ。
「ここで重大発表! なんと! このオムライス屋上のプランターから実った野菜を入れております!!!」
黒目黒髪、何の変哲もない人間型男子生徒である西陽カザリは自分なりに彼女たちに報いようとしているのだ。
自分が何も出来ない弱いものであることを、西陽カザリは理解している。
「アビドス産野菜の実力……! ご賞味あれと言わせていただこう。ふっふっふ」
手間暇掛けて作ったから、きっと美味しいはずだ。カザリは笑顔で近くの椅子に座り込み、彼女達のスプーンとお茶を用意した。
「早速いただきます! あむっ、ううー! 美味しいよ〜! こんなに料理上手だったのカザリくん!」
一口。オムライスを口に入れたユメはわなわなと震え、弾ける笑顔はその美味しさを体で表現しているようだった。
「……酸味が強いです。あと野菜の切り方もバラバラ……でも、まぁ、美味しいんじゃないですか?」
一方で無言で食べたホシノが冷たく評価を下した後、妥協点には到達していることを言外に含ませる。そしてそのホシノの言葉に机の上に身を乗り出し、カザリは先輩と同じく笑顔を弾けさせた。
「っほんとだな!? ホシノ! ホシノに美味しいって言わせることが目標だったんだ! ユメ先輩はどうせ何作っても美味しいって言うからあてになんないし」
「どういうことかなカザリくん!?」
「な、何なんですかそれ。別に私だって忖度くらいできます……! それ……」
身を乗り出したときに机の上に広げられた手の先。そこには包帯巻きのように多くの絆創膏が貼られている。
ホシノは目を細め、じっとカザリを見つめた。
「……そこまで手が傷だらけになるくらいなら作らなくても良かったのに。そもそも他の仕事はどうしたんですか? 遊んでる暇はないんですからちゃんと考えて行動してください」
「それは、その、ごめん……」
ホシノの現実を見据えた言葉に浮ついた頭が冷やされる。
ホシノは賞金稼ぎで大変だろうから、美味しいものを作ってあげたかった。凹んだ様子ひとつ見せないユメ先輩に美味しいものを作ってあげたかった。
いや、俺が作りたいだけだったのかもしれない。何もできない癖に、何かができるフリをするための慰めに、彼女たちを付き合わせてしまっただけだったのか。
反省しないと。
「……っ」
何かを言いかけて、そして言葉を留めるホシノ。そしてそれに目敏く気付くユメ。
「あむっ、ごちほうさま〜! むぐぐ、ぅん! 決めました! 毎週月水金の昼食はカザリくんにお任せします!」
「……嬉しいですけど、ホシノの言う通り他にもやることが」
「大丈夫だよ〜! 私たちが美味しいご飯を食べて、元気になって、もっと働くことができれば問題なし! だよねホシノちゃん」
ふふん。と聞こえてきそうなほどのしたり顔でホシノに返答を求めるユメ。ユメは的確にホシノの心情を見抜いていた。
「……まぁ、はい。美味しいのは事実ですから」
「ホシノ……! わかりました! 任してくださいっ! アビドス1の料理人になってみせます」
「おお、専属料理人ってやつだね。トリニティみたい! どうしよう、お金持ちみたいになっちゃうね!」
「お金持ちどころかカツカツ超えてマイナスですよ? 全く……仕方ない人達ですね」
意気込むカザリ。笑顔のユメ。呆れているホシノ。
これが、アビドス生徒会の日常だ。
「……はっ! 全部食べちゃった! せっかく作ってくれたから記念に写真撮ればよかったな……」
「いくらでも作りますから撮る必要ないですって」
「……ひぃん!? そそそそれはそういう意味なの!?」
「?」
「先輩……流石にそれはないです」
「うわぁんそんな目で見ないで〜!」
一体何が起こってるんだ……?
▽
珍しく、アビドスに雨が降っていた。いつぶりだっただろう、2週間以上も前だった気がするし、そうでなかったような気もしてきた。
砂に塗れた校舎を洗い流す静かな雨音。中々どうして、カザリは雨の日が嫌いではなかった。
校舎の清掃は既に終わり、残るのはアビドス復興に向けての色々。賞金首の依頼を見繕ったり、施設の誘致や砂漠化に対抗するための方法の模索など、とりあえずやってみているのだ。
尤も、成果が出ているとは口が裂けても言えないけど。
「ホシノとユメ先輩の弾薬もまだ余裕がありそうだな……よし。緊急用の食料もあるし、大体大丈夫そうかな」
倉庫で彼女たちの装備を確認し終えると、カザリは生徒会室に向かった。今日は自由登校日。しかし基本的にカザリやユメが学校に来ないことはなかった。
なんなら休日にも来るくらいだ。
雨音を聴くために、足音を小さくしてゆっくりと歩いていく。
静謐に降り続ける雨は自分の悩みも押し流してくれそうな、そんな気がするのだ。
カザリは欠陥品である。
キヴォトスに生まれながらヘイローもない、異端にして唯一のエラー。アビドスで生まれ育ったこの世界で1番弱い生き物。
自分が嫌いだ。弱いから。
自分が嫌いだ。馬鹿だから。
自分が嫌いだ。ホシノに怒られてばかりだから。
でも自己嫌悪に夢中になれるほど、このアビドスは余裕があるわけじゃない。だからカザリは己を心底見下している気持ちに蓋をして、大好きな二人の為に普通を装って生きている。
ホシノの言うことはいつも正しい。彼女の言葉に隠された、少しの諦めをカザリは恐れているのだ。
お前がもっと強ければ。
そう、責められることを恐れている。そしてその気持ちは決して間違いじゃないのだから。
久しぶりに自分の中に入り込んでいたカザリは、気付けば生徒会室の前まで戻っていた。気が抜けている、もっとちゃんと、しっかりしないと。
自分に活を入れ、静かに生徒会室に入る。
「ぐぬぬぬぬ……すぴー、ぐぬぬぬ、すぴゃ〜……」
「ね、寝てる……」
気持ちよさそう(?)に寝ているユメ先輩の姿。緑のアホ毛がふにゃりと曲がり、ヨダレを垂らしながら幸せそうに寝ている。
どんな夢を見ているんだろうか。
綻んだ顔が微笑みに変わり、酷く優しい気持ちにさせられる。ユメ先輩と居ると優しくなれる、なれすぎてしまうからちょっと怖い。
いつか無力な自分すら許してしまいそうで。そんなこと、有り得ちゃいけないのに。
あまり使わないヒーターを引っ張り出し、毛布を持ってきてユメ先輩に掛ける。
ユメ先輩は寝るとすぐには起きない。具体的に言えば腕を枕にして寝ているのを持ち上げ、枕を差し込んでもそのまま寝続けるくらいには起きない。
無防備すぎるけど、俺くらいしか居ないし。まぁいいか。
そのまま仕事に戻ろうとして、何となく撫でたくなった。寝ているユメ先輩の頭に手を伸ばし、ゆっくりと撫で付ける。
「……いつも頑張ってくれてありがとう」
ふわふわの髪は触り心地が良くて。
「ユメ先輩も、少しは休んでいいんだよ?」
撫でながら、カザリは思う。
きっと、この滅びかけのアビドスを支える唯一の柱である生徒会長という座は、思っているよりも大きくユメ先輩の負担となっているはずだ。
いつも笑顔で、ゆるく笑って、ちょっぴり抜けたところがあるユメ先輩。
果たして、俺たちがユメ先輩が負の感情を出しているところを1度でも見たことがあっただろうか。多分、ない。
少しでも良いから、俺を頼って欲しい。分け与えるにも貧弱で、頼りがいもないかもしれないけど、それでも頼って欲しいのだ。
これはただの我儘。
わが、まま……俺にそんな余裕があるとでも、? 無力で貧弱で馬鹿な俺に?
……こんなことを考えてしまうなんて、やっぱりユメ先輩は危ない人だ。頼って欲しい、力になりたいってこんな俺にも思わせてしまう。
「俺は何があっても、ユメ先輩のこと大好きですから」
ゆっくりと、優しく緑のアホ毛を撫で付けて、そして名残惜しそうに伸びる手を止めて。カザリは不思議な満ち足りた感覚に胸を躍らせながらパソコンの前に戻った。黒い画面に映った自分の顔。
むにむにと顔を揉んで、浮かんでしまった表情を何とか元に戻す。こんなたるんだ顔をしていたら、ホシノに怒られてしまう。
幸せ充電完了! よーし、いっちょ働きますか!
パソコンの前で意気込むカザリは、
「……はう////……」
僅かに赤くなったユメの顔に気付くことはなかった。
神秘も持たぬ空っぽの人間に果たして神の死を変える力は有るや否や。
あと感想乞食ですよろしくお願いします。