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ヒーローになりたかった。
あの美しい、光の巨人のようになりたかった。
キイィィィィィンンンンン。
そんな音がするんじゃないかと思うほど猛スピードで空を飛んでいく。
今日も俺の愛機は絶好調だ。
「うん? なんだ?」
急に計器の調子がおかしくなる。
「おいおい、勘弁してくれよ」
そんな言葉を吐きながら、管制塔に無線をつなぐ。
「おい、聞こえるか。計器が急におかしくなった。着陸したい。指示をくれ」
管制から指示が――
「わかった。これからする指示に従ってくれ。まず――――ピ――、ザザッ、ザッ、ザザッ、ザザザザッ、ザーーー――」
――聞こえなくなった。
「もしもし。もしも~し。どうすればいいって?」
何度尋ねてみても、無線はテレビの砂嵐のような音を吐き出すだけだった。
「マジかよ」
思わずそう呟かざるをえなかった。
一体何が起きているんだ、という思考を中断し、これから無線の調子が良くなるのを待つか、それともこのまま基地まで帰るかの二択を考える。管制の指示を受けずに基地まで帰るのは他の戦闘機との事故が怖いので普段なら全く考えない選択肢なのだが、なぜかこの時ばかりはその選択肢が頭の中に浮かんだ。今思えば虫の知らせのようなものだったのだろう。だがこの時の俺はその虫の知らせに従わず、事故による死傷者を恐れてその場にとどまることを選択した。もちろんこの後とんでもないことに巻き込まれるのだが、少なくとも俺はこの時の選択を後悔していない。
燃料には余裕があったので、しばらくの間その場に留まり――もちろん多少の移動はしたものの――どうにかして無線が再びつながらないか試行錯誤をしていた。
するといつの間にか見覚えのない場所にやってきていた。
「どういうことだ。いつもの訓練のコースからは外れていないはずだぞ」
そう思った直後のことだった。
ブォオオオオオオオオオン。
いや、もしかしたらキュィイイイイだったかもしれない。ガラスをこすり合わせたかのような、地獄の底から響く雄叫びのような、それとも巨大な昆虫がいるのならこのような声をしているのではないかと思うほど、今までの人生で一度も聞いたことがなく、そして不協和音が重なり合ったかのような鳴き声だった。
そう鳴き声だったのだ。
その鳴き声が聞こえると同時に、何もいなったはずの目の前に巨大な怪物が現れた。
「うわあああ!」
そんな悲鳴を上げる間もなく、そのまま俺が乗っていた戦闘機は叩き落されてしまった。
それから、しばらく気絶していたらしい。
目が覚めると同時に――多少の擦り傷はあるものの――五体満足で生きているという現実に安堵した。しかし、今も戦闘機に乗っているという現状から考えて、夢だったということはありえない。少なくとも自分は墜落したはずで、しかもあの恐ろしい怪物が存在するという現実に恐怖した。
だが、
「このまま怖がっているわけにはいかない。俺は自衛隊員だ。国民を守る義務がある。こんな怪物が日本に上陸するようなことがあれば、何千、いや何万人死ぬことになるかわからない。なんとかしなければ」
と自分を奮起させ、無線が使えるようになっているかを確認しながら、怪獣が今どこにいるのかを把握しようとあたりを見回すとーーーーーー。
目の前には巨人がいた。
よく創作物などで見る宇宙人――後で知ったがオカルト用語でグレイと言うらしい――そっくりの巨人が目の前にいた。
「なっ、なんだ!」
しばらくぼーっとその巨人を見ていると急に浮遊感を感じた。
それと同時に巨人の顔が遠ざかっていき、やがて軽い衝撃とともに戦闘機が着水する音がした。どうやら墜落した際に怪我をしなかったのはこの巨人が俺を受け止めてくれたかららしい。
改めて見上げると、その巨大さがよくわかる。身長数十メートルはあろうかというその巨体。宇宙人そっくりとは言ったものの、よくよく見てみると細部は違い、体色は灰色ではなく光り輝く銀色で、体中に赤いラインが入り、胸に水色に光るランプのようなものが付いていた。
そして何より顔が違った。目は白く光り、
「あ、………………ありがとう」
怪物に乗っていた戦闘機を叩き落され、さらには目の前に巨大な宇宙人ーーのような存在ーーが現れるというあまりにも非現実的な光景を見たため、現実逃避を交えながらしどろもどろで巨人へ向かってお礼を言う。
巨人はコクンと一度だけうなずき、そのまま先ほど見た怪物と戦い始める。
その巨人と怪物が一歩を踏み出すたびに地響きが起き、どちらかが倒れれば津波のように海が波立つ。
巨人は怪物に対して何度もチョップやパンチ、さらにはキックを繰り出し、体力を奪っていく。
数時間が経っただろうか、数分、もしくは数十秒だったのかもしれない。
ピコン。ピコン。ピコン。ピコン。
そんな音が聞こえてくる。不思議と先ほどの巨人の体力が限界なのだろうなと直感した。しかし、怪物も巨人の攻撃によって多くの体力を消耗していた。巨人と怪物はお互いに体力が限界に達していることに気付いたのか、戦いを決着させようと動いた。
西部劇に出てくるガンマンの早打ち勝負のように、お互いに緊張が走る。しばらくの間膠着状態が続いた後、先に動いたのは巨人の方だった。
巨人は手首同士を合わせ、腕を胸の前で十字に交差させた。
十字に組んだ腕のうち、十字架で言うとキリストの頭があるところから、青白い、いくつかの短い線が組み合わさってできたような光線が発射され、怪物を撃ちぬいた。
撃たれた怪物は、しばらくもだえ苦しんだ後、爆散して死んだ。
恐ろしい怪物が死に、一人の犠牲者も出さないまま戦闘が終わった安心感からか、それとも巨人に受け止めてもらったものの墜落した時の衝撃が大きかったのか、そのまま俺は気絶してしまった。
「ウ、………………ウルトラマン」
何を俺は言っているんだ。無意識のうちに呟いた今まで聞いたことがない名前にそんな疑問を抱きながら、薄れゆく意識の中、俺の最後に見た光景は先程の巨人がこちらに手を伸ばすというものだった。
「うーん」
寝ぼけ眼を擦りながら伸びをすると、そこには明らかに見たことのない、とまではいかないが普段自分が過ごしている自衛隊寮とは明らかに違う場所だった。とどのつまり、俺がよくお世話になる病院の一室だった。
どうやら、あの後俺は急に無線がつながらなくなって心配をした他の奴らによって海に浮かんでいたところを救助されたらしい。
誰もいなかったのでナースコールを押して看護師さんを呼び、起きたことを伝える。
数日後。
ガラッ。
「よっすー」
「大きな声を出すな高羽。病院の人の迷惑になるだろう」
雑に病室のドアが開けられ、二人の男が入ってくる。一人ははきはきとしゃべる明るい男で、もう一人は疲れ切った雰囲気の無表情な男である。
「よぉ、史彦、寛見」
そして、彼らは俺の友達だ。
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四月あたりに連載(短編)版をアップする予定です。