なんとなく本編中のどっかからの出張という感じなので、深いことは考えずに読んでください。
ここは、はなみちタウンに店をかまえる一軒の喫茶店──名を、「喫茶グリッター」。
現在グリッター店内では、一人の少女によるピアノ演奏をBGMに、優雅なティータイムの空間が生まれていた。
ピアノの奏者は「蒼風なな」。
このお店のオーナーの娘である「咲良うた」の友だちで、その縁から今回の店内演奏を頼まれたのだ。
ななはまだ中学二年生なれど、ピアノの腕前はかなりのものであり、幼い頃からコンクールにもたびたび選ばれている才能の持ち主である。
彼女の
「いやぁ~、やっぱりピアノを弾くななちゃんはカッコいいなぁー」
配ぜんの合間に、静かなメロディに耳をかたむけながら、うたはそう感想をもらした。
ピアノの旋律に混じって、カランッとベルの音が。来客の報せだった。
「あっ、いらっしゃいませ!」
「……ピアノの音色につられて入ってみたが、なかなかいい店じゃないか」
来店したのは、二十歳くらいの若い男性が一人。
タキシードのような正装に身をつつむ男の立ち姿は、まるで映画かドラマからスルリと抜け出てきたようで、喫茶店という不釣りあいな背景でも不思議と馴染んでいた。
男性のスタイルのいい……よすぎるくらいのいで立ちに、うたはしばし見惚れていたが、はっと我にかえるとすぐさま彼を席へと案内する。
「この店のおすすめは、なにかな?」
「は、はい! ナポリタンとクリームソーダですっ」
「なら、それをもらおうか」
オーダーを受けたうたは、それを調理担当の父親に伝えたのだが
「大変だ、材料が切れた! これじゃナポリタンもクリームソーダも作れない!!」
「えぇ!?」
「ちょっと買ってくるーッ」
大急ぎで食材を補充するため、うたパパはエプロンも取らずに出て行った。
「お父さん、財布忘れてるわよ! うた、ちょっとだけお店お願い!」
「えぇー!?」
そう言ってうたママも、ついでにとばかりにうたの妹までもが、パパのあとを追いかけて外へ。
残されたのはうたとなな、注文を待たされることとなったタキシードの男のみ。
「やれやれ、仕方ないか」
「すいません……あ、とりあえずお水、持ってきますね」
カウンターに引っ込むうた。
と、そこにいつの間にか演奏をやめていたなながやって来て、彼女に小さく声をかける。
「うたちゃん、今のお客さんって……」
「ん? あのタキシードの人がどうしたの?」
「どうしたのって、うたちゃんは知らないの? あの人たぶん、『
うきよえーす、という名前の響きを聞いて、うたの思考は数秒間停止した。
そして、叫ぶ。
「えぇえええええええ!? 浮世英寿って、あの世界的大スターの!?」
「そう。人呼んで、スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズ。今を時めくトップ中のトップアイドルだよ!」
「あの『響カイト』と頂点争いしてる!?」
日本のみならず世界にまで知名度を響かせる二大スーパーアイドルが、浮世英寿と響カイトの2人である。
彼らは
『俺の右に出る者がいたとしたら、それは響カイトくらいだ』
という名言を残しているほどだ。
「た、他人の空似とかじゃ……」
「さっきオジサンたちが外に出て行ったときに見えたんだけど、お店の外にすっごい数の人だかりができてた。多分、みんな英寿さまのファンなんだと思う」
「ななな、なんでそんな超有名人が家のお店に……!?」
来店客の思わぬ正体に、うたは混乱状態だ。
そんな少女のパニックをなだめるように、当の浮世英寿本人がカウンターからひょっこりと顔をのぞかせる。
「ほう、俺のファンがこんな所にもいたとはね」
「「えええ、英寿さま……!!」」
「せっかくだ、サインでもしておこうか?」
「あ、じゃあお願いします」
世界的な有名人が訪れた店ともなれば、お客さんの数もググーンと伸びるだろう。
そんな下心から、うたは素直に英寿のサインをねだる。
うたの許可を受けた英寿が店の壁に大きくサインを残しているあいだに、なながまた小さく耳打ちする。
「ねえ、うたちゃん」
「なに、ななちゃん?」
「これってチャンスじゃないかな。英寿さまにアイドルとして大切なものを教えてもらえれば、
「そっか……そうだね! さすがななちゃん!」
ちょうどサインを書き終えた英寿に、少女らは歩みよる。
「俺の『アイドルとしての心構え』、か……」
質問を受けた当人は、瞬間的に不意をつかれたような顔を浮かべた。
それはすぐさま消えたが、あとにはレジェンドアイドル浮世英寿らしからぬ、曖昧な微笑が。
彼らしからぬ態度に、不安になった少女らは目を白黒させた。
「す、すいません、変なこと聞いちゃいまいた!?」
「ごめんなさい、言いづらいことだったら……」
「いや、いいんだ。考えたこともないことだったからな」
英寿のもらした言葉に、ついうたが聞き返す。
「考えたこともないのに、レジェンドアイドル出来ちゃってるんですか?」
「ああ、そうなる。俺が世界的なアイドルになったのは……俺の存在を、どうしても知らせたい人がいるからなんだ」
「そんな大切な人が……」
「どこにいるのかわからないが……わからないからこそ、こうして活躍していれば、いずれは気づいてくれるんじゃないかって……」
どこか遠く、世界の果てまで探し尽くす覚悟を見せる英寿の瞳。
彼の強く頑なな決心に、うたとななはつい涙ぐんでしまった。
感動する少女らを気づかうように、英寿はまた軽口をはさむ。
「こんな風に、自分のルーツを誰かに素直に話せたのは初めてだ。君たちは不思議な子だな」
フッ、と軽やかな笑みを浮かべる英寿につられて、うたとななにも笑顔が戻った。
「キャァアアアアアアア!!」
突如、和やかな喫茶グリッターの雰囲気を打ち破る悲鳴が、三人の耳をうつ。
「なになに!?」
「外からだ」
英寿がドアを開け、あとから少女らが続く。
店の外で浮世英寿の休憩が終わるのを待っていた、と思わしき彼の百人ほどのファンが……
『マックランダー!!』
「なんだ、この怪物は……!?」
次々と大型の怪物じみた物体へと
クリームソーダを模した体を持つモノから、ナポリタンスパゲッティ状の体、コーヒーにショートケーキなど、喫茶店のメニューを片っ端からモンスター化させたような異形の存在が、辺りを埋め尽くしていく。
その数、実に百体。
「えぇーっ!! 英寿さまのファンの人たちが、みんなマックランダーにされちゃったよ!?」
「そんな……こんな大軍団、どうすれば……」
事態を見て叫び声をあげるうたと、顔を青ざめさせるなな。
彼女らは、どうやらこのモンスターの正体に心当たりがあるような雰囲気だ。
英寿が二人に問いかけようとする前に、少女らは一転、決意を固めた表情でうなづきあう。
「英寿さまは隠れててください!」
「ここは私たちがなんとかします!」
二人はポケットから取り出した、手のひらサイズのハート形の物体に、リボン状のアイテムをセットする。
「「プリキュア・ライトアップ♪」」
光の中でうたとななの姿が、平時のそれとは大胆に変わっていった。
うたの茶髪は光を反射するイエローに変色し、ななの頭髪もまた暗い青から鮮やかなスカイブルーに。
服装は両者ともに、アイドルを思わせる華やかで軽やかなステージ衣装へと変化する。
「キミと歌う、ハートのキラキラ! 笑顔ニッコリ、キュアアイドル!」
「キミと瞬く、ハートの勇気! お目目パッチン、キュアウインク!」
一見すると場違いないで立ちの姿へと様変わりしたうたとなな──アイドルプリキュアのコンビを見て、浮世英寿は呆気にとられた。
「プリ、キュア……?」
「あの二人はキラキランドを救う救世主の、アイドルプリキュアプリ~♪」
「うおっ、人形が喋ってる」
「人形じゃないプリ! プリルンはプリルンプリ!」
出し抜けに声を上げたマスコット的存在、少女らをプリキュアに見初めた妖精プリルンを興味深げに眺める英寿。
そんな彼らを背に、キュアアイドルに変身したうたとキュアウインクになったななは、果敢に敵である存在──マックランダーの軍団に挑みかかった。
『マッ!』
『クラ!!』
『ンダーッ!!!』
「「きゃぁああーッ!?」」
しかしいくら力を得たとしても、少女二人に対して敵は百……圧倒的な数の前に、アイドルプリキュアはやられ放題。
そして、ついには一体の敵にも反撃さえできず、地を転がされた。
かつてないピンチに、プリルンも慌てふためく。
「たたた、大変プリ! このままじゃ二人が~!?」
「落ち着け、プリルン。君は安全なところへ避難していろ」
「え、どうするつもりプリ?」
英寿は不敵な笑みを浮かべると、倒れるプリキュアを庇うように怪物の群れの前に立ちはだかった。
どこから出したのか黒いバックル状の物体を手にしており、もう片方の手に持つ白いコイン型のパーツをはめ込む。
「変身」
『エントリー』
バックルが腰に付けられると機械音声が発され、直後に浮世英寿の姿が変わった。
全身を真っ黒なスーツに身をつつんだ、白いキツネマスクのその姿こそ──
「「ぇ、英寿さまも変身した……!?」」
「すごいプリ~! エースもプリキュアだったプリ?」
驚きの声を上げるキュアアイドルにキュアウインク、そしてプリルンに、彼は自らの名を明かす。
「違うな。俺の名はギーツ……仮面ライダー、ギーツだ」
「仮面、ライダー……」
「プリルンは知ってるの?」
ウインクの問いに、妖精は首を左右に振った。
仮面ライダー。プリキュアとは違う、謎の戦士。
咲良うた──キュアアイドルは、素直に彼の登場を受け入れる
「うぅ~ん、よくわかんないけど……英寿さまが一緒に戦ってくれるなら百人力だよ!」
「……そうだね。英寿さま、いえ仮面ライダーギーツさん。協力してもらえますか?」
「当然だ。俺のファンもとりもどさないと、だしな」
二つの異なった力をルーツとする二大ヒーローの共演。
さあ、ここからが大逆転──となるまでには、まだ足りない。
ギーツ=浮世英寿という大人の手助けがあっても、それはしょせん一人だけ。
おまけに、今回の戦いはギーツの──
彼は本来得られるはずのサポートも受けられず、現在のもっとも基本的なスタイルの「エントリーフォーム」では、攻撃も防御も満足におこなえなかった。
ボロボロになってくライダーとプリキュア。あざ笑う闇の先兵たち。
やはりダメなのか……世界はクラクラの真っ暗闇に飲みこまれるしかないのか……。
「そんなことはない……ッ」
ギーツの瞳は、ひび割れた仮面の奥でいまだ光失せない。
「そうだよ……!」
「私たちが、この世界を……キラッキランランな輝きで照らしてみせるんだから……ッ」
ウインクもアイドルも、この場にいる誰もがあきらめず、希望をつかむためにあがいている。
そんな彼女たちの勇士を見た、
それは形ある声援となって、彼らの元へと届けられた。
「みんな~!」
「プリルン? なに、そのおっきな箱?」
傷だらけのキュアアイドルの前に、プリルンがフラフラとした飛行でやってくる。
シューズボックスほどの大きさの硬質なケースを掲げながら。
箱に察しのあるギーツが問う。
「こいつはミッションボックス……プリルン、これをどこで」
「さっき知らない人から、みんなに届けて欲しいって渡されたプリ」
箱の天板をスライドさせると、中には赤と黄色で成形された小型の──プリキュアにとっては謎の──アイテムと共に、一枚の手紙が同封されていた。
ギーツが手紙の短い文面を読み上げる。
「『ギーツ、そしてプリキュアへ。決してあきらめない君たちの姿に感動させてもらった。これは、ささやかなプレゼントだ』、──か」
アイテムを手に取る。
透明なフタの奥に、コミカルにデフォルメされたコウモリようなイラストがのぞいていた。
ギーツはそのアイテム──「キバットベルトレイズバックル」を、自身のベルトであるデザイアドライバーに装填。
「デザグラじゃないのに無理したようだな。だが……ありがたく使わせてもらう。──変身!」
黒い素体エントリーフォームの上半身に、別の世界の仮面ライダーである「キバ」の鎧を模した増加アーマーが装着される。
仮面ライダーギーツ キバフォームへの強化変身が完了した。
目を見開くプリキュアを横にギーツ キバフォームは、鎧の本来の持ち主が所持する
真紅のヴァイオリン、名を「ブラッディ・ローズ」。
「さあ、アイドル、ウインク。ここからがハイライトだ」
少女らも互いにうなづき、彼がやらんとしていることを受け取った。
ウインクの前に、ガラスのように透き通った豪奢なピアノが出現。
アイドルの耳元には、ポップなデザインのインカムが装着される。
「「クライマックスは、
プリキュアの声を合図に、ギーツの奏でる
静かな旋律に合わせるようにウインクのピアノが重なって、二つのリズムは次第にそのテンポを速めていく。
対していた百体のマックランダーたちは、なにごとが起こるのかと動揺とともに、ヒーローたちの音楽に耳を澄ませていた。
「盛り上がっていくよ~!」
スポットライトがアイドルに当たる。
ギーツとウインクが送る、キュアアイドルの歌を輝かせるためのバックステージだ。
「~~♪ ~~♪」*1
二人の奏でるメロディーに乗って、ノリノリで歌を奏でるキュアアイドルの姿は、まさにプリキュアでありアイドルのそれだった。
人間のもつ愛と優しさを、力強い、それでいて穏やかな音楽とともに歌いあげる彼女の姿。
これまで敵対していたはずのマックランダーたちは、もはやただの観客へと変わっていた。
「すごいプリ! これがスーパーヒーローライブだプリ~♪」
プリルンもまた、両手にサイリュウムをもって声援を送る。
プリキュアと仮面ライダーのセッションによって、耳が幸せになっていく百体の闇の兵士たち。
彼らを
「今プリ! 一気に決めるプリ~!」
「プリキュア! アイドルスマイリング!!」
「ウインククレッシェンド!!」
巨大なハートとダイヤ型のオーラが、大滝のような
ギーツもレイズバックルを操作して、必殺のモーションを発動。
『キバストライク』
「ダークネスムーンブレイク!!」
満月を背にして放たれたキックが、プリキュアのオーラと共に残ったマックランダーの群れを一斉に浄化した。
『キラッキラッタ~……』
天へと還るように、マックランダーを構成していた闇の気配が立ち昇っていく。
怪物の素体にされていた浮世英寿のファンたちは、全員意識を失ってはいるものの、命に別状はない。
こうして、はなみちタウンを襲った突然の大騒動は終了したのだった。
「やったプリ~! キラルンリボンが、こんなにいっぱい手に入ったプリ~♪」
戦いを終え変身を解いた英寿らの前で妖精プリルンは、浄化されたマックランダーが残していった大量のリボン型アイテムを手にして、歓喜の声を上げていた。
「みんなのおかげプリ。これでキラキランドの復興も、かなりはやくなるプリ。エースもありがとうプリ!」
「なんのことかわからないが、よろこんでくれてよかったよ」
さてと、と帰り支度をはじめる英寿に、うたが名残惜しそうに引き留める。
「もう行っちゃうんですか?」
「ああ。もともと、ちょっとした休憩だけのつもりだったからな」
うたの隣で、ななも丁寧に礼を伝える。
「今日はありがとうございました。英寿さまがいなかったら、私たちだけじゃどうなっていたか」
「俺が来なきゃ、あんなに沢山の敵が現れることもなかったかもな?」
「あはは、それは……」
それは彼なりのジョークだったのだが、素直に笑っていいのかわからず、少女は小さく苦笑を浮かべるにとどめた。
いよいよお別れの時だ。
去り際の英寿に、うたとななの声が強く届く。
「私たち、今回のことで英寿さまから、アイドルとして大切なことを学びました!」
「アイドルは、どんな時でも大切な人たちへ、自分の声を届けなければならないんだって!」
英寿も振り返り、少女らに声をかける。
「俺も君たちプリキュアから学ばせてもらったよ。あきらめない力は、なによりも尊いってことをな」
「私もななちゃんも願ってます。英寿さまの声や姿が、英寿さまの大切な人へ届くことを」
「きっと届くさ、君たちがそう信じてくれるなら」
信じて願いつづければ、その想いはいつか必ず叶う。
ここは、そんな世界なのだから。
元はななちゃんキュアウインクを主役に、音楽つながりで未来の仮面ライダーキバこと紅正男とのクロスを考えてました。
がキミプリ4話を見たことで、アイドルつながりでこの話のアイディアが湧き、そっちは没となりました。