小さな夢の物語。異世界で起きた小さな御伽話、それを少しばかり語りましょう。

……転生……かなあ?いやどうだろ?

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あるエルフの語り部

 ――おや、見慣れん顔だの。何処から来なすったかね。

 ん? わからん? 気が付いたら……? ああそうか、あんたぁ「他所」からの「お客さん」かね。あぁ気にせんでええ、よくあるこっちゃね。そっちの世界では「いせかいてんい」とか言うとじゃろ、こういうの。ワシの婆様がまだ若かった頃は年に何人も来たそうでな、今も時々来るもんちゃね。ホレそのお陰で言葉も通じるわ、どうも流暢にはいかんがな。

 まあ、ゆっくりしてけばええ。特に何も無い村じゃがね、平和で住み良いわ。でもなあ「他所」から来た人がたは大抵すぐ王都辺りへ行ってまうから、話もろくにできんでな。何処の世界でも若い人は都会が好きなんじゃな、別にすることもあるまいに。

 ……災厄? 世界の破滅? そんなもんありゃせんど、昔ならともかくな。使命を背負ってやって来た、なんてのはそれこそ大昔の伝説とかそんなんくらいか。 なんじゃ生きるのに理由がいるんかね、せわしないなそっちの世界は。 

 そりゃあ目的があった方がええぎゃぁも、行き過ぎは良くないでな。あまり気負って生きると、ろくな目にあわん。

 ワシが昔見たあの侍女さんも、そうだったなぁ。真面目で堅物過ぎて、自分の生き方に忠実すぎた。どっかで諦めてりゃあ、なぁ。 

 なんじゃ、聞きたいんかぃ。そうじゃな、暇なエルフの繰り言でも良ければ、聞いていけ。

 さても、お耳汚しよ。

 

 もうどれくらいになるか、あの侍女さんは年端もいかん少年を連れてこっちへと流れ着いてな。侍女というからにはかしずく相手がいるもんで、その子が主だと言う。最初のうちは、なんだ小さな主だなと小バカにするのもおったが――その中の一人が侍女さんに殴り飛ばされて以来、そんなのはいなくなったなぁ。あれは雷より速く、鋼より硬かった。えー……「きかい」と言うんだっかな、見た目は人だが魔物より強かったわ。

 ただ融通は効かんでな、それに主の言うことしか聞かん。まあ主から言ってもらえば大抵の事はしてくれるし、飯も水も自分の分は求めんから村では重宝されとった。

 しかしなあ、世ん中悪いことを考えんと生きていけんのがおってな。

 万能で頑丈な侍女さんを意のままにしようと、主の少年を拐かしたバカが出た。無論そんな連中は何をしてもしくじるもんさ、あっさりと拠点を叩き潰され皆殺しじゃ。ただ、な。人間と言うのは、「きかい」ほど強くはないんだあ。

 守ろうとした主は途中で死んで、亡骸を持って帰ってきたのさ。皆そりゃあ嘆いたさ、子供が死ぬのは何より悲しいし侍女さんの心中を察したら泣きたくなる。

 だが彼女は言ったのさ、『ぼっちゃまが眠っていますので、お静かに願います』――とね。

 ……ああ、そうだね。きっとショックで頭が澱んだんだ、と皆思ったよ。そっとしておいてあげよう、とね。そのうちに立ち直るまで、ゆっくり休ませてあげようと。

 ただねぇ、あの人は融通が効かなすぎた。程なく白い肌に蛆が這いハラワタが腐れて溶け落ちても、寝ているんだと言い続けた。そして無くなった部品は取り替えれば良い、私もそうですからとか言い出したんさね。

 で、どうなんだね。アンタらの世界じゃあ、そんなに取り外したり付けたり出来るんかね。

 ……ああまあ、そうだろうねぇ。人間はそんなことできないか、うん。じゃああの人は勘違いしてたんかね、主が自分と同じ「きかい」だと。いや或いは自分が人間だと――かね。どっちにしても、哀しいことじゃね。

 でもな、言って聞くようなら心配はしねえでな。あれは良い「素材」を求めて、あちこちへと遠征するようになったんだ。帰ってくる度に亡骸は継ぎ接ぎになっていってな、そらあまあ気味は悪かったよ。ただな、ワシらもその……気持ちは分かるんだ。流行り病で子を亡くした親がどんな顔をするか、目の前で両親が首を括った幼子が何を思うか、みんな知っとったからな。誰だって哀しい出来事はあるもんさ、アンタもそうだろう。

 ……ふむ、そうか。そっちは平穏で豊かなんだね、羨ましかよ。ワシは兄弟姉妹が合わせて18人いたが、オトナになるまで生きたのはワシと三番目の妹だけだったねぇ。いやいや、そんな顔をするもんじゃないわな。良いんじゃ、昔々の物語じゃけ。

 

 えぇと、何処まで話したかね。おおそだな、継ぎ接ぎの主を背負ってあれが方々へ行くようになったくだりか。

 その内ここへと戻る迄に何ヵ月もかかるようになって、おみやげ話もどんどん長くなってね。千里眼の魔族を討ち取って良い眼を持ってきたとか、見目麗しい淫魔から指を貰ってきたとか、そんな事をな。そしてあれはな――最後に必ず言うんだ。『きっとぼっちゃまは喜んでくれます』と。

 ……ああ、痛々しいよ。決して壊れぬ鋼の身体と永遠に近い動力があったとしても、心ってのは脆いんだな。

 それでな、それで……村のもんが意を決して言ったんだ。その子はもう死んでいる、もうこれ以上はやめてあげてとな。 

 小さく歯車の音を立て、黒水晶の目で言った方を見詰めて。彼女はな、こう返した。『存じております』とね。だからこそ、こうしているのだと。『良い部品を揃え「命」を新しく入れてあげればすぐに眼を覚まします、ご心配なく』なんて微笑むその顔は――ゾッとするくらい綺麗だったね。

 狂って狂って狂い尽くした人間は、平生を装えないもんさ。でも「きかい」は違うんだな、怖いもんよ。いつもの涼しげな顔で、狂えるんだ。

 良い命とはなんだろうな、尊い命か強い命か。なんにせよ、そんなもんどうやって持ってくる気なのやらな。アンタらの世界にそんな技術があるんなら……ってそんなわけないわな、奪ったり作ったり捨てる事は出来ても、死んだもんに命を戻すなんて。

 でもな、そこからな。世界に名だたる名門魔族が、次々に討伐されていった。多分どこぞの冒険者ギルド辺りが悪知恵を働かせたんだろう、あそこに良い命があるから奪ってきたらどうだ、とかな。そのなかには魔王クラスの大物もいたんだ、世界はどんどん平和になっていった。

 でもあれがこの村に戻ってくるのは、一年おきになり二年おきになり、どんどん遅れていってな。まああれは一つも歳を取らんで、ずっと同じ顔でいたよ。ワシはどんどん皺が寄るのにな。

 最後に顔を見てから、もう何十年になるか。もう自分の世界へ帰ったのか、それともまだ旅をしておるのか。死にはしとらんだろうな、あな頑丈なもんがそう簡単には死なんて。

 ……まあ、な。今こうしてる間に、ひょっこり帰ってくるかもしれんが。あぁそんな顔せんでいいわ、アンタそんな大層な「命」持ちでもなかろうて。なら取っていったりはせんわね。

 でもなー……ワシは思うんよ。そうまでして生き返らせたいもんなのかな、とさ。忘れて立ち直るとはいかんのかね、「きかい」ってのは。

 ……そうか、忘れんのか。「きかい」は壊れん限りモノを忘れられんか、そりゃあ難儀だの。辛いことも苦しいことも、忘れてしまうから耐えられるのに。

 忘却は神の祝福、とこっちでは言ってな。年寄りがなんもかんも忘れよるんは、神様が辛い記憶苦しい記憶を消してくれているからだと言うんじゃね。

 その祝福を受けられないままずっと生きるなんぞ、どんな罰なんかねぇ。アンタの世界の人は、何でそんな哀しいもんを作ったんだろうねぇ。……いやアンタを責めやせんがね、ただの感傷じゃな。

 もしあの主の子が生き返ったなら、言ってあげてほしいね。

 もう生きなくても良い、とさ。

 

  




こんな夢を見た、という所から始まり役一日で書いたので結構大変でしたのよ?
あと方言は意図してメチャクチャにしてます、この人は異世界語を習ったわけではなく生活で身に付けてので。

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