『魔王』 アルバート・ソーン   作:アーっr

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自ら敵を育てる魔王。


教育

 

 

 「お前は娼婦の娘だよ」

 

 私を育てた老婆は、掠れてしゃがれた声でいつもそう言っていた。

 

 「お前は捨てられたんだ。アタシが拾ってやったんだよ」

 

 恩着せがましく、何度も何度も言っていた。

 そういう時、私はいつも反抗した。

 

 「そんなはずない!お母さんは立派な人だ!」

 

 すると、決まって老婆はこう返す。

 

 「お黙り!お前の母親が立派だったって?会ったこともないのに?」

 「お前を捨てた女が、立派だってのかい!」

 

 ………否定できなかった。

 私は母親の顔も知らないし、母親は私を育てなかった。

 

 でも、一つだけわかっていることがあった。

 

 「………おいで」

 

 蛇は、私の味方だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇に支配された館の中に、魔女たちがいた。

 

 「久しぶりだねセブルス。召集に応じなかった君が、どうしたんだい?」

 

 「………我が君。私はダンブルドアのスパイとしてここに馳せ参じました………」

 

 間違いなくこの場の空気は一人の女に支配されている。

 『死の飛翔』を名乗った女傑は、呼び声に応じなかったかつての部下………セブルス・スネイプに問いを投げる。

 

 「スパイ、スパイねぇ………」

 「それだけ(・・・・)じゃないように思えるんだけど?」

 

 天才的な開心術の使い手である彼女には、目の前の魔女が何かを隠していることはすぐにわかった。

 

 「………ソーンが、これを」

 

 ソーン。アルバート・サクス・ソーンjr。

 相容れないが繋がっている存在。互いに求め合い、しかしどこかで破綻が起きる関係。

 

 「………羊皮紙?」

 

 そんな男が魔女を通して女帝に渡したのは、たった一枚の羊皮紙。

 様々な魔法がかけられている。防御、盗難は女帝も知る魔法だったが………

 

 「………分霊箱?いや、違うな。新しい魔法か」

 「効果は、『自律』………?『両面鏡』のような性質もあるね」

 「通信用かい?」

 

 複雑な魔法の数々。それでも、英国魔法界を闇に堕とした女帝には分かる。

 ただの通信用では無駄がありすぎる(・・・・・・・・)

 

 あの男が無駄を許容するはずがない。何か、別のところに本質がある。

 

 「ソーンは、ただ」

 「『国は教育から変えるべき』、と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「デルフィー」

 

 「はい、お母様」

 

 二人の年若い女が向かい合っている。

 もしも何も知らない第三者がここに居たとするならば、姉妹だと思っただろう。

 

 「これ(・・)を使い、魔法を学べ」

 

 「これは………?」

 

 一枚の羊皮紙。

 何かしらの魔法がかけられているが、これで魔法を学ぶとはどういうことだろうか?

 

 「ああ、教えてやろう………ペンを」

 「まずは名を書け。そうすれば魔法が動く(・・)

 

 動く。その意味をデルフィーニが考え付くより先に、魔法が動いた(・・・)

 

 「やあ、デルフィー!まずは自己紹介だね」

 「俺はアルバート。君の先生だ!」

 

 「お、お母様!これは────!」

 

 『勝利(ヴィクトリア)』を妻にした、英国で唯一議会に王配として認められた男の名前(アルバート・ザクセン)を由来とする者。

 

 ダンブルドアに並ぶ、偉大な母の大敵がそこに現れた。

 

 「これ(・・)は勝手に喋るだけだ。所詮は魔法、偽物に過ぎない」

 「こちらに攻撃することはできないし、情報を発信する以外に効果はない」

 

 ………しかし、敵に教えを乞うなど。

 

 「今日は何を知りたいんだい?」

 

 羊皮紙の中から現れた魔人は、悪魔が契約を持ちかけるようにそう言った。

 

 「十日やろう。デルフィーに、そうだな………」

 「ホグワーツで学ぶ範囲を全て教えろ」

 

 「………お母様、よろしいのですか?」

 

 罠の可能性は捨てきれない。

 服従の呪文で操ったり、間違った知識を教えて力を削ぐつもりかもしれない。

 

 「大丈夫さ。僕も一緒に授業を受けるからね」

 

 ………それはそれで、緊張する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルバート・ソーンの話は、お母様からよく(・・)聞いていた。

 

 ホグワーツの図書館を制覇した。ニコラス・フラメルの弟子になった。様々な魔法道具を作成した。

 

 特殊な変身術、圧倒的な魔法力。

 屋敷しもべ妖精の『姿眩まし』の再現は、デルフィーニ自身がその目で見た。

 

 

 まさに天才。インプットもアウトプットも、彼に迫る存在はどれほどいるだろうか。

 だが、不安は残る。

 

 天才とは得てして、違いが分からない(・・・・・・・・)

 

 お母様も時々そのような事がある。

 私には分かったが、知識や能力に違いがありすぎる他の死喰い人には一割も伝わらなかった。

 

 

 当然、お母様の陶酔を受ける私から見てもお母様は教える才能もある。

 だがそれは、私に合ったものだったから。

 

 近い感性、才能、思想。

 いつかはお母様に並び立つ力を持った私だからこそ理解できる物だった。

 

 

 では、アルバート・ソーンという男は。

 彼の『教える能力』は、私に届くのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 「───が、───というわけで───」

 「どうだい?分からないところはあったかな?」

 

 「………いいえ、先生(・・)

 

 結果から言おう。

 この魔人は、教えることに関しても天才だった。

 

 確かに、私は優秀だ。基盤となる素質はあった。

 だが、だからこそ。先生(・・)の上手さがわかる。

 

 既存の魔法学の統合、そこから発展したオリジナルの魔法に対するスタンス。

 

 例えるならば、ピアノを弾くとして。

 この鍵盤を叩けばこの音が出る、と教えるのは常人の範囲だ。

 この魔人は、ピアノの構造から考える方法を教える。そして、それを理解させる能力がある。

 

 「魔法界には教科書らしい本があんまりないんだよね。教師ごとに教え方が違いすぎる」

 

 これは大変なことだよ。と羊皮紙の魔人は笑いながら続ける。

 

 「そもそも、魔法族って魔法自体の研究とかあんまりしないんだよね」

 「今を生きていければいい、みたいな考えで生きてるせいかな」

 

 「便利なモノ(魔法)が一つあるなら、それで十分だと思ってしまうものだろう?」

 「そのせいで、発展速度はマグルに負けてる。人口の少なさもあるけど、意欲の低さも問題だね」

 

 しかし、マグルが百年かけてできることを魔法族は既に出来ている場合もある。

 元の発展段階が違うのだから、発展速度に差があるのも当然ではないだろうか。

 

 「いい着眼点だね、デルフィー」

 「でも、マグルは空を飛べるようになったよ。ただ見上げるしか無かった空は、もうヒトの領域だ」

 「その間、魔法族はどうだった?」

 

 ………進歩していないだろう。

 少なくとも、宇宙に進出してはいない。

 

 魔法族は個人体質だ。小さいコミュニティの中で生きている。だって、頼る必要がない(・・・・・・・)から。

 

 「空を飛びたい。杖を振ればいい。火を付けたい。杖を振ればいい」

 「全部一人でやっていける。だから、団結しない。そんな必要はない」

 「魔法省とマグルの政府の違いもそこにある」

 

 違い。言語化は出来ないものの、嘗てはマグルの中で生きていた私にも違和感はあった。

 

 「マグルの政府は“国民の生活を豊かにする存在”だ。税金を取って、インフラ整備とかに使う」

 

 だが、魔法界にそんなものは不要だ。

 杖を振ればいいのだから。

 

 「魔法省設立の理由はあくまで、国際魔法使い機密保持法を守るためだ」

 「政治の中心であっても、国民にとって重要ではない」

 

 なくても困らない。そんな立ち位置。

 マグルの考える限界を遥かに凌駕する存在である魔法族にとって、障害は少ない。

 

 団結しなければならない理由はない。いや、場合によってはそんなものは邪魔になるだろう。

 

 「実際、一部の純血たちにとっては魔法運輸部とかは邪魔らしいよ」

 「外国に物を運ぶ時とか、いちいち申請するのが面倒だってさ」

 

 だが、有用な時もあるはずだ。でなければ今まで残り続けるはずがない。

 

 「まあ、聖マンゴへの寄付とか慈善事業する時もあるからね」

 「なんだかんだ言って便利な組織ではあるし、大勢の魔法族は魔法省を信頼してるから」

 

 「でも、組織としては弱いよ。国民が政府に大きく依存しているマグルとは違って、魅力が少ない」

 

 魅力というのは大きな要素だ。

 死喰い人であれば、既存の法に縛られないような自由がそれにあたるだろう。

 

 そして、人は魅力………利益を求める。

 

 「だからこそ、俺は王になる」

 「俺が魔法界を変えてやる」

 

 「………それは、何のために?」

 

 力があり、知識があるこの魔人は。

 なぜ王を求め、魔法界を変えようとするのか。

 

 「なぜ?何故って言われたら、そりゃあ………」

 

 

 




惚れた女と、いつか生まれる子のために。
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