今回はまさかの芸能事務所編(?)。
そして、和喜が色々な意味で振り回されます。
普段とは少し違う“一花との距離感”や、芸能関係ならではの空気感を楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、『理想の青春カップル?』、どうぞ。
「………」
中間試験で無事に一人一教科の赤点回避が出来た五つ子達。
そんな日があった週末。僕は予想だにしなかった場所へと一花と来ていた。
「いやー、今日は来てくれて嬉しいよ。やっとその気になってくれたのかな?」
ここは一花の所属する織田芸能事務所。
テーブルを挟んで向かい側には、ニコニコ顔の織田社長と一花が並んでいる。
「……その気って?」
僕が警戒するように問い返すと。
「いやいや、隠さなくてもいいよ」
織田社長は相変わらずニコニコしたまま、こちらへ身を乗り出してきた。
「君みたいな子、業界は放っておかないからねぇ」
「はぁ……」
嫌な予感しかしない。
隣を見ると、一花がどこか楽しそうに肩を揺らしていた。
「ほらぁ、社長もこう言ってるし?」
「絶対お前が余計な事吹き込んだだろ」
「えへへ~♪」
否定しない辺り、犯人確定である。
「そもそも、何で僕がここに呼ばれたんですか」
僕がため息混じりにそう聞くと、社長は机の上へ一冊の雑誌を置いた。
「これこれ」
開かれたページ。
そこに載っていたのは――
「……ん?」
一花だった。
私服姿で笑っている、一花の写真。
だが。
「いや、普通に一花じゃないですか」
「問題はその隣」
社長が楽しそうに指を動かす。
そこには。
「あ」
僕が写っていた。
以前、街中で一花と一緒に歩いていた時に撮られた写真らしい。
恐らくオフの日だったのだろう。
かなり自然体だ。
「……盗撮では?」
「芸能界だと割とあるんだよねぇ」
怖い世界だな。
「でね?」
社長が満面の笑みを浮かべる。
「この写真、結構反響あったんだよ」
「はぁ」
「“隣の男の子誰?”って」
嫌な予感が加速した。
「雰囲気良いし、絵になるし、一花ちゃんとの並びも凄く自然でねぇ」
「待ってください」
僕は片手を上げた。
「嫌です」
「即答だねぇ!?」
「当然です」
何故そんな面倒そうな世界へ自分から飛び込まねばならないのか。
すると。
「まあまあ」
一花がこちらへ顔を寄せてきた。
「そんなガッツリ芸能活動しろって話じゃないからさ?」
「信用ならん」
「酷くない?」
酷くない。
「今回はね?」
社長が一枚の資料を差し出してくる。
「雑誌のモデル撮影」
「……モデル?」
思わず聞き返した。
「うん。学生向けの特集ページ。テーマは“理想の青春カップル”」
「帰ります」
「待って待って待って!?」
僕が立ち上がろうとすると、一花が慌てて腕を掴んできた。
「話だけでも聞こう!?」
「今物凄く嫌な単語聞こえたんだけど」
「カップル“風”! 風だから!」
「何が違うんだよ」
すると。
「ちなみに報酬もちゃんと出るよ?」
社長がさらっと爆弾を投げてきた。
「……」
一瞬だけ止まる。
「カズキ君?」
一花がニヤリと笑った。
「今ちょっと揺れた?」
「揺れてない」
「いや絶対揺れたよねぇ?」
うるさい。
だが。
「別に演技とかじゃないんだよ」
社長が資料を見せながら続ける。
「自然体で写真撮る感じ。デート風の撮影とか、会話してるところとか」
「……」
「一花ちゃんも相手役が知らない人だと、逆にぎこちなくなるみたいでねぇ」
「そーなの」
一花が苦笑する。
「知らない人相手だと結構疲れるんだよね」
「だから知り合い使おうって?」
「そういうこと♪」
ぱちん、と一花が指を鳴らした。
「しかもカズキ君、普通に顔良いし」
「やめろ」
「背も高いし」
「やめろ」
「雰囲気柔らかいし」
「やめろって」
何だこの公開処刑。
すると。
「……まあ」
社長が少し真面目な声になる。
「無理にとは言わないよ」
「……」
「でも、一花ちゃんがかなり推薦してたのは本当」
その瞬間。
「ちょ、社長!?」
一花が珍しく焦った声を出した。
「それ言う!?」
「え? ダメだった?」
「うぅ……!」
耳まで赤い。
「……」
僕は思わず一花を見る。
すると、一花は視線を逸らしながら小さく頬を掻いた。
「だ、だってさ……」
「?」
「カズキ君となら、変に気を遣わなくて済むし」
どこか照れ臭そうな声。
「……それに」
「?」
「一緒なら、ちょっと楽しそうかなって」
その言葉に。
「……はぁ」
僕は深くため息を吐いた。
「それで?」
「え?」
「期間は?」
「おっ?」
社長の目が輝く。
「一回の撮影だけ?」
「今のところはね!」
「……今のところ?」
凄く不穏なんだが。
だが。
「まあ、モデルだけなら」
「!」
一花の顔がぱっと明るくなる。
「ほんと!?」
「ただし条件付き」
「条件?」
僕は真顔で指を立てた。
「勉強優先」
「そこ!?」
一花が盛大にツッコむ。
「あと変な売り方しない」
「安心して!?」
「それと」
「まだあるの!?」
「僕は一般人だからな」
「……うん」
そこで、一花も少し真面目な顔になる。
「そこはちゃんとする」
珍しく真剣な声だった。
すると。
「よしっ!」
社長が満面の笑みで立ち上がる。
「決まりだね!」
「いやまだ決定とは」
「一花ちゃん! 衣装合わせの予定押さえよう!」
「了解でーす♪」
完全に話が進んでいた。
「……帰っていい?」
僕が小さく呟くと。
「ダーメ♪」
一花が楽しそうに笑いながら、逃がさないように僕の腕を掴む。
「いや、まだ心の準備が」
「大丈夫大丈夫♪ 何とかなるって!」
「その台詞、一番信用ならないんだが」
僕が本気で嫌そうな顔をすると、一花はくすくすと肩を揺らした。
すると。
「じゃあ早速、衣装合わせだけ済ませちゃおうか」
織田社長がパンッと手を叩く。
「……早くないですか?」
「善は急げって言うでしょ?」
「絶対意味違う」
だが、そんな僕の抵抗など誰も聞いていなかった。
──数十分後。
「……」
僕は試着室の前で無言になっていた。
「カズキ君まだー?」
「帰りたい」
「着替えるだけでしょ!?」
カーテン越しに、一花の呆れた声が飛んでくる。
現在。
僕は何故か衣装合わせをさせられていた。
しかも。
「いや、何でこんな服なんですか」
渡されたのは、シンプルながらも妙に洒落た服装だった。
白シャツに黒のジャケット。
細身のパンツ。
どう見ても“陽キャ大学生風”である。
「学生向け雑誌だからねぇ」
スタッフさんが笑顔で答える。
「和樹君、スタイル良いから絶対似合うと思うよ?」
「そんな事言われても……」
僕は深くため息を吐きながら着替え始めた。
「──お待たせ」
カーテンを開ける。
その瞬間。
「「おぉ……」」
スタッフ達から妙に感心した声が漏れた。
「……何ですかその反応」
「いやぁ、想像以上で」
「普通に似合ってるねぇ」
「素材が良いなぁ」
やめてほしい。
すると。
「……え」
一花が、小さく目を見開いた。
その視線がこちらで止まる。
「?」
僕が首を傾げると。
「……いや」
一花が少しだけ視線を逸らした。
「思ったより破壊力あったなって」
「何が」
「うわぁ、無自覚だ」
額へ手を当てる一花。
「カズキ君、自分の顔面偏差値ちゃんと理解した方がいいよ?」
「知らん。周りにイケメンが多いんだ」
その後。
「一花ちゃんも着替え終わったよー」
別のスタッフさんが声をかける。
そして。
「どうかなー?」
カーテンを開けながら、一花が姿を見せた。
「……っ」
今度は、僕の方が言葉を失った。
淡いベージュ系のコーデ。
柔らかいニット。
自然に巻かれた髪。
派手ではない。
だが、“普通の可愛い女子大生”みたいな空気感が異様に似合っていた。
「……」
思わず見てしまう。
すると。
「ん?」
一花がこちらを見た。
「どしたの?」
「いや……」
言葉に困る。
「……似合ってる」
「──っ」
一花の動きが止まった。
数秒遅れて。
「……へへ」
少し照れたように笑う。
「ありがと♪」
その瞬間。
「はいストップストップ!!」
社長が勢いよく割り込んできた。
「今の空気めちゃくちゃ良かった!!」
「え?」
「自然!! 凄く自然!!」
バシバシ写真を撮り始めるスタッフ達。
「ちょ、待っ」
「はい二人ともそのまま並んでー!」
「近い近い!?」
気付けば、一花が自然に僕の隣へ並ばされていた。
肩が近い。
妙に近い。
「……」
すると。
「ふふっ」
一花が小さく笑った。
「なんか、ちょっと楽しくなってきたかも」
「僕はまだ帰りたい」
「顔は?」
「真顔」
「確かに真顔だねぇ」
そんな事を言いながら、一花は楽しそうにこちらを見る。
その笑顔を見ていると。
……まあ。
一回くらいなら、いいか。
そんな事を思ってしまう辺り、僕も甘いのかもしれなかった。
「はいはい、じゃあ次は実際の撮影イメージ合わせてみようかー」
社長の一声で、スタッフ達が慌ただしく動き始める。
「撮影イメージ?」
「そそ。今回は“放課後デート風”がテーマだからね」
嫌なワードがまた増えた。
「……帰っていいですか」
「まだ言ってる」
一花が呆れたように笑う。
すると、スタッフの一人が冊子を持ってきた。
「今回の参考イメージになります」
「……」
ページを開く。
カフェ。
雑貨屋。
並んで歩く男女。
笑い合うカップル風写真。
「無理です」
「早いよ!?」
即答だった。
「いやだってこれ完全にカップル」
「だから“風”だってば」
「何が違うんだ」
「ニュアンス!」
雑すぎる。
すると。
「でも実際、二人並ぶとかなり雰囲気良いんだよねぇ」
社長がうんうん頷く。
「さっき立っただけで画になってたし」
「えへへ~♪」
「何でお前嬉しそうなんだよ」
「いやぁ? カズキ君が褒められてるから?」
妙に機嫌が良い。
「……じゃあまず、軽く立ち位置確認だけしよっか」
スタッフに促され、僕と一花は簡易セットの前へ移動する。
「はい、一花ちゃんは少し右ー」
「はーい♪」
「和樹君はその隣で自然に」
「自然とは」
難題である。
「もっと肩の力抜いて大丈夫だよー」
「これでも抜いてます」
「硬いねぇ!?」
「一般人なんで」
すると。
「ふふっ……」
隣から、一花の笑い声。
「カズキ君、緊張してる?」
「してない」
「絶対してる」
「してない」
「顔固いよ?」
「放っとけ」
そんなやり取りをしていると。
「──あ、今いい」
カシャッ。
突然シャッター音が鳴った。
「え?」
「今の自然だった!」
カメラマンが嬉しそうに声を上げる。
「え、今の撮ったんですか?」
「こういう空気感欲しかったんだよねぇ」
社長まで満足げだった。
「わざと作った感じじゃなくて、“普段の距離感”って感じ」
「……普段?」
「仲良いでしょ? 二人」
「まあ……悪くはないけど」
「へぇ~?」
一花が横目でニヤニヤしてくる。
「悪くない、なんだ?」
「そこ反応するとこ?」
「しますー♪」
楽しそうである。
すると。
「じゃあ次、歩きながら会話してみよっか」
「まだあるんですか」
「始まったばっかりだよー?」
終わった。
「はい、自然にねー」
撮影スペースをゆっくり歩く。
「……」
「……」
気まずい。
すると。
「カズキ君」
「ん?」
「今、“無”になってるでしょ」
「撮影とか初めてなんだから仕方ないだろ」
「ふふっ」
一花が小さく笑う。
「でも、ちょっと安心した」
「何が」
「私だけじゃないんだなーって」
そう言いながら、一花は少しだけ前を見る。
「私も最初、こういうの凄い緊張したから」
「一花でも?」
「するよ~?」
意外だった。
「今は慣れてるようにしか見えないけど」
「慣れたの」
一花が苦笑する。
「でもね」
「?」
「こうやって知ってる人と撮る方が、ずっと楽しい」
その言葉に。
「……」
少しだけ、一花を見る。
すると。
「はいそこ、今の良いー!!」
カシャカシャカシャッ!!
「うわっ!?」
「社長テンション上がりすぎでは?」
「だってめちゃくちゃ青春してる!!」
何だその感想。
だが。
「……」
モニターを見たスタッフ達が、妙に静かだった。
「?」
「いやぁ……」
「本当に自然ですね」
「距離感が凄い」
そんな声が聞こえてくる。
そして。
「これ、多分かなり反響出るよ」
社長が確信したように笑った。
「やっぱり僕帰った方が」
「ダメ♪」
即座に、一花が僕の腕を掴む。
「もう逃がさないからねぇ?」
「何でそんな楽しそうなんだよ」
「だって──」
一花が、少しだけ悪戯っぽく笑った。
「カズキ君と一緒の仕事、思ったより楽しいし♪」
その笑顔に。
「……はぁ」
僕は小さくため息を吐きながら、視線を逸らすしかなかった。
「じゃあ次、座りカットいこうかー!」
スタッフの声と共に、今度はカフェ風のセットへ案内される。
「まだあるんですか……」
「むしろここから本番だよ♪」
一花が妙に楽しそうだった。
セット内には、木目調の丸テーブル。
その上にはパンケーキやドリンクまで用意されている。
「凄……」
「最近の撮影ってこういうの多いんだよ~?」
一花が椅子へ腰掛けながら説明してくれる。
「SNS映え重視ってやつ?」
「へぇ……」
芸能界、よく分からん。
すると。
「はい、和樹君は一花ちゃんの向かいでー」
「……失礼します」
妙に緊張しながら席へ座る。
その瞬間。
「……近」
思わず呟いた。
テーブルが小さいせいで、一花との距離がやたら近い。
足が普通に当たりそうだ。
「ふふっ♪」
一花が面白そうに笑う。
「さっきからカズキ君反応初心なんだよねぇ」
「うるさい」
「でもそこ可愛い」
「やめろ」
本気で調子が狂う。
すると。
「はい、一花ちゃんは自然に和樹君見てねー」
「はーい♪」
カシャッ。
シャッター音。
「和樹君はもうちょい肩の力抜こうか」
「これでも頑張ってます」
「頑張ってる顔してるねぇ」
「放っといてください」
スタッフ達が笑う。
完全に遊ばれていた。
すると。
「……ねぇ」
不意に、一花が小さな声を出した。
「ん?」
「カズキ君ってさ」
少しだけ首を傾けながら続ける。
「ほんと、こういう世界興味無かったんだ?」
「無いよ」
即答だった。
「目立つの好きじゃないし」
「ふーん?」
一花がストローを弄びながら僕を見る。
「でも、向いてると思うけどなぁ」
「絶対嫌だ」
「即答だねぇ」
すると。
「はい今のいい!!」
カシャカシャッ!!
「だから何で撮るんですか!?」
「自然だからだよぉ!」
社長がめちゃくちゃ楽しそうだった。
「いやぁ、作ってない会話の方が断然良いなぁ」
「ほんと距離感自然ですね」
「付き合ってる感ある」
スタッフの一言。
「ぶっ……!?」
一花が飲みかけていたジュースでむせた。
「ゲホッ……!?」
「おい大丈夫か」
「だ、誰が付き合ってるって!?」
「え? 違うの?」
「違います!!」
珍しく一花が全力否定した。
耳まで真っ赤である。
「……」
僕は無言でティッシュを差し出す。
「はい」
「……ありがと」
受け取りながら、一花が少し視線を逸らした。
すると。
「いやでも、本当にお似合いですよ?」
女性スタッフがしみじみ呟く。
「青春って感じ」
「分かるー」
「絵になるなぁ」
やめてほしい。
「……帰りたい」
「カズキ君、今日それ何回目?」
「多分十回目くらい」
すると。
「ふふっ」
一花が肩を揺らした。
「でもさ」
「?」
「ちょっと楽しくなってきてるでしょ?」
「……」
否定しようとして。
「……まあ、少しは」
「おぉ♪」
一花の顔がぱっと明るくなる。
「やっと認めた」
「うるさい」
だが。
最初に思っていたほど、悪い空気では無かった。
騒がしくて。
振り回されて。
落ち着かない。
でも。
「はい次、二人でスマホ見ながら笑ってみよっかー!」
そんな声を聞きながら。
……まあ、一花が楽しそうだし。
一回くらいなら付き合うか。
そんな風に思ってしまう辺り。
やっぱり僕は、この五つ子達に甘いのかもしれなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は、一花とのモデル撮影回でした。
勉強編では「家庭教師として支える和樹」を描いたので、今回は逆に“一花側の世界へ和喜が入っていく”という空気を意識して書いてみました。
そして何より、
今回のテーマは──
“周囲から見た二人の距離感”
です。
本人達は割と自然体なのに、周りから見ると妙に距離が近い。
そんな、一花と和樹ならではの空気感を描きたかった回でもありました。
特に、
・無自覚な和喜
・ちょっと楽しそうな一花
・勝手に盛り上がるスタッフ陣
この辺は書いていてかなり楽しかったです。
あと、一花って普段は“お姉さん側”ですが、
今回はちょっとだけ“年相応の女の子感”を出せていたら嬉しいです。
そして和喜は、相変わらず無自覚でした。
たぶん今後も振り回されます。
もし少しでも「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、
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それでは、次回もよろしくお願いします!