【書籍化】人類滅亡寸前ゲーム世界で自分を犠牲に敵を倒してたら、みんなが病んでいた   作:雨雲ばいう

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第二章 モブに瞳を焼かれた妖精たち
01 モブ、「勇者」をたくらむ


 鋼鉄の扉を目と鼻の先にして、ラディム・ライオンハーツはゆっくりと息をはいた。握りしめた手に汗がにじんでくる。

 

 幼いころから憧れていた狩人になる日がやってきたのだ。

 

 この扉をひらきオグダネル城跡にて入るパーティーを教えられれば、ついにその夢は叶う。そう思うと、ラディムはなんだか怖気づいてしまった。

 

 胸ポケットに密かに忍ばせていた絵葉書を手にとる。

 

 妖精の森に人類が初めてたどりついた戦い、その偉業を祝って売りだされた葉書に描かれていたのはラディムの憧れの狩人だった。

 

 英雄、ミッカネン。

 

 たったひとりで人類を滅びから救った男。ラディムが狩人を目指すことにしたきっかけ。その絵をみつめて、勇気をふるいたたせる。

 

「ラディム・ライオンハーツ、失礼します」

 

 扉を勢いよくひらくと、ふたりの人影が目に入った。

 

 一人はアグラシュタイン・ローレライ。軍の名門の家に生まれ、絶望の戦争においてけっして人類が勝つことを疑わずに戦い続けた不屈の名将。

 

 そして、もう一人は。

 

 その赤い瞳がなぜか驚いたようにラディムをみつめている。腰に無数のロングソードをさしているその姿を、ラディムは嫌と言うほどよく知っていた。

 

「英雄、ミッカネン……」

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

「一人、貴官にパーティーで育ててやって欲しい狩人がいる」

 

 いつものように書類に目を落としたまま、アグラシュタインは口をひらく。今年もその季節になったかとオレは思うところがあった。

 

 新米の狩人はまず熟練のパーティーに入って妖精狩りのイロハを学ぶ。

 

 オレが軍に入った時はそもそも狩人のほとんどが死んでいたから戦地にそのまま放りだされたが、今はきちんと狩人を育てるのにも力を入れられるのだ。

 

 かく言うオレたちも軍大学をでたばかりの新米狩人をいく人もパーティーに入れてきたものである。

 

「わかりました。名はなんというのでしょうか」

 

「それは貴官が聞いたほうがはやいだろう。そろそろくるはずだ」

 

 アグラシュタインがちらりと扉に目をやる。しばらくしてその鋼鉄の塊が勢いよくひらいた。

 

「ラディム・ライオンハーツ、失礼します」

 

 その名を聞いた時、オレの頭は白に染まった。

 

 ラディム・ライオンハーツ。死にゲー『妖精たちの狩人』にてプレイヤーが操るキャラであり、妖精のボスを殺して人類を救う勇者。

 

 男女どちらでもプレイ可能だったラディムはこの世では男らしい。濃い灰の髪をゆらしながら、ラディムはオレをじっとみつめていた。

 

「英雄、ミッカネン……」

 

 これから妖精を殺してまわり人類を救う勇者さまはどうやらオレの名を知っていたらしい。光栄な話だ。

 

 というか、それどころではない。

 

「こ、この子をオレのパーティーに入れればいいんですね」

 

「そう話したつもりだったが。この後にどう育てるかはミッカネン、貴官にまかせておく」

 

 さっさと書類に目をもどしてしまったガンギマリショタに、オレの胸のうちの驚きは気づかれていないようだった。慌てて頭を働かせて、ゲームのことを思いだす。

 

 チュートリアルにてラディムが入ったパーティーはもちろんオレたちではない。

 

 妖精に家族を殺された記憶のあるラディムは、その仇を討つために狩人になった。軍大学では一番で、そのまま願いを叶えてオグダネル城跡にやってくる。

 

 そうして入るパーティーをアグラシュタインに教わるのだ。

 

 その時のガンギマリショタのセリフをなんとか頭の奥からひねりだす。もっとも優れた狩人のパーティーに入るのだから努めるようにとかなんとか言っていたはずだ。

 

 なるほど、話がわかってきたぞ。

 

 原作ではオレがいなかった。だからオレのパーティーもないことになっている。ガンギマリショタはラディムをその時のもっとも優れたパーティーに放りこむのだ。

 

 原作と違ってオレたちのパーティーが今オグダネル城跡にてもっとも優れたパーティーになっているから、だからラディムはこっちにきたのだろう。

 

「ふむ、それではラディム。まずはオグダネル城跡の道を教えよう」

 

「は、はい!」

 

 瞳を輝かせながら敬礼してくるラディムに、オレはこれは絶好のチャンスではないかとふと思った。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

「そ、そのミッカネンさま!」

 

「ミッカネンでいいとも。これから君とオレとは生死をともにするパーティーのメンバーなんだ、気がねしていては死んでしまうからな」

 

 そもそもオレが軍から逃げられずにいるのは、あのガンギマリショタとか軍がなぜか英雄に祀りあげたオレなしには人類が戦えないと思いこんでいるからだ。

 

 だが、軍からかき集めても狩人が片手ほどしかいなかった昔と今はもう違う。

 

 妖精は地峡で食いとめているし、それにどんどん後続の狩人が育ってきているのだ。オレなしでも人類は戦えるはずなのである。

 

「え、あ、それは恐れおおすぎます! その、ミッカネンさんで許して頂けないでしょうか」

 

「なんとでもかまわん、それでこちらが君のベッドになると思う。これまでと大きく違わんならオグダネル城跡のうちでもパーティーでかたまるはずだ」

 

 思うに、ガンギマリショタはラディムという勇者を知らないだけなのだ。

 

 『妖精たちの狩人』でのラディムの戦績の恐ろしさは、こうして現実に妖精と戦うようになってからより深くわかるようになった。

 

 初めのうちは狩るのは大妖精がせいぜいであるが、後にゲームでは厄災すらも雑魚あつかいし始めることになる。流石にオレもそんな口は叩けないというのに。

 

 これからラディムはどんどん優れた狩人となるだろう。

 

 戦果を積み重ねて、オレなどすぐに追い越してしまう。そうすればアグラシュタインもオレへの興味を失うのではないだろうか。

 

 ふと思考に電流が走る。

 

「そういえば、ラディムもよくオレの名を知っていたな」

 

「も、もちろんですよ! 人類を救った大英雄の名なんて赤子でも言えます。それに、お恥ずかしい話なんですが、実はミッカネンさんはボクの憧れでして……」

 

 そういえば、このラディムに追放されるパーティーのリーダー、それはたしかラディムを育てた狩人、つまりオレのポジションではなかったか。

 

 ラディムをじっとみつめる。

 

 これはいける、いけるぞ。己で追放を叶えることは終ぞできなかったが、原作をなぞってこのラディムに追いだしてもらえばいいのだ。

 

「ひゃ、そ、そのどうしましたか」

 

「いやなに、ラディムにはオレを越えるような狩人になってもらわなければならないと思ってな」

 

 なんとしてでもガンギマリショタに惚れこまれるような狩人になってもらわなければならない。オレなど霞んでしまうほどの、である。

 

 原作のように人類を救う「勇者」になってくれれば、かのアグラシュタインもオレなどどうでもいいと軍から追いだすだろう。

 

 ラディムが嬉しそうに顔をほころばす。

 

「こ、光栄です!」

 

 心が痛むが、ここから先の人類の希望はラディムにまかせよう。オレはそんなことを胸のうちでたくらむのであった。




 ここまでご愛読いただき誠にありがとうございます。
 誠に勝手ながら第二章より更新速度を三日に一話に落とさせていただきます。もうしわけございません、これからもひき続きよろしくお願いいたします
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