【書籍化】人類滅亡寸前ゲーム世界で自分を犠牲に敵を倒してたら、みんなが病んでいた   作:雨雲ばいう

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11 モブ、皇帝の臆病を哀れむⅢ

「っこの妖精どもが! さっさとくたばりやがれ」

 

「そもそも馬鹿みたいに妖精に飛びかかったのは君じゃんか、だからこうなってるんでしょ」

 

 爆炎と嵐が吹き荒れている。

 

 目に入ったのは二人の年若い狩人。恐らくは勝ち気な顔つきの狩人が炎で大人しげにみえる狩人が風、それぞれの魔術を組みあわせて戦っているのだろう。

 

「っ、大妖精が山のようにきてる。このままじゃ死んじゃうよ」

 

「だったらその妖精どもを殺しつくしゃいい話だろ!」

 

 勝ち気な狩人が己を奮いたたせるかのように叫ぶ。どれほど困難な時にあっても生を諦めないのはすばらしいが、あれでは勇気というよりやけっぱちだ。

 

 それでは現実から目を背けるのと違わない。

 

「死ね、このやろう!」

 

 大人しげな狩人の魔術による助けを借りて、勝ち気な狩人が炎の竜巻を作りだす。だが、それでせまりくる大妖精たちを殺しつくすことはできなかった。

 

 人の心、その蠱惑の香りに誘われて大妖精が飛びかかる。

 

「っ、痛」

 

「おい! このクソ妖精どもめがぁっ!」

 

 バラバラにされた狩人たちはそれぞれ傷つけられていく。猿の姿をした大妖精が、大人しげな狩人の胴をつかんで、頭をかじりとろうとした。

 

 その首がズレる。

 

「お、おまえは……」

 

「ミッカネンだ、助けにきた」

 

 ほんとうに危ないところだった。

 

 ロングソードをふりぬき、その刃で妖精たちを斬りきざんでいく。オレの背後から飛びかかってくる妖精を、オレは気にもとめない。

 

「おい、そこの妖精ども。そこの凡人を殺すぐらいなら一人で死んでおけ」

 

 背後の枯れ木のように細い身の妖精が、己の腕で首を絞める。なぜ己が命を絶とうとしているのか、訳がわからないままその妖精は己の首を握りつぶした。

 

 血しぶきをあびながら、オレはさらに駆けだす。

 

 あたりに群がる妖精をとにかく殺していく。首を、腕を、足を、どんどんと斬り落とし、とにかく集まってくるよりもはやく妖精を倒していかなければならない。

 

 なにしろここは妖精の森、やつらの根城なのだから終わりがないのだ。

 

「ラディム、頼めるか」

 

「はい!」

 

 オレの言葉に、ラディムがどこか嬉しそうに手を天にさしだす。

 

 魔術炉が悲鳴をあげるように蒸気をあげ、ラディムの口からもれだす。しばらくして、その手に握られていたのは光り輝くひとふりのロングソードだった。

 

 その光に誘われて、妖精どもが集っていく。

 

 だが、オレはラディムを信頼していた。これまでずっと剣術についてはたたきこんできたし、なによりもまさしくプレイヤーキャラらしいその魔術を知っているから。

 

「っ!」

 

 闇に閉ざされた妖精の森に、閃光が走りぬける。

 

 白の光のロングソードをなぎはらったラディムは、その魔術が上手くいったことを目にして笑った。

 

 妖精が、胴からズレていく。

 

 『妖精たちの狩人』において人類を救うラディムが手にした魔術、それはありとあらゆるものを斬ることができるというまさに勇者にふさわしい力。

 

 原作どおりの魔術にくわえてオレの剣技まで学んだラディムがこれしきの妖精に遅れをとるはずがなかった。

 

 しばらく後、死んだ妖精の山の上で、オレは目を光らせる。遠くのほうから雷鳴のような地響きが聞こえてくるのを耳にして、オレは舌うちをした。

 

 どうやら、妖精どもはすっかりオレたちに気づいているらしい。

 

「そ、その、助けていただいてありがとうございました。たぶんあのままでしたら死んでいました」

 

「っち! よけいな手をだしやがって、オレならあのまま勝てたっていうのに」

 

 だが、もっと頭が痛いのは助けた狩人たちのほうだ。

 

 あの後よくよく顔をみてみると、なんとかつてイスファーナとともに殴りあいをしたあの新米狩人たちであったのだ。オレはじくじくと胃が痛んだ。

 

 どうやら勝気な狩人はケンカをしたオレに救われたことが気に食わないらしく、むっとした顔をしている。そのわきで大人しげな狩人が頭をぺこぺこ下げていた。

 

 イスファーナがものすごい顔をしている。なぜか、ラディムもだ。

 

 さっきまで言い争いをしていたのに、実は気があうんじゃないか。このままだと人殺しに手を染めてしまいそうな二人にため息をついて、オレは口をひらいた。

 

「ともかくだ、軍務はここで終わりとする。このままオグダネル城跡に帰る」

 

「オレはまだ戦え、っ!」

 

 オレは勝気な狩人をにらんだ。

 

 いくら嘘の英雄であっても、先達の狩人として軍務を続けるなどという馬鹿な判断を許すわけにはいかない。オレのほうが上官なのだ、命には従ってもらう。

 

 黙りこんだ勝気な狩人から目をそらし、オレは話を続けた。

 

「オレたちのすべきことは情報を集めることで妖精を殺すことではない。すでに森の妖精たちに気づかれ戦いから逃れられないのなら終わらせるほかないだろう」

 

 もっとも、あれほどの炎の竜巻をあげればひどく妖精たちの目についただろう。

 

 なかなかこれからの退転は骨が折れそうだ、オレは胸のうちでそうため息をついた。しかし、ここで死ぬわけにはいかないのだから戦うほかない。

 

 良いこととしては、ここにはラディムとイスファーナがいる。二人の魔術はとくに数に勝る敵と戦うのにちょうどよいものだ。

 

 オレは重たい腰をあげ、オグダネル城跡までの長い逃避を始めた。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

「ラディム、後ろだ」

 

「っ!」

 

 危ないところでふりむいたラディムが背後にいた妖精の胸もとに魔術のロングソードをつきたてる。オレは大妖精をまとめて斬り飛ばしながら歯噛みした。

 

 いくらなんでもおかしい、あまりにも妖精の数がありすぎる。

 

 これまでの情報で、森にどれぐらい密に妖精が暮らしているかはわかっている。あの助けた狩人たちの魔術がどれぐらい遠くからみえたかも勘でわかる。

 

 とすれば、これは違う。

 

 ならば、いったいなにが起きているのだ。イスファーナが妖精を崖から飛び降りさせているのを目にしながら、オレは頭を働かせた。

 

 妖精は群れはするものの律しはしない。

 

 その時の力の差によって従うことはあっても、人類のように国や軍を作りまとまって戦うことはない。どちらかといえば人というより獣、それが妖精だ。

 

 だが、一時その妖精をまとめあげた妖精がいた。

 

 ほかの妖精を従え、統率をもって人に攻勢をかけてきた厄災を越えた妖精。その不遜で尊大、臣下であるはずの妖精すら替えのきく駒としか考えない妖精。

 

 ゆえについた名は、皇帝の妖精。

 

 ありえないはずだ、なにしろ皇帝の妖精はまさしくオグダネル城跡でこのオレの手で殺したはずなのだから。

 

 かつて皇帝の妖精の宮殿であったオグダネル城。その玉座にて傲岸に笑うその姿を思い起こす。そして、その胸に深々とロングソードをつきたてた姿も。

 

 だが、聖女の妖精は生きていた。

 

 ならば皇帝の妖精がこの妖精の森のどこかに潜んでいてもおかしくない。

 

 そう考えにふけるオレはしかし、ふと助けた狩人たちに目をやって舌うちする。勝気な狩人が頭に血でものぼったのか遠くの妖精を追いかけていたのだ。

 

「馬鹿、深入りしすぎだ」

 

 オレたちが今すべきことは妖精を殺すことではなくオグダネル城跡に帰ることである、ならばよけいに敵を求めて無駄に力を費やすことは許されない。

 

 というのに、オレの言葉が聞こえないのか、勝気の狩人は暴れまわる。

 

 大人しげな狩人もそれにつられて妖精の森の奥へ奥へと足を踏み入れてしまっている。つれもどそうとしたその時、また妖精が飛びかかってきた。

 

 人の顔をした鳥の妖精をみじん斬りにし、ラディムの頭上の妖精を斬り殺す。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「礼は後でいい、今は生き残ることだけに気をはらえ」

 

 ともかく数がおかしい。

 

 やはりこの後ろで誰かが糸をひいていなければ、獣のような妖精がかくも集まりひとまとめにこちらを攻めてくることはないはずだ。

 

「羽虫の妖精ども、道から退け」

 

 イスファーナが目と鼻の先までせまっていた虫けらのような無数の妖精に命をくだし、オグダネル城跡のほうにむけて妖精の群れに穴をあける。

 

 すぐさまラディムがつっこみ、後にイスファーナも続いていった。

 

「おい、君たちもはやく」

 

 オレは助けた狩人たちにふりかえる。だが、その姿はすでになかった。

 

 ジクジクと嫌な冷や汗が背を伝っていく。最後に目にした時、あいつらはいったいどれほど深くまで、オレたちから遠ざかっていた。

 

 先ほどまでの猛攻が嘘のように、妖精たちが退いていく。

 

 あっというまに妖精の森はいつもの沈黙をとりもどし、残された妖精たちの亡骸だけが戦いの名残りであった。

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