【書籍化】人類滅亡寸前ゲーム世界で自分を犠牲に敵を倒してたら、みんなが病んでいた   作:雨雲ばいう

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19 モブ、賢人の愚鈍を笑うⅣ

 黄金の閃光が、すべてを吹き飛ばしていく。

 

 ラディムが握りしめた光の暴虐は、賢人の妖精を飲みこんで暴れ狂っていた。怒りのあまりに噛みしめられた唇から血が滴っている。

 

 ラディムは激怒していた。

 

 その激情にまかせて、魔術はすべてを壊していく。

 

「死ね、死ね、死ねっ!」

 

 いつも穏やかで優しげだったラディムの姿は、失われていた。その瞳は血走り、魔術炉からあふれだした蒸気がその背にくすぶっている。

 

 こんなラディムを、オレは知らなかった。

 

 原作のいつもあかるく笑っていたプレイヤーキャラにも、この世で会ったちょっと臆病であるがそれでも優しい己の戦友とも、違っていた。

 

「アハハハッ、なっつかしー。めっちゃ息災じゃん、いい魔術を手に入れたねー」

 

 賢人の妖精が楽しげに笑う。 

 

 まるで古くの友人に会ったかのように、気軽にその肩に手をまわしてくるその妖精を、ラディムは斬り飛ばした。

 

「んー、でもまた英雄チャンの陰に隠れてるカンジ? まあ、泣き虫さんだからしょうがないかー」

 

「黙れ、もうこの人に守られることしかできないボクじゃない!」

 

 ラディムが絶叫した。

 

 すべてを斬りつける閃光が、あちこちでけたたましく笑っている賢人の妖精たちをひとりひとり殺していく。ラディムは、暗い笑顔で叫んだ。

 

「あの時のボクとは違うんだ、昔のボクは殺してきたんだから!」

 

 頬を紅潮させたラディム。

 

 まるでその思いを嘲るように、賢人の妖精が耳もとにささやいた。

 

「バカじゃん。こんなのでウチが殺せると思ってんのマジ?」

 

 一瞬の後、目にうつらぬなにかにラディムは吹き飛ばされた。コンクリートの壁にたたきつけられたラディムを、賢人の妖精が笑う。

 

「それじゃ、第二ラウンドいこっか! 続きはハンデなしでいくから、ガンバルんだぞー!」

 

 その瞳が、赤く輝いた。

 

「兵器No.27、ラディムを守るのである!」

 

 宙から降ってきた巨大なロボットがラディムを背に賢人の妖精に飛びかかる。紅の瞳に囚われたその時、ロボットはぐしゃぐしゃに折りたたまれてしまった。

 

「んもー、楽しそうだからって黙って飛び入りはずるいよー! そこの家畜チャンはウチが独り占めするんだって言ったじゃん!」

 

 ぷくーっと賢人の妖精が頬をふくらませた。

 

 とたん、その賢人の妖精の腕がボコボコと泡だって、みるみるうちに太くなっていく。ひとつの肉塊となったその腕からぶじゅぶじゅと毒を散らそうとして。

 

 オレに腕を斬り飛ばされた。

 

「……アハッ、英雄チャンじゃん! ウチ、ファンだからサイン欲しーなー!」

 

 賢人の妖精の顔が、バキバキと音をたてて背後のオレにむく。黙ったまま、オレはその首をはねた。

 

「いやー、マジで英雄チャンはカッコいーねー! 大好き、はやくウチと一緒になってよー!」

 

 オレの周りの賢人の妖精が、うっとりとした瞳でオレをみつめる。

 

「英雄チャンも知ってるでしょ、ウチってキラキラしたものとかキレ―なものが好きでさ、集めてしまっておくんだって」

 

「兵器No.35、こいつらを撃ち殺すべきと考える」

 

 アルハンゼン先生が手をかかげた。

 

 あちこちの壁からつきだした銃身から、厄災すらもバラバラのミンチにしてしまう散弾が撃ちこまれる。細かく砕かれた賢人の妖精は、それでもオレに笑いかけた。

 

「英雄チャンはそのなかでも飛びっきりだよー、ずっと手もとにとっておいて、ニヤニヤしたいんだー」

 

 頭のうちを垂らしながら、賢人の妖精がオレに手をのばしてくる。その腕を斬りきざんで、オレはラディムのもとに駆けだした。

 

 とにかく、正気だとは思えないラディムをとめなければ。

 

 

 

 

 

「ちぇー、ウチのことはガンムシってわけー?」

 

 賢人の妖精が、ため息をついた。

 

「ブー、つれないなぁ。これ、ウチの一生をかけた告白だったんだよー」

 

 そばにいたほかの賢人の妖精が、そろってガバリと口をひらける。その喉の奥からまるで噴水のように緑のナメクジが飛びだした。

 

「兵器No.18、焼き殺せ」

 

 そのナメクジを赤のレーザーがつらぬくと、巨大な炎が群れをつつみこんだ。

 

「この地下に妖精が入りこむことを疑わないのは馬鹿であると考える。ゆえに拙は無数の兵器をここに組みこんでいるのである。おまえに逃げ道はないのである」

 

「ほんと、学者チャンも気がきかないなぁ。いっつも疑うとか探求とかつまんないことばっか。もっと楽しんで生きてこーよー」

 

 アルハンゼン先生が、冷たい瞳を妖精にむける。賢人の妖精は、ため息をついて首をふった。

 

「ウチはいつだって人生を楽しんでるよ。こうやって人に入りこむと、その人のことを知れるんだー。疑うなんてもったいないよ、人生つまんなくなっちゃう」

 

「探求の礎は疑いである」

 

「つまんないよー、こんなんよりも英雄チャンとお話したいよー」

 

 アルハンゼン先生のまわりに、紅の水晶が生えた。

 

 深い光をたたえるその奥ではバチバチと閃光が爆ぜている。やがて目もひらけていられないほどに眩い光がアルハンゼン先生に降りかかろうとした。

 

「だから、死んじゃえ」

 

「No.2、食らうのである」

 

 アルハンゼン先生を肉塊がつつみこむとともに、あたりを爆風が吹き荒れた。

 

 

 

 

 

「おい、ラディム。なにを考えている!」

 

 ラディムは血まみれになりながらも、賢人の妖精にはっていこうとしていた。血の跡を残しながら、ナメクジのように蠢いている。

 

「殺す、あいつを、なにがなんでも……」

 

 ブツブツとなにやら呟いている。

 

 オレはそんなラディムを助け起こし、とにかく賢人の妖精から遠ざけようとした。

 

「っ、嫌だ! ボクはまだ戦える、あの時とは違う。魔術を、力を、手に入れたんです!」

 

 しかし、駆けよるオレを目にして、ラディムはなぜか絶望に顔を染めた。

 

「お願いです、戦わせて。ここで死んでもいい、戦わなくちゃいけないんです、そうしないと」

 

「馬鹿が、死ぬ気のやつを死なせにいかせる上官があるか!」

 

 暴れるラディムをオレはおさえつける。

 

 あきらかに今のラディムは正気でない。アルハンゼン先生が賢人の妖精をおさえこんでいるうちに説きふせでもなんでもして戦わせないようにしないと。

 

「嫌だ、嫌だ! あの時のボクにだけはなりたくない! 死んだほうがマシなんです!」

 

 ラディムともみあう。

 

 その時、オレはラディムのはだけた首もとを目にしてしまった。すべてを知ってしまった。

 

 634の焼印

 

 その肌が痛々しく焼け焦げて、みっつの数字を書きこんでいる。賢人の妖精と、ラディムの激怒、そしてしきりに口にするあの時という言葉。

 

「まさか、君は……」

 

 いくら愚鈍なオレにでも、わかることだった。

 

「あ、あああああっ」

 

 ラディムの瞳が、恥と罪とにぬりかえられていく。ガチガチとうち鳴らされた歯だけで、オレにはよかった。

 

「ゆっくり休んでいろ。やつはオレがきちんと殺しておく」

 

「い、嫌っ」

 

 そばにあった縄でラディムを縛りつける。オレはか細い言葉をこぼすラディムを背に、賢人の妖精に歩いていった。

 

 今のラディムを、けっしてあの妖精と戦わせてはならない。

 

「やった! 英雄チャンがきてくれたー! ウチ嬉しー!」

 

  賢人の妖精がぴょんぴょん飛び跳ねて喜びをあらわにしている。

 

 この目と鼻の先で笑っているこれは、人のような心があるようにみえて、ない。考えることなどなにもなく、ただ伝染していく病でしかない。

 

 怒るとか、にくしむとか、そういうことは無駄なのだ。それは生まれつきそういう風にプログラムされた、バグのようなもの。

 

 これは、心をむさぼる害虫なのだ。

 

「アルハンゼン先生、とにかく殺しつくすぞ。すでに魔術をいくらか学んでいるようだ、もう油断はできない」

 

「それは、求められていることと拙も考える。この兵器の生産ラインに現れたことがたまたまと思えるほど愚鈍ではないのである」

 

 オレは、ロングソードをかかげた。

 

 賢人の妖精の群れをはさんで、むこうでアルハンゼン先生も袖から兵器を垂れ流しにしている。

 

 ラディムのことを考えると、胸が締めつけられるようだった。

 

 かつて賢人の妖精の息の根をとめたその時、オレはその業も知った。この妖精がどういうことをしてきたかに気づいたのだ。

 

 ゆえに、これまで気になっていたラディムについての疑問がわかった。

 

 もしもオレが踏み入ったあそこに、ラディムもいたのだとしたならば。その激怒にも、昔への脅えにも頷くことができる。

 

 だが、この妖精はそれでは殺すことができないのだ。

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