【書籍化】人類滅亡寸前ゲーム世界で自分を犠牲に敵を倒してたら、みんなが病んでいた 作:雨雲ばいう
そうだ、あの時もそうだった。
星天の妖精の魔術は、いつだって訳がわからなくて。
ただガムシャラにその時の最善手と信じるものを掴んで。
そうして、いつのまにか殺したことになっていたのだった。
スクリーンには、ひき続きオレと星天の妖精の姿が映されている。
カタカタと背後で映写機が音楽を奏で、ひびの入った音楽がスピーカーから流れていた。
———チュートリアルはここまで。それじゃ、始めるよ!
気づくと、オレはおとぎ話のような街にいた。
隣には星天の妖精、そして顔をあげると。
フィルムの枠があって、その奥に先ほどまでのシアターがみえている。狩人たちが、黙りこんだままじっとオレをみつめていた。
———残機はこれっぽっちしかないから、遊びが終わらないよう気をつけてね!
星天の妖精にとって、これら狩人は遊びのおもちゃでしかないのだろう。
オレが、その遊びとやらにやる気になるためのペナルティ。星天の妖精は、そう考えているだけにすぎない。
だから、オレがなんとかしなければならない。
狩人たちを、殺す訳にはいかない。
スクリーンのうちは、まるで子どもの夢のようにまったくの論理もなく脈絡もなかった。お菓子の家があると思えば、黒い謎の獣がうろついていた。
そして、ことあるごとに星天の妖精は遊びをふっかけてきた。
ある時、人ほどの大きさのあるアリがやってきて、星天の妖精を食おうとした。もちろん、オレが五つほど命を失いながらなんとか救った。
地震で地の奥深くに埋めかけられたこともある。その時は、オレが指がけずれるほどに土を掘って、なんとか地上に帰った。
あくる日には、天が降ってきた。星やら月やらが落ちてきて、それにゴキブリのように星天の妖精はひきつぶされた。
この時だけは星天の妖精は守りきれなかった。
———もう、駄目だよ! お兄ちゃんは王子さまだから、きちんと守ってくれなきゃ!
だから、残機がひとつなくなった。
目と鼻の先にあるように思えてその実手のとどかないシアターで、ひとりの狩人の頭がめくれて、そのまま息絶えた。
シアターにいる狩人は誰も助けることはなかった。いや、助けることはできなかった。星天の妖精の魔術に囚われているのだ。
誰も頼れないようだった。
星天の妖精が遊びをもちかけたオレが、なんとかしなければならなかった。
なんとかして、この遊びを終わらせなければならなかった。
———すごいね! 失った残機はたったの三つ、流石お兄ちゃんだよ!
永遠とも思える月日を越えて、オレはようやく星天の妖精の遊びのひとつを終えた。その結果は、三人の命だった。
そうだ、三人の狩人を失った。
かつてオグダネル城跡で皇帝の妖精と戦った時に、オレのためにその臣下の妖精をひきつけてくれたベテランの狩人。
酒飲みで、時折ウイスキーをくれたのが懐かしい。
新米で、オレも話したことはないがオグダネル城跡でいくどか目にしたことのある若い狩人。
チョコレートが好きだったと聞いたことがある。
時々軍務を一緒にした、べつのパーティでリーダーをやっているやり手で栄達を重ねている狩人。
このごろ子どもが生まれたと嬉しそうにしていた。
みな殺された。
あの後、ほんのわずかロングソードの刃がとどかなかった。宿での夕食で、毒入りのスープに気がつかなかった。
オレが実につまらない手違いをしたせいで、死んだ。
「まだ、遊びは終わらないか」
———もちろん! これじゃ遊び足りないよ!
星天の妖精の魔術は未知である。
誰もその終わりを知らないし、その殺す術を知る者もいない。
かつてこいつと戦った時、オレはついぞどうやって殺せたのかを知ることはなかった。いつのまにかこいつは死んでいた。
つまり、今のオレにできることは一つだけで。
———それじゃ、ネクストステージだね!
こいつの語る遊びにつきあうほかないということだ。
星天の妖精の言う残機は、どんどんと重くなっていった。狩人ではなく、幸せに暮らす家族が残機となり、ある時は人の暮らす街ひとつが残機となった。
その生死が、オレの肩にかかっていた。
星天の妖精の言うところの遊びは、実に終わりがなかった。
ポーカーなどのカード遊びに、チェスなどのボードゲーム。かと思えばいきなり競走をさせられたり、山を登らされた。
すべてをクリアできたかと言うと、そうではなかった。
数えきれないほどの命を、オレのせいで失ってしまった。五つの家族、三つの街、五万人のパン職人、八隻の船に乗った人々、ひとつの島。
ひとたびは、人類すべての命をかけた遊びをさせられたこともあった。
ルールはただひとつで、オレが星天の妖精の隠れている扉を二つのうちから選ぶというもの。それだけに、人類の命運がかけられた。
その時は、幸いなことにはずすことはなかった。
永遠にも思えるほど、遊びは続いていく。
かつて、人類の命運を一人で背負うことなどできないと賢しらにイングラシウスに語ったのが懐かしく思える。
星天の妖精の遊びは、そういうものだったからだ。
オレが負けないでいる限り、人類は滅びない。オレが勝てなくなったその時に、人類の命運は残機として失われる。
オレは、どんな手をつかってでも勝ち続けなければならなかった。
ああ、と笑えてくる。
まったく、ラディムに原作のシナリオという重荷をまかせようとしておきながら、ほんとうの英雄であるはずのクルクッタを、親友を殺しておきながら。
オレにもう泣き言は許されない。
これだけは、原作のシナリオに帰すために、星天の妖精だけは、オレが殺さなければならない。この遊びにつきあわなければならない。
「この遊びは、いつ終わるんだ?」
———ずーっとだよ。
———昔はわたしがもう遊びを思いつかなくなっちゃって、しかたなしに終わったけど、今は違うんだ!
―――ダイマジュツ? そのおかげで、ずっとお兄ちゃんと遊べる!
「なるほど、そう楽にはなれないということか」
———それじゃ、ネクストステージだね!
星天の妖精に、女の子の陰に手をひかれる。また、つぎの遊びが始まる。
夕暮れの街。
そのうす暗い家のうちで、星天の妖精は一人床に座っていた。
逆光となってその顔はわからない。窓からは家路につく人々の雑踏が聞こえてくるというのに、その一室はやけに悲しげであった。
―――ずっと一人だったの。遊んでいても、気がついたらいつも一人になってた。
星天の妖精がサイコロを転がしている。その床におかれているのは、すごろくのためのボード。
———でもお兄ちゃんは違うの、いつまでも残ってくれた。
———だから、お兄ちゃんが好き! ずっと一緒にいて欲しい、ずっと遊んでほしいの。
星天の妖精の影の奥。
どこにでもいるような、目にしても記憶に残らない子どもの笑顔が、二人きりの一室に咲いていた。