疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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エピローグ 娘は恋愛クソ雑魚演技マシーン

 気づけば、随分遠くまで来たものだと思う。

 一周目の俺には、何もなかった。

 友人もなく、恋人もなく、小説家という夢だけを抱えて三十二年生きて、過労で死んだ。

 それが俺の一周目だ。

 

 今はどうか。

 ライトノベル作家として数年。

 気づけば漫画原作の仕事のほうが増えていて、ケイコ先輩がコミカライズを手がけてくれるようになってからは、読者の層がさらに広がった。

 締め切りに追われる日々は相変わらずだが、エナドリを流し込みながら執筆していたあの頃とは違う。

 

 隣に愛する人がいる。

 それだけで、同じ締め切りの重さがまるで変わった。

 

 ヨシノリは今もコスプレイヤーとして活動している。

 芳野リサトの名前は国内外に知れ渡っていて、企業イベントのオファーが絶えない。

 俺より稼いでいるという事実については、素直に尊敬している。

 お互い不規則な仕事をしているから、生活のリズムが噛み合わない日もある。

 それでも充実していると言えるのは、向いている方向が同じだからだと思っていた。

 

 みんなも、それぞれの場所で生きている。

 ナイトは愛夏と順当に付き合って結婚した。

 現在は、ナイトが芸能事務所を立ち上げ、愛夏はそこでタレントのマネージャーをしている。

 二人が一緒に働いているというのは、なんというか、らしいと思った。

 

 アミと喜屋武と桃太郎の三人は、〝Named Monster〟としてメジャーデビューして、ドームライブも経験している。

 アミの声は相変わらず真っ直ぐで、聴くたびに元気が出る。

 ちなみに、ネットでオタクから人気があるのは喜屋武の方だったりする。

 それを知ったときは、なんか生々しくて複雑な気持ちになった。

 

 ゴワスは宣言通り、社会人として働きながらプロゲーマーになった。

 勤め先が一周目のときに俺が働いていた会社で、リリさんと姉弟で同じ会社に勤めていたが、配信者としても人気になったため現在は退職している。

 高校生のときから付き合っていた和気藍梨さんと結婚して、娘の月那ちゃんは現在アイドルをやっている。

 

 みんな、ちゃんと今を生きていた。

 

 そして、俺たちには娘がいる。

 田中朝香。芸名、羽田朝香。

 現在高校一年生。

 この子が、とんでもない天才だった。

 

 きっかけは俺の作品の実写化だ。

 小学校に上がる前の朝香が「ヒロインをやりたい」と言い出して、子役の道へ進んだ。

 何故、声優ではなく女優かというと、当時の朝香はまだ声優という職業を認知していなかったためだ。後から知ったときの「そんな仕事があったの!?」という顔は、今でも鮮明に覚えている。

 

 三歳で朝ドラの子役デビュー。

 翌年には大河ドラマで主演。

 六歳でハリウッドデビュー。

 

 世間では天才女優と呼ばれている。

 親の贔屓目を差し引いても、実際そうだと思う。

 現場でのプロ意識については俺たちが口を挟む余地などなく、めきめきと人気を伸ばし、俺たちよりも忙しい立場になってしまった。

 

 そんな朝香が、ドラマの撮影を終えて帰ってきた日のことだ。

 玄関で靴を脱ぐ朝香の目が、死んだ魚のようだった。

 リビングに入ってきてソファに沈んで、そのまま動かなくなった。 

 スマホを見るわけでも眠るわけでもなく、ただ天井を見ていた。

 現場でどんな役でも演じ切る娘が、今この瞬間だけは何者でもない顔をしていた。

 ヨシノリに目で問うと、後で、という顔が返ってきた。

 

「ずっと好きだった幼馴染に、自覚なく遠回しに振られたらしいよ」

 

 ヨシノリが台所で洗い物をしながら言った。

 

「自覚なくって、どういうことだ」

「相手の子に悪意はないんだよ。ほら、〝ぼくんち冒険たい〟でブレイクした子がいたでしょ?」

「あー、トト先の作品の実写化でめっちゃいい演技してた子か」

 

 世間では一発屋扱いされて消えてしまった子役だったが、最近はまた話題になっていた気がする。

 

「なんか自分を振り向かせようとした結果、演技に本気状態になったらしくてね」

「自覚なくってそういうことかよ」

 

 俺は冷蔵庫から麦茶を出して、二人分グラスに注いだ。ヨシノリの隣に置くと、ありがとうと言いながら洗い物を続けている。

 

「子役時代に演技で勝ったら付き合ってあげるていう約束してたみたいよ。で、最近ナイト君の事務所に所属して俳優に復帰して共演したみたいなの」

「それで、朝香はなんて言われたんだ?」

「約束を取り消してほしい。もう二度と、お前に付き合ってくれなんて言わないから安心してくれ。だってさ」

 

 台所に沈黙が落ちた。蛇口を閉める音がして、ヨシノリがタオルで手を拭いた。

 

「なんていうか、我が娘ながら恋愛ヘタクソすぎないか?」

「最初は勝確状態だったのにねぇ」

 

 誰に似たのか、俺たちの娘は恋愛クソ雑魚演技マシーンになっていた。




〝疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す〟は、これにて完結となります。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

さて、恋愛クソ雑魚演技マシーンとなってしまった娘の顛末については、また別のお話……というわけで、新連載となります!

天才子役の幼馴染は曇るが、役者の道を諦めたら始まるラブコメ
https://syosetu.org/novel/406787/
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