いつも、彼女のことを止められない。危険な橋を壊しながら渡るのは、もう勘弁してほしい。
全く、今度は何をしようって言うんだ……。

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超スリル的彼女に抗いたい!

「だーかーらー! 夏祭りに行こう、って言ってるの!」

「あんまり、気乗りしないなぁ……」

 

 抜け殻になった、夕陽が差し込む教室。柱の影が格子模様を彩り、一日の終わりを実感させる。カーテンは半開きになっていて、この時間帯になっても尚酷使させられる運動部がチラリと見える。

 

 優(まさる)は、言葉の猛攻を耐え忍んでいた。

 

「他の高校なら、まだ分かるけどさ……。ここの高校のやつは、別れを切り出されても行きたくないんだよ……」

「それじゃあ、別れる?」

「……言いすぎました……」

 

 肩を回して追撃砲の準備をする、武闘派の美咲(みさき)。いつもより一段と、姿が大きい。

 

 彼女の滑らかに連続した髪は、日光の赤みを吸収してルビー色に移り変わっていた。結われずにぶら下がる無造作な状態でも、優から目線を奪う程にきらびやかだ。

 

 底辺高校でも、やればできる。その文面を体現しようとした二人組が、優と美咲だった。波にさらわれて行方不明になる同級生を遠目で観察しながら、追いつけ追い越せで勉学に熱中していたのは、高校一年の夏だっただろうか。

 あれだけ入学時に幅を利かせていた半グレ達も、冬の厳しさを乗り越える頃には綺麗さっぱり掃除されていた。箱に収まり切らなくなり、大多数が退学していったのである。

 残留したのは、無気力な集団。澱みから抜け出そうとせず、溺れることを良しとする。

 優たちは、その与えられた輪廻から脱出するため手を組んだ。いわゆる、軍事同盟だった。

 

「やっぱり、スリルを味わってこその高校生活だよ。暴力? 恐喝? そんなもの、どうとでもなるって」

「……二次方程式の判別式がゼロ未満だと?」

「虚数解が二つ!」

「よくできました……じゃないんだよ!」

 

 呼吸数が跳ね上がっていても、知力のデータがお亡くなりになる大惨事には至っていないようだ。

 

 美咲の黒褐色に沸いた瞳に映っているのは、刺激を求める暴れん坊。美咲自身は正気であるのだから恐ろしい。中身だけを今すぐ切り替えられないのだろうか。

 彼女の憧れは、波乱万丈の人生。無駄に苦難を味わい、それほどでもない達成感を身に沁みさせようと言うのだ。これを『HENTAI』と言わずして何になる。

 

「分かってるだろ? そこら辺の反社会軍団が乗り込んでくることぐらい……」

 

 高校を中退しても、縁まで切ってはくれない。むしろ、招かれざる友を従え、隙だらけの夏祭りに乱入してくる。魂の抜けたこの高校に、動乱を止められるカリスマは存在しない。

 

 ……彼女の希望だとしても、こればっかりは……。

 

 世の中には、触れてはいけない魔の領域がある。ハザードマップにも、進入禁止と明記してほしい。

 

 すぐにでも牙をむきそうな美咲の抑えきれない右腕を、優は制止しようとした。制服は白の単色のはずなのだが、赤黒い炎が上がっているのは気のせいだろう。

 

「……なあに、この手? 彼女の提案に、はんたい……?」

「その通りですとも、美咲さん。……勇気と無謀を取り違えてるから、美咲は……」

 

 優が言いきらない内に、視界が闇に染め上げられた。生温かいクッションが、優の五感を研ぎ澄ませていた。

 

「……これでも?」

 

 自力で脱出しようにも、前方に倒れた姿勢では立て直せない。

 

 美咲の奥を流れる血流の鼓動が、衣服を通して伝わってくる。心なしか、温度が高い。

 優の両肩の内をつつく丸い物体は、かき集めても足りない水風船のようだ。脱力すればするほど、優しく包み込まれる。

 

 ……色仕掛けなんかに、色仕掛けなんかに……。

 

 彼女から強制的に摂取させられる、柔軟剤のくすぐったい香り。思考回路をショートさせ、機能を奪っていく。

 

 最初から、逆らう術は無かった。

 

「……どっちかな? 行くか、行かないか……」

「……行きます……」

 

 ……美咲には、敵わないなぁ……。


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