アインズ様を怒らせたクズ男   作:黒郎丸

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魔物を尋問するクズ男

◇ ────皇城 取調室

 

 

 その部屋では狂也が直々にその魔物のへ尋問を繰り広げていた。その魔物の種族名は二重の影(ドッペルゲンガー)。この城に間者(スパイ)として侵入した挙句、罠に嵌められて捕獲された魔物である。

 狂也は、鎖に巻かれて拘束された魔物を見下ろしながら口角をあげた。もっとも、彼は自白など期待していない。ただ壊す過程を楽しみたいだけだ。

 

 ちなみに、もう一体については、別の部屋で専門の拷問官によって取り調べを受けている。

 

 

 「おい、バケモン。それで、鈴木……、イキリ骨野郎アインズの弱点について、しゃべる気になったかァ?」

 

 「……ふん、誰が貴様のような愚劣な輩に情報を漏らすものか。至高の御方を売るなどありえん。このような取り調べという名の茶番を行う事こそが無駄な行為だ」

 

 「そっかぁ……」

 

 

  あまり残念そうに聞こえない調子でつぶやくと、再び彼は二重の影(ドッペルゲンガー)を痛めつけ始める。

 その魔物の細長い指を一本ずつ引きちぎる遊びを開始した。

 

 

 「一本ぇ……、二本目ぇ……」

 

 「……ッ! ……ッ!」

 

 

 狂也の執拗な攻めにも、魔物の心は決して折れない。痛みで震える肉体とは裏腹に、その瞳だけは揺らがない。

 彼にとって忠誠とは感情ではなく存在理由なのだから。

 

 

 その時、取調室のドアをノックする音が響いた。

 

 

「失礼する。……って、キョーヤ殿!? こんな所で何をしているのです!」

 

 

 ニンブルがジエットを伴って入室した瞬間、狂也の蛮行を一目で理解した。

 狂也は振り返り、口角を上げる。

 

 

「よぉ、ニンブルだっけか。お前こそ何しに来たんだ? 今、俺様は大事な取り込み中なんだがな」

 

「取り込み中って……ッ」

 

 

 部屋の中に専門の拷問官の姿が見えない事から、この男が趣味で魔物を痛めつけているだけだとニンブルは悟っていた。

 

 二人の会話を聞きながら、鎖で拘束されている魔物を見たジエットが静かに口を挟んだ。

 

 

「……あの、それが件の魔物とやらですか?」

 

 

 狂也はジエットを見ながら肩をすくめた。

 

 

「あ? 誰だ、お前?」

 

 

 ニンブルが慌てて紹介する。

 

 

「キョーヤ殿、こちらのジエットは皇帝陛下が見出した希少な異能(タレント)持ちです」

 

「よ、よろしくお願いします。ジエットと申します」

 

 

 狂也はジエットを上から下まで眺め、鼻で笑った。

 

「ほーん、新入りか。ま、せいぜい頑張りな。で、なんでこんな小僧を連れてきたんだ?」

 

 

 小僧はお前もだろうがとニンブルは一瞬だけ思ったが、相手は(プレイヤー)なので外見と実年齢が一致しているとは限らなかったなと思い直す。

 

 

「はい、彼には邪神の配下である魔物の姿を一目だけでも見せておこうという皇帝陛下のお計らいです」

 

 

 ジエットが一歩前に出る。

 

 

「私は、幻術を見破る異能(タレント)を持っております。皆様のお役に立てるよう頑張ります」

 

 

 それを聞いた狂也はニヤリと笑い、魔物の方へ手を向けた。

 

 

「そうか。……よし、ジエットだっけ? よく目に焼き付けとけよ。こいつは二重の影(ドッペルゲンガー)。鈴木……、邪神アインズの使役する、くそったれな魔物だ」

 

「これが……」

 

 

 ジエットは息を呑んだ。

 その傷ついた魔物は、椅子に縛られたまま微動だにしない。変身を解いた顔には三つの穴しか存在せず、その“目”に該当するであろう箇所には、何本もの釘が深々と突き刺さっていた。

 

 狂也の前にも、この国の拷問官によって痛めつけられたのだろう。肉体は破壊されているのに、魔物の瞳孔だけは揺らがない。

 忠誠が、肉体ではなく存在に刻まれている証だった。

 

 

「……あの、ここまで拷問を加える必要があるのですか?」

 

 ジエットの声は震えていた。

 狂也は振り返り、肩をすくめる。

 

 

「いんや、ただの趣味だ」

 

「趣味って……ッ」

 

 

 狂也は笑いながら、魔物の指を一本つまみ上げる。

 

 

「まあ、それだけでもねェ。邪神に召喚されたモンスターが、どれだけ拷問に耐えられるかっていう“実験”でもある。要するに、実益を兼ねた趣味ってやつよ」

 

 

 魔物の指が、乾いた音を立てて折れた。

 

 

「……ッ……ッ!」

 

 

 ジエットは思わず息を呑む。

 ニンブルも顔をしかめながらも、職務として口を開いた。

 

 

「キョーヤ殿……その、実験とは具体的に何を……?」

 

 

 狂也は魔物の顔を覗き込み、ニヤリと笑う。

 

 

「こいつら、痛みじゃ折れねぇんだよ。肉体が壊れても、忠誠心だけは壊れねぇ。だから面白いんだよなぁ。どこまで壊せば創造主を裏切ってくれるのか」

 

 

魔物は血を流しながらも、狂也を睨み返す。

 

 

「……私は……苦痛如きには屈しない……ッ!」

 

 

狂也は笑みを深め、魔物の生態についての説明をジエットに行う。

 

 

「こいつら化け物は創造主に忠実だから、いくら痛めつけても創造主の不利益となるようなことはしねぇんだ。気っ色悪ぃだろぉ?」

 

「は、はぁ……」

 

 

 そう訊かれても、ジエットは同意するしかなかった。

 

 

「そうだ、お前も、この魔物に訊きたい事があったら訊いてみろ」

 

「えっ……」

 

 

 ジエットは、傷ついた魔物に目をやる。今までの人生で、魔物と話す機会はなかったが、この動けない状態の魔物であれば会話が可能かもしれない。

 今は休学中とはいえ、これでも魔法学院の生徒なのだ。貴重な体験を得られる機会を逃すのは、勉学の徒として相応しくないだろうと考えていた。

 

 

「そ、そうですね……。では、ドッペルゲンガーさん、あなたは召喚主の命令には逆らえないのですか?」

 

「……召喚主ではない。あのお方は、我々を傭兵NPCとして召喚し、仕える事をお許し下さった偉大なお方だ。その命令に従う事が、我が存在理由である。我らは主のために生まれ、主のために死ぬ。故に、このような拷問など無意味だ。我らにとっての恐怖とは肉体的な苦痛ではない。主への忠誠を裏切る事だ」

 

 

 毅然として言い放つ魔物の姿に、息を吞むジエット。そんな彼に狂也が声を掛ける。

 

 

「な? 不気味だろ?」

 

「ま、まあ、普通の感性とは違いますね……」

 

「邪神軍は化け物の巣窟だからなァ。だが、そうかそうか。痛みには屈しないんだな。それじゃ、こういう余興はどうだぁ?」

 

 

 狂也が魔法の袋からある者を取り出し、床に置く。

 そこに置かれたのは、魔導王アインズの姿絵が描かれた踏み絵だった。狂也はそれを足元に置き、魔物の顎を乱暴に掴む。

 

 

「おい、バケモン。これを踏んでみろ」

 

 

ドッペルゲンガーは、姿絵を見た瞬間に全身を震わせた。

 

 

「……ッ! そんな真似できるわけがなかろう! 恐れ多くも至高の御方の姿絵を、このような目的で使おうとするなど、狂っているのか……ッ!」

 

 

 狂也は鼻で笑い、肩をすくめる。

 

 

「いいから踏めよ、オラ!」

 

「ぐっ、やめろッ!」

 

 

 狂也は魔物の肩を掴み、姿絵の方へ押し出す。

 

 

「俺様が手伝ってやるよ、そらそら」

 

「やめろ、やめろぉおおおッ!!」

 

 

 床に置かれた姿絵へ向かって、狂也が力任せに押し出す。

 ドッペルゲンガーは必死に抵抗し、這いつくばって床を爪で掻きながら後退しようとする。

 

 その様は、まるで炎に触れまいとする獣のようだ。

 だが、プレイヤーである狂也が相手では、上位種ですらない通常種のドッペルゲンガーの力など何の役にも立たない。

 

 

「あ”あ”あ”あ”ッ!! お許しください! どうか、お許しをぉおおおおッ!! こ、これは私の意志では……ッ、このドッペルゲンガーめの意思ではないのですッ!! アインズ様ぁあああッッ!!!」

 

 

 そう叫びながら、ドッペルゲンガーは血の涙を大量に流した。

 その様を見た狂也は、さぞ面白い劇場を見たかのようにゲラゲラと笑い始めた。

 

 

 「ぶひゃひゃひゃひゃッ! そうだ、その反応が見たかったんだよ! オラオラァ!」

 

 

 泣き叫ぶドッペルゲンガーに構うことなく、さらに強くアインズの姿絵を彼の足の下にぐりぐりと押し付ける。

 

 

 「うわぁ……」

 

 

 その光景が目の前で繰り広げられ、ジエットはドン引きし、思わず声を上げる。

 

 ドッペルゲンガーはアインズの姿絵がある足の下に顔を向けながら、壊れたスピーカーのように懺悔の言葉をつぶやいていた。

 その哀れな魔物の姿を嘲笑いながら見下ろしていた狂也が、ジエットに顔を向ける。

 

 

 「おいッ、そこの……、名前なんだっけ? まあ、なんでもいい。お前もやってみろ!」

 

 

 狂也は床にうずくまって泣き叫ぶドッペルゲンガーを放置し、汚らしい拷問器具をジエットにポイっと渡す。

 それは魔物の体液で汚れており、ジエットの手のひらにベッタリと引っ付いてしまっていた。

 

 

「えっ? あの、これは……ッ!」

 

「このバケモンを痛めつけるのに満足したから、お前が拷問の続きをしておけ」

 

「し、しかし……ッ!」

 

「これも新人研修ってやつだ。今のうちに化け物の生態を勉強しておけ。分かったな?」

 

 

 突然そう言われても、拷問どころか他人をむやみに痛めつけた経験すらない善良な少年にとって、この命令は無茶なものだ。

 

 汚れた拷問器具を渡されてうろたえる少年に構うことなく狂也は取調室から出ていこうとする。

 

 そんな彼に、今まで黙って控えていたニンブルが声を掛けた。

 

 

「キョーヤ殿、お待ちを。数日前にもお伝えした通り、今から一時間後に邪神軍対策会議が行われる予定です。それと、スレイン法国の大使館からも高官がいらしており、その方も会議にご出席なさいます。キョーヤ殿も後ほど聖女様方を連れて、御前会議に出席していただきたいのですが……」

 

「あぁ? それ、今日すんのかよ。面倒臭ぇ……」

 

 

 彼は、さぞうんざりした顔を隠そうともせずに愚痴をこぼした。

 

 

「そ、そう仰らず、どうかお願いいたします」

 

「あー無理無理。俺様はこれから大事な用事があって手が離せねぇ。皇帝さんには、そう言っといてくれや。会議は明日に変更だ」

 

「は? よ、用事とは……?」

 

 

 そう言われても、いつも部屋で()()()と遊んでばかりのこの男に大した用事があるとは思えず、ニンブルは聞き返した。

 

 

「ほら、使い勝手のいい頑丈な玩具(クレマンティーヌ)を皇帝さんが俺様に引き渡してくれただろ? 今夜はソイツを使って、部屋で腰を軽くしておきてぇんだよ。っつーわけだから、会議は明日にしとけ。分かったな?」

 

「……かしこまりました。陛下には、明日に変更だとお伝えいたします」

 

 

 その言葉を聞いた狂也は、魔物の血で汚れた手をヒラヒラさせながら退室していく。

 

 どのみち、この男を説得する事は自分はおろか、敬愛するジルクニフにも不可能なのだ。

 それならば、機嫌を損ねさせずに明日に来てもらった方が良い。会議に出席してもらえるだけでも御の字だろうとニンブルは自身を納得させていた。

 

 

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