衛宮士郎をブチ込んでみただけの話inリゼロ   作:nonose

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仕事が忙しいとです

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火の番

 

 

 

 

 小枝を目の前の火にくべる。辺りはすでに日が暮れ、村の中で唯一この場所だけが炎の光に照らされていた。その揺らめく光に、まるで誘蛾灯に引き寄せられたかのように現れたのは、蛾とは似ても似つかぬ可憐な少女だった。能面のように無表情を装い、常に完璧であろうとする瀟洒な淑女──その象徴であるメイド服は、今やボロボロで少し痛々しい。

 

「何をなさっているんですか、エミヤくん?」

 

「何してるって……さてな。ちょっと黄昏てる、とでも言えばいいか」

 

「何をしているのかを問うているのではありません。エミヤくんも軽傷とはいえ怪我人でしょう。そんな場所で過ごしていては、治るものも治りませんよ」

 

「そうは言ってもな。今回の犯人の尻尾すらつかめてない状況じゃ、村のみんなも安心して眠れないだろ。せめてこれくらいはやっておかないとな」

 

「黄昏ている云々の話はどうなったんですか?」

 

「ん? 両方だよ、両方。こういう時間になると、年老いていくことにちょっとナーバスになる……って言っても、伝わらないか。なんというか、心が少し寂しくなるんだ」

 

「年老いているって程の歳じゃないでしょ」

 

「───どうだったかな」

 

 過去を慈しんでいるのだろう。記憶の中に浸り、懐かしさを感じ微笑みを浮かべている。

 その見た目はレムの言う通り"年老いている"者のそれではない。けれど不思議とその微笑みが、記憶の中にあるどこかの老爺の雰囲気と重なって見えた。

 

 そう見えたことにも、その外見とのあまりの乖離さにも少し肩を跳ねさせ、顔にはおくびにも出さないが少し気味が悪く感じた。

 

 

「菜月はもう良いのか。お前もそうだったろうけど、菜月が特に酷かっただろ」

 

「傷自体はもう問題ありません。私も少しはお手伝いしましたが、ほとんどはエミリア様とベアトリス様の手腕のおかげです」

 

「そうか。それは良かった。死なれたら後味が悪い……ってやつだった」

 

 

 少しばかりの沈黙が流れる。燃える木々の跳ねる音だけが僅かばかりの間、寒々しい空気を支配する。その静寂を破るように、士郎が口を開いた。

 

「最後、手を貸せなくて悪かったな」

 

 その言葉にレムは息をのむ。彼女自身、その件について追及するつもりはあったが、まさか士郎の方から先に口にされるとは思っていなかった。だが、彼が自ら謝罪を口にするなら、これ以上追及するのは「違う」と感じ、ひとまず言葉を飲み込む。

 

 

「いえ、その代わり村を……守ってくれたのでしょう。スバルくんに関しては、単なる私の不手際です」

 

 擦り切れ薄れていても、士郎の善性はレムを焼く。感情に任せてお前のせいだと騒ぎ立てるのは脳のない獣でも出来ることだ。それこそ、自身が潰しただの血肉に変え果てたあの魔獣達でも出来る。

 ソレを堰き止め、理性で言葉を吐き出すレムの姿を士郎は胡乱げに見つめていた。

 

 ───よくもまぁ、ここまで惚れ込んだものだ。

 

 以前のレムならここまでスバルという存在に肩入れをする所か、嫌悪していたというのに……そう士郎は思わずにはいられなかった。

 それを、ここまで感情揺さぶられているかと……恋する乙女の何とやらか。少しばかり老婆心ながら年若い人生の後輩を憂うのである。

 

「…………そうか。まあ、菜月が俺を許すかどうかはまた別の話だな。辛い思いをしたのは結局アイツだ。他人がどう言おうと、本人が許さないと言うなら、贖罪代わりにでもアイツの言うことを聞いてやるしかない」

 

 レムから視線を外し、士郎は再び目の前の火を見つめる。

 

「おひとつ、お聞きしてもいいですか」

 

「なんだ?」

 

「先ほどのことで……私たちの助けとして放たれたあの矢。あれは普通のものではありませんでした。まるでミーティアか、それに準ずる加護や魔法としか思えません」

 

 

 士郎は一瞬、目を細めて火を見つめた。揺らめく炎が彼の顔を照らし、どこか遠い記憶を映し出すかのようだ。十数年の歳月が刻んだ皺は、彼の若々しい外見には見当たらない。だが、その視線には、まるで幾つもの戦場を渡り歩いた老兵のような重みが宿っているように、そう少女には見えた。

 

「企業秘密だ……なんて言ったら、どうする?」

 

士郎は茶化すように笑うが、レムの真剣な瞳にその笑みはすぐに柔らかくなる。

 

「無理にとは言いません。エミヤくんには、エミヤくんなりの『秘密』があるのでしょうから。ただ、だからといって気にならないわけではないんです……もし、話せるなら、聞きたいと思います」

 

「ふむ……別に隠してるってわけでもないんだがな」

 

士郎は小さく唸り、薪を火にくべる。

 

「でも、ミーティアや魔法ってほど大層なもんじゃない。俺の悪い癖みたいなもんだよ。必要なら、道具くらいすぐに作れる」

 

彼は肩をすくめ、軽く笑う。だが、その笑顔の裏に、遠い記憶の影がちらつく。

 

「作れる?」

 

 レムの声にわずかな疑念が混じった。

 

「そんな簡単に、あのようなものを?」

 

「簡単かどうかはさておき、昔からこういうのは得意だった──というよりも、コレだけは出来た。てのが正しいか」

 

 士郎の言葉には、どこか自嘲の響きがあった。彼の能力──魔力を媒介に無から有を生み出す《投影》。この世界でも、士郎だけに許された特異な技だ。火の光が彼の顔を照らし、まるで過去の戦場を映すように揺れる。

 

「遠い昔の話だ。いまでも、その頃の記憶だけは鮮明に思い出せる」

 

 士郎が語り始めたのは、今より十数年も前のこと。別の世界で、彼がただの少年だった頃の話。人生を一変させた『戦争』──聖杯戦争の壮絶な戦いと、その結末。

そして、最後の戦いを迎えるために磨いた自身の力のこと。

 

彼は淡々と語る。

炎に焼かれた街、守れなかった命、握り潰した理想。

 

それでも、と正義の味方になることを諦めなかった少年の執念を。レムには知り得ない遠い世界の話なのに、士郎の声には、まるで昨日のことのように生々しい重みが宿っていた。

話が終わる頃、火は弱々しく揺れ、光を乏しくしていた。士郎はふっと息を吐き、苦笑する。

 

「──長く話ちまったか。年老いると、自分語りが長くなっちまってかなわない。どうだ、満足するような話は聞けたか?」

 

「そう、ですね。はい、それはもう十二分に……」

 

 

レムの声は小さく、どこか震えていた。

 

 士郎から聞く話は、到底簡単には噛み砕き飲み込めない話だった。ゆっくりと自身の心の内で反芻し記憶の中に混ぜ込む。

 けれど本来なら、彼の秘密を少しでも知れれば御の字と話を聞いただけなのに、まさか洗いざらい全て話してくれるとは思ってもみなかったレムは、何と言葉を紡げば良いのか分からず、口を噤んでしまう。

 

 それ程までに、彼の背負っていたものは重かった。彼女自身、辛い過去がないわけではない。それを軽んじるつもりもない。だが、士郎の話には、比べようもない苦悩と執念があった。彼の顔を見ながら、レムはそう確信した。

 

「……そこまで思い悩むとは思わなかったな。気にすんな、過ぎたことだ」

 

 如何にも悩んでいますといったレムの沈んだ表情に、士郎は少し驚いたように目を丸くし、すぐに苦笑する。

 士郎の言葉に返事は返って来ない。少しばかり士郎にとって居心地の悪い空気が流れる。

 

「あー、なんだ。ほんとに気にしなくていいんだって。逆に、話聞いてもらってちょっと楽になった部分もあるしな」彼は少し慌てたように手を振る。「そろそろ火の番もいいだろ。火は弱ってるけど、まだ暖かい。寒かったら、ここで休んでけよ」

言葉が矢継ぎ早に飛び出し、らしくもなく焦っているのが自分でもわかる。レムはようやく顔を上げ、静かに答える。

 

「その、エミヤくんはどうするんですか? 話してもらったりで、言えてませんでしたがエミヤくんも怪我人ですよね」

 

「俺は村の周りでも見て回ってくるよ。また変なことが起きても敵わないしな。怪我に関しちゃ、まぁ擦り傷だよ。菜月みたいに犬に噛まれたわけでもないしな」

 

「……気を付けてくださいね」

 

「そこまで俺もうっかりしてねぇよ。そっちも冷え込む前に帰れよ。明日からも忙しくなるだろうしな」

 

「はい……」

 

 レムは弱々しい火の傍に立ち尽くし、士郎の背中を見送る。止める言葉も見つからないまま、彼女は彼とは別の方向へ歩き出し、想い人の眠る場所へと向かった。

 

士郎は闇の中へ歩を進める。ふと立ち止まり、右手を軽く握る。心の中で、かつての剣の感触をなぞるように。「──投影、開始」、彼は小さく呟き、夜の冷気に溶け込むように歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒロイン決め ※候補決め

  • フレデリカ
  • ラインハルト
  • エルザ
  • メィリィ
  • ペテルギウス
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