もしも漫画『メダリスト』の主人公ら『結束いのり』と『明浦路司』が、『僕のヒーローアカデミア』の世界にいたら。

「こんな状況で、こんなことを言うのはおかしいって、わかってます!」

「でも______」

「先生、わたし、滑りたいんです______!」

 って話。


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 米津さんのBOW AND ARROWはピースサインのアンサーソングと聞いて筆が勝手に……!
 いのりさん達がなんか静岡に避難してるし作者はフィギュアスケートやってないし記憶うろ覚えだしでガバまみれですけど、許して。




ヒーロー含めたすべての人へ

 

「……っ!」

 

 沢山の人が集うその場所で、わたしは少し離れた場所から眺めていた。スケートをするために訪れたそこで。

 

「いのりさん……戻ろう、今は駄目だ」

 

 司先生が、そっと話しかけてくれる。その視線の先には、怯えと悪意で狂乱している人々が映っていた。

 

「雄英じゃなくていいだろ!!」

 

「匿うなら他でやれ!!」

 

 人々の、悪意すら籠もった叫びが聴覚を鋭く差す。ゆっくり顔を上げると、司先生の表情は苦しげで、わたしもその視線の先を見てつい拳を握りしめる。

 

 あの途方もない悪意の先には、一人の高校生がいるんだ。

 

 そう考えると、どうしようもなく苦しくて、だけど人々も皆不安な気持ちでいっぱいになってしまっていることにも共感できて。

 

 胸が、きゅっと締め付けられた。

 

 ああ、どうしてこんなことになっちゃったのかな。

 

 わたしは瞳を伏せながら、こくりと頷いてその場を立ち去______

 

 

 

______ろうとした。

 

 

 

 一人の女の人の声がして、ふと立ち止まる。

 

「……? 誰だろう……いのりさん?」

 

 その声は、何故かとても安心できて。それでいて、必死で、辛そうで。

 

 だから_______

 

「……司先生、ちょっと、聞いていってもいいですか!」

 

 わたしは、あの人の話を聞きたくなった。

 

***

 

「ずびびっ」

 

「……つ、司先生、ティッシュ使いますか?」

 

「ずずっ……ゔん、ありがどゔ」

 

 ちーん、と鼻を噛む司先生の横で、前後屈しながら記憶を辿る。

 

 あの人、すごかったなぁ。

 

 人々の不安と混乱をほぐして、沢山の事に気付かせてくれたあの女の人。それに、その後すぐにあの男の人のところへと駆けつけた人たち。気がつけば悪意は好意に変わって、あの高校生の人の周りには沢山の人が囲んでいた。

 

 みんながみんな、勇気を出してあの結果になったんだ。

 

 なら、わたしはどうだろう。

 

 安全な場所から眺めて、苦しくなったら逃げ出して。現実から目を背けていた。

 だって、今のわたしには何もできないから。

 

 何もできないから、わたしがわたしになれるスケートをしようとして、あそこに行って。

 

 だけど結局何もしなかった。

 

 みんなは変わっていた。確かに、あの人の話を聞いてから、間違いなく。

 

 わたしは、わたしは_______

 

「……さん……い……のりさん……いのりさん! 大丈夫? ぼぅっとしてるけど……」

 

「! はい、大丈夫です! 元気いっぱいです!」

 

「そう? ならいいけど……ティッシュありがとう、助かったよ!」

 

 い、いえ……と答えて指先をつつき合わせる。どうしよう、心配かけちゃった。

 

「ええと……今は忙しそうだし、戻ろうか。送っていくよ、一緒に行こう」

 

「あ、はい!」

 

 反射でつい口が開く。あ、と思った頃には遅くて、司先生はもう歩きはじめていた。そっか、そうだよね。今は雄英高校の先生達も忙しいもん。

 

______わたしにできることって、なんだろう。

 

 やるせない気持ちを胸に抱きながらも、わたしたちは仮設住宅へと歩いていった。

 

***

 

「お母さん、わたしって何ができるのかな?」

 

 いのりが帰ってきて喋った一言目がそれだった。私は思わず目を見開いてぽろりと驚きの声をこぼす。

 

「えっ、どうしたの、いのり。あ、そういえばスケートの件はどうだった?」

 

「その……あの人が帰ってきたから雄英の人たちが忙しそうで」

 

「そっか……それで、どうしてそう思ったの?」

 

 やたらと暗い雰囲気のいのりに、内心不安を覚える。ああ、やっぱり明日にしてあの雄英生の子と被らないようにすればよかった。きっと人の悪意に触れてしまったんだわ。だとしたら、あの高校生の子は大丈夫かしら。

 

 いのりが少しずつ話し出す。ああ、なるほど。他の人ががんばっているのに自分は変わっていないと思っているのね。だから、何かしたい、と。

 

 なら、一つしか無いじゃない。

 

「いのり、よく聞きなさい」

 

「……うん」

 

 顔をうつむかせるいのりの頬を両手で包みこんで、視線を合わせる。不安げに揺れる瞳に、もう一度少しだけ後悔を抱く。

 

 けれど、今から伝える言葉だけは、決して違えちゃいけない。

 

「あなたにできることは、あなたができるようになったこと。あなたが何も無い子じゃないと感じれるようになったそのきっかけ」

 

 揺れていた瞳がピタリと止まって、大きく見開かれる。それでも私は、口を止めない。

 

「わかっているでしょう?」

 

 

 

「あなたは、フィギュアスケートができる」

 

 

 

 きらり、といのりの瞳に光が灯ったような気がした。

 

***

 

「ああ、いのりさん大丈夫かなぁ……やっぱり明日にすればよかったかなぁ……でも今直ぐやりたそうだったもんなぁ……」

 

 俺は今、仮設住宅の中を一人歩き回っていた。絶賛後悔中である。

 

 先程の高校生の演説で一人号泣していたことも確かにそうだけど、それ以上に後悔していることがある。

 

 いのりさんに人の悪い側面を見せてしまったことだ。正直、まだ帰ってこないだろうと思っていたし、責任者の人がまさか出迎えに直接行ってしまっているとは考えていなかった。

 

 まさか一人で行こうとするとは、いのりさんも成長したなぁ……ははは。

 

 頭を抱えて歩いて、部屋ではのたうち回る。そうこうしていると、ピンポーン、とチャイムが鳴った。

 

 誰だろう、こんな時間に。

 

 おかしいな、と思いながらも扉を開けると、そこには悩みの種、いのりさんがいた。

 

「司先生!」

 

「いのりさん?!」

 

 どうやら走ってここまできたらしく、肩で呼吸している。落ち着いて、と深呼吸させる。

 

 一通り息を整えたいのりさんは、真剣な眼差しでこちらを見つめた。ごくり、と息を呑むといのりさんが口を開く。

 

「司先生に話したいことがあるんです!」

 

「話したいこと……?」

 

 はて、一体なんのことだろう。まさか、今日のことだったりして。ああ、どうしよう。

 

「フィギュアスケートのことです!」

 

 すぅっと息を吸ってからそう答えたいのりさんに、かつてない覚悟を感じる。俺は直ぐに聞き入る姿勢に入った。

 

「わたし、あの人の話を聞いてから、ずっと考えていたんです」

 

「みんな変わってる、だけどわたしは?」

 

「わたしは、何もできていないんじゃないか、って」

 

 苦しげな表情で胸元を抑えて話すいのりさん。思わず拳を握る力が強くなる。

 

「わたしには、何ができるんだろう、って」

 

「考えたんです。スケートがしたいけど、皆が迷惑しちゃうから! わたしには、何もできなることは無いんじゃないか、って」

 

 そんなことはない、そう口から出かけた時、食い入るようにいのりさんは話す。

 

 

「でも!」

 

「お母さんが教えてくれたんです。わたしは、フィギュアスケートができるって」

 

「それで、思い出したんです。初めてフィギュアスケートを見たときのことを」

 

 いのりさんは目を閉じて、懐かしげな表情を浮かべる。俺も、同じようにかつての記憶を思い出す。

 

 

「キラキラしていて、綺麗で、それで______とても、元気が貰えたんです!」

 

 

 開いた瞳は、輝いていた。

 

 

「だから!」

 

 

「わたしは、フィギュアスケートをします」

 

 

 強い芯が籠もった言葉。

 

 

「わたしはこれで、みんなを支えたい。なにかをしたい!」

 

 

 何よりも熱い覚悟の炎が、眩しかった。

 

 

「こんな状況で、こんなことを言うのはおかしいって、わかってます!」

 

「でも_______」

 

 

「先生、わたし、滑りたいんです______!」

 

 

 俺はその言葉に、力強く頷いて答えた。

 

 

***

 

 デクくんが雄英に帰ってきてから数日たったある日のことだった。

 

「みんな! 全員いるかい?! ちょっと話があるんだけど」

 

 オールマイトいわく、明日は雄英周辺でのパトロールもなく、かといって訓練もしないんだとか。けど明日は皆で行く場所があるから、今日は無茶しないように、と。こんな時に、一体何をするんだろう。

 

 ちょいちょい、とデクくんを手で招く。なんとなく、他の人に聞こえない程度の小声で話しかけた。

 

「ねぇねぇ、デクくんデクくん。何か他に聞いた?」

 

「うーん、僕は何も聞いてないなぁ……でもなんというか、凄くオールマイトに見られたような……?」

 

 僕なにかしたかなぁ? と慌てるデクくんに対して、散々やってきとるやないかい、とツッコミを入れかけてしまう。危ない危ない。

 

 そういえば、私も少し見られていたような……?

 

「明日になれば分かる、かぁ……」

 

「そうだね……気長に待とう!」

 

「うん!」

 

 扉から見慣れた紅白頭が出ていくことに気が付かないまま、私たちはおーっ!と腕を伸ばした。

 

***

 

「いのりさん」

 

「は、はい!」

 

「確かに今日は、これまで以上に沢山の人が見に来ているかもしれない。そしてあなたは、その人たちの為に滑ろうとしている」

 

「だけど」

 

「何よりも大事なのは、いのりさん自身が滑ることを楽しむことだ。あなたが氷の上で滑る時、誰よりも、いつだって輝いていたんだ!」

 

 

「だから______思いっきりやっちゃえ!」

 

 

______きっと、あなたの眩しさに誰もが気づくだろう。

 

***

 

「体育祭会場……! なんだか、懐かしいわ」

 

「ね!」

 

 たった半年と少し前のはずなのに、まるで数年ぶりに訪れたような感覚。目の前で変わらず立つその建物に、思わず梅雨ちゃんと顔を合わせて苦笑いする。本当に、濃い一年だったんだなぁ。

 

「でも、どうして此処に……?」

 

 特に着替えもせず私服のまま、私たちは此処に来ていた。なんなら、暖かい格好をしてこいと言われたので部屋のジャージを持ってきている人もいる。

 

 各々が好き勝手に喋っていると、オールマイトがエリちゃんを連れてやってきた。

 

「エリちゃん?!」

 

「デクさん! それにA組のみなさん!」

 

「どうしてここに?!」

 

 たたた、と駆け寄るエリちゃんを優しく受け止めながらも、デクくんはオールマイトに問いかけた。

 

「ええと、そのぉ……まぁ、見れば分かるよ! ウン!」

 

「あ、まってください!」

 

 HAHAHA! と誤魔化し笑いをしながら立ち去るオールマイト。エリちゃんが慌てたように後を追いかけていく。

 

「えと、ばいばーい!」

 

「うん、また後で!」

 

 一瞬振り返って手を振られたので、私たちも全員手を振り返した。ああ、ほっこりするぅ。

 

「よし、みんな! 早速行こう!」

 

 はーい、と返事をして会場へと歩き出す。歩き進めていくと、段々と空気が冷たくなっていった。

 ひんやりとしたソレが、肌を包みこんで芯を固める。

 

「うひゃあ、寒っ」

 

「ここってそんなに寒かったか?」

 

 会場内に入って、指定された席へと向かう。だんだんと、外の明るさが見えてきた。それとともに、空気は一段と凍えていく。

 

「わぁ……キレイ!」

 

 そんな歓声が先頭から伝染するように上がっていく。私たちの視線の先には、キラキラした透明な氷で出来た舞台があった。

 

「あれから寒気が来てたんだ……!」

 

「すっげぇ! めっちゃキレイだぞ!」

 

「ケロケロ、たくさん温かいモノを持ってきてよかったわぁ……ケロォ」

 

「ああっ、梅雨ちゃんしっかり! ヤオモモ、毛布お願いできる?!」

 

「もちろんですわ!」

 

 口々に感想を言い合っていると、会場に次から次へと人が来る。よく見てみると、人々の手にはチラシが握られていた。

 

「なんだなんだぁ?!」

 

「これ、避難民の人達?! なに、なにがあるの?!」

 

 何事か、とあたりを見回すみんな。そこへ、オールマイトが慌てて此方へと走ってきた。

 

「わーたーしーがー! 慌てて来た!」

 

「オールマイト! あの、これから一体何があるんですか?!」

 

 飯田くんがビシッと手を上げて質問する。さすが委員長や!

 

「そう、それ! 実はこれを配り忘れててさ! ほら、一人一枚ね!」

 

 そういってオールマイトはチラシを一人ひとりに手渡した。これは……

 

「フィギュアスケート公演?」

 

「出演者は……今年から中1?! うそ、そんな子が一人で?!」

 

 チラシを読むと、それぞれが驚嘆の声をあげた。かくいう私もその一人で、思わずええっと声を上げてしまう。

 

「実は麗日少女の演説を聞いて思い立ったそうでね。ヒーロー含めたすべての人に、応援の意を込めて滑るんだって」

 

「私ですか?!」

 

「そう! あ、もうすぐ始まるらしいから、みんなは席に座っててね。じゃあ!」

 

 再び走り出したオールマイトを眺めながら、ぼんやりと突き立つ。

 

 私の、私の演説を聞いて______

 

 ______『デクくんを助けたい』。あの時、ただそれだけだった。

 

 でも、それが誰かの勇気になっていたんだ。

 

「麗日? 大丈夫?」

 

「……っあ、うん! ちょっと、驚いちゃって」

 

「いやあ、こないだのは凄かったもんねぇ。カッコよかったよ、ヒーロー!」

 

 ニシシ、とはにかむ耳郎ちゃんに、思わず頬を赤くする。そっか、私、人を勇気づけられたんだよ。

 

 温かな気持ちを胸に抱えながら席につくと、照明が落ちた。どうやら、もう始まるらしい。

 

 私はその姿を焼き付けようと、よく目を凝らした。

 

***

 

 世界が、静寂に包まれる。

 

 暗くなった会場の中央に立つ少女。足場は透き通った氷。ライトが、少女に集中した。

 

 曲が、流れる。

 

______映画「カノンとベルの国」より 花の妖精

 

 少女が、伸ばした腕を胸へと引き込む。

 

 瞬間______加速する。

 

 ビュンッ!!

 

 細く華奢なその身体は、依然としてその速さを落とさない。エッジによって削られた氷の粒が、輝く星のように舞う。進むたびに衣装が風によって魅惑的に揺らめく。

 

 その美しさに、客席からはどよめきの声が上がる。きっとフィギュアスケートを知らぬ人たちなのだろう。それでも少女は、滑った。

 

 進む、進む、進む。氷が少女を自然と運ぶように、それが当たり前であるかのように。

 

 そして______

 

 跳んだ。

 

「っ!」

 

 四回転サルコウ+二回転トゥループ______着氷。

 

「「「わあああ!」」」

 

 歓声が湧き上がる。伝わる人は驚きで、知らぬ人は純粋な感動で。

 

 シャアッ! と氷を削って着地する。ふわりと浮かぶ衣装に目を取られてしまう。それでも少女は、またしても加速する。

 

 ぐるるんっ。身体を回転させて、次の準備を進める。氷の粒が闇を泳ぐ。加速、加速。

 

 まだ、まだまだ!

 

 手を握り、姿勢を正し、そして見据えて______

 

 四回転サルコウ!

 

「「「「「「わああああああ!!」」」」」」

 

 更に大きな歓声と、そして拍手。個性社会でスポーツが衰退してもなお、確かに伝わるものはあった。

 

 少女はゴオオと鳴く風を切り裂いて進む。次なるジャンプを跳ぶために。それは、前回失敗してしまったもの。絶対に、跳びたいもの。

 

 跳べ!

 

 三回転ルッツ!

 

 降りろ、降りろ、降りろ!

 

_______着氷!

 

「「「わああ!!」」」

 

 知る人は知っていた。少女はこのジャンプをかつて失敗したことがあると。それも、全日本ノービスという最も大切な大会で。それ故に、歓声は少ないながらも大きな物となった。

 

 少女は加速する。無酸素運動で苦しくなった足を動かして。風を切り、氷の粒を踊らせて。

 

 そして、笑う。

 

 ふわっ。正にその言葉が似合う笑顔。指の先まで籠もった感情。誰もが少女に見惚れた。

 

 足を背中から頭へと持ち上げながら、回転する。しなやかに動くそれは、とても優美なものだった。

 

 レイバックスピン。

 

そしてまた、少女は滑って_______跳ぶ。

 

 シャアッ。

 

 三回転フリップ_______着氷。

 

「「「わあああ!!」」」

 

 思い出したかのように、溜まっていた歓声が湧き上がる。少女はそれに笑って答えた。

 

 まるで、氷上の妖精そのもののようだった。

 

 ここで、少女が最も愛するもの、ステップシークエンスが始まる。

 

 右回りフォアインツイズル、右足フォアインブラケット、右回りバックインループ。

 

 このステップシークエンスは、少女にとってのスケートの原点のようなもの。憧れた人が最も得意なもの。それ故に少女はこれを重要視するのだ。

 

 指先から、足の先まで、全部を意識して。目に残るように、芯はずらさずに、体幹を意識して。

 

 音に乗って、氷上に図形を描く。フィギュア(図形)というその名の通りに。

 

 フォアアウトロッカー、バックアウトカウンター、ツイズル。

 

「「「わああ!」」」

 

 少女は笑う。それは、楽しそうに、嬉しそうに。

 

(ああ、スケートができて、楽しい!)

 

 加速、加速。氷が舞う、衣装が揺らめく。

 

 跳ぶ。

 

 三回転ループ、オイラー、三回転サルコウ。

 

 フリルがふわりと浮かぶ。降りた。氷が音を立てて、削れる。粒が空気中に、まんべんなく広がる。

 

 加速、加速、加速、加速。風を裂く。氷を滑る。進む、進む、進む。

 

 軸を崩さず、まっすぐ、前へ。

 

 行け、行け!

 

 速度を落とすな、進め。

 

 跳べ!

 

 三回転アクセル_______

 

 

_______着氷。

 

 

「「「「「「「わああああああ!!」」」」」」

 

 

 誰かが息を呑んだ。目を見開いた。歓声をあげた。

 

 氷が鮮やかに宙を舞う。少女はそこを切り抜ける。

 

 ラスト!

 

 足換えコンビネーション。

 

(テンポを間違えるな、ジャンプ、シットスピン。腕を上下、せーので足換え!)

 

 サイドウェイズ、I字スピン。

 

(震える。手が、腕が。離したくて、たまらない。苦しい。けど、終わった時はパッと離しちゃ駄目。ゆっくり回しながら)

 

_______降ろす!

 

「「「わあああ!」」」

 

 拍手と、歓声。そして、少女は丁寧に踊る。

 

(届け、届け。すべての人へ!)

 

_______完走。

 

「「「「「「わああああああ!!」」」」」」

 

 会場全体が震える。その日一番の歓声と拍手だった。誰もが立ち上がり、夢中で拍手を送る。

 

 目の前で繰り広げられたそれが信じられないという顔の人、あまりの感動に口を抑え涙をこぼす人、言葉を失いただ目に焼き付ける人_______

 

 それは、単なるスケートではなく、人の心を動かすものだった。

 

***

 

 _______すごい。

 

 ただただ、その一言に尽きた。

 

 気がついた時には喉が痛むほど叫んでいたし、手は力強く叩かれていた。周りを見れば、皆も同じで、何人かは涙ぐんでいた。

 

 そして、私もその一人だった。

 

「すごい、すごいすごい! めっちゃキレーだった!」

 

「素晴らしい! これはまさに、人を勇気づける最高の演技だ! ブラボー!!」

 

「……っ、なんか……すごいもん見ちゃったね、ウチら」

 

 皆ひっきりなしに、あの子を褒める。

 

 私はじっと、リンクの端で男性と嬉しげに喋る少女を見つめた。

 

 

_______ああ、私の言葉があの子のスケートを勇気づけたんだ。

 

 

 そう考えると、何か熱いものが込み上げてくる。瞼からポロリと、温かい涙が溢れた。すごく、すごく嬉しい。胸が、心がポカポカする。ああ、本当に。

 

 じんと温まる心臓に手を重ねて、しみじみとその暖かさを実感していると、ついさっき聞いたばかりの声が聞こえた。

 

「みんな、どうだったかな? 結束少女のフィギュアスケートは!」

 

「はわわ。キラキラ、ふわふわ、妖精さんみたいで……!」

 

「オールマイト! エリちゃん!」

 

 ばっと顔を上げると、目元を腫らしたオールマイトと、興奮が冷めず呟き続けているエリちゃんがいた。エリちゃんの瞳は、いつもに増して輝いている。文化祭以来の興奮っぷりだ。

 

「ああそうだ、轟少年! 結束少女が君にお礼を言いたいそうだ! ぜひ行ってきなさい!」

 

「「「ええっ?!」」」

 

 さっきまで目を見開いて驚いていた轟くんが、ふと思い出したかのような表情をする。「わかりました」と言って轟くんはそのまま席から離れて……

 

「ちょっと待ったぁ!」

 

 私は慌てて轟くんに声をかけた。

 

「? どうした?」

 

 首をコテン、と傾げて何事かと問いかける轟くん。くっ、絵になる……じゃなくて!

 

「どうしたもなにも、なんであの子にお礼を言われるん?! え、もしかして知り合いなん?!」

 

「……ああ、つい最近知り合った。その時のお礼だと思う」

 

「「「いやだからどうして?!」」」

 

 轟くんの天然っぷりに皆が口を揃えてツッコミを入れる。にしても、どうして……

 

 ふと轟くんの右手に視線が行く。

 

 フィギュアスケート、氷、半冷半燃。

 

「「ああっ?!」」

 

「な、なに麗日? それに緑谷も」

 

 デクくんと顔を見合わせると、どうやら同じことを思いついたらしく頷きあった。デクくんが轟くんに問いかける。

 

「轟くん、もしかしてあのリンクの氷を作ったのって……」

 

「ああ、俺だ」

 

「「やっぱり!」」

 

 その答えに納得がいったのか、皆があー、と声を出す。そりゃあそうだ、だって、轟くんがいなかったらリンクすら作れなかったのかもしれないし。

 

 オールマイトがちらちらと轟くんを見つめる。……なるほど。

 

「……えと、轟くん。そろそろ行ったほうが」

 

「ああ、ありがとな」

 

 私は小声で教えた。感謝を告げた轟くんは、そのまま歩き出す。

 

「なんというか、やっぱ轟は轟だな」

 

「「「うん」」」

 

 本日何回目のハモりだった。

 

***

 

「「この度は本当に、ありがとうございました!」」

 

 いのりさんと共に、ペコリと腰を下げる。

 

 その感謝の相手は、焦れったそうに頬を掻いていた。

 

「いえ、当然なので……その、結束さん、凄かったです。俺、氷の個性なのでわかります。あそこは物凄く難しいって」

 

「! 氷の個性……! リンクを作ってもらったときから思っていたんですけど、凄く素敵な個性だと思います!」

 

 いのりさんがブンブンと腕を回して褒め称える。うん、俺も良い個性だと思うな。確か、ナンバーワンヒーローの息子さんだったような……今は荒れているし、大変だっただろうに。わざわざ学生なのに手伝ってくれるなんて……!

 

「……司先生? あの、轟さん帰っちゃいますよ?」

 

「っは?! えと、ありがとうございましたぁ!!」

 

「……ふは、素敵な演技、ありがとうございました」

 

「おかげで、もっとこの個性を好きになれそうです」

 

 しまった、つい考えすぎた。どうやら俺の様子が可笑しかったらしく、ふわりと笑われる。うわぁ、美形な人だ。素直で良い子だなぁ。

 

 暫くして雄英高校の方々にも挨拶を終えると、スケートリンクは俺達二人だけになった。校長先生からもう少し滑っても構わない、とのことだ。有り難い。

 

「さて、いのりさん!」

 

「はい!」

 

 そして、今からやることは一つ。

 

 

「喜びGOE+5だ!!」

 

「はい!!」

 

 

 とにかく喜ぶことだ!

 

 

 いのりさんとハイタッチをして、喜びGOE+5で大はしゃぎする。楽しげに、それでいて嬉しそうに笑う。

 

 俺は少し目頭が熱くなった。

 

 それでも口は止まらない。

 

「すごい、すごいよいのりさん! あんなにも沢山の人の前で四回転成功、しかも三回転アクセルまで! ああもう、最高だ!」

 

「はい、はい!」

 

 確かにこれは大会じゃないし、金メダルを取ったわけでもない。

 

 けれど、確かにお客さん達は笑顔で、感動して、嬉しそうで、楽しそうだった。

 

 いのりさんは、お客さん達の応援をちゃんと出来たんだ。それも、あの全日本ノービス大会と同じ構成でノーミスで。それは、とても素晴らしいことだから。

 

 俺は、いのりさんの目を見つめて、真剣に伝える。全てがしっかりと伝わるように、一言一言丁寧に。

 

 

「いのりさん! あのお客さんの笑顔は、あなたが掴んだ煌めきは、全てあなたのものだ! あなたが作ったんだ!」

 

 

「最高の、演技だったよ!」

 

 

「______はい!!」

 

 

 その時のいのりさんは、これまでにない笑顔だった。

 





 以上です。いやあ、視点がコロコロ変わりましたね。書きたいとこ書いたらこうなりました笑

 これはあくまでBOW AND ARROWから作成したものですから、当然最後の締めくくりは司先生。あえていのりさんにはしませんでした。にしても、本当にあれは神曲ですね。羽生さんの踊りもえげつなかったです。

ここからは設定やらなんやらです。本編に書き入らなかった(ちょっと蛇足だったりテンポが崩れそうだったため抜かした)ところについても、解説します。

 まず初めに、この世界線のいのりさんは無個性です。ですから、メダリスト原作以上にコンプレックスが大きく、『何も出来ないこと』を過剰に恐れています。しかし、メダリスト原作でのいのりさんの先生が非常に頑張ってくれたため(原作でもとても気にかけていたそうです。卒業式では号泣したらしいですよ)、いじめをうけることはなく、メダリスト原作程度の扱いになっています(それでもつらい。正直原作でも十分しんどかったこともあります。これ以上はちょっと無理だと思いましたね。さすがにキツすぎる)。
 とはいえど無個性ですので、社会からの風当たりは強く、両親からの心配も増えます。よって劣等感とスケートへの執着が原作よりも少々上回っています。ですがいのりさんがスケートをやる流れは一緒です。

 しかし今回、超常解放戦線による影響で全日本ノービス大会後から練習ができず、雄英への避難を余儀なくされます。ここで、いつまで続くのか分からない状況に不安を感じ、また外の状況を知ってより絶望します。このままでは、スケートができなくなってしまうのではないか、と。自身のアイデンティティの消失に焦り、初期のいのりさんの精神状況に近しくなってしまうんです。その結果が始まりの方のいのりさんらしからぬ状況です。ううんつらい。

 それからお母さんの話を聞いて、一度自身のオリジンに立ち直ります。この帰宅時、いのりさんはかなり混乱しているため話が矛盾していても気が付きません。いのりさんママはそれに気付いたうえで、「スケートができる」と言いました。だって何よりもスケートが好きな子だから。結果としていのりさんは立ち直り、司先生に速攻で報告しに行きます。これもまた興奮が酷く、あとから「自分はなんてことを言ってるんだ!」と後悔しましたね。かわいい。

 その後、校長先生に直談判。

「避難民の人からヒーローまで勇気づけたい? 大歓迎さ!」

 イベントの成立、そこから轟くんへの依頼、暫く練習、そして本番、です。この時点で一度だけいのりさん達は轟くんに会ってます。といっても軽い挨拶だけです。

 そして本番当日、雄英高校1年A組のみんなにはサプライズで演技します。結果は大成功。A組のみんなは感動と驚きでいっぱいですし、轟くんは一度オフで会ったことがあるために「あの子がこんな演技を……?!」と彼なりに驚いていますね。人々が笑顔いっぱいな様子を見て、いのりさんはここで本当に回復、自信が復活します。その後轟くんや関係者の人々全員にお礼をします。この時の轟くんは難産でした。敬語はどんな感じで喋るか想像がつかなかったです。ですが、彼はいのりさんにリスペクトを感じているので確実に敬語です。これは譲れない。そして氷個性を二人に凄い凄いと褒められて照れます。かわいいすき。

 そんなこんなで、喜びGOE+5で作品は終了です。いやあ、楽しかった。所々BOW AND ARROWの歌詞を入り混ぜて楽しかったです。ほんとに神曲なので、ぜひ皆さんも毎日聞きましょう。

では、ありがとうございました。

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