イムの娘(いむのこ)~番外編~   作:槙 秀人

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エピローグ

 大都市のスラム街では、盗みも詐欺も日常の風景だった。

 その中で彼女(カリーナ)は、生きるために“頭を使う”術を覚えた。

 

 両親の顔は知らない。

 

 彼女を育てたのは、犯罪ギルドに所属する老詐欺師。

 “変装の名手”と呼ばれたその男は、幼いカリーナに演技、変装、心理操作…

 生き抜くための技を容赦なく叩き込んだ。

 

 カリーナは驚くほどの吸収力を見せ、ギルドの誰よりも早く“プロ”の技を身につけていった。

 

 だが、ギルドは家族ではない。

 守られるのは利用価値がある間だけ。

 価値を失えば、容赦なく切り捨てられる世界だ。

 

 そして、その日が来た。

 

 大仕事の最中、カリーナは“囮”として使われ、ギルドは彼女を置き去りにして逃げた。

 

 捕まれば終わり――

 

 それでも彼女は自力で脱出し、アジトへ戻った。

 だが、そこはすでにもぬけの殻だった。

 

 その日、カリーナは決めた。

 

「誰にも縛られない。誰も信じない。自分の自由は自分で守る」

 それが、彼女の生き方になった。

 

 ――そして、港町でナミと出会う。

 

 同じ泥棒稼業。

 同じ頭脳派。

 互いに似た匂いを感じ、自然とコンビを組むようになった。

 

 ナミは海を夢見ていた。

 カリーナは陸で生きる術を知っていた。

 

 二人は驚くほど息が合った。

 だが、カリーナはナミの“純粋さ”が怖かった。

 自分がとうの昔に失ったものを、彼女はまだ持っていたから。

 

 そして――例の事件が起こる。

 

 カリーナはナミを守るために“裏切り”を演じ、自分が悪者になる道を選んだ。

 本当の理由を言わなかったのは、情を見せれば弱くなると思ったから。

 

 いや……本当は――

 

 あの日、自分で決めた“生き方”を守り切る自信がなかったからかもしれない。

 

 ギルドにも、仲間にも、海賊にも属さない。

 カリーナは“どこにも縛られない自由”を選んだ。

 

 誰にも支配されず、

 誰にも期待されず、

 誰にも裏切られない生き方。

 

 ――でも。

 

 もしかしたら、違う生き方もあるのかもしれない。

 

 そんなことを考え始めた頃。

 

 彼女の前に――

 

 ナミが、再び現れた。

 

 

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

 

 絶対聖域

 

 黄金帝ギルド・テゾーロが築き上げた巨大国家――

 そのすべてが、静かに終末へのカウントダウンを刻んでいた。

 

 観光客たち、天竜人、富豪たち。

 誰もが船という船に乗り込み、沈みゆく国から逃げ出していく。

 

 サウザンドサニー号もまた、その一隻だった。

 甲板で、ナミは明け始めた水平線を見つめていた。

 

 遠ざかっていくグラン・テゾーロ号は、巨大な影となって海に浮かんでいる。

 

 3…2…1…

 

 カウントダウンがゼロを告げた瞬間――

 

 空へ打ち上がったのは、爆発ではなかった。

 

「……花火?」

 色とりどりの光が夜明けの空に咲き乱れる。

 チョッパーが慌てて望遠鏡をのぞき込んだ。

 

「なんでだよ!? 爆発じゃないのか!?」

 そのとき、巨大船の中央に――ひらめく旗があった。

 

『怪盗カリーナ参上!!』

 

 ナミは息を呑む。

 昔、自分を救ったあの日と同じ旗だった。

 

「やられたぁ~!!」

 チョッパーが叫び、エルが低く呟く。

 

「船ごとテゾーロマネーを盗んだわけだ。」

 その言葉で、仲間たちは気づいた。

 

 すべては ―

 

「彼女の狙いは最初から…黄金だったわけね。わたしたちはテゾーロを倒すために、まんまと彼女に使われた」

 

 巨大な二頭の亀に引かれ、グラン・テゾーロ号はゆっくりと離れていく。

 あのカウントダウンも、自爆装置も、すべてカリーナの嘘だったのだろう。

 

「なんだ…おれたち、騙されたのか」

 ダメージから回復したルフィは、シシシ、と楽しそうに笑った。

 

 そのとき、空から一枚のチラシが舞い降りた。

 デリバリー・クーが落としていったものだ。

 

「これは…?」

 ナミが拾い上げ、目を通す。

 

『近日新装開店!夢の国 “グラン・テゾーロ・パーク”』

 チラシの隅にはF-RONPのロゴが書かれていた。

 

「……ユナ様?」

 ナミは眉をひそめた。

 

「もしかして、これ…カリーナは知らないんじゃ?」

 エルは、気まずそうに顔をそむけて知らんぷりを決め込む。

 ナミはため息をつき、そして笑った。

 

「まあ、ユナ様の考えならいいわ。楽しかったし!」

 

「よーし!ワノ国に向かうぞ!!」

 ルフィの声が響き、仲間たちは持ち場へ走っていく。

 

 ナミは操舵室へ向かおうとしたとき、髪に何かが挟まっていることに気づいた。

 

「……なにこれ?」

 紙切れを開く。

 さっき抱きつかれたときにカリーナが忍ばせたのだろう。

 

「あの女狐…!」

小さくつぶやくと、グラン・テゾーロ号を見やり、紙を掲げて文字を読む。

 

 

『女の子は嘘と知恵で生き抜かないとね ――カリーナ』

 

 ナミは小さく笑った。

 

 

「でも...、あんたも騙されてた口よ」

 ナミは呟き、操舵室へ向かった。

 

 

 

 ***

 

 

「どうして……?」

 全員退避したはずの船内に、スタッフたちが勢揃いしていた。

 さらに、見知らぬスーツ姿の集団。

 FSS――F-RONP Security Servicesのエンブレムをつけた兵士たちが数十名。

 

「テゾーロ氏が不在となった今、この船の所有権はF-RONP社に移ります」

「この後、船は整備のためウォーターセブンへ向かいます。我々FSSが護衛を担当します」

「えっ……?」

 カリーナは呆然と立ち尽くした。

 

「ごめんなさいね、カリーナ。そういう契約になっていたのよ」

 声をかけたのはバカラだった。

 ダイスもタナカさんも、怪我ひとつなく立っている。

 

「スタッフは全員、そのままF-RONPに吸収されることになったわ」

「そんな……」

 船ごと奪ったつもりだった。

 その前提が、音を立てて崩れていく。

 膝が折れそうになったそのとき――

 背後から、赤い髪の女性がカリーナを支えた。

 

「5千億ベリーのテゾーロマネーは、あなたが手に入れたってことでいいわよ?もちろん、半分はウチ(麦わらの一味)の取り分だけどね!」

「く、くれない……!?」

 そこにいたのは、“紅大参謀”イオリ。

 麦わらの一味の副船長だ。

 

「あなた、ここにいたのね……!」

「ユナに頼まれて見届けにね。彼女は今、『世界会議(レヴェリー)』だから。それに、少し前まで、ここのスタッフたちに稽古もつけてたのよ?」

 スタッフたちが一斉に青ざめた。

 どうやら“稽古”の内容は地獄だったらしい。

 イオリは肩をすくめて、微笑んだ。

 

「テゾーロマネーは手に入れたんだから、あなたは世界一の泥棒になれたんじゃない?」

「……あんまり嬉しくないけどね。なんか、ハメられた気分だわ」

「先に麦わらの一味をハメたのはあなた(そっち)でしょ?私はね、そういう勝負(騙しあい)は得意なの!」

 カリーナは言葉を失った。

 

 そんなカリーナに、イオリは契約書を差し出した。

 

「これは、ユナからの提案。カリーナ、あなた――ここのオーナーになってみない?」

「……え?」

 契約書を開いた瞬間、カリーナは叫んだ。

 

「ユナ様が!? 私を……スカウト!? 直々に!?」

 

「カリーナ、すごいじゃない!!」

 バカラが歓声を上げる。

 

 二人は(ユナの)ファンクラブの会員同士。

 以前、会員番号でマウントを取り合った仲だ。

 

 カリーナは震える手で契約書を胸に抱いた。

 

 こうして彼女はF-RONPと契約を交す事となり、グラン・テゾーロ号の新オーナーに就任する事が決まった。

 

 そして――

 

 この船の本当の姿を知り、テゾーロという男の“真実”に触れることになる。

 

 

 

 ***

 

 

 黄金帝ギルド・テゾーロは、表舞台から静かに去った。

 

 長いあいだ演じ続けてきた“支配者”という仮面を外し

 

 ただ一人、愛する女性と共に――

 

 生きるために歩き出した。

 

 

 

 ~ FILM GOLD編 ~ おしまい

 

 

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