黒崎コユキ■番勝負~【白兎】からは逃げられない~   作:陸奥苺の頓兵衛

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 お久しぶりです、色々と立て込んでいて投稿が遅れてしまいました。
ちょっとまだ時系列について話していなかったので、ここに書いておきます。


 白兎がキヴォトスに帰ってきた時、アビドスでは外部からの干渉によって、テラーへと反転したホシノが現れ、先生はその対処に追われていました。
なので、ここから先はブルーアーカイブ本編通りには行きません



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コユキとユウカ、罅入る絆

 

 

 

「――うん、無事にミレニアムへ戻れましたね」

 

 仙峯寺の門を出てすぐ、もう一度鈴を鳴らしてみると、黄昏時のキヴォトスへと戻れたコユキ。

身に着けているのも忍び装束ではなく、ミレニアムの制服に替わっている、どういう理屈かは不明だが。

先の出来事は夢ではない、何故ならば受けた傷は未だに痛み、右手は背中に縛り付けた大太刀の柄を握り締めているから。

 

「ングック…………でも、あれで良かったのでしょうか?」

 

瓢箪の傷薬を一口飲んでから、コユキは先の戦いについて首を傾げる。

 

 

 兄弟子と共に駆けた時代の仙峯寺は外道の巣窟に成り果てていた。

だが、若き仙峯上人との問答から察するに、度重なる戦によって堕ちた、と思える。

 

自分が知っている葦名を鑑みて、つい悲観的な台詞を吐いたが、ちゃんと一から説明すれば、間に合ってたかもしれない。

もしかしたら、あの時代の葦名なら、桜龍も居なかったかもしれない、追い出せたかもしれない。

そうすれば、蟲憑きも変若の御子様も、数多の犠牲者も、出なかったかもしれない。

 

 

「とか考えられるのも……結果論に過ぎませんよね。

それに、仮に私が居なかったとしても、狼さんならやり遂げてしまうでしょう。

主命を果たして竜胤を断つにせよ、九郎様を人間に戻す為に自裁するにせよ……。

――――九郎様?」

 

自分よりも優れた忍びで人斬りでもあった兄弟子との格差を痛感し、またネガティブに陥りかけた所で、ふと疑念が生じる。

 

 

「――あれ? この鈴って、確か狼さんが貰った物を、私が借り逃げしてしまった物。

葦名で鳴らした時は、三年前の平田屋敷に転送された…………狼さんが不死になった、あの日に。

…………何故、私は仙峯寺に転送されたんですか? 九郎様とは直接的な接点はない筈……?」

 

 ようやく、先に起きた異常事態に気付くコユキ。

当時の竜胤の御子・九郎とそれに仕える忍び・狼に起きた事を追体験させてくれた奇妙な鈴。

先に鳴らしていた狼も、鈴の力が失われていた記憶を呼び覚ましてくれたと、言っていた。

 

 

 では今は? 何故、平田屋敷の事件とは全く関係のない、仙峯寺に転送された?

変若の御子の竜胤は、桜龍にまつわるソレではなく、屍の山を築いた末に創られた物である。

しかも、先ほど訪れたのは、彼らが外道に堕ちる前……仙峯寺が出来上がってすぐ、の頃。

 鈴の力でそこまで遡る事が出来るのか? いや、どう考えても不可能だ。

九郎様も兄弟子の狼も生まれていないであろう時代の仙峯寺へと、どうして行けたのだろう?

 

コユキの頭は、湧き上がった疑問で、ぎゅうぎゅう詰めになってしまった。

 

 

 

(コンコンコン)

 

『コユキー? 今良いかしらー?』

 

「んうぇ?!! あっ、はい! ど、どうぞ!!」

 

 膨れ上がった風船を針で割るかの如く、来訪者の声が響く。

つられて現実に引き戻されたコユキは、素っ頓狂な声で相手を招き入れる。

入ってきたのは、コユキもよく知るセミナー所属の先輩早瀬ユウカだった。

 

「なに変な声あげてるのよ、コユキ。

貴女の新しい制服持って来たから、ちょっと着てみてくれない?」

 

と言いつつ、抱きかかえた制服を差し出すユウカ。

何か違和感あるなと思いつつ過ごしていたが、制服がきつかっただけなのか。

と、当たり前のような事をやっと理解したコユキは、何の躊躇いもなく古い制服を脱ごうとする。

 

「ちょちょちょちょっと! 何、此処で着替えようとしているのよ?!!

ほら、私も手伝ってあげるから部屋の奥行きなさい奥!! はしたない!!!」

 

いきなりとんでもない事を仕出かす後輩を慌てて、押し込んでドアを閉じるユウカであった。

 

 

 

 早瀬ユウカから見た、黒崎コユキとは次元の違う超絶問題児だった。

能力を買われてセミナーに入ったものの、悪びれもせずに学校の金を抜き取ろうとした結果、クビになった。

セミナーの皆に謝罪した会長を尻目に、満面の笑みでその場を後にしようしたコユキを引き戻したのは、よく覚えている。

当時は、こんな子を卒業させて良いのだろうか? と、ユウカは不安になっていた。

 

 

「全く…………いきなり人前で脱ぐなんて、どうしちゃったのよコユキ……」

 

「いやぁ……。

葦名では、いきなり脱いでみせると、大抵は狼狽えてくれるので、行動しやすかったんです。

そうですよね、もう敵なんて、居ないんですよね……ごめんなさい」

 

 

 しかしだからと言って、今のコユキの方が良いかと聞かれれば、そういうわけではない。

昔の喧しさは鳴りを潜めて素直に入院し続け、退院してからも横領しようとも、逃げようともせずに自室へ戻ったコユキ。

いつの間にか部屋に現れ、乱雑に置かれていた、意図も用途も分からない危険物達も、綺麗に置かれていた。

そこだけを見れば、良い変化ではある、そこだけならの話だが。

 

 

「――はい、終わったわよ。

それにしても、ちょっと見ない内に随分と変わったわね……」

 

「まあ、少なくとも三年以上は居ましたしねぇ。

……ユウカ先輩から見ると、そんなに違うんですか? 昔の私と」

 

着替えを手伝ってくれた先輩と同じ目線で、コユキは尋ねる。

 

太さは変わってはいないが、その分筋肉が引き締まった四肢。

かつては大きく見開いていた眼は、キリっとした三白眼へと替わり、未だにチラチラと辺りを警戒している。

敵は居ないと言いながらも、一度消えたはずの刀を握って離そうともしない。

口数も喜怒哀楽の表現も乏しい、人形みたいな今のコユキ。

 

 

「…………………………………………少なくとも、昔の方が良かったと、思うわ……」

 

 

 長い沈黙の末に出した残酷な本音を耳にしたコユキは、そうですかと話を切り上げる。

もし昔のままなら、何で何でどうしてどうしてと喚きながらしがみ付いて来ただろう。

ユウカもそれを期待して、覚悟を決めて伝えた……強がっているだけだと信じて、ただ待ち望む。

 

 

「……用事は済みましたかね? ちょっと一人にさせて貰えると嬉しいです……もう夜になりますし」

 

 しかし、ユウカの思いを踏みにじるように、穏便に出ていくよう促すコユキ。

気にも留めず、ショックを受けた様子も見せず、壁の方へと移りながら淡々と伝える彼女に、昔の面影はない。

そんな変わり果てたコユキに、心に傷を負いながらも部屋を後にするユウカだった。

 

 

 

「…………さて、やることを纏めましょうか。

ユウカ先輩には申し訳ないですけれど、書く毎にああだこうだと訊かれそうで嫌なんですよねぇ」

 

一人になったコユキは、机の引き出しからメモ帳とペンを手に取る。

 

 自分に今必要な物は何か、何処で手に入るか。

何を優先すべきか、どこまで他人に話すべきか、誰が信用できるか。

思いつく限りの問題をつらつらと書いていく、コユキ自身にしか分からない暗号文で。

 

 

 

 

 

『白兎、忍びが最も警戒すべき事とは、情報を奪われることだ。

お主が下手を打って、囚われた時、相手は確実に拷問を行うだろう。

爪と肉の間に針を刺したり、逆さに吊って吐くまで放置したり、複数捕らえる事が出来たのなら、先に殺したりしてな』

 

『え、ええ?! そ、そんな痛い目見るのは嫌ですよ! 逃げますそれでは!!』

 

 白兎時代、仙峯寺拳法を会得したコユキに忍びの重要性を説くまぼろしお蝶。

過去の経験も踏まえて教えたが、それに慄いたコユキは全速力で逃げようとした。

 

『待て待て、その手から逃れる為の術はもう学んだだろう。

今日教えるのは文書の作り方だ、他人に見られても問題のない、所謂暗号文書よ。

紙と筆を用意せい白兎、今日からは暫く座学だ』

 

『は~い……分かりました……』

 

が、逃げると予測していた師匠に首根っこを掴まれ、授業を受けさせられるコユキ。

 

 頻繁に逃げようとはしていたものの、捕まったら騒ぎながらも素直に修業に打ち込んでいた。

知らない人間ばかりの葦名での彼女は、自分を見て欲しい、自分に構ってほしいという行動が多くなった。

周囲の大人たちも、孤児特有の物に過ぎないと、平時は可愛がってくれていた。

そして、親しかった者は皆、戦場で散って逝った。

 

 

 

 

 

 

「よし、出来た……とりあえずはミレニアムに馴染む事を優先にっと。

欲を言えば刀が欲しいんですけど、此処にあるのなんて精々お飾りの代物ですよねぇ」

 

 師に学んだ事と自分の特技を活かして、完成させた暗号文を懐に入れる。

机の上を綺麗にしてから、ベッドの上で先の猛者から言われた事を思い返す。

 

「…………お主も怨嗟を身に宿す、か。

正信さんも修羅に成りかけてたから腕が燃えていたんだ……」

 

私も、あんな風になっちゃうのかな……と、寝そべりながら先を案じる白兎。

 

 

 

 葦名城を出た後、別の拠点が欲しいと申し出た白兎は、荒れ寺へと案内された。

隻腕の仏師殿と始めて出会ったのも、その時だった。

彼は色々な事を教えてくれた、忍びや友の事や、修羅になりかけた事までも。

 

 当時はどうしてそこまで話すのか不思議であったが、今改めて考えてみると自分の未来を案じていたのかもしれない。

あの夜、死にかけの兵士から鬼の存在を聞き、即座に挑みに向かった。

何故現れたのかは分からないが、何をしでかすかも分からない物の怪を放置する方が危険すぎると判断したからだ。

 

 

 

 巨体を活かした肉弾戦、身を包む炎を操る鬼の攻撃に、手傷が増えていく白兎。

しかし、戦いが長くなるにつれ、戦い方を覚えてきた白兎は、兵士の刀を借りて少しずつ切り傷を与えていく。

死が間近に迫っていると理解した鬼も、炎で壁を作って動きを阻害し、残った左腕を振り回す等、本気で殺しにかかってきた。

だが、死闘によりボルテージが上がった白兎には既に迷いはなかった。

 

 

 

『お嬢ちゃん……頼む』

 

『――ッ?!』

 

止めを刺す寸前、鬼の声を聴くまでは。

 

 

 

 

 

 炎に飲まれた者の末路を間近で見ていたコユキは怯えていた。

自分も、仏師殿や仙峯正信と同じように修羅になっているという事に。

そして、キヴォトスでは自分よりも殺戮を楽しむような人なんて居ないであろう事に。

 

 

「……私、殺人を愉しむなんて全然分からないし、そんな風にはならないと思っていた。

ただ、あんな大きな鬼に、葦名を滅茶苦茶にされるのが嫌だっただけで……あの鬼が飲まれた仏師様だったなんて知らなかった……」

 

 キヴォトスでは良い事をしても、叱られた挙句に、セミナーをクビにされた。

だが、葦名で師事した忍びからは、忍具の使い方や拳法を修めた時、ぶっきらぼうながらも褒めてくれた。

城で働いていた頃も大人達は褒めてくれたし、気難しい軍馬達も親愛の行動を取ってくれていた。

 更に言えば、僧兵を始めとする外道や、幽霊・物の怪相手に死闘を繰り広げた末に勝利を収めた時は、とても気持ちが良かった。

自分は、此処に居て良い人間なんだと、そう思えたから。

 

 

「……私は、鬼には、鬼にはなりたくない。

キヴォトスを燃やし尽くしても、皆を殺し尽くしても、止まらない修羅になんて…………いやだ」

 

 理性を失い、見境なく殺戮を行い、炎を撒き散らして城を燃やした葦名の鬼。

もしも、自分がキヴォトスで鬼に成り果てた時、集中砲火を受けて倒れ伏すのだろうか?

或いは、纏わり憑く炎に熔かされて、手傷を負うことなく悉く屠っていくのだろうか?

仙峯上人の言葉がどうしても忘れられず、思いを馳せるコユキ。

 

 

 

あの時、彼の眼には何が映って、あの言葉を投げたのだろうか。

 

その言葉通りに、白兎にも怨嗟が憑いていたのか?

 

或いは、彼女の瞳に映った己の姿を見て、漸く受け入れられたのか?

 

もしくは、彼女の背後に潜む何かを、見てしまったのか?

 

 

 

 

 

 

 

いずれにせよ、賽は投げられたのだ。

 

 

 

行く先がどうあれ、進む他ない。






平田屋敷の事件後、コユキは兄弟子と再会するまで葦名城で小間使いとして働いていました。
初めは一介の下女としか見てなかった将兵らも、彼女の働きや才能を認め、あれやこれやと教えていました。

セキロ本編の狼が、隠密と暗殺を主とする隠忍なら、此処の白兎は堂々と姿を晒して相手の懐に入り込んで情報と技を盗んできた陽忍に当たるでしょう。
比較対象が人斬りとしても優れていた狼だった白兎は、自分は未熟者と見做していたでしょうが、彼女も立派な忍びなのです。






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どこかに供養衆の末裔がいるようです



主を失った名馬がキヴォトスを彷徨っているようです









キヴォトスに内通者が存在しているようです。








雷帝がシェマタの破壊に気付きました






《全てが大幅に狂います》
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