私はどうやらジンオウガと呼ばれているらしい。
今し方出会った人間達が私達を見ながらそう発言していた。どんな意味があるのかは知らないが、良い響きだ。ジンオウガ、私達の種族に相応しい名前だろう。
その人間共に追い詰められているこの現状さえなければ、私は今自分の名に感極まって遠吠えしていたかもしれない。
「いたぞ、ジンオウガだ!!」
「誰かペイントボール投げとけよな。探すのに時間かかっただろうが」
「しかもコイツ、絶対最小金冠だぜ?」
「逃がさない」
身体中が痛い。人間如きにここまでやられるなど夢にも思わなかった。あれほど小さな体にとてつもない爪を隠していた。それに人間の1匹は私の苦手な冷たいので攻撃してくる。つい怖がってしまい私が止まってしまった時には遅かった。いつのまにか足元には穴が空いて落ちた。その間に人間共が何度も何度も私の顔を引っ掻いて、殴って、貫いて来た。意識が覚醒する頃には、左側が真っ暗で何も見えない。自慢の爪も、角も欠けてしまった。虫達も人間達に奪われ、雷の力が思うように使えない。
隙を見て這う這うの体で巣に逃げ帰り、体を休めていたらまた人間が私を囲んでいた。
ああ、母よ。私はどうやらここで終わりらしい。だがしかし私にも誇りがある。何もせず殺されるくらいならば、1匹だけでも一緒に連れて行ってやる!!
『アォォォォォォォンンンン!!!!!!』
「コイツ、まだ戦えるのか!?」
「怯むな。強がりだ」
「へへっ、やっとジンオウガの太刀が作れるぜ」
「私もライトボウガンの素材がちょうど作れそうだ」
私の威嚇はどうだ、凄いだろう?私より小さい体で私を追い詰めたことは褒めてやる。
さあ、いざ殺して、喰らってやる!!
「はっ、馬鹿め!!食らえ!!」
はっきり言って、私に人間の爪を避けるほどの力は残っていない。だから、いいぞ。私の血肉はくれてやる。だが貴様らも貰っていくぞ。
私はそう考えて、遠くから攻撃をして来た人間を無視してすぐ近くで爪を構えていた人間の頭を叩き潰そうとして……出来なかった。
なんだ、体が動かない!!動かそうとしても震えて、爪が人間に届かない!!
「おいおい、麻痺弾の蓄積タイミング完璧じゃん?狙ったのか」
「ああ……うまくいって良かった」
「よっしゃ、これで最後だァァァ!!」
「最大まで溜めてやるぜ!!」
動けない私に向かって、3つの爪が迫ってくる。
やられる。
流石の私も、もう何も出来ない。痺れ、震える体を動かす事を諦め、その運命を受け入れようとしたその時だった。
『グルァァァァァァァァ!!!!』
「「「「!?」」」」
ああ、ああ、母よ!!来てくれたのか!!最初の遠吠えから随分と長かった。よほど遠くまで行っていたのだろうとは思っていたが、これほどとは思わなかった。
「に、2体目!?」
「いや待て、新しいジンオウガはコイツより重症だぞ!?」
「尻尾と右前足がない……なぜ?」
「とりあえず討伐対象からだ!!麻痺が解ける前に片をつけるぞ!!」
首も動かせないので、母の姿が見えないのがもどかしい!!早く動け、体。母が来てくれたからには私もこんなところでもたつくわけにはいかない!!良いところを見せて褒められたい!!
まだ。
まだか。
まだ動けないのか。
っ!!動けるようにn………は……は?
「ハァハァ……くそっ、死に損ないのくせに手間取らせやがって!!」
「この噛み跡……イビルジョー!?近くにいるかもしれない!!逃げるぞ!!」
「イビルジョーなんか相手にしてられるかよ!?」
「クエストリタイアだ!!もう1匹は仕留めたからこれで報告してみるぞ、本来の個体はどうせまだ子供だ。後でどうとでもなる!!」
人間共が去って行った?……いやそんな事はもうどうでも良い。
『ガウっ!!』
母に駆け寄って顔を舐める。母、母、動いてくれ。
舐める。動かない。
舐める。動かない。
舐める。動かない。
………ああ、母よ。死んだのか。
人間共!!よくも、よくもよくもよくも母を!!絶対に殺してやる!!匂いは覚えた、絶対に逃さない!!
『アォォォォォォォンンンン!!!!』
……疲れた。眠い、眠いな。寝よう。
◆
「おい、早くしろ、起きちまうって」
「ニャア、ご主人はオトモ使いが荒いにゃ。もっと優しくしてほしいにゃ」
「俺も手伝ってるじゃねえか」
……うるさい。
「う、動いた?……気のせいか」
「怖いこと言わないで欲しいにゃ!?」
うるさい……うる……さい。
目が覚めてしまった……ん?匂いがする。母の、仇の匂いがする。
「あっ」
「ニャ?どうかしたにゃ?」
「起きた……」
「にゃー……?にゃ!?」
「逃げるぞぉぉぉ!!!!」「逃げるにゃーーーー!!!!」
ミツケタ……コロス……クウ!!母の、仇ィィ!!!!
母を持っていくな!!私の母だぞ!!
「アイツ、昨日の今日でこんなに回復してんのかよ!?」
「にゃーー!?だからジンオウガの死体回収なんて嫌だったんだにゃ!!」
「討伐対象じゃないから回収班が動いてくれなかったんだとよ!!だったら仕方ないじゃねえか!?」
追いかける、追いかける……追いつかない……痛い、まだ、痛い。でも我慢しろ。母の仇だ。もっと、もっと走れ!!
「よし、逃げ切れるぞ!!」
「ご主人、こやし玉ないのかにゃ!?」
「そういや持って来てたわ!!お前天才、それっ!!」
ぐぅぅぅぅ!?!?なんだこの臭いは!!鼻が、はながぁぁぁ!?!?
「よっしゃ今だ!!」
待て、逃げるな、逃げるなァァァァァァァァ!!!!
母の……か、たきぃ……
◆
あれから、何回も太陽が登った。私はすっかり傷も癒えて虫も増やせた。万全の状態になった私は今よりもっと力をつけるためひたすら食っている。突っ込んでくる獣を食い、虫の蜜を啜る獣を食い、雷を纏う青い竜を食った。水を進む竜、黒くて足の速い竜。どこからか飛んできた赤い竜と緑の竜も、死にかけたが全部食った。
いつのまにか巣に体が入れなくなったから別の場所に巣を作った。
そうしているうちに、また人間4匹に出会った。
母の仇だ。
奴らは新しい爪を持っていた。緑の爪だ。まるで私の誇り高い毛のよう……な……なぜだ、なぜ奴らから母の匂いがする?
なぜ奴らの爪から母の匂いがする?
ああ、ああ……奴らは母を食ったのか。
じゃあ、食ってやる……いや、もういい。ただ、殺してやる。そして返してもらう。それは母の形見だ。
「ジンオウガ?んだよ、今雷武器だってのに」
「なんかコイツ、めっちゃ傷跡だらけじゃね?」
「……まずいかもな」
「ああ、新大陸で噂の歴戦の個体かもしれない」
「はぁ?歴戦って、新大陸の噂だろ?」
「バカ言え、今まで歴戦の個体という名付けがされてなかっただけで、生存競争を生き延びたモンスターだって居るだろ」
「おい来るぞ!!」
『アォォォォォォォォォォォォォォォン!!!』
◆
【龍歴院記録】
特殊個体 『金雷王牙 ジンオウガ』
東のとある地域に出現した特殊な生態のジンオウガについての記録。
・××年、4人のハンターが行方不明になる事件の発生を受け調査に向かった調査員により、全身に傷跡を残した金色に輝くジンオウガの存在が確認された。体格は通常のジンオウガの2倍を観測し歴代最大サイズを記録。
・同地域に同個体に攻撃を仕掛けるモンスターが確認されないことから同地域の頂点捕食者に認定。
・個体の特徴から『金雷公』の二つ名個体、もしくはカムラの里周辺に出現する『ヌシ個体』に相当する能力を秘めていると推測される。
・最も特徴的な点として、口にハンターが使用する太刀を咥えていることが挙げられる。行方不明になったハンターの1人が装備していたとされる『王牙刀【伏雷】』であり、一切の手入れがされておらず重度の刃こぼれが確認された。
・太刀を咥えている影響かジンオウガ特有の咆哮行動が見られず、接敵後すぐに真帯電状態への移行並びに常時、雷光虫弾が個体の背部に浮かんでいる。
・発達した前脚と咥えた太刀による連続攻撃を主として戦う。太刀の扱いを非常に熟知しており錬気ゲージについても理解しているらしい行動が見られる。(調査に赴いたハンターにより、ジンオウガによる気刃切りⅠ、Ⅱ、Ⅲの派生攻撃が確認された)
・鞘が確認できず、納刀や特殊納刀、抜刀攻撃などは確認されなかったが、体格と跳躍力を活かしたボディプレスと兜割の併用、サマーソルトと見切り切りの併用によるカウンター攻撃に注意すべし。
・敵と認識されれば情け容赦なく敵対行動に移るが、敵対しなければ非常に温和な性格をしている。
・ジンオウガ素材を使用した武器に強い執着を見せており、ハンターを殺して武器を奪うといった行動も確認された。
・以上の観点から同地域に赴くハンターはジンオウガ素材の武器、防具の装備を禁止している。
※追記
ジンオウガがジンオウガの素材で作られた武器を使っているのは一体なんの皮肉だろうか。別個体の素材か、番の素材か、もしくは血縁個体の素材であった場合、その執着もまた必然なのかもしれない。生態系の調和を維持するハンター、しかしその武器のみが、生態系の頂点の維持に貢献しているという事実は、我々が考えている以上に深刻な問題として記録されなければならないと考える。
ハンターの武器とはモンスターにとっての爪や牙と同義であり、振るう者次第でありとあらゆる物を傷付ける刃となるだろう。