ユミアのアトリエ―導きの錬金術師と異界の狩人 作:サバ缶みそ味
武器を通してだけどパンチで相殺できるハンターのフィジカルが……
まあ巨大な古代樹から飛び降りてもへっちゃらだし、マグマや雪崩にも耐えてたし……ハンターって本当に人間?
「はあああっ!」
怒号を上げて気迫に満ちたヴェスペルの拳がレクスに迫るがレクスは静かに拳を構えて待ち構える。
「っ!」
拳が顔面に迫るギリギリのところを顔をそらし兜すれすれで攻撃を躱した。
「こんにゃろっ!」
反撃にパンチをお見舞いしようとしたがヴェスペルに片手で打ち払われる。拍子抜けかとヴェスペルはニヤリと嘲笑する。
「威勢はいいが愚鈍な拳だな」
「まだだ!」
嘲笑にも気にせずレクスは果敢にヴェスペルに殴りかかる。無駄な足掻きだとヴェスペルは呆れ笑い、エナジーコアを光らせ鋭い爪を力強く振り下ろした。
「っおっと!」
無残にも切り裂かれるかと思った瞬間、レクスは反応しくるりと体を回転しながら攻撃をいなした。
「っ!なに…っ!?」
愚鈍な動きから想像できないほど凄まじい速さで回避したレクスにヴェスペルは目を丸くし驚く。
(なんだ今の動きは…!?)
さっきのはまぐれなのではないか、レクスの読めるようで読めない動きに翻弄されかけながらも再び迫った。高く跳んでから急降下、レクスの脳天目がけて拳を振り下ろす。
「そぉぃっ!」
しかしレクスはタイミングを合わせたかのようにぐるりと体を回転しスタイリッシュに回避した。
(だからなんだあの動きは!?俺の拳おろか風圧も回避しているだと…!?)
体術も武術も未熟で、ただ殴るだけしか心得がないはずのレクスが何故そこまで機敏に、精密に動けるのかますます混乱する。
「こざかしいっ!」
駆けるレクスに苛立ちを募らせたヴェスペルが先端が尖った尻尾による突きを放った。迫る尻尾にレクスは走りながら拳に力を込める。
「教官直伝!相殺パンチ!」
拳と尻尾がぶつかり合い、威力と威力の衝突で相殺された。相殺による衝撃でヴェスペルが怯んだ。
(バカなっ!?相殺されただと…!?)
己の一撃が下民の拳に相殺され押されてしまった。ヴェスペルはかなり驚愕した。
「うおおおおっ!」
追撃のパンチを入れようと走るレクスにヴェスペルは好戦的な笑みを浮かべた。相手は軍人ではないが、戦士としてより興味がそそがれた。
レクスが放った拳をヴェスペルは片手で受け止める。レクスはもう片方の手によるパンチを放つがそれも止められた。両手が塞がれたレクスは力いっぱい振り上げて頭突きをお見舞いする。しかしヴェスペルも同様に頭突きをし額と頭がぶつかり合った。
「はははは!狩人のくせに面白い戦いをするではないか!」
不敵に笑うヴェスペルに対しレクスはキッと睨み返す。
「うるせぇ!俺は無性に腹が立ってんだ!ヴィクトルとアイラ、ユミアの故郷をめちゃくちゃにしたお前に!そして彼らの力になれない俺自身に!」
怒りの声を上げてぐりぐりと押しつけるレクスにヴェスペルは鼻で笑いレクスの拳を止めた手で強く握りしめる。
「想像以上であるが愚かだ。力を得た俺に勝てると思ったか!」
ヴェスペルはぶんっと力強く投げ飛ばす。投げ飛ばされたレクスは地面に叩きつけられる前に受け身を取って起き上がる。するとヴェスペルの口から炎が漏れ出ているのに気づいた。
「はああああっ!!」
ヴェスペルはレクス目がけて炎のブレスを吐いた。レクスは立ち上がるとチラッと後ろを見て、避けようとせず迫る炎を体で受け止めた。
「くっ……あっちいいいい!!」
炎に押されながらもレクスはふんばって炎のブレスを受け続けた。その様子をユミアは唖然とする。普段ならば直線時に迫るブレスをレクスは軽々と避けることもができたはず。何故レクスは避けようとしなかったのか。
「レクスさん……なんで…」
『ユミア、レクスは避けるよりも守ることを選んだようです』
フラミィの言葉にユミアはハッとする。レクスのいる後方には倒れているアイラがいる。もし避けてしまったらアイラに炎のブレスが当たってしまう。
「く……ううぅぅ……っ!」
熱さと苦痛に必死に耐えるレクスの姿にユミアの杖銃を握る力が強くなった。
「やめろぉぉぉっ!」
ユミアはヴェスペルに向かって駆け、杖銃を振るう。ヴェスペルはブレスを吐くのを止め尻尾で薙ぎ払った。
「ふん、邪魔だ!」
「うわっ!」
ユミアはふっ飛ばされるも受け身を取って立ち上がり、耐え続けて膝をつくレクスを守るように前に立って構える。守ろうとするも足が震えているユミアにヴェスペルはふんと鼻で笑う。
「――漫然と、平穏を享受していればいいものを」
ヴェスペルは拳を鳴らしながらゆっくりとユミアへと近づく。このままレクスを、みんなを守れるのか、ユミアは焦りを募らせる。
その時ユミアの頭上から無数の銃声が響き、幾つもの銃弾がヴェスペルに向かって飛んで行く。咄嗟にヴェスペルは後ろへ跳んで回避し上方を睨む。
「また邪魔者か……」
大樹の枝の上に誰かいたようで、枝を揺らして飛び降り、ユミアの前に長い金髪で妖艶かつミステリアスな雰囲気を醸し出す褐色肌の女性が降り立った。
その女性は両手に拳銃を持っており、くるりとユミアとレクスの方へ振り向いた。
「ハーイ、無事かしら?錬金術士さん達と…狩人さん」
突然現れた女性にユミア達はキョトンとした。手に巻いてある赤いバンダナは調査団の一員である印だが彼女の様な団員はいたかと思い浮かべられなかった。一方のヴェスペルは睨み続けていたが再び拳を構え直す。
「――まあいい。狩るべき相手がまた1人増えただけ」
再戦しようとしたその時、ヴェスペルの持っていたエナジーコアの光が弱まる。よく見るとエナジーコアに溜まっていたマナが残り僅かとなっていた。残量を確認したヴェスペルが舌打ちをする。
「ちっ……煩わしい――」
これ以上の戦闘は面倒だと判断したのか、ヴェスペルはユミア達に背を向けると、翼を広げ熱風と風圧を巻き上げて高く飛び上がった。
「くそっ、あいつ――!」
「ヴェスペルっ!!」
ユミアとヴィクトルが立ち上がって追いかけようとするが既に遅く、ヴェスペルは空高く、早々と飛び去っていった。それでも行方を追わねばとヴィクトルとユミアは走ろうしたがルトガーに止めらる。
「待て!追っても今の俺達じゃ敵う相手じゃねぇ…!」
ルトガーに諌められ、先程の戦いで全く歯が立たなかったことを思い出し2人は冷静になり、追うのを止めて現状を立て直すことにした。
ユミアは膝をついているレクスの方へ駆け寄る。不安そうにレクスを見つめるも彼は俯いたまま顔を合わせなかった。
「あの……レクスさん、怪我は…」
「俺のことは心配ない。それよりも……」
レクスはチラリとアイラの方へ視線を向ける。ペタンと座り込み、悔しい気持ちが溢れているようで土を握りしめていた。ブランが寄り添い背中を撫でる。
「アイラ……大丈夫?」
「ブランちゃん……うん、なんとか大丈夫だよ」
アイラは気持ちを切り替えようとから元気に微笑んでブランを撫でる。
「ありがとうルトガー、冷静さを失っていた」
怒りで判断が鈍っていたことにヴィクトルはルトガーに詫びて感謝する。ルトガーは意外な顔するが直ぐにニッと笑う。
「構わねえよ。ま、感謝するならあっちに言っときな」
ルトガーは助太刀に入ってくれた調査団の一員であろう女性の方へ視線を向ける。
「そうだったな。調査団の一員だろうか。感謝する、九死に一生を得た」
「どういたしまして、間に合ったみたいでよかったわ」
女性は礼儀正しすぎなヴィクトルにくすりと笑う。
「私はニーナ。お察しの通り、調査団の一員よ」
女性はニーナと名乗り、少し気難しい顔でヴェスペルが飛んでいった空を見上げる。
「それにしても驚いたわ…とんでもないモンスターの他にも、あんな魔物がいるなんて」
「あいつ……私達には全然本気じゃなかった…」
アイラは悔しく拳を握りしめた。
「大樹の先には凶暴なモンスターの他にあんな魔物が沢山いるのかな……」
「けっ、あんなのがうようよいてたまるかよ。と、いうより……魔物つーより人間くさかったが……」
ルトガーはレクスと対峙していたヴェスペルの様子を思い出していた。喋り方や考えがどうにも人間らしくて本当に魔物か怪しくと感じていた。
「まさかと思うが奴も錬金術士という可能性はないのか?」
ヴィクトルはユミアに尋ねる。ヴェスペルが持っていたのはユミアと同じ高濃度マナから身を守るために、またはマナによる力
を付与するエナジーコアらしき物。ユミアは考えたが答えは見つからない。
「そうは思いたくない、ですけど……」
ヴェスペルの口ぶりからして可能性が有りかねない。しかし目的も存在もはっきりと分からない。一同沈黙が続いていたがニーナが最初に口を開く。
「一息入れる前に、まずは高濃度マナをなんとかしたいわね」
ニーナの一言でユミアはハッとする。この辺りは高濃度マナ領域、長居しいる場合ではない。
「そうだった…先に済ませないと。フラミィ、エナジーコアの残量は?」
『50%ですが、台座がこの近くにあるようです。早く済ませば問題ありません』
「よかった。みんな、行こう」
ヴィクトル達は頷き、ユミアに続けて台座のある場所へと向かう。しかしレクスは終始無言で俯いたまま皆と顔を合わせないでいた。
巨大樹の根を潜り抜け、更に奥へと進んでいくと大樹の根に囲まれた形で残っている台座を発見した。
「あったぞ。木の根に隠されなくてよかった」
「ユミア、お願いね」
「うん任せて。それじゃ、いくよ」
ユミアは台座の中央に立ち目を瞑ってマナの流れに集中する。両手にマナの光を灯し、マナの流れを操りながら舞を踊る。彼女の舞に応えるようにマナが光を発して流れ星のように流れていく。
両手を広げくるりと回り、舞が終わったと同時に光っていたマナが一斉に広がっていく。すると巨大樹の回りに漂っていた高濃度マナによるモヤが消え、景色がはっきりと見えていき、感じていた重さが無くなり高濃度マナが完全に消滅したとはっきり分かった。
「高濃度マナが晴れた……これがあの子の力なのね……」
ニーナはユミアのマナの流れを読み、操作し高濃度マナを晴らす力に関心する。
「うし、この辺りを調査できるな……何かあの魔物についての手がかりがあるかもしれねぇ」
ルトガーの言う通りだとユミア達は頷く。もしかしたら何かしら手がかりが見つかるかもしれない。
「確かに、戦士だと名乗ってたし……アラディスの戦士について……見つかる……かも……」
レクスが歩き出そうとしたがふらふらと体を揺らした途端、ドサリと倒れた。
「旦那さんっ!」
「レクスっ!」
「レクスさんっ!?」
倒れたレクスに駆け寄る。揺らしても起き上がらず、レクスは気を失っていた。
_________
「――――うーん……」
レクスは気を失っていた意識を取り戻し、目を開ける。鮮明になっていく視界には木製の天井が移る。
「あれ……知らない天井だ」
気がつけば自分はウッドハウスの、ふかふかのベッドに寝転んでいた。一日眠ってしまったようだが、どういう状況なのかレクスは混乱しているとユミアが顔を覗かせてきた。
「レクスさん!よかった、大丈夫ですか?」
「わっ!?ゆ、ユミア!?」
レクスは慌ててガバリと起き上がる。
「えっと、ここは……」
「レクスさんが倒れた後、急いで拠点を建てたんです。急ごしらえの家なんですが……」
ユミアはえへへと苦笑いする。立派なウッドハウスでこれが急ごしらえなのかとレクスは唖然とした。
「あ、そうだ……ヴィクトル達は?」
「調査拠点に戻って移動の準備をしてます。レクスさんを休ませている間に周辺を調査してたんです」
ユミアの話によると調査中に遺構を見つけ、その中を調査すると伝想器を発見した。ユミアがフラミィに伝想器の中を調べてもらうと、錬金術士らしき人物の声の記録が残っており、アラディスの首都がある東に関する情報が僅かながら分かったとのこと。
「それで団長に報告し、高濃度マナ領域が消えたことで更に東へ調査へ向かえるようになったので団員を再編成し移動することになったんです。あ、ニーナさんは別行動で周辺を再調査しているようですけど」
ニーナは元傭兵だったようで、エアハルトから独自の任務を受けて再び調査へ向かったとユミアは話す。
「これでリグナス地方の踏破もあと一歩みたいですよ」
「そうか……」
話を聞いたレクスは俯き沈黙する。しばらく静寂が広がるがユミアはレクスに手を差し伸べた。
「レクスさん、ちょっと散歩しませんか?」
「え?さ、散歩?」
「元気になったみたいですし、行きましょう!」
レクスが答えるよりも早くユミアはレクスの腕を掴んで引っ張る。レクスはあたふたと立ち上がりユミアに続いて外へと出た。
拠点から出て、巨大樹の通り道を進み、綺麗な花々が咲く道や苔生した道、見たこともない樹の実が成る樹木が並ぶ道を2人は歩いていく。ユミアは鼻歌を口ずさみながら歩き、レクスはどうしたものかと悩みながらついていく。
「私…何か悩み事や考え事、行き詰まった時は散歩するんです。行ったこともない道を通ったり、いつもと違う景色を見ながら、新しい発見もあったり気分がすっきりしたりするんです」
「そ、そうなのか……」
しばらく歩いていくと、ユミアはくるりと振り返る。
「ブランちゃんから聞きました……狩人の掟について」
「!!」
ユミアの言葉にレクスはビクリと反応した。
「狩人は常に中立……狩猟武器による武力行使や殺人は禁じられている、と。そしてその掟を破った者は狩人の資格を剥奪し、二度と狩猟ができなくなる」
「……その通りだ。俺はヴェスペルとは戦うことができない。今後あんな奴みたいなのが現れたら役に立たない」
たとえ自分達のいた世界とは違う世界にいても、狩人の掟は破ることはできない。レクスは俯き、拳を握りしめる。
「……すまない、俺は皆の力にはなれない」
「―――そんなことない」
ハッとレクスは顔を上げる。ユミアは怒るどころか、優しい眼差しで見つめていた。
「あの時……レクスさんは私達のために怒ってくれて、私達のために戦おうとしてくれた」
掟を破れないという葛藤がありながらも何かしら力になろうと必死に模索していたのをユミアは見ていた。
「私、嬉しかった……レクスさんは私達の力になってます。だから、これ以上自分を責めないでください」
「ユミア……」
ユミアはレクスの出てを両手で握り、優しく微笑む。
「アイラも、ヴィクトルさん達もきっと分かってくれてます。レクスさんも私達の仲間なんですから」
「………ありがとう」
「さ、一旦拠点へ帰りましょう。ヴィクトルさん達が調査拠点から来ているはずです」
散歩を切り上げて拠点へ戻ることにした。拠点へ戻ってみるとユミアの言う通り、ヴィクトル達の他にエアハルトや調査団員達が集まっていた。ユミアとレクスが戻ってきたのを見つけたアイラがレクスに駆け寄ってきた。
「あ、アイラ、えっと……」
レクスはどう答えたらいいか戸惑っていたがアイラはじっと見つめ、微笑んだ。
「レクスさん……ありがとう。私達のために戦ってくれたり私を守ってくれて、嬉しかった」
「アイラ……」
「ブランから聞いた。掟がありながらも、僕達の力になろうと奮闘してくれていたんだな……」
「ヴィクトル……」
アイラはヴィクトルと目を合わせ、レクスに向けて頷く。
「レクスさんは私達の大事な仲間だよ。突き放すことなんて絶対にしないよ」
「これからも僕達と共に力を合わせて強くなろう」
「2人とも……ありがとう」
アイラとヴィクトルは笑ってレクスの手を握り合った。その様子を見ていたルトガーがニッと笑う。
「ま、力になれないとか抜かして立ち尽くすより大分ましだ」
「ちょっとルトガー、言い方」
アイラがムスッとして睨むがルトガーはお構いなしに笑う。
「まあレクスのおかげで黒幕がいるかもって分かったしな」
ヴェスペルの言葉で誰かに仕えている可能性があることが分かった。
「きっと突き進んでいけば奴の目的と奴の裏にいる何者かが分かるはずだ」
「その時は……絶対に負けない」
ユミア達は頷き決意する。次こそは負けない、と。
「ところで、調査団の皆はどうしてこの拠点に留まっているんだ?」
レクスは尋ねた。拠点に合流できたならここから東へと次へ進めるはず。考えているとそこへエアハルトとブランがやってきた。
「レクス、戻ってきてくれたか。起きたばかりで悪いんだが……調査団員がこの先へ進もうしたが、とんでもない化物が立ちはだかってな」
エアハルトの話によると、先に進もうとしたが倒木で進めず、倒木を退けようとしたその矢先に、炎のように真っ赤な体で尻尾に大剣の様な刃が付いたモンスターが現れて襲い掛かってきた。
「旦那さん、おそらくディノバルドだよ…!早くしないとこの拠点を襲撃してくる」
「このリグナス地方を踏破するにはディノバルドを倒さねばならない……レクス、力を貸してくれないか?」
レクスはユミア達の方へ視線を向ける。ヴィクトルは頷き、ルトガーは好戦的な笑みを見せ、アイラは信頼の眼差しで微笑み、ブランはえへんと胸を張る。そしてユミアは胸に手を当て優しく微笑んだ。
「レクスさん、共に乗り越えて行いましょう」
レクスは決意を固め、力強く頷いた。口笛を吹きセセリを呼ぶとやってきたセセリの鞍に提げている大剣を取って背負う。
「行こう。力を合わせてディノバルドを倒すぞ」
ニーナさん、めっちゃ美人……ユミアと同じくカリアのアトリエに再登場してくれないかな
次回はいよいよリグナス編のトリを務めるディノバルドさん
ディノバルドもアセンダンスに登場してほしい