【完結】獅子座α星が、ふたつ   作:初弦

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各話短めなので一括投稿


基本的には平穏無事

魔法界の命運をこの拳に託して

 

「「Rock・Paper・Scissors!」」

 Q・魔法省地下一階で迫真のじゃんけんが行われていた件について。……なに?

 ちなみに片方はルーファス・スクリムジョール(魔法省の戦いで片目喪失)もう一方はキングズリー・シャックボルト(レストレンジ邸の戦いで片腕が吹き飛んだ)だ。

 シンプルに当惑していると「神秘部の方は?」いつの間にいたのか、隣に立ったレギュラスに尋ねられた。いやまあその報告に来たわけですが。

「……ある程度の外枠は補強し直せましたが……当座の環境整備に目処が立つまで一年、完全な立て直しとなると十年単位でかかるでしょうね」

 神秘部の歴史からしてむしろこれでも当初の見積もりより早い方である。私は大枠だけで手を引くつもりだ、貴族に連日徹夜させるな。ここ一月に至ってはまともに睡眠が取れていない。

「……ところでアレなんですか?」

 睡眠不足で痛む頭をこすりつつ、私は尋ねた。

「ファッジが辞めるだろ」

「それは存じていますが……」

 戦時中は服従の呪文をかけられていたにしても——そもそもそれ以前に一年間ダンブルドア陰謀論に染まってやりたい放題だったからな。

「後任の魔法大臣が必要だね」

「……」

「押し付け合い」

 端的な説明だった。レギュラスは続いて、観戦している人々の中でも特に人口密度の高い箇所を指した。

「オッズはスクリムジョール高め」

「私が真面目に働いている横であなたがたは本当になにを?」

 キレそう。

 

 

 ブラックの別邸をいただいて、悠々自適に隠居生活、たまに魔法史の論文と学会への出席——私がかつて想定していた生活はおおよそ実現した。

 問題があるとすれば……何故か魔法界初等教育支援団体:篝火会がねじ込まれたので、苦手な子どもと顔を合わせる機会が定期的にあること(原因・明らか・ディゴリー)ブラック家の遺産整理でちょくちょく呼び出されること——親戚以外でも、たまに私のところに訪ねに来る人間がいることである。

屋敷妖精(House elf)の福祉に関するガイドライン改訂草案……の、ヒアリング」

 たとえばこのように。

 

SPEW!

 

 私が無機質に繰り返した言葉に、グレンジャーは、真正面の椅子に腰掛けておきながら眉のひとつも動かさなかった。御年三十二だったか。この短期間、マグル生まれでありながら、彼女は上級次官にまで上り詰めた。おそらく魔法大臣に就任する未来もそう遠くはない。

 部下を連れてくることはなかった。私への信用、というより——本当に面倒だな。私の屋敷は、今はデルフィーニがホグワーツに在学中で休暇中でもないので、私以外に無人である。屋敷妖精(House elf)を雇ってもいない。腹を割って話したところで、私とグレンジャー以外の誰にも伝わるはずがない。

「……純血優遇措置撤廃、人狼雇用法改革、労働基準法制定、つくづくと御大層な戦歴だな」

 私は皮肉るように言った。

「そろそろ保守派の抗議も相当激しくなってきたのでは?」

「抗議は、改善案の検討理由になったとしても、中止の理由にはなりえません」

 グレンジャーはきびきびと言った。

「長年の計画でしたので」

「ああ」

 魔法生物管理部在籍時代にも屋敷妖精(House elf)の権利について草の根活動を行なっていたのは噂に聞いているが——おそらく、それよりも前を指す。

「反吐活動」

「S.P.E.W.!」

 強調のごとくたたき返し、それからグレンジャーは目を丸くした。

「ちょっと待って——ご存知だったのですか?」

 そうしていると少し幼く見えて、かつてのこと、学生時代を思い出す。私は指を組み直した。

「情報は武器だろう。これでも私は、校内でも耳が早い方だったのでね」

 そのとき彼女は私に協力を求めなかった。そういうご時世ではないことも理由のひとつだっただろう。三大魔法学校対抗試合(Triwizard Tournament)に、アンブリッジ体制下。なんなら後者の時期の私は半分くらい死んでいた。

 また私が〝マルフォイ〟であることも理由に含まれただろう。ドビーの件はポッターを通じて彼の親友たちに伝達されていた。協力を見込めると考えていたならばそいつはずいぶん可愛らしい思考の持ち主だろうともさ。

 さて。思い出話なぞどうでもよろしい。

 草案を一瞥して、羊皮紙を裏返した。読むのは()()だ。

「マグルにおいて——黒人差別、男尊女卑、おおよそ概略は把握しているが、いずれの事例も魔法界における屋敷妖精(House elf)と比較するには些か致命的な箇所がある。彼らの奉仕精神は事実として本能に由来する」

 屋敷妖精(House elf)屋敷(House)と名がつく通り、家を基準に契約を結ぶものだ。彼らは自らが所属する〝屋敷〟の整備を行うことを好み、そこに生活する人々に貢献することを喜ぶ。これらは彼らの自己実現欲求と密接に結びついている。

「同列に扱えるとは、まさか思っていないだろうな?」

 グレンジャーは少しだけ眉を上げた。

「お答えする前に、まずひとつお聞きしたいこととして——あなたは本当に〝同列に扱うべきではない〟と考えていますか?」

「質問に質問で返すか?」

「失礼。けれど、昔よりもご親切ですね」

 ……やかましいな。

「お答えしましょう。まずひとつ、彼らが、自らの仕事を誇りに思っていることはわたしも把握しています。彼らは——わたしはかつてグリフィンドール寮にいくつもの帽子をこっそり仕込んだことがありましたが、彼らは自らの仕事ぶりを侮辱されたと感じ、寮の清掃を拒否するに至りました」

 ちょっと半眼になった私に「性急すぎたことはわかっています。幼さゆえの過ちですね」グレンジャーは肩をすくめてみせた。

「けれどそれと〝報酬、休暇、まともな衣類を与えない〟というのは、等号で結びつくはずがないとわたしは考えています。あなたも実例を踏まえてご理解いただけますよね?」

 マルフォイ家に仕えていた屋敷妖精(House elf)のひとり、ドビー。彼はソックスを与えられて自由を手にし、ダンブルドア配下のホグワーツで勤勉に勤務することになった。休暇と報酬を与えられ、自らの給料でソックスを購入する——

 ——屋敷妖精(House elf)たちが有する本能としての奉仕精神と、無報酬、無休、衣類の制限は、まったく無関係だ。確かに彼らはそれを恥として認識している。けれども〝恥〟とは後天的に会得する常識であり、生存本能とは、明らかに乖離している。

「彼の話題でなくとも、たとえば、ブリテン諸島に貨幣制度が最初に導入されたのは中世とされています。では、その前は? 衣類の定義、流行も、時代とともに変遷しています。古代ギリシャの人々は一枚の布を衣類として定めていました。彼らに初めに与えられていたのは本当に枕カバーなのでしょうか?」

 淡々とした言葉だった。もともと考えていた言葉でもあっただろう。グレンジャーは私を真正面から見据え、小さく息を吸うと「そもそも——」と続けた。

「果たして屋敷妖精(House elf)の本能とは()()()()が本能なのでしょうか? 確かに今の屋敷妖精(House elf)はそのように生きています。それでも——」

 私はカップを手に取り、紅茶を一口口にした。

「あなたが引き合いに出したように、マグルでは黒人差別がありました。今もあります。彼らは〝白人に奉仕することこそが無上の喜び〟と規定され、そして、彼らもそのように思い込んでいました。長年そのように教え続けられ、常識として規定されてきました。——屋敷妖精(House elf)は誰も彼も無給と無休と不自由を尊ぶと考えるのが多数派の魔法界で、彼らの奉仕精神が、()()()本能だと言い切れますか?」

 ティーカップをソーサーに戻す。

屋敷妖精(House elf)は家につくものですが、あくまでもその主は〝屋敷〟にあります。〝人〟まで世話するのは、()()()彼ら自身の種族特性によるものでしょうか?」

 数秒ほど沈黙が下りた。

 私は自らのこめかみを少し指で押した。出てくるだろうとは思っていたが——アンブリッジとは逆の意味で、よくもまあこの思想をひた隠しにして出世街道を走れたものだと思う。魔法界を基準とするならばリベラルの最先端。ただでさえマグル生まれ、一歩間違えば保守派から叩き潰されても不思議ではない位置にいるのにというか、だからこそか。

「ひとつ、忠告するなら……純血貴族にその大演説はやめるべきだ」

「人に合わせて表現を選んでいます」

 白々しいなこの女。私は一応純血貴族だが?

 溜息をこぼすかどうか迷って、やめた。かつての少女ならばまだしも、経験を積んだ女狐に同様の対応を取って食われるのはこちらだ。面倒な。

「……もうひとつ忠告しておくと、レギュラスの前でもやめた方がいい。我が従叔父は——ブラックにしては変わってはいる方だが、圧倒的な保守派だ。屋敷妖精(House elf)の認識も同様、クリーチャーを尊重はしても、それはあくまでも彼とクリーチャーの間にある長年の蓄積ありきだ。無給無休の主従関係を疑問にすら思っていない」

 その意味では、シリウス・ブラックの方がまだましだ。彼はクリーチャーとの仲が著しく悪いだけで、ドビーなどの自由な屋敷妖精(House elf)にはむしろ己が共感から理解を示す。

「気をつけましょう」

 グレンジャーは落ち着き払って答えた。羊皮紙をもう一度ひっくり返すと、ようやく彼女も紅茶に口をつけた。

 ……大演説をぶちかましてきたわりには(焚きつけたのは私だとしても……)改訂草案は、思いの外穏便だった。そもそも彼女がわざわざヒアリングに訪れた主題は()()草案——屋敷妖精(House elf)の福祉に関するガイドラインはもとから存在する代物である。あくまでも努力義務で強制力がなく、知名度も著しく低く、というかそれ以前に魔法省の執行力に対して純血貴族の権力の方が大幅に上回るがために、有名無実と化していた規定だ。グレンジャーの改訂案は多少の手入れをする程度。あとはガイドラインを真っ当に機能させ、少なくとも、かつてのドビーのような屋敷妖精(House elf)がいたらば行政の手で指導が可能なところまで持っていく——本当に穏便だな。

 一通り読み終えて目を上げると、彼女のお茶請けからはクッキーが三枚減っていた。口に合ったならばなにより。

「これは第一段階か?」

「ええ。ゆくゆくは対等に——尊重し合う関係が築けるとよいと考えています」

 グレンジャーはカップをソーサーに戻し、指を組んだ。

「もしかしたら、その実現はわたしの死後になるかもしれませんが」

「妥当な予測だろうよ」

 闇の帝王が斃れたところで貴族制は未だ健在だ。そもそも純血主義とて、魔法界で数世紀培われ続けた差別意識であり、ダンブルドアがああも奮闘しても、どころか二度の魔法戦争を勃発させておきながらも、けっきょく完全には拭いきれていない。ましてや種族間の差別意識は、現行社会において顕在化していないだけなお厄介だ。

「……草案について私に意見はない。このまま進めて問題ないだろう」

 言いながら羊皮紙を返却する。気が進まないながら「それと」と付け加えた。

「根回しはしておく」

「ありがとうございます」

 グレンジャーはにっこりと笑った。私は今後こそ溜息をついてしっしと手を振った。約束は果たすから、もう早く帰ってくれ。

 ……訪問客は去り、私は屋敷に一人となった。額を抑えてふたたび、深々と息をつく。屋敷妖精(House elf)の待遇改善。私が断る理由は数多にも思いつき——しかし、グレンジャーはわざわざ私を訪ねに来た。私は純血貴族の中でも変人と名高い。平均的な回答は望めないと理解していたはずだ。それでも私を選んだのは——先んじて手を回してくれという要請。強制力はなく、気付かぬふりで切って捨てることもできた、が——

「……」

 紅茶を口に含む。少し冷めてしまった。冷めてしまったけれど、ドビーから教えられたレシピは、かつての記憶を思い起こした。我が家に仕えていた屋敷妖精(House elf)、虐げられた被害者。私はそれを知っていても、彼が淹れる紅茶の味が好きだ。毒を入れられたことは一度もない。

 完全再現したレシピは私の舌によく合う。虐待に消極的に加担していた私の愚かさを、併せて掘り起こす。

 

 

「組分けが自分で選べたらどこがよかったとかあるか?」

 これはホグワーツ同窓生ではわりと定番な話題である。「レイブンクローかなあ」「彼女いるもんな?」「ち・が・う」いつもの鉄板ネタで揶揄われたセドリックは、渋い顔でウイスキーを呷った。

「寮に入るときのクイズ。気になるだろ」

「あれ楽しいよ」

「わからない」

「同意できない」

 意見が割れた。「二対二で同点だな」「いや君たち実質一人なんだから僕らの勝ちだろ」「ひどい」一卵性双生児は敗北した。

「俺はそれでもグリフィンドールだな」

 これはジョージ。

「お、割れたな。俺はハッフルパフがいい、なにせ厨房に近いんでね」

「なるほど相棒、ここでお別れか」

「じゃあな相棒、蜜月も終わりだな」

 神妙に(ふざけて)別れを告げ合う双子を他所に「僕は……スリザリンでも楽しかったかもしれない」ロジャーはゆっくりと言った。

「人間関係が一番面白そうだ」

「面白いか? 本当に?」

「レグルスは? ……レグルスそもそも息してる?」

 レグルスは自らの酒の限界を理解しており、本人がそういう節制は得意な人間なので、滅多に酔うことがない。ないのだが——珍しいことに、本日はテーブルに突っ伏していた。色白なので頬が赤く染まっているさまがよくわかる。

「……ン?」

「坊ちゃん眠そう」

「大丈夫かコレ」

「んん。……りょうがえらべたら?」

「話は聞いてたんだね」

「まあでも坊ちゃんもアレだろ、スリザリン一択——」

「グリフィンドール」

 一瞬、その場の時が止まった。レグルスはもう少し呻いて、テーブルの天板に頬を擦り付けた。眠そうである。

「エッまじ?」

 フレッドが身を乗り出した。「うるっさい」「ごめん」レグルスの唸り声に素直に謝罪するあたり、彼は動揺していた。

「……ちなみにどうしてグリフィンドールなんだ?」

 おそるおそる尋ねたのはロジャーである。レグルスはもう少し唸ったあと、焦点の合ってない目でつぶやいた。

「らいおんつよそう」

「ッフ」

「誰かフレッドの口抑えとけ爆笑されるといよいよ起きるぞ」

「よしきた」

「へびよわそう」

「ゲホッ」

「さっそく今度はジョージが決壊かよ【沈黙せよ(Silencio)】」

「蛇は毒があるからわりと……」

「らいおんはたいかくがあるのでへびどくではなかなかしなない」

「そ・そうなんだ」

「コレ撮っちゃダメか……?」

「起きるよほんとに……」

 レグルスはそのままひとしきり寝言のような言葉を吐いて、本当に寝た。衝撃的な発言に酔いも覚めたメンバーは、誰ともなく顔を見合わせると、神妙な顔で迎えを呼ぶことになった。

 現れたレギュラス・ブラックは——マルフォイ夫妻とは相変わらずまるで気が合わず、デルフィーニは年頃の娘を夜中に呼びつけるのはアレですよねという良識、弟の方を呼んだあかつきには正気に返ったレグルスに八つ当たりされること請け合いなので、消去法——「迷惑をかけたね」と謝罪した。

「いや……面白いもん見れたので……」

「……なにを?」

 

翌日、レグルスの記憶は飛んでいた

 

「デルフィーニから〝強さ基準でグリフィンドールが最強と言われた〟と聞いたことあるけれど、あれ嘘じゃあなかったんだね……」

「あいつなんでたまに異常に愉快なんだ?」

 

 

 焚き火の集い、四寮会合、謎の集会、焚火会創設者、なんかいつも企んでるやつら——数々の名称で呼ばれる彼らがそういうかたちで交流を始めたきっかけはレグルス・マルフォイにあり、今でも彼らの付き合いは続いている。お互いの自宅にたまに招待する程度には仲が良い。友人と言うと主にレグルスが渋い顔をする(否定はしない)ので、彼らは友人と公言している。主に「あいつの反応おもしれー」に由来している。

 無論、いくら変人であれども、純血貴族たるレグルスの根底は一般的な感覚とは乖離している。しばしばそれをもとに軋轢は起こる。言いたいことは数多あれど——なんなら直接的に苦言を呈せど——彼らの付き合いは続いている。以下のような理由に基づいている。

 たとえば彼の屋敷にあるテレビ(魔法界テレビは無事に普及した)の横にはロジャーが土産にあげた写真立てが立てかけられていて、そこには彼らの卒業式の写真が入っている。暖炉を彩る蛇の装飾の横にはフレッドが面白半分であげたライオンの人形が置かれていて、向き合う形で飾られているのでまるで戦っているように見える。

 そういうものを評して他メンバーには「可愛げ」と呼ばれている。

 

※本人の前で呼ぶとしばかれる

 

 

友達

 

 ルーピン教授とミズ・トンクスは最終的に結婚し、ミズ・トンクスはルーピンに姓を変えて(ミセス・ルーピンと呼ぶととても喜ばれたので以後そうしている)子どもが生まれた。テッド・ルーピン。彼は母親と同じ七変化を発現している。

 一方、私は代表選手というだけでほとんど交流のなかったフラー・デラクール——彼女はふつうにロジャーとは以後交流がなかった。当たり前である。当たり前なのだが——彼女はその後、ウィリアム・ウィーズリーと付き合い始めた。確かに代表選手の家族が呼ばれた際の控室で、熱い視線を送っていた記憶はあるが、それにしてもなにがどうしてそうなった? ……いや、ともあれ、彼女はウィリアム・ウィーズリーと付き合い、結婚し、これまた子どもが生まれた。ビクトワール・ウィーズリー。

 果たして、あるべきだった道筋では、生育環境には差異はなかったのか、大幅に異なったのか、そも彼らは生まれていたのか、いずれも不明だが——彼らは、同学年としてホグワーツに入学した。

 くしくも、数年遅れたデルフィーニの入学と同じタイミングだった。

「グリフィンドールとハッフルパフの友達って作っちゃだめなやつだった?」

「好きにしなさい。……誰かになにか言われたのか?」

 この前提が何故必要だったかというと、ここに繋がる。

 テッド・ルーピンはハッフルパフに入寮し、ビクトワール・ウィーズリーはグリフィンドールに入寮した。案の定スリザリンに入ったデルフィーニと、紆余曲折あって、彼らは友人関係を築いた——当時まだ闇の魔術に対する防衛術教授だったディゴリーからは、この件、かなり困惑気味の手紙を貰った。まあ友人関係なぞ気づいた時には完成しているものだろう。寮閥は確かに存在しているが、寮閥程度に縛られるのはずいぶんと不自由な生活だ。一般論として。

 ……一般論だよ。実体験はn=1のサンプルでしかないので考慮外だ。そうだろうとも。

「ん〜……」

 クリスマス休暇。久々に帰宅したデルフィーニが、ソファに座ったまま、足を伸ばした。両腕でサメのクッションを抱えている。ウィーズリーが以前よこしたデフォルメされたサメは、マグル製品らしい。害はないのでそのまま置いている。

「……なんていうのかしら。純血って、そういうものらしいじゃない……」

 そもそもおまえの表向きの出自はマグル生まれの孤児で、実際の血筋も混血だぞ。

 一般的な暗黙の了解として、三代遡ってマグルの血が入っていなければ純血を称しても文句は言われない。デルフィーニは父方祖父がマグルなので彼女は混血だ。純血を名乗れるとしても子孫の代だ。

「……」

 ……いや、まあ、この問題の焦点はわかっている。

 デルフィーニは私が引き取ったその時から、マルフォイの姓を背負わされている。その前はロウルだ。どちらも純血、それも聖28一族にあたる、れっきとした貴族だ。ロウルは若干没落気味だとして、マルフォイは——筋金入りの純血主義だったくせして、魔法戦争では奇跡的にポッター側についたからな。

 アストリアはおそらく、もって数年。ドラコはきっと、アストリアの次の妻は娶らない。スコーピウスはマグルに融和的だ。マルフォイの直系はそちらに傾いている。一方で——ブラックと、スリザリンの末裔の血筋。旗頭には確かにちょうどよい。あまり露骨に純血思想を忌避すれば、それはそれで、特権階級の甘い汁を啜って今更、と非難される可能性も高い。現にドラコはそういう諸々をこっそりと払っている。私は見るに見かねてたまに手を貸しており——まあ、私の話は良いだろうとも。

 テッド・ルーピンはハッフルパフで、ビクトワール・ウィーズリーはグリフィンドールだ。しかし〝純血〟という観点から評価するなれば、彼らには寮分けよりもさらに致命的な箇所が存在する。

 テッド・ルーピンは、人狼と、ブラックを裏切った娘の血を引いている。

 ビクトワール・ウィーズリーは、ヴィーラと、血を裏切る者の血筋を引き継いでいる。

「重要なのは——」

 私は言った。

「——まずは、おまえが、どうしたいかだ。そして、そのお友達がどうしたいか、でもある」

 デルフィーニがついと目を上げた。銀髪の少女はサメを抱えて離さない。しょっちゅうそんな扱いをされているものだから、サメは半ば潰れかけている。……あとで綿を入れ直してやるか。

「人間関係は、誰かと共に築くものだ。決しておまえの都合だけでは回らない。おまえが断絶したいからといってそうなるとは限らず、同様に、おまえが繋ぎ止めたいと願ってもそうなるとは限らない」

「……それは、わかってる、よ」

「であればその点はお友達と話して、認識をすり合わせなさい。場合によっては言い争いになるかもしれないが、喧嘩は断絶と同義ではない」

 デルフィーニはサメを抱えたまま、ころんとソファに寝転がった。

「……わたしが、そうやって、そのまま仲良くしていても、レグルスはいいの?」

「私は最初に、好きにしなさい、と言ったよ」

 ときは既にかつての魔法戦争時代でもなく、旧態依然とした体制は削がれつつある。純血たちは未だに貴族としての権益を維持している家も少なくないが、一方で、順当に没落する家もまた少なくはない。

 私としては、べつに——本当に、なんだっていいのだ。好きにすればいい。自由に生きてくれてかまわない。

「おまえが後悔しないようにしなさい。おまえが道徳を軽視すればそれは叱るが、今迷っている箇所は、そうではないだろう。見当外れの有象無象の言葉なぞ気にする必要はない」

 デルフィーニはしばらく、サメに顔を埋めていた。

 それからつぶやいた。

「殺さないでね」

「おまえ本当に私をなんだと思っているんだ?」

 ちょっかいかけてきた輩を殺したこと一度もないだろ。今のところ。




一般的な暗黙の了解として、三代遡ってマグルの血が入っていなければ純血を称しても文句は言われない。
:慣用句の「三代続けば末代続く」をひねって三秒で作った程度の捏造。

7/24追記
諸々の裏話
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=329189&uid=173274
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