3月末…卒業した先輩の未来を祈り入学する後輩との新たな出会いに胸を躍らせ、そして長い休みを満喫するこの頃。トレセン学園はじめウマ娘を多く抱える場所では誕生日ラッシュを迎えていた。2月~5月の集中するウマ娘らの誕生日を連日お祝いする催しが開かれプレゼントへの出費に嬉しくも苦しい事情に直面する。
この奇怪なお話はそんな誕生日ラッシュの中で起こった出来事…。
「ん?おはようフラッシュ。今日は君の朝練無いのに…」
「Guten Morgen,トレーナーさん。やはり一番最初に言って欲しいのは…あなたですから」
早朝。春休みでもお構いなくトレーニングをするトレセン生ら。当然その側には指導者がいるもので、チームのトレーナーたる彼もトレーニング場に日が昇った直後から足を運んでいた。
その横に現れるは彼の最初の担当、エイシンフラッシュ。閃光の名を持つ彼女の美しい漆黒の毛は、朝日を反射し眩い艶を放つ。ウマ娘の彼女も例に漏れずこの時期の誕生日であった。それも、今日。
日付が変わる直後におめでとうのLANEを送信したが、そこは乙女心。好いている者から直接言われる幸福感には勝らない。
「LANEじゃご不満だったか。うん、分かった。誕生日おめでとう、フラッシュ。また一年君と過ごせた奇跡に、感謝を」
キザなセリフを付けたして祝福の言葉を並べる。あ、いや少し足りなかったようだ。キザなセリフと、彼女の手甲に唇を添えて、が正しいようだ。
向こうで走る担当らの声が聞こえる。これ以上はまだするな。そんなストッパーにも似た意志を感じ、二人でベンチに腰掛けた。
「午前はお友達とお出かけだよね。そんな君にこのプレゼントを」
そう言いながら一つの小さな紙袋を差し出した。可愛らしく蹄鉄が印字された袋。お店の名前は印字されていない。どうやらトレーナーがキチンと再包装したようだ。
「ふふっ、私が来るの分かってたんじゃないですか」
「何年も一緒に居れば、ね」
微笑みながらフラッシュが紙袋の中を確認すると、中からは少し曇った黒い石で作られたブレスレッドが出てきた。じゃら、という音を立てながら彼女がそのブレスレッドを眺める。
「これ…ルナフラッシュですか?」
「水着勝負服の髪飾り見たらつい…ね」
ひとしきりブレスレッドを眺めたあと、腕に通してみる。淡い黒さが彼女の美雪肌とのコントラストを立たせ美しさと可憐さを醸し出す。
「うん、似合っててよかった」
「Hurra!ふふっ、早速これを着けてきますね」
「うん、また午後にね。あ、そうだ。いつものおせんべい、食べる?」
つぼみが花開くように、水路が大河になるように、彼女の微笑みは満面の笑顔として咲き誇る。その姿に、また彼の心の灯は炎を増す。上がった温度が頬の赤みに出て来るようにして。
深すぎる愛情を誤魔化すかのように彼はわざとらしくせんべいを勧める。『宇宙せんべい』というポップなロゴが書かれた袋に入っている堅焼き醤油せんべいを彼らは最近のマイブームにしている。歯が欠けてしまうかのような錯覚を覚えてしまうこのせんべいは、近所で評判の隠れた名店、というやつだった。
「ありがとうございます。では…」
ごっ…ごっという音を立てながら少しずつ米の板に亀裂が生じていく。やがて、パキンという快い音が鳴りせんべいは砕けていく。小さな達成感というか、充足感というかが醤油味に深みを出してくれているような感じがした。誕生日の朝最初に口にするものがせんべい。
一般的学生とは少しずれているかもしれないが、その特別はトレーナーと2人で作って来た二人だけのものが確かにある証であった。
「フラッシュせんぱ~い!来てくださったんすか!」
コース走りに出ていた担当たちが続々と帰ってきてフラッシュに声を掛ける。輝かしい戦績を持ちながら聡明で気品もある憧れの先輩の誕生日を祝える。同じチームに所属する者として大きな喜びであった。
その後、チームの皆で『明日見屋』の『宇宙せんべい』を齧りながら束の間のチーム団欒を送るのであった。
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楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもので、お天道様はあっという間にてっぺんを回っていた。友人との楽しいショッピングと昼食を済ませ化粧をもう一度直し学園の正門の前に佇む。揺れる尻尾に心を任せ、踊る足先に歌声を託し、人を待つ。
「ごーめん。待たせちゃった?」
朝のジャージ姿とは打って変わって少々カジュアルなオシャレ姿で現れたトレーナー。彼の声にフラッシュの胸が弾む。
「いいえ。むしろ、予定より4分3秒早いですよ」
腕時計を確認するまでもなく秒単位で言い当てるフラッシュにトレーナーは笑みを浮かべる。どこか嬉し気な声色に、午前の時間が充実していたことを示しているようだった。
「そっか。ならよかった」
手を取り歩き出す。歩幅は意識するまでもなく、合わさっていた。身長差は20㎝程、当然座高も異なっている。しかし意識するまでもなく自然とそれは行われた。それ程までに二人ならんで歩くのは当然になっていたのだ。
「今日はどちらへ?」
「同僚から聞いたんだけどさ、最近川の方にケーキ屋さんが出来たらしいんだよね。まだ行ってなかったじゃん?だから一緒にどうかな~って」
将来の為の勉強、そう称して高頻度で一緒にケーキ屋を巡る2人。今日はその一環も込めてまだ見ぬ店へ行こうという事なのだ。
「多摩川の方の新しいケーキ屋…ですか。あ、聞いたことがあります。なんでも、手応えのあるケーキ屋だそうで」
「手応え?」
ケーキ屋らしからぬワードに首を傾げながらも二人並んで歩みを進めていく。歩くこと30分ほど、多摩川沿いの自然あふれる地域に着いた。春を感じる木漏れ日に笑い合いながら到着するは丸太小屋のようなケーキ屋。歩道の側に咲く花々を眺めながら店の前に立つ。
ポップな文字で書かれた「貸し切り中」の看板に、フラッシュが困り顔をするがトレーナーが構わず手を引く。
「こんにちは~予約して…『イラッシャイマセ!!』っフラッシュ!」
入店と同時に飛んできたのは歓迎の拳。比喩ではない。本当に勢いの乗ったパンチが飛んできたのだ。とっさの判断でフラッシュを庇いながらロールして躱す。なんて無礼な店だと思いながら殴ってきた店員を見て、トレーナーは息を飲んだ。
ケーキだった。そういうコスプレではなく、ケーキそのものだったのだ。ホイップクリームのような白い表面。あちこちにはイチゴの様な突起が鋭く生え赤く鈍く光る。極めつけは頭頂部の蝋燭。まさしくバースデーケーキであった。筋骨隆々なマッチョシルエットとはあまりにアンバランスなデコレーションにドン引きしながらも、先程フラッシュが言っていたセリフを想起する。
「確かにこりゃ、『手応え』ありそうなケーキだ」
「理解したくありませんね…」
「同感だ。不条理もいいとこだが…あれに勝って食べるのが今回の目標ってことみたいだね」
常識とはかけ離れた、ケーキが人型になってパンチしてくると言う現象。文に起こすだけで頭痛がしてくるがそんなビックリどっきり現象はトレセンでは度々発生している。トレセンに限らず、結構起こっている事だと耳にする。
日常の裏側に位置する不可思議の一端に触れてしまったもどかしさを噛み締めながら2人は立ち上がりケーキを見据える。ケーキも、2人の戦闘意志を確認し店の戸を閉め完全な戦闘態勢に移行する。
「ケーキがこういう事になるのは好ましくないのですが…」
「美味しく食べてやるのが…せめての情けというかケーキへの誇りじゃないかな」
「Verstanden.やるしかなさそうですね」
「君に怪我はさせない。フォローはするから、思う存分やってやれ」
「Ya…はあっ!」
先手、フラッシュのタックル。が相手はケーキ。スポンジが衝撃を吸収し涼しい顔で反撃の拳を振りかぶる。
「たあぁっ!」
彼女へ攻撃などさせてたまるか。そんな意志をメラメラと出しながらパンチを膝で受け止める。骨が軋む痛みを感じつつトレーナー着地する。2m近くの巨体。至近距離に感じる威圧感に本能的な危機を感じ、神経が命じるままに胸倉をつかむ。スポンジまで手を突っ込む勢いが功を奏したのか、なんとか掴めた。
ならばとケーキの手首にも手を伸ばし、そのまま掛け声を発しながら投げ飛ばす。不審者対策で職員全員特訓した柔道と空手が初めて活きた場面だった。
ケーキは軽い。それはこの化け物にも当てはまる様で背負い投げは見事に決まった。体格差を感じない勢いで壁に叩きつけられケーキが少し崩れる。ここからが本気だ。そんな空気を出しながらケーキは立ち上がっる。そして頭頂部の蝋燭を引き抜き炎を灯す。名をつけるならば、ロウソクランスだろうか。
「その体格でリーチある武器はズルでしょ…」
危険物は自分が相手する。その意思を背中で見せながらトレーナーが果敢に攻め込む。槍での攻撃を、先端では当たらないように胸で受け止める。んぐっという呻き声を出しながら、それでも堪えてフラッシュに目線を送る。
「やああっ!」
その隙を見逃す彼女ではない。伊達にG1バではない。思い切りよく飛び込みケーキの胸に蹴りを叩き込む。が、また攻撃が効いた感覚はない。それでも諦めない。何度も、何度も、何度も攻撃を打ち込む。閃光がほとばしるような鋭い一撃。研ぎ澄まされていく、感覚が。それはまるでレースの最終直線の様。狙いを定め、素早く駆け抜ける。攻撃を、連撃を浴びせていく。
一瞬、感触が変化した。スポンジが限界を迎えていたのだ。トレーナーが先程開けたクリームへのダメージも相まってケーキがよろめくのを感じた。
「フラッシュ!」
空気の変化を感じ取った。ピリリと肌に刺激が走った。フラッシュの身を案じ、彼は受け止めていたケーキの槍を一度離しバックステップ。振り回された槍を躱し彼女のいるケーキの懐に潜り込む。
若さを活かしがむしゃらで大ジャンプ。ケーキの腕を蹴り上げ振りかぶっていた槍を零れさせる。
「はぁっ…はぁっ…」
ウマ娘より何段も劣る身体に無理をさせたためか、もう体力は限界に近付いている様だ。彼女を心配し駆け寄ったが、逆に彼女を心配させてしまったな。反省を心の中に浮かべながら前を見れば、ケーキはパンチの姿勢に移行していた。
咄嗟に前に出て彼女を庇う。が、時間が少し足りなかった。勢いの乗ったストレートパンチはトレーナーを、フラッシュごと吹き飛ばした。
「がはっ…フラッシュ…大丈夫?」
「は…はい。トレーナーさんのお陰で何とか…」
直撃は避けられてたようだった。一先ずの安堵を覚える。
ケーキの方に目をやれば、ロウソクランスを拾い上げこちらに向かってきていた。胸が崩れかけているにも関らずピンピンしている奴の姿に焦りと危機感を覚えて冷汗が垂れる。万事休す?否、そんなわけでもない。これまで一緒に数々の死線を潜り抜けてきたではないか。最高のメンバーと謳われたダービーだって、絶景の頂だって、不沈艦だって、貴婦人だって暴君だって相手にしてきたのだ。こんなお菓子相手に追い詰められている事は…諦める理由にはならない。
その気持ちはフラッシュも同じだ。2人で乗り越えてきた。今も2人一緒なのだ。まだやれる。絶対に諦めない。瞳の奥に走る光をお互い向き合って確かめる。
その時だ。
「なんだ…これ」
「Licht…あったかい…」
2人の間に光が漂う。無数に流れる紫の光の筋。優しく、熱く、朗らかな光だ。この光がどういったものなのか、詳細な理解は出来ない。でも何ができるのか心が理解した。
一緒にケーキの方を向く。ケーキはもう、すぐそこで槍を振りかぶっていた。
「はあぁ…はっ!」
トレーナーが光の筋を束ねる様に腕を胸の前に持ってくる。そしてバッっと腕を広げると、光の筋は
「てやああっ!」
覇気を帯びていあんがらどこか可愛らしさが残る掛け声と一緒に光線がケーキの胸目掛けて駆け抜ける。
なんだこれ…キメてるのか?
前々から画策していたウルトラマンデッカーネタを落とし込んだフラッシュSSと、最近見たガンギマリ掲示板ネタが合体事故を起こしました。誕生日祝うSSでやる事ですか?
改めて、エイシンフラッシュちゃん!誕生日おめでとう!!!