インフィニット・ストラトス ─蒼狼と黒鉄の霞─   作:ダブスタ親父

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 前回から随分と時間が経ちましたが、最新話出来ましたので投稿します。


鋼の檻に囚われて

 鋼の檻、囚われて

 

 いよいよ生徒達が待ちわびていた学年別トーナメント当日。

 参加する生徒は皆、各々が自分の目的の為に試合へと意識を集中させていく。そんな中、呑気に笑う男が一人。

 

「はぁー凄い人だな」

「そりゃそうだよ、一夏。三年生には集大成の成果を確認に、二年生には現時点での実力を確認に。一年生には今後の伸び代を見る為に。それぞれ目的があるにしろ、大勢が今回のトーナメントには関心を向けてるんだよ」

 

 シャルルは隣でモニターを見る一夏に対して解説を入れる。その解説を聞いた一夏はまたも感心した様な声を漏らしてモニターを眺めていた。

 一夏がぼーっとしていた時、トーナメント表とパートナー不在の参加者に対してランダムで決めたパートナーの発表がなされた。

 それを見た一夏は驚きで目を見開くと同時に好戦的に笑う。

 

「早速相手に来たか、ボーデヴィッヒ。それに......箒も相手か」

「手強いね......篠ノ之さんも訓練機で参加だって話だけど、油断したら流れが持っていかれそうだね」

「あぁ。やってやろうぜ」

 

 初戦の相手を確認した二人は互いに拳を合わせて準備へと向かった。

 しかし、アリーナを包む熱狂とは裏腹に、ラウラの心象風景は凪いでいた。

 

 ......結局、今日まで答えが見付からなかったか。だが、今のままじゃ完全に戦闘に意識を向ける事も出来ない。今は忘れて、目の前の戦闘にだけ集中だ......

 

「大丈夫か、ボーデヴィッヒ。心ここに在らずと言った様子に見えるぞ」

「......問題ない。訓練機だろうと手加減はしない。食らいついて来い」

「あぁ。そのつもりだ。そっちもぼーっとしている間に負けました、は許さない」

 

 ペアとなった箒の問い掛けにそう答えるラウラ。この二人も即席ではあるが、パートナーとしての最低限のチームワークを感じさせる。

 そうして二人も試合の準備へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 セシリアや鈴のペアも順当に勝ち上がり、次は一夏・シャルルペア対ラウラ・箒ペアの試合。

 四人はそれぞれ良い形で試合へと意識を向けられている。

 視線の先には、一夏とシャルル。

 二人の間には、理屈を超えた『信頼』という名の糸が見える。

 あの中に入りたいわけではない。だが、あの強さが何に裏打ちされているのか、それを肌で感じたかった。

 ラウラはそう心で感じながら試合開始を迎える。試合開始の合図と同時に羨望の気持ちを遮断した。

 

 ──だが。

 

「そこだっ、ラウラ!」

「……っ!?」

 

 一夏の『雪片二型』が空を裂き、シャルルの『ラファール・リヴァイヴ』から放たれる弾幕が逃げ道を塞ぐ。

 一対一なら対処できる。だが、重なり合う二つの呼吸は、ラウラの予測を一段階ずつ先読みしていた。

 

 ......クソッ! 切り替えが遅れた。後手に回ってしまった。篠ノ之はデュノアと当たるか。手を貸してやりたいが、目の前の織斑一夏を何とかしなければ......! ......

 

 箒へのフォローが遅れる。彼女へ視線を向けると、訓練機ながら何とかシャルルに食らい付いているのが見えた。

 今自分には彼女を援護する術が無い。そう判断し、目の前の男へと意識を向けて相対する。

 

 『──君が自分で決めろ。力を振るう理由を』

 

 瞬間。自分に道を示した男の声が脳裏に響く。一夏と切り結ぶラウラは焦りも相まって表情が歪む。

 

 ......なんで今出てくる!? 答えが出ない、辛い、苦しい......なんで私はこんな思いをしなければならない!? あの男の言うことが本当に正しいと言えるのか? クソッ、思考が纏まらない。目の前の戦闘に向かわない......

 

 ワイヤーブレードで一夏の体勢を崩したラウラはほぼゼロ距離でレールガンを放つ。ガードが遅れ、直撃した一夏はノーガードで食らった。

 手応えは十分。高出力のレールガンを距離による減退無しの威力を食らわせた事は申し訳無く思うが、今は戦闘中。そんな事、気にする必要はない。

 衝撃。遅れて轟音が響く。観客席にいた生徒はあまりの轟音に耳を塞いでしまう。そんな中でもラウラは冷静にペアを見る。

 

 ......篠ノ之は!? まだ無事か......

 

 アリーナの壁に叩き付けられた一夏を放置して援護に向かうラウラ。

 弾幕を防ぐ事で手一杯だった箒の元へと駆け付けた。

 

「無事のようだな、篠ノ之。よく耐えた」

「何とか、だがな。流石に削られ過ぎた、エネルギーがもうそろ尽きる」

 

 箒の言葉にラウラは小さく頷いて作戦を指示する。

 

「篠ノ之、私がデュノアの動きを止めてやる。その間に攻撃を」

「あぁ」

「......行くぞ」

 

 ラウラのワイヤーブレードが彼女を襲う。四方から迫り来るブレードを丁寧に一つ一つ撃ち落として一夏の復帰を待つ。

 

 ......一夏はまだ復帰出来ないみたいだ。ISのシールド越しでもレールガンの威力は堪えるよね......

 

 シャルルは未だに復帰出来てない一夏へと視線を向けた途端、動きが止まった。

 無警戒な訳では無かった。AICを使用させない為の分断作戦の筈だったのだ。

 

「しまったッ! ラウラのAIC!!」

「今だ、篠ノ之!」

「はあぁぁぁ!!」

 

 箒の一撃が、シャルルの機体を袈裟に切り裂いた。

 大きく弾き飛ばされるラファール・リヴァイヴ。

 

「シャルル!」

 

 叫びと同時に、一夏の機体が壁際で強引に姿勢を立て直す。

 本来なら、まだ動ける状態ではない。レールガンの直撃で、機体も身体も限界に近いはずだった。

 

 それでも──

 

「......動けよ......俺の身体! こんな所で止まってたまるか!!」

 

 痛みを押し殺し、スラスターを噴かす。

 有り得ない軌道で戦線へ復帰するその動きに、ラウラの意識が一瞬だけ逸れた。

 

「......何故動ける。あれだけの衝撃で!」

 

 完全に制圧していたはずのAIC領域に、僅かな歪みが生じる。

 ほんの一瞬。だが、それは致命的な隙だった。

 

「今だ、シャルル!!」

「──っ、了解!!」

 

 シャルルは迷わない。

 体勢を崩したまま加速し、距離を詰める。ラファール・リヴァイヴの装甲が展開し、内蔵された機構が露わになる。

 

 灰色の鱗殻《グレー・スケール》──リボルバー機構を持つパイルバンカー。

 

「これで......ッ!」

 

 突き出される杭。

 本来なら、防げた一撃。

 

 だが──

 

 判断が、ほんの一拍遅れる。

 

「──遅い」

 

 そう言い切るはずだった言葉は、最後まで紡がれない。

 鈍い衝撃が彼女を襲った。

 

「がっ......!?」

 

 杭が装甲を打ち抜き、内部へと衝撃を叩き込む。

 

 その瞬間─────

 

 沈黙していたシステムが、覚醒した─────

 

『──警告。バイタル急変。戦闘継続条件を逸脱』

『VTシステム、強制起動』

 

「......な、に......?」

 

 視界が赤く染まる。

 思考にノイズが走る。

 呼吸が乱れ、鼓動が異様に加速する。

 

 ──考えるな。

 

 ──迷うな。

 

 ──戦え。

 

 脳裏に、こびり付いた声が響く。

 

 ......違う。これは、自分の意志じゃない......

 

 否定しようとした、その瞬間──

 

 理性が削ぎ落とされていく。

 

「......邪魔をするな」

 

 低く、濁った声。

 その声に、一夏の背筋が凍る。

 

「......ラウラ?」

 

 呼びかけに、応答はない。

 あるのはただ、剥き出しの殺意。

 

 次の瞬間──

 

「───ぁ、ああああッ!?」

 

 意識の底から、黒い泥のような“何か”が溢れ出した。

 

 それは、彼女が捨てようとしていたはずの──力への執着。

 

 《ヴァルキリートレース・システム》

 

 モンド・グロッソ上位者の戦闘データ──そして、織斑千冬のデータすら内包し、それを強制的に再現する禁忌の機構。

 

 ......やめろ、止まれ......! 私は、こんな力を......

 

 叫びは届かない。

 身体は、既に制御を離れていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「クソッ......何故あんな物がラウラのISに!」

 

 管制室で、千冬が声を荒げる。

 

「千冬、あれは何だ。説明してもらうぞ」

 

 対照的に、ラスティは冷静だった。

 

「......VTシステムだ。条約で禁止されている。パイロットを犠牲にして、戦闘データを強制再現する代物だ」

「なるほど。だから“トレース”か」

 

「......話は後だ。今は来賓と生徒の避難が優先だ。ラスティ、頼む」

「了解」

 

 短く応じ、ラスティはその場を離れる。

 千冬もすぐに真耶へ指示を飛ばした。

 

「真耶、避難誘導を続けろ。私は現場に出る」

「分かりました!」

 

 迷いなく頷く真耶を確認し、千冬もまた戦場へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 アリーナでは今も一夏とシャルルがラウラを止める為に声を掛けていた。必死に制止する一夏とそれを無視して攻撃を続けるラウラ。

 非武装状態の一夏を庇い、彼を担いだまま距離を取ったシャルルは声を荒らげた。

 

「おい、ラウラ! 止まれ、止まってくれ!」

「一夏、危ない! ......ラウラにはもう声は届かない!」

「そんな......だって、こんな...!」

「あれはきっとVTシステムだ。今は織斑先生のデータを再現してるみたいだね」

「......千冬さんを再現してるなら私の出番だな」

 

 話を聞いていた箒が刀を携えて呟く。彼女の訓練機はもう稼働停止間近。そんな状態では死にに行くようなもの。本人も自覚している様だったが、シャルルが止める。

 

「無茶だよ! 生身同士ならまだしも、ISじゃ基礎スペックが違うんだから死にに行くようなものだよ!」

「だが、誰かが殿を務めなくてはな。二人は補給に。私が殿を務める」

 

 箒はそれだけを告げてラウラの眼前に立つ。一夏は彼女を止めたかったが、シャルルは逆に彼女の覚悟を汲んで一夏を連れて補給へ向かった。

 アリーナに残された二人の間には何人たりとも立ち入れない空気が流れる。

 

 ......千冬さんの動きは覚えてる。せめて補給から戻ってくるまでの間だけでも時間を稼ぐんだ......

 

 ラウラは箒が構えるのを待つことはしない。眼前に立った彼女を排除すべき敵だと認識し、襲い掛かる。

 振り下ろされる刀を防ぎ、鍔迫り合いに持ち込む。

 

「なるほど、千冬さんの再現とは良く言ったものだな。ぐっ......だが、まだまだァ!」

 

 鍔迫り合いを崩され、流れるような連撃で防戦を強いられる。

 鍔迫り合いを崩し、流れるような連撃で攻め続ける。

 鋭い剣筋。無駄のない踏み込み。

 

 まるで──織斑千冬、そのもの。

 

「くっ......!」

 

 箒は歯を食いしばりながら受け続ける。

 彼女は受けるだけで、精一杯だった。

 それもその筈だ。訓練機の出力は限界に近い。シールドも残り僅か。このままでは、いずれ押し切られるのは目に見えている。

 それでも───退かない。退けない。

 

「どうした、ボーデヴィッヒ! その程度か!」

 

 挑発。

 返答はない。

 ただ、無機質な斬撃だけが返ってくる。

 

「......っ、やはり聞こえていないか!」

 

 だが──次の瞬間。

 

 僅かに、剣が鈍った。

 

「......?」

 

 違和感が箒の中で生まれた。ほんの一瞬。刹那的な時間だが確かに、刃に迷いが生まれている。

 

「今のは......」

 

 見逃さない。箒は一歩踏み込み、あえて懐へ飛び込む。

 通常なら自殺行為。だが、相手はラウラだ。

 

「貴様はそんなものではないだろう!!」

 

 至近距離で名を叫ぶ。

 刃が止まる。

 ラウラの瞳が、わずかに揺れた。

 

「......ッ......!」

 

 ノイズ混じりの呼吸。歪む軌道。明らかな異常が見て取れる。

 

「......そうか。まだ、そこにいるんだな」

 

 箒は今のやり取りで確信を得た。この暴走の奥にまだ本人がいると言う事を。

 

「ならば──引きずり出してやる!」

 

 再び踏み込む。

 防御を捨てた全力の一撃。

 しかし────

 

「──排除する」

 

 低く、唸る冷たい声。

 次の瞬間、ラウラの機体が跳ねるように加速した。

 

「なっ──!?」

 

 予測してなかった挙動に反応が遅れた。

 視界から相手が消える。

 いつ襲われるか分からない恐怖で呼吸が浅くなる。まるで喉元に刃を突き付けられている様な感覚を覚えた。

 背後に殺気を感じ、振り返るよりも早く──

 

 衝撃。

 

「ぐっ......ぁ......!!」

 

 叩き込まれた一撃。シールドが弾け、機体が大きく吹き飛ばされる。

 地面を転がり、ようやく停止する箒。

 警告音が鳴り止まない。視界の端で、エネルギー残量が赤く点滅している。

 

「はっ......はっ......」

 

 呼吸が荒れる。立ち上がろうとするが、機体が言うことを聞かない。

 だが、それでも。視線だけは、逸らさない。

 

「......まだだ。まだ、終わっていない......!」

 

 なんとか膝を付きながらも何とか刀を構える。

 ラウラは無言のまま、歩み寄って来る。

 処刑するかのような、静かな足取り。

 

 その時──

 

「遅れて済まない。良く耐えた」

 

 上空から声が落ちる。

 蒼い機体が、戦場へと滑り込んだ。

 

 




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