Re:ナツミシュバルツは友達が欲しい 作:戻ってきたミュウ
ナツミ・シュバルツには決して欠かすことの出来ないルーティーンがある。
誓約のようなものではなく、破ったところで何のお咎めもないそれだが、彼女は生まれてからこの日までそれを欠かしたことは一度だってなかった。
「…………朝か」
王選候補者達に挑戦状を突きつけてから一週間が経った。電文を出した時はフルシカトされたらどうしようかと不安を募らせたものだが、各々の陣営は思い思いの動きを見せており、その噂はシュバルツ家にも少しづつだが届いている。
だが流石にこれだけの短い期間で成果が出るわけもなく、日をおうごとに膨れ上がる仕事を何とかこなしていたナツミはまた気付いたら日が上っていやがったと、小さく愚痴を溢した。
彼女はペンを置き、背伸びをしてから小さな鏡を取り出す。
それで隈の出来た己の顔を見て大袈裟なぐらいの笑みを浮かべてみせた。
「ナツミ・シュバルツは完全無欠の最強美少女!徹夜も二徹も何のその!誰からも好かれる、神の愛し子と言えば私のことよ!」
ナツミ・シュバルツの日課とはこれであった。
いわゆる暗示のようなものなのかもしれない。1日のうちどこかで一回、今の自分はナツキ・スバルではなくナツミ・シュバルツであると信じ込ませる。
鏡がない時は水溜まりで、水溜まりすらない時は目蓋を閉じてその裏にナツミ・シュバルツの姿を強く焼き付けた。
何でこれをやろうと思ったのかはもう忘れてしまったが、多分今でも続けているのは彼女が信じられないからであろう。
ナツキ・スバルは凡人以下のゴミカス野郎だ。何の取り柄もなく、いつも調子こいて痛い目を見るくせに改心もせず、ついには何の生産性もない癖に食いぶちだけは消費し続ける壁のシミにも劣る引きこもりへと堕ちた。
影の女王と呼ばれ、この国ルグニカに最盛期をもたらしたとされるナツミ・シュバルツとは真逆の存在だ。
セカンドライフを生きてみてから一度だって失敗らしいことをしたことがない。怖いぐらいにやること成すこと上手くいって、期待以上の成果をいつも出しては、みんながナツミを称賛した。
例えば、叔父にあたるハインケルだ。剣鬼や剣聖に挟まれた無能の剣と揶揄される彼にナツミは、ならば剣ではなく弓を取ればいいとつい出来心で勧めたことがある。
ハインケルは視力が良かった。理由としてはそれだけだ。
騎士としてのプライドを考えれば屈辱以外の何物でもなかったろうに、姪っ子の可愛いおねだりだと射った彼の矢はあろうことか剣鬼の足を捕えた。
日常の不意をついたわけではない。実践形式の訓練で剣鬼には距離のハンデがあったとはいえ、彼には矢の雨を全て斬り伏せて突き進む鬼神のごとき剣技があった。
『なんだ、今の矢は?全く見えんかった』
『嘘だろ……俺がやったのか?』
剣鬼の張り巡らされる絶対領域の中、針の穴に糸を通すような意識外からの攻撃は防ごうと思って防げるものではない。
アーチャーとしての圧倒的な才覚。それが開花した瞬間だった。
こんな話がナツミシュバルツの武勇伝にはごまんとある。
中身がナツキスバルだからではない、身体がナツミシュバルツだからこうも上手くいっているのだと、己に釘を刺し続ける。
「……ごめんな。勝手にアンタの人生を生きて。必ず俺が元のアンタを取り戻してみせるから」
これまで彼女が得る筈だった幸福は出来るだけ取り零さないようにしてきたつもりだ。
出来れば身体も労ってやりたいところだが、彼女を信望する人たちの為にと言い訳をつけていつも無理をさせてしまう。
もう16歳。この国の平均なら結婚して子供が居ても不自然ではない。
せめて20歳は越えるまでに返したい思っているのだが……命大事にの精神で保留にしてた監視塔への重い腰をそろそろ上げる時だろうか。
それともエミリアから貰った携帯電話から探っていくべきか。
「ナツミ様!追加の資料をお持ちしました!」
「……とにもかくにも、時間がねぇ。ほんと頼むぜ王選候補者。ナツミちゃんが過労死でもしたら末代まで祟ってやるからな」
これを終わらせたら、風呂に入って少し寝よう。
そう気合いをいれてナツミはペンを取った。
フェ「で、あたしらは何をしたらいいんだ?」
ナ「私に聞いたら意味がないだろうが」
フェ「あたしをこんな面倒な状況に追い込んだのは姉ちゃんだろ?向いてねぇし、考える気力もねぇ。何もしなくていいってんなら喜んでそうするね」
ナ「あぁ分かった、分かった。ならお前はひとまず開発区画の人達をまとめ上げろ。適当に賞金の出る大会でも開いて団結力でも高めといたらいい。聖金貨100枚ぐらいなら私のポケットマネーで出してやるよ」
フェ「りょーかい!あとでやっぱなしとか言うなよ。賞金はあたしのもんだ!」
ナ「はぁ……やる気があるんだかないんだか」