……そんな事を言っている内にまた邪魔者の気配がっ。仕方が無い、――お馬さん、発・進!
最初に言っておきますが、この小説のジャンルは『ラブコメ』です。
たとえ周りからなんと言われようとも最後まで言い張る事が出来たなら、――ああ、それはきっと本物なんだ。
――富・名声・力。
この世のほぼ全てを手に入れながらも唯一『愛』を手に入れられなかった帝王が死に際に残した呪いは、全世界の人々に狂気への道を指し示した。
『愛など幻想ッ。それでもなおこの世にあると言う者がいるならば奪えっ、自分達が縋るモノがどれほど儚く無為なのか思い知らせてやれ!』
多くの人に取ってはただの戯れ言であったハズのそれは、皆が思う以上に呪いを真に受ける者達がいた。彼らは徒党を組み、愛を信じて幸せの中にいる隣人を襲いだしたのだ。
嫉妬の炎は世界中に燃え広がる。世はまさに混迷の時代……!
◇
「ふははははっ、愛などこの世に無いと思い知れ!」
もうすぐ結婚を控えていたわたし達の家に突如として押し入ってきたこいつらは、抵抗する間もなく彼をどこかへ連れ去るとわたしを囲んで卑下た笑いを浮かべていた。
お揃いの覆面を頭に被り、ぽっかりと空いた穴の奥の瞳に謎の情念を灯す男達の姿に最近崩御した王の噂を思い出すが、まさか本当に実行に移すはた迷惑な集団が居るとは自分には考えも及ばなかった。
とはいえ後悔などしていられない。わたし達から幸せを身勝手に奪おうとするこいつらを許せるハズも無い。出来る事なら今すぐにでもこいつら全員ぶん殴って彼を取り戻したい。
だけど現実のわたしには何かを成せるだけの力は無い。ここからさらに何かが起ころうとも、精々が悔し涙を堪える事しか出来ない。
――誰か、助けて。
自分ではどうしようも無い事実に、つい弱音が口をついて出る。こんな事を言っても何処にも届かず立ち消えるだけだというのに……。
『その声、聞き届けたり!』
だが、その声は聞こえてきた。
期待など出来ようも無かった返事に思わず顔を上げると、連中もまた驚いて周囲を見渡している。どうやらわたしだけに聞こえた幻聴では無かったらしい。ならば一体誰の声なのか?
「おいっ、一体何処のどいt「お馬さんアターック!」ぶへぁっ!?」
なんか馬が扉を突き破って入ってきたー!?
「やあお嬢さん。助けに来たよ」
たまたま扉の近くにいたために吹き飛ばされた男を尻目に、床に尻餅をついてその姿を見上げるわたしを安心させるかのような穏やかな声で語りかけてくる。……馬が。
え、ナンデ? 馬、シャベッテル……?
「え、うま?」
「ウマ?」
「なんで馬?」
「UMA?」
背に人を乗せる鞍などの器具を一切身に付けない立派な体躯の馬は、その口を動かして流暢に言葉を紡ぐ。
わたしを背後に守るかのように立つ姿は中に人が居る着ぐるみなどであるはずがないと嫌が応にも分かるが、なんかこう、意味が分からなすぎて連中も困惑してるんですけど。
「落ち着けお前らぁッ!!」
誰もがあまりにあんまりな光景に混乱と困惑に身動きがとれなくなっている中、覆面の額部分に『リ』と書かれた男の一喝が響き渡るように浸透する。
それだけの事で場の雰囲気は一変する。この場の支配者は自分達なのだと知らしめる。
「……喋る馬、けっこうじゃねぇか。高く売れる手土産が増えるんだぜ?」
多分リーダーなのだろう男の言葉に、連中は揃って冷静さを取り戻すどころかむしろ臨時収入が増えた事を喜ぶように口の端をつり上げる。
互いに目配せをすると、じりじりと馬の周囲を取り囲んでゆく。
「さあっ、捕まえてぼろもうけといこうぜ!」
そしてリーダーの号令の下、一斉に馬へ襲いかかる! それに対して馬の方はといえば、
「やれやれ、仕方が無い。古来より『馬力』という言葉が存在するように、馬という生物がどれほど人間より力で優れるかご覧に入れよう。――“トドメのお馬さんファイアー”!!」
『ぎゃぁぁぁぁっ!?』
馬力と何の関係無い攻撃が来たぁーッ!?
「続けてリーダー格の男にどーんっ」
「ぐえわぁっ!?」
馬が火を噴くという謎過ぎる攻撃に連中はあっという間に一網打尽に遭う羽目に。
一応というか倒れ伏す姿には多少の黒焦げ感はありつつも胸を上下にさせている辺り、気を失っているだけらしい。
そんな検分をしている間に上がる声の出どころへと振り向けば、そこには距離があったが故に馬の炎に巻かれる事の無かったリーダー格の男を足で押さえつける馬の姿。
先ほどまでの絶望的な状況からの展開の早さに置いて行かれそうな心持ちだが、わたしが助かったからと言って終わりでは無い。そう、こいつらに連れ去られた彼の行方を聞き出さなくてはっ。
「ケッ、愛を語るヤツに教える事はなにもねぇよ!」
よぅし、なら足の先から順に輪切りにしていって何処までその根性で耐えられるか試してやろうじゃあないか。
「おっとお嬢さんが思った以上にデンジャラス。だがちょっと待って欲しい」
流石に包丁で骨を切るのは大変だろうし、のこぎりってあったかなと思う私に馬がストップを掛けてくる。
邪魔しないでよ、わたしは少しでも早く彼を取り戻したいんだから!
「いや、ここは是非とも我が輩に任せて欲しい。なに、同じ言葉で意思疎通が出来るのなら想いは届く。懇切丁寧に洗のu、説得すればわかり合えると我が輩は信じているから……!」
今絶対洗脳って言いかけたよね!?
「では早速、ウマンウマンウマ~~ン」
「ぎゃぁぁっ、イケメンヴォイスが直接脳内にぃ~!?」
わたしが是非を問う間もなく馬は押さえつけている男の耳元で何かを囁くと、男は絶叫しながら白目を剥いて身体を痙攣させる。
なんか見るからにヤバイ状態だけど、まあ自業自得として甘んじて受け入れて貰おう。
……やがて一段落したのか、馬はおもむろに静かになった男の上から退けると共に器用に覆面を剥ぎ取った。わたしは男の次の行動を固唾をのんで見守っていると、
「ばぶー」
なんかいい大人が赤ちゃんの真似してるーッ!?
「落ち着きなさいお嬢さん。人が生まれながらにして悪というのは稀。なれば歪む切っ掛けもまたあったはず。これは人生を追体験する事で善性を取り戻すための行いなのだよ。というわけで、時を進めよう、――2歳!」
「まま~、まま~」
「――4歳!」
「えへへ~、ぼくね、……ママのこと、だいすき~っ」
……なんだろう、割と厳つめな外見の男が虚空を見つめながら幼子なやり取りを見ているのはとてもいたたまれないなぁコレ。というか普通に尊厳破壊の一種な気がしてきた。
「――12歳!」
「見てみてっ、僕テストで100点とったんだよっ、凄いでしょう!?」
「――14歳!」
「うっせーババァッ、気安く話しかけてくるんじゃねぇよ!!」
……って、急にガラが悪くなったっ!?
直前までこれでもかってくらいにマザコンだったのに何がどうすればこうなるか全然繋がらないくらいの豹変っぷりだよコレ!
「ふむなるほど、どうやらここが彼の人生のターニングポイントのようだね。では教えてくれないかな、君はいったい何故そこまで憤っているのかね?」
「……だって、おれは……、ぼくはママの事を大好きだったのに、実は血が繋がっていないんだって……、ママは今までずっとぼくの事、騙していたんだ……!」
……ああ、うん、多感なお年頃にこれまで信じてきた物が根本から崩れ去るとなればそれは確かにショックだよね。
これでこいつにやられた事が正当化されるわけなんて無いけど、それはそれでなんか同情してしまう話だ。
「だが、これで彼の心の闇を解放する手立てが見えてきたようだね」
いや、簡単そうに言うけど、たぶんわたしが思う以上にこじらせている問題を早々に解決とかかなり難しいと思うんだけど。
「大丈夫、人の心とはそんなに弱いものでは無い。悩みに対してきちんと的確な言葉を届ける事が出来れば、その善性を取り戻せると我が輩は信じているのだよ」
う~ん、言っている事はカッコイイけど、馬に言われてもなぁ……。
「良いかな少年よ。確かに血の繋がりが無かった事はショックなのだろう。だが、考えてみて欲しい。血の繋がりが無いと言う事はつまり、恋愛対象になり得るということなのだよ!!」
……いや何を言い出すのだろうかこの馬は。いくらなんでもそんな事でこいつの悩みが解決すると本気で思ってんの? ねぇ?
「…………っ!?」
めっちゃその手があったかって顔してるぅーッ!?
「どうやら答えは得たようだね。ならばその心を抱いて時はこの現在まで戻ってくるっ、ウマンウマンウマ~」
「あばばばば~っ、うけっ、うけっ、ウケケケケケ~ッ!?」
馬の声に先ほどよりヤバい雰囲気で痙攣する男に若干のそれでいいのか感を覚えつつ事の成り行きを見守る。そして……、
「バブー」
また赤ちゃんに逆戻りしてるーっ!?
「違うよお嬢さん、これは赤ちゃん遡行ではなく『赤ちゃんプレイ』なのだよ」
いやわかんねーよ!?
「ふむ、どうやら混乱を与えてしまっているようだね。ほら君からも何か言ってあげて欲しい」
馬に諭されるようにしておもむろに立ち上がった男だったが、その姿に敵意や悪意はまるで感じられない。むしろ清々しいまでの穏やかな顔でそっと私に手を差し伸べてくる。
「…………お嬢さん、君も私のママにならないか?」
めっちゃキメ顔でめっちゃキモい事を言って来たーッ!?
「ほらね?」
いやお前も何が丸く収まった感を出してんだよ馬ぁ!?
「……すまない、本当にすまない、君の怒りももっともだ。許してくれなんてとてもじゃないが言えない事は重々承知している。それでも謝罪と償いはさせて欲しい」
お、おう、なんか急にまともにされると反応に困る。まあ、わたしとしては彼を取り戻せるなら水に流しても構わないんだけど。というか、何で彼は連れて行かれたの?
「ああ、俺達は浚った人々に対して寝取られビデオレターを見せての脳破壊からの洗脳で仲間を増やしていたんだ。どのブロックかは分からないが、おそらく俺達の基地に連れて行かれた彼もまた……」
いや人の彼に何をしようとしとるんじゃぁ!?
「ちなみに、女性の場合は愛がなくても人類繁栄が出来る事を実地証明する手筈だった」
わたし、めっちゃ危機一髪だった!?
「……さてお嬢さん、次にやるべき事を成しにいこうではないか?」
自身の取り巻く状況が思っていた以上だったと戦々恐々としていると、馬がおもむろにわたしのそばに来て屈んでみせる。
まるでというか、まさに自分の背に乗れとまっすぐ見つめてくる馬に戸惑いを覚えてしまう。
正直に言えば、世界情勢が変わった事を目の当たりにしてとても怖い。それを正体不明だけどピンチに駆けつけてくれて助けてくれた馬がこれからも手助けをしてくれるというのは心強い。
けど、どうしてこの馬は初対面のわたしにここまでしてくれるのか。わたしには何も返せるものはないし、果たしてこのままこのまま馬を頼っていいものなのか……?
「無論だとも。そも、何故我が輩がお嬢さんを助けるのかといえば、端的に言えば趣味だ。そして趣味であるからこそ全力を尽くすのだ。
我が輩とて万能ではなく全てに助力を行えるわけではない。なればこそ一度助けると決めたなら最後までやり通すのだ。なに、お嬢さんは彼を助けたい。我が輩は愛するふたりの再会を特等席で見たい。これはそれだけの話なのだよ」
茶目っ気たっぷりにウィンクしてみせる馬に、わたしは自分の悩みが馬鹿らしく感じる。
そうだ、わたしは彼を取り戻したい。弱いわたしでは何も出来ないけど、弱いからこそ何だって利用して目的を果たして見せる。わたしは、そもそもそういう人間なんだ!
「ヒヒーンッ」
ならもう迷う必要は無いと馬の背中に飛び乗ると、馬もまた我が意を得たりと立ち上がる。
視点が一気に高くなるけど、不思議と安定して跨がっていられて思ったより怖くない。これならいける、さあっ行っちゃってお馬さん!
「お嬢さんに、えー、馬、殿? 部下を含め、この場は俺が収めておきます。お二方は存分にやるべき事をやって下さいっ」
駆け出す後ろから男の声を受けながら、馬は一気に加速する。そう、わたし達の戦いはこれからだ!
◇
『ウホホ~、ウホホホ~ッ!』
……とまあ、意気込んで飛び出して来たものの、なんか野生に帰ったような人達(?)に囲まれているけどここ何処なのぉっ!?
「うまっはっはっは、どうやら加速し過ぎてうっかり次元跳躍してしまったようだ。どんまい」
いや何さらっととんでもない事言ってんのよっ。これ、ちゃんと彼の下へ行けるんでしょうね!?
「……ひひーん」
ただの馬に戻るなぁぁ!!
嘘予告
あるところでお嬢さんが川でどんぶらこと流れていると、川で洗濯をしていたおばあさん(職業:人売り)に拾われ、綺麗なおべべに着せ替えられて領主のところへ行きました。
そこではお嬢さんが、彼を取り戻すために自分は月へ行かねばならず、そのための喋る馬が迎えに来ると語りますが、領主は喋る馬なんて居るわけ無いと鼻で笑います。
そしてお嬢さんは更に言葉を続けます。何を言っているの、あなたの――
す ぐ 後 ろ に い る じ ゃ な い。
「え……?」
「……」
「……」
「ウマーッ!!」(挨拶)
「馬ぁーッ!?」(混乱)
目指したコンセプトは『このラブコメ頭ボーボボじゃね?』です。つまりこの小説はラブコメ。Q.E.D、証明終了。
そして1話でネタは使い切りました。というか、パロネタをありったけを投入したはずなのにこの程度の文量になるとかマジ?
いやぁ、ボーボボとかよくもまああんなの(褒め言葉)を週刊で連載していられたなと書いてみて強く思いました。
Aブロック隊長「若いつばめ(多重屈折現象未満は回避します)」とかZブロック隊長「どろぼうねこ(ねこです。by液体)」とか。
あと、暗黒騎士よッ、光と闇のカオスフィールドを駆け抜けろ! 降臨・カオスソルジャー!「ヒヒーンッ」
「いや暗黒騎士の人の方はどこ行ったーッ!? …………カタパルトな亀に括り付けられてるぅーッ!?」
なんてネタみたいなのどうやったら出てくるのかホント聞いてみたいところです。
余談
馬の声は『川´_ゝ`)「なに、気にすることはない」』みたいなダンディ系イケメンヴォイスなイメージだったけど、書いてみると呂布を名乗る不審馬にイメージが侵略さ れ て る ゾ! ってなったのが地味に大変でした。