α×Ωのつかよだ 夜鷹に引退後すぐの過ちによる娘がいます その娘視点
▼オリキャラ娘はバレエ留学してます


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【つかよだオメガバース(+夜鷹のオリキャラ娘)】「誠意を示してください」

 私は、母の現役時代を知らない。

 当然だ。私が生まれたのは、母が現役を引退したあとのむしゃくしゃで、一夜の過ちによるものだったからだ。母は堕胎するでもなく、私を生んだ。それから、母なりに懸命に育ててくれたと思う。真面目な母は当初は何もかもひとりで抱え込もうとして、産後うつに加え育児ノイローゼに追い込まれたほどだ。偶々母の窮状を知った現役時代からの友人に助けられ、ベビーシッターと家政婦を雇うと言うことを憶えた。そもそもが氷上で生きることしかできない人種なのだ。育児など、所帯臭さの極みなことは到底向いていない。

 それでも精神的にも肉体的にも回復すると、家政婦はそのままだったが、母は私と触れ合うことを憶えた。やがて幼稚園に通うようになり、好きな人ができたというと「……結婚するのは僕とじゃないの?」と言われた。言われたかったらしい。母がいくら異性で私は(のちに判明した)アルファ、母がオメガと言っても、母は母なのだ。番システムは近親婚をも可とする法令に触れるのはのちのことだ。

 さて、ここで血縁上の父に触れて来なかった。母は、「ベータの女性だったよ」としか言っていない。よくアルファの子どもが生まれたものだと思う。

 つまり、それだけの関係なのだ。だから私の家庭には母しかいないし、母だけで充分だと思っていた。

 光が来てからは、ずっと強くそう思うようになった。本当はずっと私にフィギュアスケートをやらせたかった母。けれどバレエの道を進んだ私。その差異は、スケートリンクに立ったとき、自分の未来が見えたかどうか。

 私は間違いなく夜鷹純の娘だ。夜鷹純の身体能力を一身に引き継いでいる。実際、私は最初からトリプルアクセルができてしまった。

 フィギュアスケーターの頂点に立つ自分が容易く見えてしまったのだ。

 でも、私はバレエを選んだ。バレエは今のところ未来が見えなかったから。だから、楽しそうだと思ったのだ。

 私は国内のバレエコンクールを行脚して荒らし回ると、その足でローザンヌ国際コンクールに行き、ゴールドメダルを獲得してパリ・オペラ座に留学した。

 母は「金には困らせないから」と幼少の私に宣言したことがある。それが自分の思惑から外れフィギュアに行かずバレエをやってからも撤回されることなく、私は無事にバレエ人生を歩めている。

 少々規格外ではあるが、母はちゃんと人の親なのだ。手伝ってもらってとはいえ、男手ひとつで私を育てた母。

 だから、そんな母から「大事な知らせがあるから、日本に帰って来るときは言って」と言われたとき、謎の緊張感に襲われたし――

 それがオメガ男性であるウチの母に、運命の番ができたということで、私は横転した。

 

「明浦路司くんだよ」

「どうも、はじめまして」

 運命のアルファだという青年はどう見ても母より若い。いっててアラサーというところか。筋肉質な身体の、爽やかな好青年。アルファだと言われればなんとなくわかる。しかし性の匂いが薄い人物だ。

 何より、なんだか頼りない気がした。母はこの人のどこが気に入ったのだろう。

「お母さん、どうしてこの人を選んだの」

 口にも出した。

 青年はおろおろとした様子で母と私を交互に見る。母は、言った。

「僕の番に相応しい相手だと判断したからだよ」

「その判断材料を教えて欲しい。明浦路さん、だっけ。彼に誠意を示してほしい」

「……そうだね」

 そう言って、母は青年の頬を、優しく両手で包んだ。

「司くん、いける?」

「あなたがして欲しいことなら、なんでも」

「そう。じゃあ、今夜まで待って。スケートリンク貸し切りは営業外が条件だから」

「……?」

 

 考えてみればそうなのだ。あの母が、今更スケート以外関連のアルファを選ぶはずがないのだ。

「……はっ……」

 白い息を吐く。ここは夜のスケートリンク。母のコートをかぶせられて見ていたそれは、完璧なプログラムだった。

 母が即興で組んだだろうプログラム。それは高難易度ジャンプも含むものだった。スケーティングが豊かで、滑らかで。母は何年経っても進化していく。

 その母のプログラムを、「見た? やって」と言われて完全にコピーしたのが明浦路と言う青年だった。スケーティングだけなら元々の母のそれよりうまかったかもしれない。それぐらい、恍惚とするほど美しかった。

 それまでの静かな色気など吹っ飛ばす勢いで、明浦路は私に言う。

「えっと、これが俺の誠意なんだけど……どうだったかな」

「私が間違えてました」

「えっ」

 私はまだ高揚する気分のまま、明浦路に告げた。

「あなたは、確かに私の母、夜鷹純が選んだアルファでした。ごめんなさい」

 

 つがい届は即日役所に申し込んだ。つがい届と婚姻届けはほぼ同じ効力を発揮する。両方申し込むことも可能だ。ただ婚姻届けはいまだ夫婦別姓法案が成立していない日本ではどちらかを選ばねばならない。

「どうして? 明浦路純になってもいいじゃない」

「そこが悩みどころなんだよ~~夜鷹司だと俺なんかが純さんと同じ苗字とか烏滸がましいし明浦路純は純さんが俺のものになりすぎている感があって解釈違いでさ~~」

「お母さん、止めないの?」

 水を飲む母に問いかけると、母はふっと笑った。

「もう好き放題させることにした」

 それが諦念なのか惚気なのか、私には一瞬判じ難かった。

 「とりあえずつがい届で十分なんだから子どものこと考えなよ」と言うと、明浦路はあからさまに照れ、母は――そっぽを向いたから、多分照れている。それを理解して、「いい歳こいたバカップルが」と思わず唾を吐き捨てたくなるのだった。

 

 

「それじゃ司さん、お母さんが子どもできて産んだら真っ先に私に連絡してね」

「わかった」

「待って。母親の僕には言わないの」

「頻繁にスマホ壊す人を信頼できない。それじゃ行ってきまーす!」

 

 

 

 

 

 


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