The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.2-05 シャーレ 地下

それと…

 

“ISAC?”

…数秒後、仕方なくこう言った。

“いるか?”

 

A います
いつも頼りにしているISACの聞き慣れた男らしい声がイヤーピースを通して聞こえ、俺を落ち着かせるが、唇を吸い込むほどではない。

 

“どうした相棒?任務の間ずっと応答できなかったのに、戻ってきた途端……”

AIの仲間が劇的に変化していることを表現するのにピッタリな言葉が見つからず、言葉を濁した。

 

A 私も…困惑しています、エージェント
AIはそう答える。
A SHDネットワークに再接続した時、何かが……変わりました。まるでアップデートでもされたような感覚です。
HUDの方はいつも通り、数秒間何も操作しないと消えていった。そして続ける。

A 以前は、すべて理論に基づいた計算で行われていました。血圧と心拍数が一定のレベルに達するとHUDが消えるのもその内の一つです。ですが今は…エージェントが危険ではないと感じることが出来ます。そうでなければ、HUDは邪魔になるだけです。

“…つまり…”

あきらめる前に言葉を探し、

“進化したのか?”

と言った。 ISACは何も答えず、ただ黙ったまま考え込んでいるようだ。

A 表現としてはそれが一番だと思われます。

 

“そうか………高校生の天使に…ヘイローに…女の子が銃を持ってて…学生で…”

息を吐くようにつぶやき、あることに気が付く。

“ど…どうして俺は承諾なんかしたんだ?”

 

A 安定性です
とISACはこう答えた。
A ここでの先生であることと、ディビジョンエージェントであることは、ある程度似通っています。だからこそ、あなたは自然にこの状況へと溶け込んだのでしょう。

 

いくつもの扉を通り過ぎるたびに、ロックが解除されていく。やがて、光のない廊下へと導かれる。その中に一つだけ、窓や隙間からオレンジ色の光が漏れている扉があった。

“これは…?”

 

A 私のコードがあるサーバールームです。
ISACが答える。
A 探している部屋は、この先にあるはずです。
俺が聞くまで、お互いまた黙っていた。

“なあISAC、この仕事を引き受けるべきだと思うか?”

 

A なぜ私の意見が理論に含まれなければいけないのかが理解できません。
とISACは指摘する。
A 私はあなたの戦闘用のアシスタントです。 処理能力は大幅に向上しましたが、あなたが命令しない限り、私は誰も助けません。

 

“ああ…って待て、俺にはそんな権限はないぞ?ディビジョンエージェントは誰にでも許可を与えることはできないし、たとえエージェントからスマートウォッチを受け取ったとしても、ブリックがなければアクセスできない。”

 

A アップデートに伴い、手順が少し変わったようです。
まるで、政府のトップのお偉いさん以外には到底扱えないモノではなくなったかのように、ISACは指摘する。

 

ドアを見ながらため息をつく。

 

今の俺は行方不明(MIA)戦死(KIA)か? そんな疑問が次々と積み重なっていく。それとともに、祖国にも、友人にも、そして何より家族にも顔向けできない罪悪感がのしかかる。

 

いつかまた会える日が来るかもしれないが、今はここに留まるしかない。それが悪いことだとは言わない。ハスミもチナツもスズミもユウカも、みんないい人だ。リンもそうだ。だが…

 

俺は、自分が失敗してしまったように感じる。家族や、ほかのエージェントたちも…

 

ディビジョンエージェントになったことは、俺の人生において大きな転機だった。ただ単に生きていく以上の目的を持つようになった。そして今、その目的は…まあ、無くなってしまった。きれいさっぱりとまではいってない。ただ…意味が大きく変わってしまった。

 

キヴォトス、それがこの街の名前だ。 リンの言う通りならD.C.と同じく多くの問題を抱えていることになるが、もしかしたら……

 

思わず鼻で笑ってしまった。ワーカホリックのように、力ずくでやらないとリラックスできない。

 

ひとまず今は、両親に自慢出来るように、そしてD.C.にいる生徒たちに語る物語(アーカイブ)を出来る限り体験して、先生としての経験を積んでいこう。

 

ドアを開けると、あくびがしたくなる。薄暗い部屋があり、左手にはパソコンが置かれたデスクと、下へ降りる階段がある。その前には岩が浮かんでいる。 台座の上に浮かんだ奇妙な岩には、見慣れない奇妙なマークが描かれている。

階段を下りながら、ソファを見つけてうなずく。

 

新しい人生の第一歩は────仮眠だ。

 

俺の背中がかろうじてソファに触れた瞬間、ヒールの音が響く。反射的に体が強張り、太もものM9に手を伸ばす。ドアが開き、リンが入ってきたのを見た瞬間、ようやく緊張を解く。だが、その後の会話を思うと、気が重かった。

 

「お待たせいたしました。」そう言い、俺を見てから周りを見回した。「…?何かありましたか?」

 

“いや、”

あくびを無理やり抑えながら、次の段階を意識して言う。

“何も。”

 

「そうですか…」 そう聞いて、振り返って机に向かった。 キャビネットを開けて、タブレットを取り出す。「ここに、連邦生徒会長が残していったものが保管されています。」それを手に取り確認し、安堵してため息をつく。 「幸い、傷一つなく無事ですね。」

 

そして、俺にタブレットを手渡した。俺はそれに特徴的な部分がないことに気づき、リンは続ける。「受け取ってください。」

 

俺は受け取り、回しながら呟く。

“タブレット?”

 

「はい。」

「これが、連邦生徒会長が先生に残した物。『シッテムの箱』です。」

 

名前を聞いてこみ上げてくる笑いを押し殺し、ISACはタブレットを調べ、リンが送ってくる情報を表示し始めた。「普通のタブレットに見えますが、実は正体の分からない物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みのすべてが不明。」

 

“分解しようとは思わなかったのか?”

俺は尋ねながら、タブレットをそっと横に置く。

 

「事前に把握できていれば、そうしていました。ですがこれを初めて知ったのは連邦生徒会長が失踪した日の朝でしたので、どうすることも…」とリンが答える。その言葉には苛立ちが滲んでいる。

 

“なるほど。じゃあ、このタブレットで俺はタワーを制御できるっていうことか?”

俺はそう問いかける。

 

「その通りです。私たちでは起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか、それとも……」

リンは言葉を濁す。その先を想像することすらためらっている。

 

俺も想像したくはない。

 

タブレットを落とさないようしっかりと握りしめた。

 

「…では、私はここまでです。ここから先は、全て先生にかかってます。」リンは歩きながら言った。

 

“もういくのか?”

リンが振り返ると、俺は少し戸惑いながら聞く。

 

「邪魔にならないように、離れます。」そう言って階段を上り、ドアを閉めた。…俺とこのタブレットに全ての希望を託して。

 

沈黙が続く中、俺は大声でこう聞く。

“何か分かったか?”

 

A ハッキングによるアクセスは出来ませんでした。厳重にロックされています。
とISACは言い、詳細が表示されていく。
A リンの言った通り、このタブレットについては未知数です。起動すれば詳細が分かるかもしれません。

 

皮肉に違いない。でも、それ以外に俺には何がわかる? 俺はそこまで社交的な性格ではない。

 

シッテムの箱の電源を入れると、青い画面にSの文字が浮かび上がり、システム接続パスワードをご入力してくださいという文章が表示される。数秒後、ホログラムで表示されたキーボードが現れた。

 

“おお…すげぇな…こういうのはデコイSHDテックぐらいでしか見たことないな。”

そう驚き、Aボタンを押すと、スクリーンに文字が表示される。そして次々とタップしていく

 

エンターを押したが、パスワードが違いますと表示されて、イラついて舌打ちをする。

 

“ISAC、いけるか?”

信頼できるAIに尋ねる。

 

A 無理です
AIは俺をがっかりさせた。

 

“そうか…”

 

A エージェント、手が動いています
と、ISACが指摘するも、俺はまばたきをして指に目を落とし、最後にエンターを押す。

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

 

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

え?

 

自分がどんなものを入力したかを把握する前に、受理を確認する言葉がポップアップで表示された。

 

「シッテムの箱」へようこそ、マテオ先生。

 

何かをタップする前に、ISACがイヤーピースを通して声を発した、

A ECHOを検出。データ源はタブレットのようです。アクセスしますか?

 

周囲を見回しながら瞬きをする

“ん?どこだ? …あっ”

ドアを見ながら、言葉を濁した。いつものオレンジ色のエコーが青とオレンジ色に交錯し合うものへと変わり、顔をしかめることになった。

“これ大丈夫なヤツ?”

 

生体認証及び認証書作成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します。

 

文章が現れたタブレットに目をやりながら、視線はドアに戻った。ドアに手をかけて、開く前にECHOを起動させた。

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