The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.19-02 シャーレ

シャーレオフィス内、俺はスズミへ計画についての説明を終え、彼女は短く唸りながら、ホワイトボードに磁石で貼り付けられたD.U.の地図を見る。「確かに犯罪件数は低下するかもしれませんが、増加してしまう可能性も否めません。中継地点(ノード)を巡って不良間にて戦闘が発生してしまうかもしれませんし、シャーレのネームバリューを利用して正当化や締め出しを行う可能性もあります。それにターゲット層ではない方たちが悪用して、そこから苦情も発生すると思います。」

 

“苦情が来るということは、恐らく苦情を出している奴らは生徒たちを苦しませて利益を得ているということになる。”

そう指摘する。

“それに、縄張り争い(テリトリーコントロール)は大得意だ。”

D.C.、ニューヨーク、ニュージャージー等々…何回もやってきた。ローマーも何回か倒して道を綺麗にしたこともある。

 

「ですが…かなりリスクが高いです。」とスズミの赤い瞳は心配そうに俺を一心に見つめていた。「もし失敗すれば、シャーレは非難の嵐にさらされ、先生は大勢の方の怒りを買ってしまうことになります。それでも…」と言葉はそこで途切れる。その懸念についてはしっかりと理解している。

 

俺のアーマーや技術、SHDネットワークやSHDテックにアクセス出来るISACやアロナのシールドがあっても、俺は撃たれ弱い人間だ。まぐれの一発でも、一歩踏み間違えても、そしてたった一言の失言でも俺は一瞬で命を落とす。確かに失敗すれば大勢の人の怒りを買うことになる。そして俺を殺そうとする人も出てくるだろう。

 

故郷に戻ったようだ。

 

“こういうのは初めてじゃない。”

肩をすくめて、スズミの興味深そうな視線を無視する。

“ただ俺が責任をとって皆がそれを使えるようにするだけだ。それに、これはD.U.内だけでやる。”

 

D.U.──偶然にもD.C.と異なるつくりだが、D.C.よりも僅かに広い。だがD.C.でやっていたような移動方法であれば特に問題ない。更に遠くとなれば少し難しくなるが、それでも大丈夫だ。

 

「なら…」と不安、怒り、諦めといった様々な感情がスズミの顔に押し寄せる。「パトロール隊を結成して、時間がある時にはそれを悪用しようとする不良集団を対処するというのはどうでしょうか。」

 

“もちろん、こんな大規模なプロジェクトを始めてしくじれば逃げるようなことはしない。”

確かにエージェントとして駆け出しの頃はそうして挑戦して完全な失敗に終わったこともある。だが今の俺は年を重ね、賢くなり、経験も…

 

そう、屋上のヘリパッドに行ってリーダー格を全員狙撃することだって出来る。

 

「それなら、一度ユウカさんへ相談することを提案します。私からはあまり意見ができませんので。」

 

“俺が初めてならまずはユウカに予算や費用対効果の増やし方について口うるさく言われることになるな、それに…”

言葉を濁せば、スズミの目が大きく見開かれると理解したかのようにうなずく。

 

このプロジェクトはまさしく会計が見る悪夢だ。目に見える形での収益が見込めず、シャーレの予算、特にセーフハウスなどのSHD関連のプロジェクトに割り当てられた予算を圧迫してしまう。コスト削減を試みた場合、逆効果になってしまうだろう。

 

「ハスミ先輩が…?」とスズミに尋ねられるが、俺は首を横に振る。

 

“正義実現委員会のことだが…”

正義実現委員会に対しては特に恨みは持っていない。警察に対する嫌悪感があっても、それは腐敗した奴らだけに向けている。だが──

“やらせるわけには…”

言葉が詰まる。考えをうまく言葉にできない。

 

正義実現委員会は物事を白黒はっきりとつけたがる。特に正義に関わることになるとそうだ──それ自体は悪いことではない。彼女たちは警察だ。犯罪者を逮捕するのが仕事であって罰を与えることではない。地域の治安と生徒たちの安全を守ることが役割だ。

 

ハスミは同意したよう見えていたが、短期的な悪影響については懸念していた。そのことについては疑いようがない。プロジェクト開始初期は多少なりともD.U.内にて問題が発生するが、その時は俺がなんとか沈静化させる。だが長期的に見れば、生徒たちは人生において極めて重要な要素を二つも得られることになり、非行に走る人数が少なくなるだろう。その効果が表れるまでにかかる時間は、また別の問題だが。

 

自ら望んでいない状況の最中にいて、自らの責任で窮地に陥った人々のためのセーフティネット。

そして、現状を打破するチャンス。

 

“それに、ハスミの物の見方は俺が求めているようなものではない。”

ようやくそう答え、スズミは不思議そうに首をかしげる。

“それでも相談はしておく。”

結局のところ警備面では正義実現委員会の助けがいる。

 

「チナツさんもですか?」と尋ねられ、俺は数秒間考え込む。

 

“いや…違うか…?”

チナツなら問題ない"はず"だ。風紀委員会の衛生兵だから、主に負傷者の対応について気にかけるだろう。

“どちらかというと…治安維持に関する柔軟な視点が必要だ。”

 

実際、俺が出会ってきた組織の中で、トリニティ自警団は科学技術が使えない以外はディビジョンと非常によく似ている。

 

“このプロジェクトは自身の行動を省みない者や、官僚や公務員といった特定の立場からの視点に固執する者のためではない。”

手を動かして、言葉を選びながら説明を試みる。

“これは二度目、三度目、四度目と…俺が出来る限り与えられるような、皆が必要になるチャンスになるものだ。”

 

辛い──本当に様々な事が出来るのに、それでも手が届かない事がある。俺はアメリカ全土に相当する規模の都市の先生であり、数多くの生徒たちを抱えているが、それでも生徒全員には手が届かない。だから出来る限りの範囲で最善を尽くすしかない。そのためならば厄介事を何個か対処することになっても構わない。

 

スズミの表情が変わり、目を大きく見開く。とても驚いていて、同時に尊敬の念もあった。「先生…」

 

スマートウォッチを横目で見ればホログラムの針が時刻を指していた。

“そろそろ梅花園が来るみたいだ。長時間付き合わせることになってしまった。”

 

つい手を伸ばしてスズミの銀色の髪をそっと撫でる。片方しかない頭の翼が羽ばたき、頬は微かに赤くなる。一通り満足すれば手を離し、校内にある待ち合わせ場所へ向かう。さっきの案を共有し、把握していた問題点に対する意見もいくつか貰ったおかげで、どこか気が軽くなれたような気がした。

 


 

「先生…」言葉を途切らせ、バッグを手に取り肩に背負い、ズレを直すマテオの後ろ姿を見送る。オフィス内には彼女だけが残っていた。

 

彼が大人だということは事実として理解していたが、ここまで切羽詰まっている姿を見た覚えはない。まるで全ての生徒に対して十分な対応が出来ないことを、心の底から苛まれているようだった。

 

彼のような状況下に置かれた自警団員はいない。だがまだ挽回が可能な不良に手を差し伸べるべきだとは思わない者もいれば、数多くの問題を前にして自分自身の限界に耐えきれられない者もいた。やがて前者は暴走し、後者はすぐに辞めてしまうか燃え尽きてしまうだけだった。かつての彼女も前者のような存在だった。

 

大多数の者にとっては、銃というのはあらゆる問題の解決策となる。だがマテオは…

 

その先を見据えている。あらゆる手を使ってできるだけ多くの生徒を助けたいと願いながらも、同時に自身の限界も理解している。これは彼の責任ではなく、同時に誰も全生徒を助けてくれることは期待していない。だがそれでも、彼の努力は継続されている事実こそが…

 

素晴らしい。

 

彼女は地図を見やり、ノードとなる地域をスマホで撮影する。

 

責任…責務…

 

「私もまだ未熟ですね…」と彼女は独り言を呟く。スマホをしまい足取り軽くその場を後にする。

 

一生懸命に働く先生の姿を見て、彼女自身も手助けをしたくなってきたからだ。

 

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