The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.19-03 シャーレ 駐車場

そうだ、相手はただの子どもだ。いつものように、笑顔を向けて優しく接して、そしてちょっとだけおちゃらける。

 

外に出る前に、一歩下がって手櫛で髪を後ろにとかす。帽子は付けておらず、ホワイトボードに映った姿を見ながら少し形を整える。そして眉をひそめる──首の左に彫られているSHDの象徴である不死鳥のタトゥーが目に入ったからだ。

 

特に言われたことはないが、子どもというのはとても素直で、大抵驚かれるか興味を惹くことになる。

 

別に大きな問題にはならない。外に出たら、笑顔を向けて、できることを子どもたちに見せるだけだ。

 

地元にある公共図書館への校外学習と同じようなものだ。

 

小さな笑顔を顔に浮かべて駐車場に向かえば、ちょうど子どもたちがバスから降りるところ──

 

膝をついてゴミ箱の陰に転がり込む。イヤーピースを付けていてもガラスが割れる音と風切り音が耳に響き、頭の中ではいくつもの考えが出ては消える。

 

カイザー?いや、それならISACが警告してくれる。誤射?そんなはずがない。確かに銃を持った幼い生徒を見かけたことはあるが、それでもきちんと扱っていた。ならそれ以外の誰かが?それなら胸がざわつくか、首根っこが引かれる感覚とかの違和感を覚えるはずだ。少なくとも身を屈めろと瞬時に察知できた。

 

「わー!」

 

「はっやーい!」

 

「すっごーい!」

 

「もっかーい!」

 

「こら!」と子どもたちを厳しく叱りつける大人の声が聞こえる。その声で身震いするような現実を痛感した。

子どもはクールで面白いものが好きだ。俺がピストルを素早く構えられるようになったのは、あるエージェントが弾が入っていないピストルで遊んでいる光景を興味深く見ていた子どもがきっかけだった。そこから俺は練習を重ね、やがては実用的なスキルへと昇華した。

 

とはいえ、エージェントとして俺が世話をしていた子どもたちは、銃が危険なもので人の命を奪うものだと理解していた。それでも昔のガンマンのように素早く正確に銃を抜いて撃つ姿に魅入られていた。

 

ここの子どもたちは光輪(ヘイロー)がある。銃で撃たれても傷つくだけで、俺だと確実に死んでしまうような弾でもいたずらされたようなものになる。だからこそ、撃たれた時には殺意を感じなかった。

 

つまるところ、子どもたちは新任の先生へいたずらをしているだけにすぎない。

 

それでも、ため息と共に一歩踏み出して運命に備える。

“まあ。”

マスクでくぐもった声で呟く。

“賑やかだったな。”

 

一歩一歩踏みしめる度に、まるでライオンの縄張りに入っていくように感覚に襲われる。アロナのシールドが身を守ってくれるのにも関わらずにだ。それでも俺は先生、もしくは先生とISACが表示した二人へ近づくと、ある考えが浮かび上がる。

 

シュンはまだ生徒であるよな?本当に、"豊満"という言葉を体現しているかのような体型だ。今にも泣き出しそうな子どもを厳しく叱っている最中だというのに、その体型が強調されている。一方…

 

視線は子どもたちの中で一番年下の少女へと移る。頭上のヘイロー以外は小さいシュンみたいな姿で、耳の形も

シュンとほとんど同じだ。そして絶えず俺を見ている。ISACによれば春原ココナも教官の一人であるが…

 

シュンの年齢がまだ表示されていない。詮索しない方がいいということだろう。だが三年生と表記されている。

 

大学生か?

 

そして子どもたちを教えている。こんな服で?

 

確かに俺もあえてひどい格好をしているし、それにマスクもつけているから人のことを言えないが…

 

どうしても目のやり場には困ってしまう。

 

ようやく、シュンは今にも泣き出しそうな子どもの手を取る。「こんにちは先生。ようやく実際にお会いできて嬉しいですが、このようなことになってしまって申し訳ございません。」

 

その子は鼻をすすって、「ご、ごめんなさい…」と泣きたい気持ちを抑えようとする子どもがやる唇を尖らせた様子に、俺の胸は締め付けられる。

 

腰をかがめ、幼い少女は服の裾を握りしめながら目をそらしていた。今にもこぼれ落ちそうな涙で瞳が潤んでいる。俺が手を伸ばせば目を閉じた。

 

「え?」とその子は鼻声で呟く。俺はその鼻をつまみ、優しく引っ張る。「わーっ?!」と鼻声で言って戸惑い、その鼻から手を放して彼女の頭に置けば、ついつい笑ってしまった。

 

“気にしないでくれ。皆いたずらを楽しんでいるだけで怒るわけにはいかない。だが…”

言葉を濁し、微笑めば子どもが身構える。どうやら勘はまだ鈍っていないようだ。

“この子はいたずらしてもいい場面かどうかの分別はついている。君がやったいたずらは誰かを傷つけるかもしれないし、もし傷つけてしまうと君は俺とシュンをなんとかしないといけなくなるぞ。”

 

その子は必死にうなずいて理解を示し、目には恐怖を浮かべていた。その子に視線を向けられたシュンはただ笑う。そして俺の言葉を肯定も否定もしないまま、子どもは緊張で喉を鳴らした。

 

「わ、わかりましたせんせい。ごめんなさい。」と人を怖がらせる時の圧を俺が発する前に、その子は素早く頭を下げて謝る。

 

俺はうなずいて、他の子どもたちに向く。さっきの子どもは放して、目を閉じてマスクの下で微笑む。

“梅花園の皆こんにちは。シャーレの顧問をしているヴェルネス マテオだ。先生でいいぞ。みんなよろしく。”

 

こうして自己紹介を終えた俺は、これから忙しくなる一日に向けて覚悟を決める。

 


 

子どもたちが入り口周辺でうろうろしながらおしゃべりしたり、ただ走り回ったりしている間に、ようやくシュンとココナと話ができた。「先ほどについては本当に申し訳ございませんでした。」とシュンが頭を下げ、ココナも同じように下げた。俺たちは会議室の二つの入り口を隔てた奥の部屋にいたのでその様子は誰にもはっきりと見られることはなかった。そう…シュンが謝ったときに動いた"それ"に、俺の視線が引き寄せられていたのも見られていなかった。

 

“さっきも言ったように──”

そう言って両手を挙げる。

“大丈夫。本当に大丈夫。この通り、怪我はしていないから心配しないでくれ。”

 

「ですが…」とシュンは言葉を濁し、不安なままため息をつく

 

“個人的には同じ先生に会えただけでも嬉しい。”

そう伝えると、二人ともリラックスして小さい方は胸を張って誇らしげになる。シュンは何かに気づいたのか軽く笑う口を手で隠した。

 

「同感です。ですが私たちは生徒ですので、どちらかといえば先生に教えられる側です。すでにご存知ではありますが、山海経高級中学校三年、春原シュンです。」そう言うとシュンはお辞儀をする。「梅花園の教官も勤めております。よろしくお願いしますね、先生。」

 

“心を奪われてしまったようだ。”

そう返せば、彼女の頬がかすかに赤らむ。

“もっと早く出会って、勧めてくれたお茶を一緒に飲みたかった。”

 

「いえ、大丈夫です。いつもお忙しいと聞いておりましたので、こうして準備ができたこと自体が奇跡のようなものです。」とシュンは言い、俺は肩をすくめて小さな少女へと向く。

 

「は、初めまして先生。」ココナは声を震わせながら胸を張る。「春原ココナです。山海経高級中学校一にぇん!?」と手を上げると、俺は素早く腰をかがめる。

 

“大丈夫か?”

そう優しく声をかける。ココナは唸りながら両手で口を押さえ、舌を出して見せる。

 

「ひたかんひゃっは…」と俺がその様子を確認していると、肩越しにシュンが覗き込む。

 

そして、俺は優しく肩をたたく。

“大丈夫だな。気を付けるんだぞココナ。”

 

「ココナ教官です!」と頬を膨らませて言い返されて、俺は思わず笑ってしまって髪をくしゃりと撫でる。エージェント時代、自分と同年代か年下の子どもたちを教えていた頃を思い出す。名前だけで呼ばれても気にしていなかったが、おそらくは文化の違いだろう。

 

“わかった。”

そう言ってまた軽く笑うと再び頬を膨らませた。

“ではココナ教官。気にならないことに対する謝罪の他には何かあるのか?”

俺は立ち上がり、壁に寄りかかって腕を組む。

 

「特にありませんね。」とシュンが頬に指を当てて答える。「すでに予定表は頂いていますが、ただ時刻が記載されていなかったのが気になりまして…」

 

“子どもたちにストレスをかけたくないからだ。”

正直に答えるが、全てを話すわけではない。俺がやってきた"校外学習"以外は普通、それほど長くもなく面白くもなかったため、普段は自分の直感と他の生徒たちの意見を参考にしていた。

“まず歩き回って、子どもたちにエリアの様子を見せて、将来役立つものを色々と見せて、最終的には自由行動をさせる。”

 

「本当にいいんでしょうか…」と顎に手を当てて心配そうに言う。「いつもは天使のような子たちなのですが…」

 

“自由にさせるとなると困ったちゃん(ヘルレイザー)になると?”

幼い子どもたちとのやり取りを思い出す。多くが身近な人を亡くしているから全体的に内向的になっていたからあまり良い思い出ではない。だがそれでも時折トラブルを起こすことがあった。

“でも、常に動き回らせるよりかはそれぞれのペースに任せた方が良い。自由に質問させてあげよう。”

 

「おー…流石ですね…」とココナはうなずき、シュンは軽く笑う。

 

「まあ、先生がそうおっしゃるのでしたら、早速始めていきますか?」シュンがそう言って歩き出そうとすると、俺の理性と本能が連動して何か違和感を捉え、彼女の肩を優しく掴む。

 

“こっちのドアから行こう。”

そう提案し、彼女を優しく引き連れてシャーレのメインエリアへ通じるドアから通り抜ける。

 

するとなんということだ。そこにはまるでクッキーを盗んだのがバレたかのように子どもたちが振り返り、俺たちが入ってきたドアにはスモークグレネードが括り付けられた紐が仕掛けられていた。そして子どもたちは距離を取りながらその周囲に集まっていた。残念ながら、その顔は困惑に満ちていて、ドアと俺たちの間を目で行き来していた。俺はため息をつく。

 

何気なくサバイバルナイフを取り出し、鋭い刃で紐を滑らかに切り、すぐにしまってスモークグレネードを外す。

“ナイストライ。没収。”

 

本当に、ここの子供はとても手強い相手になれる。とはいえ以前とそう変わらない。

 

たとえいたずらが好きだとしても、笑顔の為なら我慢できる。

 

それに、今の俺には子どもたちを叱らなればならない責任はもっていない。

 

だからココナが叱っている間、シュンが一列に整列させる。俺は整列を終えるのを待ちながら見守っていた。

 

そうして整列すれば、俺は話を始める。

“さて、みんながここへ見学しに来たのは、いつかここを使うかもしれないからだ。そのため、守るべきルールはある。だから楽しい時間にできるように、協力をしてほしい。”

 

あまり反応が返ってこなかったが、次第に興味を失いかけている様子だったので続けて説明する。

“まず一つ目、自分で汚したものは自分で綺麗にすること。二つ目、生徒なら一部以外はどこでも自由に入れる。最後に、シャーレのドアはどんな学園でもどんな学年でも部にも関係なく誰にでも、いつでも開いている。だから何か必要になったら気軽に来てほしい。”

 

「はーい!」と子どもたちは声を揃えて返事をし、俺は思わず微笑む。

 

“では──”

立ち上がる。

“ツアーを始めよう!”

 

こうして、数時間の予定となるとても充実したツアーが始まった。

 

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