図書館については言うまでもなかったが、それでも教科書系の本がほとんどだったのか子どもたちは興味を持っていなかった。
そしてパソコン室や自習室、射撃場や公共のワークショップを案内して、最後にプライベートルームを見学させる。ここでは音楽や勉強等、趣味や学術に関する目的なら誰でも自由にレンタル出来る。
“以上が──”
笑顔で、さっきよりも落ち着いて締めくくりに入る。
“シャーレの施設だ。オンラインで申請するか直接申し込めば、ほとんど施設は基本的には自由に使えられる。これでシャーレの見学は終わるが、何か質問は?”
部屋や図書館での"いたずら"がこれ以上されなければいいのだが…
被害は大きく…
煙も大量で…
そしてブーブークッションが数個…
"俺"がしなければならない書類が大量に舞い込んでくる。他の部署やメカニックたちがやるものではなく、俺がやるものが。
まあいい。周囲を見渡しながら質問にいくつか答えると、バスが外で待機しているとISACから連絡が入る。シュンもそれに気付いたようで、前へ歩き出す。「では皆さん、今日はここまでです。」と彼女が言えば、子どもたちは不満の声を上げて、シュンは軽く笑う。「まあまあ、先生は忙しいですから、あまり迷惑をかけないようにね。」
“あと、ここは誰でも自由に入れる。いつでも好きな時に来ても構わないし、もしかしたら俺と少し話したりすることもあるかもしれない。だがら遠慮せずに来てほしい。”
『はーい!』と子どもたちが返事をすれば、一人が手を挙げて俺はその子に指差す。
「おやつ買ってもいいですか?」とその子が尋ねれば俺は思わず笑顔になり、シュンとココナに向けばシュンは軽く笑い、ココナはどこか興奮していた。
「さあどうでしょう~」とシュンは自分の頬に指を当てる。「皆さん、今日はお利口さんでいられませんでしたからね…」と続けて言えば、子どもたちは明らかに落ち込んでいって、それが面白く感じられた。
“いいと思うぞ。ちょっとしたいたずら程度で厳しく罰するつもりはない。”
そう伝える。シュンが厳しく接してくれて助かった。というのも、俺が思い浮かぶしつけというものは体罰に近い。そのせいかいつも子供たちへの指導に苦戦していた。大人と関わる方が多かった影響もある。それに、休憩中にリラックスしている姿から時々マリファナをキメてると誤解されることもあった。特にD.C.でケルソと話してからは特に多かった。
そうして、子供たちは歓声を上げてエンジェル24へ向かう。ありがたいことにISACが事前にソラへ警告を送っていたおかげで、俺は先生二人と待つことになった。
“何かいるものはあるか?”
「いえ、お気持ちだけで十分です。」とシュンが答え、ココナも姉に続いてうなずく。「あの子たち、いつもよりもやんちゃでしたので少し不安になっていました。」
まったく、子供たちのいたずらのせいで、比喩ではなく文字通りエージェント時代に立っていた戦場へ連れ戻された気分になった。"いたずら"のいくつかはエージェント時代で一番辛かったこと──意味のない人死にや俺が犯した残虐行為をはっきりと思い出してしまった。
つまりは沢山の子どもたちの頬を引っ張ることになり、また何回かは脅す時に出す先生の声にならなければなかった。
“大丈夫だ。”
手を振る。たとえ内心では納得できていなくても、それはほんの一瞬のことだけで、別に気に留めるようなことではない。
“ただ新しいことで夢中になっているだけだ。だから怒るわけにはいかない。”
「先生みたいに寛容な方ばかりなら良いのですが…」とシュンは微笑みながら少し困っていた顔になる。「ただ子供らしくいるだけで叱る大人の方が少なくなくて…私としてはあまり喜ばしくはないことなんです。」と不満げな表情を浮かべ、かすかに危険な色を滲ませていた。
「そうですよ。」とココナが口を挟み、姉の真似をしようとするがうまくいかず、可愛いらしい仕草になって俺は思わず手を伸ばしてココナの髪をくしゃりと優しく撫でる。「ちょっと!」とココナは俺の手を振り払う。
“分かった分かった。”
俺はその手を腰に当てる。
“すまない。”
そう言って視線をシュンへ見やる。彼女の視線が一瞬俺の手に留まり、その後ココナは胸を張った。
「ありがとうございます。レディに対してとっても失礼な行為ですが、今回は特べ──え?」と途中で言葉が止まる。俺がシュンの頭に手を置けば、その黒髪の女性は驚いてまばたきを繰り返していた。
“二人共、本当によく頑張っているな。”
そう言って髪を優しく撫で、シュンは驚く。
“ありがとう。”
シュンは頬を赤く染めたまま上の空になって、ココナは俺と姉を交互に見て困惑していた。
“では俺は子どもたちの様子を見に行く。出来れば──”
本能的に、エンジェル24の方向へと身を強張らせる。ISACはエンジェル24内部を、グレネードや爆発物の範囲を示す時に使う赤色で表示する。そして俺はココナと気を取られているシュンを引っ張り、壁を遮蔽物にして隠れる。二人が困惑するが、一瞬にしてエンジェル24の窓ガラスが吹き飛ばされる。
直後、区画全体で連鎖爆発が発生する。焼夷グレネードによる爆炎、白リン弾による白い煌めき、スモークグレネードによる煙、閃光弾による閃光、そして銃声が爆発するたびに発生する。
その時、子どもたちの悲鳴が響き渡り、俺たち全員が一斉に駆け出す。
“アロナ、セナを呼んで──”
「先生!」と無数の弾痕が残るエンジェル24からセリナの声が響く。そしてソラが疲れた様子で姿を現す。どうやってここに?最初からいたのか?
「何ですか──!?」
「誰──!?」
“やっぱり君だったのか──!”
「私じゃ──うわっ!」
建物内で銃声が響く。罵声が更に火に油を注いでいく。
“クソッ、セリナ、ここで待機してシュンとココナの支援と子どもたちの面倒も見てくれ。”
レキシントン、ホロサイト、コンペンセイター、ハンドストップがついたそれは任務の報酬として貰った損傷した部分を除いては最高級のM4──それをゴーバッグから取り出す。
“アロナ、内部連絡へ繋げてくれ。”
| S 分かりました。 |
“シャーレにいる皆さんへ、手持ちの武器を下ろしてください。”
俺の声がシャーレ内へ響き渡る。
“いたずらが失敗しただけなので、ご心配なく。”
幸い、多少ではあるものの銃声は収まった。
思わずため息をついてしまう。少なくともセナはもう向かっている。
“最後の警告だ。撃ち続けている者には厳格な対処を行う。”
あと数人、だがそのうちは…
重い銃声が途切れ途切れ聞こえると、一気に静かになった。俺が設置したセキュリティシステムが上手く機能し、ISACもうなずく。
“よし。この件に関してはこちらで処理しますので、皆さんは落ち着いて避難をしてください。”
そしてため息をついて振り返ると、シュンとココナが既にボロボロになったエンジェル24へ向かっていた。
“ISAC、アロナ。”
| A ラジャー |
| S 分かりました先生! |
そこへ向かう途中、壁に取り付けられた消火器を持つ。スキャンテックには、次々と身体の輪郭が浮かび上がる。
消火器を横に置いて、子供を一人抱き上げ、もう一人の手を取る。
“さあ、早く!”
入り口まで誘導し、押し出すようにして外に出す。そして梅花園のグループへ連れていく。
シュンとココナも子どもたちを引き連れて外に出て、俺はその後を追う。ココナはその場に残って残りの子どもたちをまとめて出来る限り落ち着かせようとする。俺は消火器を持ってしぶとく燃える炎を消化し、シュンは子どもたちの避難を手伝う。
二人は何度も出入りをして、気を失った子どもたちを見つけては運んでいけば、全員無事であることを確認した。
「先生!一人いません!」とココナが叫ぶ。シュンは大勢の園児たちを引き連れて、俺もその後に続いて外へ出ようとする。
そして小声で悪態をつきながらスマートウォッチをタップする。
今見たものが確信する前に身体が動く。熱気は蒸し暑くなり、エンジェル24の白色だった部分は汚れていて、気付けばワシントンに戻っていた。そして隣にはグレネードと負傷した兵士──俺の心が兵士と間違えていた子供を、俺の身体が庇う。
グレネードが爆発し、耳鳴りと共に身体全体に痛みが走り、脚には重い衝撃が伝わってくる。だが胴体への衝撃はターディクレイドが受けていた。
アロナは泣きわめいていたが、ISACは特に動じていなかった。HUDにはグレネードのダメージが表示される。「ターディクレイド」アーマーシステムが頑丈だったおかげか、破片や衝撃を受け止めてくれて耳鳴りだけで済んだ。
“神よ…”
そう呟くも、握られるものをとにかくしっかりと握っていた子どもの手を見て口が止まる。
声は聞こえないが、唇の動きから言っていることが伝わってくる。何回も何回も謝っていた。頬は涙が伝っていき。鼻水が流れている。当然のことだ。ここの子どもたちはちょっとしたいざこざをなんとかするための武器を持ち歩いている。だがこのような大惨事になってしまえば、記憶に残っていく。
“さあ、立つぞ。”
声をかけて、一緒に立ち上がる。するとその子は転びそうになったのでそっと支えると、その子のふくらはぎには深い切り傷があった。
ここまでの規模の爆発や轟音が次々と発生した、結果として大混乱になったとしても、彼女たちは切り傷一つだけで済んだ。
おかしな話だ。それでも、俺はその子を抱えながら立ち上がり、そしてその子は俺にしがみついたままで、エンジェル24から出る。
そして外ではシュンとココナが俺の方へ振り向いていた。「先生!大丈夫ですか!?」とシュンが声をかける。幸いにも耳鳴りは収まっていった。
“俺は大丈夫だ。”
そう答え、子どもの方に向き直る。
“だがこの子が…”
周囲の視線がその子に集まれば、シュンはすぐに俺からその子の手を離そうとして、セリナはその子の脚の手当てを始める。
結局のところ、無理に離すよりもそのまましがみつかせた方が良く、手当てはスムーズに終わった。