The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.19-06 シャーレ

「本当に申し訳ございません!」とシュンはココナと今にも泣きそうな子と一緒に頭を下げる。その子はとっくに俺の手を離していて、俺の困惑をよそに梅花園の皆のところへ戻っていった。

 

「この子のせいでこんなことになってしまって…」とすぐにシュンが説明をすれば、その子は身を震わせる。

 

「そんな…つもりじゃなかったもん。」その子は泣き声でそう言う。「ちゃんと安全レバーをにぎってからピンを抜いたのに、そしたらいきなりどかんってなった。そもそもピンなんて抜いてないのに、どかんってなったから手榴弾が壊れてたの。事故なんだもん。手榴弾はカイザーので、安かったからお菓子と一緒に買った。ごめんなさい。」

 

ターディクレイドとアロナがグレネードの破片を防いでくれたおかげで、俺の怪我は軽傷で済んだ。ホログラム姿のアロナが俺を見ようとしないことから、どうやらアロナの中では納得がいっていないようだ。

 

“大丈夫…か?いや、大丈夫じゃないな。”

つい尋ねそうになるも、慌てて言い直す。ため息をついてその子の方へ向けば、また身を震わせていた。

 

こういうのはずっと苦手だ。特に子ども相手の場合はなおさらだ。大人の集団ならいいが、何も知らない子どもたちに怒りをぶつけられない。それにカイザーの製品に不具合が起きる可能性は十分にあり得る。だからただの事故だと考えると怒りに怒れなかった。

 

“なあ。”

俺はそう言って、身震いしたかわいそうな子の前に膝をつく。

“こっちを向いてくれ。”

 

その子はただ顔を背き、しばらくするとシュンが向けさせようとするが俺は首を横に振ると止まる。その子の涙ぐんだ瞳が俺の顔を見るまで待つ。

 

手を伸ばして、グローブをはめた手で優しく涙を拭く。

“確かにいけないことをした。でも怪我をしたのは数人だけで、それでも誰も大怪我をしていなくて、一人だけが血が出ていたのは奇跡だ。”

 

その子はうなずき、俺は恥ずかしさを感じながら続ける。

“自分の行動で周りがどうなるかということをしっかりと気を付けてほしい。いたずらをするのはいい。でも君がやったいたずらは…”

 

正直、今言ったことは俺の道徳観と矛盾している。誰が爆発物なんかでいたずらを仕掛けるんだ?

 

だがそれでも、この世界では何かしらの防護がない俺よりもずっと頑丈な人が暮らしている場所だ。

 

その子は泣きながらうなずくと、俺は思わず微笑む。

“大丈夫だ、俺はそんなに怒ってない。山海経に戻ると、きつく叱られることになるが、でも覚えておいてほしいことがある。”

肩を優しく掴み、目を合わせる。

 

“ほんの小さなミスのせいでとんでもないことになることがある。建物や、商品のことはどうでもいいんだ。でも君のことはどうでもよくない。危うく怪我をするところだったからだ。”

その子の目は見開かれる。

“君のお友達ももしかしたら怪我をしていたのかもしれない。実際に一人怪我をしてしまった。”

そしてその事実に気付いたその子の目は、更に大きく見開かれる。

“どうなってしまったのかは、実際に見ただろう?それに君たちは俺よりもずっとタフだ。まだ幼いから、間違ったことをした。その間違いで、君のお友達には血が出た。俺は君を許す。だが君のお友達はどうだろう?”

 

その子の顔はすぐに青ざめていき、理解した瞬間に顔を強張らせる。そしてその子はシュンへ向くと、俺を必死に見つめていたシュンの表情はわずかに和らぎ、そして俺の方へむく。

 

俺はこれ以上何も言わず、そっと頭に手を置いて軽く撫でる。

“俺からの説教はこれで終わり。後はシュンとココナからしっかりと られて、そしてお友達にごめんなさいって謝らないといけない、だろ?”

 

そうして、その子は離れていった。俺はシュンと二人きりになる。セリナは…気付けばいなくなっていることを考えると、多分どこかにいるはずだ。

 

「改めて、この度は本当に申し訳ございませんでした。」とシュンが申し訳なさそうに頭を下げるが、俺は思わず笑う。

 

“さっき言った通り、大丈夫だ。”

手を横に振る。

“別に大怪我を負ったわけでもないし、子どもたちの体調もセリナとセナが確認してくれた。”

 

シュンの動きが一瞬だけ止まる。そして困惑したように受け入れているのが目から分かった。

「セナさんが駆けつけてきたのは分かりますが、セリナさんは…確か救護騎士団でしたよね?」

 

俺も一瞬言葉を切り、眉をひそめる。

“最後に確認した時はそうだった。それがどうした?”

 

「いえ、特に何も。救護騎士団の方たちは素晴らしいのですが、団長と一緒ではなかったのが不思議に思いまして…」とシュンは言うも、俺は困惑する。

 

“つまりどういうことだ?”

そう聞くと、シュンは照れくさそうに笑う。

 

「団長…ミネさんと実際にお会いしてみると分かるかと思います。決して悪い方ではなくて、素晴らしい方なんです。だからこそ、このような大事になったとしても来なかったのが不思議に思いました。別にセリナさんのことを悪く言っているわけではなくて、ただ…」

 

ミネ…

 

スキャンテックが光れば、シュンはそれに興味を示す。そして俺の目の前には蒼森ミネのファイルが表示される。

 

ざっと読めばシュンの言いたいことが分かった。救護騎士団団長は考えるよりもまず先に動く人物だ。それについては納得がいく。兵士や警察官とは違い、衛生兵には単純明快な目標がある。それは治療だ。

 

光が消えて、俺は思わず苦笑いを浮かべる。

“実際に会うまでは先入観に囚われないようにしておこう。”

 

シュンは明るい笑顔で応じる。「はい、さすがは先生ですね。」

 

“まあ、そうだな。”

軽く手を振り座っていたソファにもたれかかり、深くため息をつく。

“そう思ってくれて嬉しい。”

 

「それは…」と目を細めて優しい表情になるシュン。「あんなに手がかかるあの子たちに辛抱強く接するのは中々できないことですし、あのようなことが起こった後でも冷静さを欠いていないとなればなおのことです。」

 

“怒らないといけないことがあったか?”

思わず尋ねずにはいられなかった。

“子どもに大人のような振る舞いを期待するのは酷な話だ。それに、梅花園の子たちを るのは俺の役割ではない。”

俺はシュンを見て、マスクの下でいたずらっぽい笑みを浮かべながらウィンクする。

“それは専門家に任せる。”

 

シュンは一瞬だけ瞬きを繰り返した後、頬を膨らませる。「責任を誰かに押し付けるなんて…大人として本当にそれでいいのでしょうか?」

 

俺は思わず笑ってしまう。

“まあ、その方が専門家の邪魔になるよりも良い。俺よりもずっと子供たちと関わっているから、だから俺は専門家に任せることにした。”

 

一瞬だけ、シュンは頬を膨らませた後にため息をつき、肩を震わせて笑う。「そう言われるとその気になっちゃいますね。」

 

ああそれなら──

 

頭の中で浮かんだ言葉を遮るように、俺はデスクの上に積まれた新しい書類の山に目を向ける。

“こういうのが専門領域だ。もちろん──”

そして本来言いたかった言葉の代わりに、こう返す。

“書類もだ。”

 

「まあまあ~」と甘く滑らかな声で独り言のように呟き、少し得意げになった笑みを隠すように口元に手を当てる。「これが…?」

 

“ああ。エンジェル24用の書類だ。既にリニーに電話で色々と言われたから、明日来てしまう前に逃げないとだ。”

そう言うと、シュンはまばたきを繰り返す。

 

「連邦生徒会については良く分からないのですが、すぐに確認しなければならないくらいにリン代理は多忙なんでしょうか?玄龍門でさえも捜査や照会を行う前には必ず告知をするのですが…」

 

首を横に振って否定する。

“いや、生徒会のやり口はこうだ。日時を指定して、書類の処理やまだ処理していない書類をごまかしている隙を突いて予定よりも早くやってくる。”

 

「そうだ、玄龍門なら先生のご滞在を歓迎すると思いますよ。」とシュンは少し興奮気味に提案をする。「玄武商会にとっても素敵なお茶屋さんがありまして、そこのお菓子も美味しくて、よろしければいつか一緒にお茶でも飲みませんか?」

 

“かなり良さそうだな。”

そう答え、少し皮肉な笑みを浮かべて彼女に向く。

“だが今回は遠慮しておく。行ってみたい気持ちがあるが、リンが来る前に片づけなければならないことがあるし、他にも優先しなければならないことがある。”

 

「あら…」とシュンは少し落胆するが、すぐに気を取り直す。「それなら、どこか行く当てというのはあるのでしょうか?」

 

“まあ、二つの学園から要請を受けている。一つは百鬼夜行連合学院でもう一つは…”

言葉を止めて、内容を確認する。

 

“レッドウィンター。”

声に出せば、シュンは納得したようにうなずく。

 

「なるほどですね。先生、でしたら…あっ。」と持っていたバッグから紙を取り出す。「こちらを。」とシャーレの応募用紙を俺に手渡す。「もしもお困りになった時のために…例えば問題児の指導が必要な時や──」とシュンはウィンクをして自分の用紙を見つめる。「書類仕事を手伝ってほしい時に呼んでください。」

 

俺はそれを受け取って確認して、うなずく。

“覚えておこう。”

そして立ち上がって、手を差し出す。

“今日は来てくれてありがとう、春原さん。園児たちにも会えて嬉しかった。”

 

シュンは少し不機嫌そうにしながらも、握手をする。

“まだ三年生ですので、呼び捨てで大丈夫です。それにお招きいただきありがとうございました。”

 

“分かったシュン。だが子どもたちにさよならと言わなければならない。今日はかなり慌ただしかったから、もう寝ているのかもしれないが。”

そう言うと、シュンは微笑む。

 

「きっと喜んでくれると思いますよ。」

 


 

発進する梅花園のバスに向かって笑顔で手を振って見送り、そしてため息を吐く。体を伸ばして背中が鳴れば、うなだれる。

“まったく、いつもよりもひどく疲れた。”

 

A エージェント、体調はどうですか?

ホログラム姿のISACが現れ、俺はその方に視線を向ける。

 

“大丈夫だが、どうした?”

そう答えるが、ISACは意味ありげな視線を向ける。

 

A 校外学習中にて心拍数が一時的に急上昇する瞬間がありました。

そうISACが指摘する。俺は一瞬言葉を失い、子どもたちを見送ってシャーレが敷いた道を眺める。そこには罠や危険なものだらけで、それがないと俺は安心して眠れない。

 

“大したことではない。”

手を振って否定して、ズボンのベルトループに指を通す。

“ただ…まだここのことに慣れていないだけだ。”

 

ISACは真に受けていないようだったが、深掘りをしなかった。

A そうですか。もしもこのようなことが続く場合、専門家への相談をお勧めします。

 

“はいはい。”

曖昧な返事をする。

“じゃ、ソラが早く仕事に戻れるように早く書類を終わらせよう。それにリニーもやり過ごせる。”

 

そうしてシャーレに戻り、オフィスチェアに腰を下ろす。ペンは休むことなく動き続け、深夜までに書類を全部出す。

 

残念なことにその時間帯では電車は出てないし、緊急事態以外でドライバーを叩き起こしたくはない。

 

ここは腹をくくってリンが来る前になんとか逃げるしかない。

 

とはいえレッドウィンターはかなり寒い場所だ。ジャケットと予備の靴下を用意するべきか。それにイワン・クパーラの間に何も起きないというのは到底考えられない。

 

急いで荷造りをして、シャーレの地下で休む。そしてアラームをセットしたまま眠る。

 

どういうわけなのか…最後に見た時のアロナはどういうわけかいたずらっぽい様子だった。

 

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