「ここが──」とチェリノは両手を広げて誇らしげに施設を見せびらかす。「レッドウィンター連邦学園の食事を担っている、給食施設だ!」
“給食は全部ここで作っているのか?”
そう尋ねると、チェリノは誇らしげにうなずく。
「そうだ。給食はここで最高級の食材を用いて作られて、発送される。そしてレッドウィンターの全生徒は皆平等に、同じ量の給食を美味しく食べることが出来て、毎日を健康に過ごせられるのだ。」とチェリノが言う。「他にもあるぞ。」
“他にもある?”
そう繰り返すと、トモエがうなずく。
「はい。レッドウィンターは大規模な学園で多くの生徒が在籍しています。自治区内には様々な施設が点在しており、レストランやカフェは全て偉大なる会長の認可を得て営業をしています。ここの食材は最高級なのは、ただ単にチェリノ会長がここにおられるからです。」と彼女が言えば、チェリノはうなずく。
確かに他と比べて食事が豪華だったのは少し気になっていたが、ISACがフォローを入れる。
| A ご安心ください、エージェント。レッドウィンターの施設はすべて連邦生徒会の基準を満たしています |
“アビドスの事を考えるとそれはそんなに重要ではない。”
そう指摘するとISACはうなずく。目的地まで配給届かなかったことが何度かあったのかと、ふと思う。特にレッドウィンターのような食糧不足が深刻な地域では、食料は何よりも重要だ。
「ではカムラッド──」とチェリノ「さっきからいい匂いがしてきているから、一緒に食べようではないか。調理長、今は何を作っている?」
調理長は笑顔になるが、かすかに震えていた。「イワン・クパーラ用のプリンを作っています。」
「素晴らしいぞ。」とチェリノは立ち上がる。「まさしく勲章ものだ!今回の夏至祭が終わったら、お前たちには第一髭勲章を授けよう!」と興奮した様子で鍋の方へと行く。「では、功労の成果を頂くとしよう。」
スプーンを握ったチェリノは鍋の中のプリンをすくい、口に運ぶ。一口噛めば急に表情をこわばらせ、吐き出しそうになるのをこらえる。「うっ…何だこれは?なんでこんなに味が薄いんだ?」
調理長は自信を失っている様子だった。「そ、その…生産量を増やすようにとのご指示はあったものの。食材をこれ以上追加することはできないとのことでしたので…どうしても牛乳が足りず、それでも量を増やすにはやむを得ないと判断して水を…」
チェリノの目が暗くなり、明らかな怒りを浮かべていた。「プリンに水を混ぜただと!なんてことを…!生産量を増やすためとはいえ、そんなことが許されてたまるものか!」
こうなることは分かっていた。俺もアメリカにいた頃は、双方の立場からこういったものを何度か経験した。
“少しは許してやってくれチェリノ。”
俺が割り込めば少女は信じられないといった様子で俺の方を振り向く。
「カムラッド、プリンに水を混ぜた不届き者を野放しにしろと言いたいのか?粛清しなければならないのだぞ。」とチェリノは主張するが、俺は両手を広げて宥める。
“そういうことではない。ただミスを直せられるように許してやってほしいだけだ。確かに水を混ぜるのはよくないが、調理長たちが粛清されるとせっかく皆が一生懸命準備した祭りに参加できなくなってしまって、もっと大変なことになってしまう。”
そう説明し、マスクの下で微笑む。表情をうまく隠されていることには感謝している。
食堂内が静まり返り、チェリノは口ひげをいじり、しばらく鼻を鳴らす。皆がその判断を待っていると、チェリノはうなずく。「確かに、カムラッドの言う通りだな。喜べ!」そう言ってチェリノは調理長の方へ向く。「トイレを全部掃除する代わりに、水で薄めたプリンを全部作り直せ。いいか──」と調理長を睨みつける。「今回だけだからな。」
「はい、偉大なる生徒会長。」調理長は戸惑いながらも素早く頭を下げて姿勢を正す。
幸い、トモエが何か気付いたようで、目を輝かせながらゆっくりと横を向き、調理長に話しかける。二人は小声で会話を交わし、チェリノは不機嫌そうにこうつぶやく。「まったく、甘すぎるぞカムラッド。」
“理解は時として権威に匹敵する力を持つ。”
そう指摘する。彼女は首を傾げて疑問を示す。
「それってどういう意味だ先生?」と聞かれ、俺は身体を横に傾けて、肩をすくめる。
“指揮命令系統と呼ばれるのには理由がある。全員が権威に対して素直に従うことはなくて、たった一言言うだけで全ての問題が解決することもない。誰に指示を出すべきか、誰に提案を出すべきか、誰に進ませるべきか、誰に控えさせるべきかを理解しておく必要がある。”
自分自身の経験や他のディビジョンのセルのことを思い出しながら話す。
「なんだか難しそうだな。」とチェリノは頬を膨らませる。「粛清すればいいだけではないのか?」
“そういうことではない。要するに、相手によってアプローチを変えれば上手くいくということだ。”
チェリノは顎に手を当てて考え込む。「ふむ、とりあえず分かったが、ややこしそうだからトモエに任せるとしよう。」
“そういうやり方もアリだ。ただ、このことは覚えておいてほしい。”
「そうしよう。プリンができないと困る。つまり牛乳がもっといるということだな。」
まあ、今回のことはチェリノのミスで起きたことだと伝える必要はなかった。まだ子供だ。指摘されると癇癪を起こすかもしれない。
それでも俺は後ろを振り返り、保安委員たちが話し合っているのを見て、疑念と不安で目を細めて、チェリノの案内で次へ向かう。
レッドウィンターの新聞であるレッドベアに掲載された写真に自分が写ってなかったことに激怒したチェリノに対して、俺は再び介入することになった。幸い他の写真もあったので、すぐに解決した。
「先生は指揮の経験がおありのようですね。」とトモエが言い、俺は横目でピンク髪の少女がチェリノの後を追うのを確認する。
“まあ、指揮と指導は密接な関連していると言える。”
どちらも様々な人物を一つの、正しい方向へと導く。
“だが、最終的には相手のやりたいという意思も必要となってくる。”
「やりたくないという場合は?」とトモエが尋ね、俺は視線を逸らす。やりたくないか…
様々な理由や状況が頭をよぎるが、その記録と感情を素早く振り払う。
“まあ、子供の場合はとにかく方針を貫くしかないが、大人の場合は…”
場合によって子供以上に厄介になる。当時はやれることが多くなかった。
“うまくいかないことがある。”
そう言って辺りを見回す。
“それにしても、ここは随分と人が少ない。何か妙だな。”
「ですね…」とトモエも辺りを見回してうなずく。「それに保安委員も見当たりませんし…」
「カムラッド、トモエ、どうかしたのか?」チェリノが振り向き、俺たちの方へ向かう。
“いや…?”
そう答えようとするが、ここは撃った方がいいという心の声が聞こえ、それに従う。
“まさかな…?”
聞き覚えのある足音が近づいてくる。スマートウォッチをタップしてスキャナーPulseを起動する。
円が広がり、チェリノとトモエ、そして保安委員たちが赤い輪郭で表示される。
“まずいな。”
そして保安委員たちが角を曲がると、そのうちの一人が俺たちを指差す。「あそこ──!」
素早くアダムの鍵をホルスターから抜いてその一人を狙い、トリガーを引く。彼女の頭を後ろにのけ反り、言葉を遮るように倒れ込む。他の保安委員たちはバラバラに退避し、俺たちも退避してテーブルを倒して隠れる。トモエがチェリノを抱きかかえると、その子供はパニックというよりは困惑した様子を見せている。俺はレキシントンを持ち、遮蔽物から顔を出して応戦し。角の向こう側にいる保安委員を制圧する。一人が飛び出そうとするが、すぐに撃たれて倒れ込む。
「な、何だいきなり?誰が撃ってきてるんだ?割引シール回収戦線か?それとも唐揚げにレモンをかけることを許さない革命家集団か?まあ誰だとしてもマリナに任せておけばすぐに終わる。」とチェリノは何ともない様子で言い、俺は銃弾に晒され続けているテーブルに隠れてリロードし、銃撃が途切れた隙に顔を出し、保安委員の頭にクロスヘアを合わせてトリガーを引く。ヘイローが消えると共に次も撃ち、あっさりと倒れると保安委員たちは悪態をつく。
“スナイパー!”
遮蔽物に隠れながら大声で叫び、トモエはスナイパーライフルを撃ち、コッキングした後チェリノを抱き上げてると撃ってくる敵の姿を確認した。
「えっ、あれって──」
「マリナさんの保安委員です。」トモエが言い終えると、チェリノを降ろして遮蔽に入った後に再び撃つ。俺は身を乗り出して、敵が遮蔽物から顔を出すたびに撃ち、確実に当てていく。保安委員は後ろへとよろめいていくがすぐに立ち上がる。
“まったく、キレさせてしまったのか。”
そうぼやけば、チェリノが俺を向いて指差す。
「あまりそういう言葉は使わない方がいいぞ先生。」と言えば、銃弾がチェリノの帽子をかすめる。「おいらの帽子が!」
俺は狙いをつけて、チェリノの帽子を撃った敵を撃つ。敵のヘイローが消える中、チェリノはうなずく。「帽子の仇を取ってくれたな。よくやったカムラッド。」
“マリナが怒るようなことでもあったのか?”
そう尋ねるが、チェリノは俺から視線をそらし、急に不安そうになる。
「さ、さあな。別にマリナのプリンを食べてはいないし、昼寝してる時にぬいぐるみに涎をかけたりはしていないぞ。」とチェリノは答える。確かに怒るようなことだが、クーデターを起こす程ではない。
「突破は厳しそうですね。」とトモエが言い、壁の陰に隠れながら銃弾が角をかすめ、埃が舞い上がる。「敵の数が多すぎます。」
“逃げるしかないか。”
俺はクエレブレを持ち、二人を逃すことに集中する。
「何っ!?」とチェリノは驚いて叫ぶ。「ではどこに逃げればいい!?」
俺は肩をすくめる。ここは彼女たちの学校だ。俺よりも詳しいはずだ。
「でも、良い運動になると考えれば──」とトモエが小さな生徒会長の手を取る。「悪くないとは思いませんか?」
俺は閃光弾のピンを抜いて投げる。音を立てて落ちた瞬間に強烈な閃光と爆音が響き、混乱が生じた隙に走り出す。足元で雪を踏みしめる音が続き、レンガ造りの建物の間を通り抜ける際には、時折氷で滑りそうになる。
とはいえトモエとチェリノは違った。トモエはチェリノを背負っている上に、ここの地理に精通している。だが俺は違うので、心臓が喉まで飛び出しそうになるのをなんとか抑えながら、滑らないようになんとかする。
「よくやったカムラッド。」とチェリノが労うと、トモエは微笑む。「お前よりも偉い奴でさえも薄い氷で滑ることがあるのだぞ。」
幸い、氷を撃って割ったおかげで安定して走り続けられた。
ポンプアクションじゃなくてセミオートのショットガンにすればよかった。撃つたびにフォアエンドを前後に動かしながら、空薬莢が落ちる音と共に走り続けていかなければならなかった。
今は丘の上にいる。子供が滑って降りそうな丘だ。子供の頃の本能が刺激される。
トモエとチェリノを待つ間に飛び降りる。とある色に染まった川での経験を活かして丘を滑り降りていく。少なくともこっちの方が綺麗で、泥がつくことはなかった。
滑り終わった瞬間に横を見る。両手を上げて乗り物に乗った子供のようにはしゃぐチェリノをトモエはしっかり離さないようにして滑るが、銃声が聞こえて現実に引き戻される。
俺は振り向いてレキシントンのトリガーを引く。ストックが肩に押し当てられると共に保安委員たちが倒れ、後退していき、トモエも加勢する。
普通ならこういった状況は不利だ。俺たちがいる位置が周りより低い。だがトモエの優れた射撃の腕と俺がレキシントンを素早くリロード出来ること、そして保安委員の射撃の精度がとても低いおかげで、保安委員たちが銃弾の雨を浴びる立場になっている。
俺たちは慎重に後退し、森へと入る。雪を踏みしめる音と落ち葉を踏む音が混ざり合う中、メインキャンパスから離れていく。「私についてきてください!しばらく身を隠せる場所を知っています。」
チェリノはトモエの腕にしがみついたままうなずく。「ふぅ、でかしたぞトモエ!お前なら出来ると信じていたぞ!」
「もちろんです、会長。」とトモエは振り返る。「すぐに戻れますから。」
“だな…”
二人は妙に…落ち着いていて、慌てている様子がほとんどなかった。俺が初めて経験したブラックタスクとのクーデターと大違いだった。確かに三回経験した後だと、
だとしても…少しリラックスしすぎでは?