俺はロリポップの包装を何気なく剝がしてポケットに入れて、ロリポップを口に入れる。口の中では甘味が広がっていき、俺たちは道を進んでいく。腕をぶら下げたチェリノにもロリポップを渡す。
“そういえば、ずっと疑問に思っていたことがある”
「何でしょうか先生?」とトモエが尋ねる。彼女の足取りは一時間前から変わらずに軽やかで、普段からよく歩いているような少女らしい動きだった。
“二人共、その…クーデターに慣れきっているように見える。俺も巻き込まれたことはあったが、はっきり言って君たちのように冷静に動けなかった。”
「レッドウィンターの風土によるものですね。」トモエは微笑みながら説明する。「先生、先人の支配からの解放を皮切りに、レッドウィンターでは革命が栄誉ある伝統として受け継がれています。そのためここでのクーデターは日常の一つです。ちなみにチェリノ会長は最長在職日数の記録を持つ生徒会長の一人で、一週間で平均四日間、クーデターが起こっていません。」
“それは…”
俺はそう呟いて、うなずく。
“興味深いな。”
リンにとっては辛いことだろう。どうか彼女の気が病まないようにと心の中で祈る。早くから酒に溺れるようなことにならなければいいが。健康に悪い。
とはいえ俺はそのまま歩き続ける。しかしチェリノはロリポップの砂糖が効いているのにも関わらず、明らかに足取りが重くなっている。「あーっ!もう一時間も歩きっぱなしじゃないか!トモエ!あとどれくらい歩けばいいんだ?本当にこのあたりに身を隠せる場所があるのか?」と叫んだチェリノは屈みこむ。
「ありますよ。」とトモエは優しく答える。「ですがレッドウィンター連邦学園はキヴォトスの中でもかなり広いので、敷地の外郭近くまで歩いていくには、もう少しかかります。」
「無理なものは無理!」とチェリノは不服そうに訴えて、ため息をつく。「足が痛くて一歩も歩けないっ!」
トモエと俺は立ち止まる。そしてトモエは「では少し休むとしましょうか?」と提案する。
チェリノは安堵する様子を見せるが、しばらく俺を見つめたまま、非常に見覚えのある表情を浮かべる。マスクで隠された俺の口が引きつってしまうほどの表情だ。
「いや、おいらにいい考えがある。」とチェリノは自信に満ちた様子で俺へ歩み寄り、目の前で止まる。目が合えば、チェリノの瞳は自信と元気で輝いていたが、俺の方は…鏡で見れない以上、良く分からない。だがめちゃくちゃ陰鬱な顔をしているのは間違いない。
「カムラッド、おんぶだ!」と子供のような声で両腕を伸ばしてずっと目を合わせたまま、俺が動くのを待っている。
され…どうするべきか。おんぶするか、しないか…それともこのまま目を合わせ続けるだけか…
風が服を吹き抜けていく。頭だけ露出しているが、背筋が震える。何かが視界の隅に動くのを感じ、そこに目をやる。
何かが光り、詳しく特定する前に消えた。だかスコープの反射光だとは分かった。マリナの保安委員たちがもう来たのか?いや、AK系の銃を持っていたから、サイトの装着はそもそもできない。
「おい!無視するな!」とチェリノは地団駄しながら頬を膨らませる。そして腕を組んで、俺の言葉を遮るように言い始める。「それなら、無理やりしがみついてでもおんぶさせてやろう!」
チェリノは俺に近づくと、太もものアダムの鍵を入れたホルスターを掴む。
“分かった分かった。”
俺は根負けして、膝をついてゴーバッグを脇に置く。
“じゃ、乗ってくれ。”
「うむ!」とチェリノは満足げにうなずく。「感謝するぞカムラッド。」
そしてチェリノは俺の背中をよじ登って、誇らしげに腰を降ろす。「さあカムラッドよ、進め!」と前を指差す。トモエは親のように優しく見守っていた。
“分かった。”
そう答える。エージェント時代、先生として子供たちを教えていたから、こういうことには慣れている。
“しっかり掴まれ。”
俺が立ち上がるとチェリノの笑い声が止まる。身長はこの先伸びることはないし、これ以上は鍛えられない。チェリノは俺の頭をしっかりと掴むとかすかに震えたので俺は彼女を支える。
“大丈夫か?”
「ああ。」と声を震わせる。「思っていたよりも目線が高くて怖い…」
“まあ、そうだな。最後に計った時は5.11だった、”
そう答えると二人は不思議そうな顔をする。全員が全員
“つまり180だ。”
「だが…」とチェリノは興奮した様子で周囲を見回す。「ずっと遠くまで見えるし、空気もきれいな気がする!」と周囲を見回しながら顎に手を当てる。「これがマリナやトモエが見ている世界なのか…」
“もう少し低めかもしれないぞ。”
そう指摘すると、トモエは目を輝かせて拍手する。
「あら、素敵な姿ですね!まるで木からぶら下がる猿のようで可愛──いえ…」と本音が出る前に言い直す。「威厳で溢れています!」
チェリノは身をよじってトモエの方を見て顔を赤らめる。「そ、そうなのか?えへへ…」
「記念に写真を撮ってもよろしいですか?」とトモエは明るく甘やかすような笑顔を浮かべながら携帯を出して、俺の上にいるチェリノは胸を張る。
「いくらでも撮るが良い!この状態なら、同じ画面に収まらないなんて心配もないからな!」と自信満々に言うチェリノ。トモエは動き回りながら写真を撮っていき、一枚撮る毎にチェリノはポーズを変える。
俺も年を取ったものだ。まだ大人になったばかりだが。まだ俺が幼かった頃の父もこんな気持ちだったのか?それとも幼い頃の俺の方が酷かったのか?確かに、18歳の頃が酷かったと覚えている。
「見てください、チェリノちゃん。先生におんぶしてもらったおかげで、まるで背が高い感じに
写ってますよ!」とトモエは撮った写真をチェリノに見せる。俺も見れたが、果たして俺は笑顔になっていたのか?
「おお、本当だ!」とチェリノは嬉しそうに鼻を鳴らす。「ふふ、これは良いな。事務局に戻ってからも、ずっとこうやっておんぶしてもらったまま仕事をすることにしよう。そうすれば、おいらが小さいからって無視するような生徒たちもいなくなるに違いない…ははは!」そして高らかに笑いながら首を後ろに反らす。
「素敵なアイディアかと思います、チェリノ会長。」トモエは俺の背中にいる小さな独裁者を甘やかす。「会長が、誰かにおんぶしてもらったまま厳かに指示を出す…なんてことになったら、生徒たちもきっと驚きを隠せないでしょう。」
「だろう?事務局に帰ったらすぐマリナにおんぶしてもらうように言おう!」と土曜の朝のカートゥーンに出てくるヴィランのように口ひげをくるくると回す。「もちろんその前に、マリナはクーデターを起こした罪で厳しく粛清しなければならないがな!」
チェリノはマリナへの粛清内容を考え始める。ウサギの餌やりから少し心配になるような本格的な拷問まで様々だった。チェリノはゴーバッグよりも軽く、俺としては問題ないが、チェリノが姿勢を維持出来るかが心配だ。
結局のところ、俺は馬扱いされることになるが、あまり気にならなかった。どちらかというとチェリノが落ちてしまわないかと気にしていた。
とはいえ、一時間もしないうちに古びた校舎に到着する。
“誰かいる。”
そう呟いてチェリノの小さな身体をそっと降ろす。あの時の光はここからのものだ。
「そうですね。」とトモエは当然のように言って、首を傾げながら俺の方を向く。「この校舎に227号特別クラスがいますから。」
それを聞いた瞬間に、俺の頭の中では何かが引っかかる。
“今何て?”
つまり俺たちは今、平然と不法侵入しているということになる。だがその場所は、"特別クラス"という特殊作戦部隊と思わせるような組織のもので、環境も実際の特殊作戦部隊が訓練を行うような地域と同じだ。
あまり良い予感がしない。
[作者あとがき]
短い内容ではありましたが、楽しんでいただけたなら幸いです。
私のcarrdです。私のアカウントへのリンク先と、投票用のリンクがあります。この投票については次の通りです。
マテオが恋愛関係を持つべきかどうか。「はい」「いいえ」、もしくは「ハーレム」か。
あくまで意見を求めているだけであり、この情報がすぐに何らかの形で反映されるわけではありません。将来的に検討する可能性はありますが、それはまだ先のことになります。
また、コミッションも募集しています。また初期の作品の一部はKo-fiでご覧いただけます。推敲していないものがほとんどですが
さらに、マテオの将来の恋愛関係についての意見を聞くための投票用ポストをXに掲載しています。(締め切りました)
今回の内容をお楽しみいただけたなら幸いです。それでは、また次回。
[訳者あとがき]
ちなみに227号特別クラスは英語版だとSpec Ops No.227(直訳するならば第227特殊作戦部隊)となっています。AO3のコメント欄には、「日本語版の名前には特殊部隊要素がないから将来の自分がどう上手く訳すのか楽しみ」と去年の5月11日の私がコメントしています。次回は18日に投稿します。
Spec Ops:The line買いそびれたのがちょっと後悔してる