「先生!」ユウカは叫び、力任せにオフィスのドアを開け放つ。「どこにいるんですか!」獲物を狙うライオンの如き咆哮を上げる。
今まさにマテオは自分の悩みの種になるような行動をしている──理由、過程は分からないが、それでもユウカはそのことを悟った。財政的な影響は大きくない。支払われる報酬額は適切であり、シャーレの予算は世間一般の予想よりも潤沢である。カフェや様々な福利厚生といったものも黒字となっている要因の一つである。
とはいえ、何週間も購入していない、もしくは一度に多大な額を支払うといった良しとされない金銭感覚は簡単に染み付いてしまう。
それでも彼女は入り口から周囲を見回すが、彼の姿はどこにもいない。中に入り、更に周囲を見回す。「どこなんですか…?」
彼女はスマートフォンを取り出し、SCHALEのモモトークアカウントのメッセージを確認する。するとすぐに、気になるメッセージが目に入る。「レッドウィンター?」
しばしそれを見つめた後、スカートのポケットにゆっくりとスマートフォンをしまい、不機嫌そうに口をとがらせる。「いったい何をしているんですか?」
その問に対する答えは快く感じない──何か彼女にそう告げた。
お金はお金。無責任に使うべきではない。贅沢というものに快く思わないのもそうだ。とはいえ、例外もある。
チョコレートでコーティングされたマシュマロを一口食べる。売り子がチェリノと俺にそれぞれ皿を渡して、俺たちは次の屋台へと向かう。チェリノは鼻歌を歌い、トモエは笑顔を浮かべて、過保護気味にチェリノを見ていた。
227号特別クラスにシャーレの金で自由に買っていいと許した後に襲われた矛盾するような恐怖と虚無感には、気にしないことにしたが、その一方で人に自由に金を使わせるなという被害妄想的なものに襲われる。とはいえ、くすねたお菓子やカフェでやり過ごす事は出来る。うん。
ドルインフルのせいで俺の価値観や金銭感覚は長いことまともじゃないものになっていて、すぐに元通りになるとは思えない。それでも、高いものはすぐに分かる。昔からの癖と"貧しい"と"裕福"との間でやりくりしていた両親の姿を見ていたからなのだろう。それでも、上手いことやってのけていたから本当に感謝している。だからこそ、今でも高いものを見ると心臓が止まりそうになる。
とはいえ、祭りの匂いで金銭感覚は多少元に戻っていき、思わずマスクの下ではよだれが垂れそうになる。ロシアのお菓子は香りだけでも素晴らしいが、味も本当に良い。心地が良い…
俺たちはベンチに座り、トモエとチェリノはお菓子を楽しみながら時折他愛もない話をし、シグレとノドカはというと、恐らく一つでも旧校舎に送れるものを増やすため、金を出来る限り使っている。
「偉大なる会長。」とトモエが言えば、チェリノの口ひげに触ろうとする。「お髭にクリームがついていますよ。」
「お、おい!トモエ書記長!おいらは子供じゃないから髭には触るな!」とチェリノは自分でクリームを拭いて、咳払いをする。「まあそれはさておき、キヴォトスの業者が祭りに良く出る理由が分かった。確かにおいらの財布にとっては危険だ。お小遣いももうすっかりなくなってしまった。」
チェリノは俺の方を見るが、俺は首を横に振る。
“残念だが、スイーツはもう充分だぞ。”
そう言えば、チェリノは不満そうに口を尖らせる。
「それじゃあカムラッド、次はどこに遊…調査に行くのだ?」とチェリノは興奮気味に笑顔を見せる。俺は周囲を見回し、ある物に気づくと立ち止まる。
“そこの薪の山はどうだ?”
俺はその方向へ指差して、口を拭いてマスクを再び装着する。一方、チェリノは首を傾げる。
「薪?」とチェリノは疑問に思えば、突然目を見開く。「あぁ、あれは工務部が建設している祭壇だな!」とすぐに笑顔になって、誇らしげに続ける。「春の巨大人形を燃やすための祭壇を作れとおいらが伝えたのだ。でも、本番はまだだから、代わりになるようなものを使っているのだろうな。」
“そうなのか?”
トモエの方を向いて、片眉を上げて困惑を見せる。トモエは俺が見ていた方向に注視する。
“俺は父と一緒に工事現場で働いたことがあったのだが、キヴォトスには魔法のように一瞬で組み立てるやり方があるのか?”
チェリノは困惑しながら俺を見る。「いや。多分ないと思うが…どうしてだ?」
“薪の山みたいに見えるから。”
そう指摘すると、チェリノは俺が指差しているものを見て、眉をひそめる。
「まあ…確かにそうだが、飾りがないとなんか祭壇じゃないな…」と言葉を濁した後、ベンチから立ち上がって目を細めて周囲を見回す。「もうすぐ祭りが始まるというのに、どうしてまだ完成していないのだ?祭りをサボタージュする気なのかあの怠け者たちは!?」
「落ち着いてください会長。」とトモエが入り、周囲を見回す。「もしかしたら誤解が生まれているのかもしれません。」
「誤解!?」とチェリノはベンチから飛び降りる。「納期を守らずに怠けるのなら、この学園にいる資格などない!全員減点だ!」
「ですが、会長がご指示した祭壇の位置はここ、事務局前の広場ではありませんか?」とトモエが指摘する。
“ならあの薪の山は何のために置かれているんだ?”
そう尋ねると、見覚えのある服装とヘルメットを被った生徒が数人いることに気付く。
「近くに工務部がいるな、聞いてみるとしよう。」とチェリノはそう言って歩き出し、トモエと俺も後に続く。
そうして近づくと、話し声や押し合いの音で場はごった返し、緊張していたが、チェリノは怯むことなく前に進み出る。「おお同志たちよ、進捗はどうだ?」
群衆の前、生徒たちの頭やヘイローの上に、誰かが一歩前に出ると、群衆は静まり返り、その人物の言葉を待つ。青いヘイローを浮かべており、形状はよく見るレッドウィンターの生徒の頭上にある歯車型と似ているが、対称的なデザインや突き出た線などいくつかの違いがある。その下にはレッドウィンターの校章が入った白いヘルメット、腰まで届く黒髪、そして緑色の瞳が覗いている。制服は標準的なもので、白いブレザーとスカーフを着用しており、ブレザーの下にはグレーのシャツが見える。肩には毛皮のコートを羽織り、背中のAKMを軽く揺れ、メガホンを手にしている。
工務部部長 安守ミノリとISACが表示すれば、彼女は口を開く。
「我々は誰にも隷属しない! 我々こそが世界の支配をするのだ!」とメガホンで叫ぶ。その言葉を聞いて、改めてレッドウィンターがロシア、もしくは
それはさておき、周囲で見ていた人々は一斉に歓声を上げ、俺たちを驚かせてチェリノは困惑する。「ど、どうなっているのだ?」
「同志たちよ!」と彼女は大声で威勢よく切り出す。「祭りまであと数日だ。自然の恵みを祝い、日々の労働の疲れを癒す、それが祭りというものだ。」メガホンを上げて、更に続ける。「レッドウィンター連邦学園の生徒であれば、誰であっても祭りを楽しむ権利がある!」
他の部員たちも賛同の声を上げる中、ミノリは続ける。「それなのに、我々はこの休日を楽しむどころか、連日この寒さの中、二交代勤務を強いられている。これはレッドウィンター連邦学園が掲げる自由と平等の理念に明らかに反している。だからこそ我々は事務局を糾弾する!」
ノドカと一緒にこの光景を見たことがあるが、改めて間近で見てみると全くの別物だ。彼女には並外れた声量と、それにふさわしいカリスマ性がある。少なくとも、説得する際に有利に働くかもしれない。
メガホンを口元に寄せ、彼女はさらに続ける。「チェリノ会長をはじめとする役員たちは、工務部の権利を保障しなければならない!十分な休暇と!割増賃金と!あと…」と一瞬だけ勢いが止まる。「プリン二つが保証されるまで、我々はこのストライキを継続する!」
歓声が上がる中、チェリノが前に進み出る。「待て待て待て!誰がデモを許可した!?」とチェリノは疑問を投げかけて、俺たちに注文がある中、歩み寄ってくる。「事務局の許可を得ないデモは減点対象だ!お前たち全員反逆罪で厳しく処罰してやる!」
「チェリノ会長!?」とミノリは目に見えて驚く。「どうしてここにいるかは分からないが、千載一遇のチャンスだ!同志たちよ!我々を裏切った会長をひっ捕らえて磔にしろ!」
「お、おい!おいらを燃やす気か!」とチェリノは工務部から後ずさりをすれば、工務部の部員たちは磔にする
「何?どうしてそんなに惨いことをしなければならない?」とミノリは困惑した様子で言い、チェリノは安堵のため息をつく。「なら燃やす代わりに、磔にさせて独裁者を引きずり回すパレードを行うぞ!」
チェリノはあまり良い顔をしていなかったので、俺は割り込むことにする。
“チェリノが指導者じゃない場合はどうなる?”
「ん?」とミノリは首を傾げて、俺の方を向いて目を細める。「まさか…」そう言って、彼女は即興のステージから飛び降りる。
そして俺に近づいて、一瞬だけ観察した後、納得したようにうなずく。「もしかして、先生か?初めまして──」そう言って手を差し出す。「あたしは安守ミノリ、工務部の部長だ。何か用があったらいつでもあたしに連絡をしてくれ。」
“ヴェルネス マテオだ、覚えておこう。”
そう言って、握手する。
「では先生、早速説明をお願いできるか?」と尋ねられ、俺はうなずく。
“簡単に言うと…マリナ委員長がクーデターをしてチェリノ会長は解任させられた。だから今はマリナが会長を務めている…はずだがそういう仕組みで合っているか?”
「それで合っている。」とミノリはうなずき、トモエも同じくうなずく。「つまり今権力を握っているのはマリナで、今やチェリノはただ悪ガキということか。」
俺が両手を上げると、チェリノが口を挟む。「今おいらのことを何て呼んだ!?」
ミノリは無視して、メガホンを持ち上げる。「聞いてくれ!標的が変わった!頭が悪いことしか取り柄がない悪ガキじゃない、新しく会長になったマリナ委員長を糾弾するぞ!」
「また悪ガキか!というか頭が悪いことしか取り柄がないとは何だ!」とチェリノは歯ぎしりして、俺は手を伸ばして彼女の頭を撫でる。
“ポジティブに考えよう。”
そう言うとミノリはメガホンを構えて、大きく息を吸い込む。
「事務局を制圧するぞ!」とミノリは叫び、工務部からはあたしたち
“少なくともケリはすぐにつけれそうだ。”
そう言ってマスクの下で皮肉っぽく笑いながら、レキシントンを取り出し、セーフティを解除して、マガジンを外してチェックした後、再び挿す。
“ノドカ、標的の位置は確認できたか?”
| ん? |
ノドカのくぐもった声が聞こえ、驚いた様子の後、唾を飲み込む音がはっきりと聞こえる。そして端からシグレの笑い声が聞こえる。
| あっはい確認できました。今は事務局にいます。 |
“今は何をしている?”
そう尋ねると、一拍置いてノドカは答える。
| えーと… |