双眼鏡を覗いているノドカは目を狭め、生徒会長の椅子にだらけて座り、足を揺らして笑いながら菓子を頬張るマリナの様子を監視する。ノドカはマリナの口元を注視すれば、その動きを真似し始めてくすくすと笑う。
「チェリノ会長のことを悪ガキといいながらお菓子を食べています。プリンもです。」と彼女は報告し、鼻歌を歌いながら改良を施された新型の弾薬をスプリングパンチに装填するシグレを見やる。「そっちにも聞こえるようにしてください。」
| A 聞こえさせた。 |
マテオの返事が聞こえ、ノドカは身震いをこらえる。まるで耳元で話しかけられているような不思議な感覚だった。嫌いじゃない感覚だ。
| A 俺たちは事務局から5ブロック離れたところにいる。新しく出来た友人も何人か合流する予定だ。 |
彼は続けて、ノドカが見ている場所の通りの名前を告げる。
「分かりました。攻撃は先生の到着に合わせてやります。」ノドカがそう答えると、マテオは小さく笑う。
| A あと、事務局の物をなるべく壊さないようにしろとチェリノがそう言ってたぞ。 |
マテオがそう補足すると、ノドカは眉をひそめ、自分たちが立っている屋上を見回してから肩をすくめる。
「やれるだけやってみます。」
再びマテオは笑う。
| A 分かった。エージェント、アウト。 |
通話が終わると、ノドカはマテオの最後の言葉の意味を考えるが、気にしないことにする。「んで、まずはどこを狙えばいいかな?」とシグレが隣で尋ねると、ノドカは唸る。
「えっと、木と像と車。」そう彼女が提案すれば、シグレはうなずく。
彼女はスプリングパンチの照準を合わせ、目を閉じてゆっくりと上げ、その後下げ、やがてに上に向けて一発、もう一度一発、そして最後にもう一発発射する。
曳光弾が弧を描きながら空を飛び、標的をわずかに外したが、無事に目の前に着弾する。弾薬の光が消えると、ノドカは親指を立てる。「よし。あそこが…」と言葉を濁せば、座標を読み上げる、シグレはうなずきながらスプリングパンチにさらに弾薬を装填する。
彼女は標的を確認し、座標を記憶しながら周囲の地形を頭の中で地図にしていく。その間ずっと、先生の合図を待ちながら、微笑んでいた。
そうしてノドカはすぐに視認出来る座標を次々と口にし、戦線の奥に攻撃を仕掛けて奇襲を図る。
シグレは最初の標的を狙い、スプリングパンチを構えると、ニヤリと笑ってトリガーを引く。
保安委員の奥にて、爆発音が響き渡る。保安委員たちの顔には明らかな動揺と混乱が浮かんでいたが、やがて倒されていく。どうやらシグレとノドカが上手いことやってくれているようだ。流石だ。
「行け!進め!事務局を制圧しろ!」ミノリがメガホン越しに叫ぶ。
頭上でトモエのスナイパーライフルの銃声が響き、他の銃声と混ざり合う中、俺は防壁にもたれて待機する。
すぐに二回目、三回目の爆発が響き、銃声が途切れた隙に俺は顔を出す。
レキシントンを肩に当て、トリガーを引くたびに肩を押し返す。ホロサイトには頭、脚、胸とヘイローが見え、保安員たちの位置が分かる。トリガーを引くたびに空薬莢が飛び出し床に転がる音と共にヘイローが点滅する。
俺は防壁を乗り越え、低く身をかがめた後、一気に立ち上がりながら横方向に動くと共に射撃する。保安委員の一人を倒したところで遮蔽物にしゃがみ込み、マガジンを替えると銃声の中から足音が近づいていく。
レキシントンを下げ、上に向かって手を伸ばして、保安委員の銃のバレルを掴んで驚かせる。すかさずレキシントンをその脚に固定し、最後の一発を撃ち込ませて膝まずかせる。両手でAKを掴み、レキシントンを手放して強引に引き下げ、ストックを胸部に叩きつけ、その後に上方に引き寄せて顎に当てる。保安委員の瞳孔が開き、俺は銃を奪い取る。
トリガーを引いて、両膝をついた保安委員の眉間を撃つ。ヘイローが点滅した後、俺は前進してくる敵に向けて連射し、遮蔽物に隠れながら素早くレキシントンをゴーバッグに装着する。
トモエが俺の隣にしゃがみ込み、微笑む。「ある意味では新鮮ですね。」
“動画はまだ見てないのか?”
俺は遮蔽物から身を乗り出して狙いをつけ、工務部の移動が出来るようにするためのと、トモエが上層部の保安委員を狙って撃てるように俺は援護射撃を行い、保安委員は次々と倒される。
トモエが狙いを定めれば、銃声が響く。保安委員が倒れる中、彼女は身を屈めてリロードする。「まさかここまでプライドが──あっ!」
銃弾がトモエの頭を掠め、それに当たる前に俺はすぐさま身を隠す。トモエはすぐに体勢を立て直すが、額のアザで躍起になる。そして今度はシグレのグレネードが次々に敵の方に投げ込まれていく。
俺が軽く笑えば、トモエの顔がかすかに赤くなり、追尾マインを投げる。オレンジ色の爆発物が集団に転がり、爆発。銃撃が一瞬だけ途絶える隙に、俺は遮蔽物を乗り越えて、保安委員の武器で反撃する。
店の前を通りかかると、ドアが勢いよく開き、AKのバットストックが襲い掛かる。俺はそれをかわしてすり抜け、俺の手にあるAKを落とす。彼女は再び攻撃を試みるが、俺は腕を上げてバットストックの衝撃を前腕に受けて、すかさずもう片方の手でAKをつかみ、さらにバットストック付近を手で押さえる。そのまま彼女を引いて、腰をかがめて肩で投げ込むと、彼女の背中が床に叩きつけられる。俺は彼女を狙って三発撃つ。そして身じろげば俺のボディアーマーに銃弾が当たったものの、貫通はしなかった。
俺は腰をかがめて、保安委員を狙う。Pulseが位置を探知して、店内の保安委員たちに向けて閃光弾を投げ込む。そうして一人目が出てきた。
「もうすぐだ!」とチェリノが叫ぶ、閃光弾が起爆すると、俺はドアを開けて混乱した保安委員たちを撃ち、ヘイローが点滅して消えたのを確認して進む。
AKのクリック音と共に最後の空薬莢が音を立てて床に落ちる。俺は油断した保安委員たちに向かってAKを投げつければ、クエレブレに持ち替える。保安委員たちは反射的にキャッチするが、直後に顔面に12ゲージ
一発一発が保安委員たちを追い詰め、倒していきながら近づいていけば、最後のシェルが地面に落ちた瞬間に一人が攻撃を仕掛けようと接近してくる。
クエレブレが地面に落ちる直前に、アダムの鍵の銃声が鳴り響く。M45の二発が胴体に命中した後、頭部に一発命中する──完璧に近いモザンビークドリルでヘイローが消え、俺は近くにいた保安委員の頭部を狙い、トリガーを引く。頭部が後ろに跳ね上がり、他は遮蔽物に隠れる。クルセイダーシールドを畳めば、また同じ行動を繰り返す。
誰かがそばに来たと思えば、ミノリだった。彼女はクエレブレを返す。「ありがとう、先生。もうすぐ着くが、まだへばらないでくれ。」
俺は思わず笑い、シェルを掴んでM870に装填し、フォアエンドを力強く引きながら妖しく笑う。
“まだまだこれからだ。”
俺は身を乗り出して再び発砲し、ミノリが歓声を上げる。「今だ!先生が活路を拓いてくれた!突撃!」と叫べば、チェリノも同じように叫ぶ。
もしくは恐怖の叫び声かもしれない。俺はそれの判断はせず、尋ねるのもしない。
エントランスに近づくにつれ、周囲の動きが鈍くなっていく。
“どうなっているんだ?”
物がぶつかり合う音と金属の擦れる音がした方を見ると、不機嫌そうな表情を浮かべたノドカがこっちに向かってくる。「事務局を完全に包囲しましたが──」と言えば、グレネードランチャーを低く構えたシグレが続く。「エントランスも窓も全部封鎖されてて中に入れないんです。」
“つまり突破は無理か。”
俺は独り言のように言いながらスキャナーパルスを起動し、状況を確認する。
“廊下も閉鎖されている。空間も狭いから距離も取れない。”
「何をこんなにグダグダしているんだ?」チェリノが隣に立つトモエに向かって尋ねる。「もうそろそろだというのに。」
エントランスを覗き、ケミランチャーを取り出してライオットフォーム弾を装填し、中へ狙って発射する。数秒後に爆発音が響き、エントランスにいた保安委員たちが不意を突かれる。続いて先頭が突入し、俺たちも後に続く。
「執務室に急げ!」とチェリノが叫んで突撃し、トモエと俺が続く。近接戦闘に適した武器を持っているのは俺だけなので、俺が先頭に立つ。建物内では銃撃戦が勃発し、工務部員が保安委員を制圧する中、俺はゴーバッグのある部分を操作する。
角へ一歩踏み込めばAKのバレルが並んでいるのが目に入り、クエレブレのバレルをその上に滑り込ませて、クエレブレが持ち上げられないようにする。クエレブレが上げられ、俺は身体でそれをしっかりと固定する。ショットガンを相手の腹部に押し当ててトリガーを引けば、相手は吹き飛ばされる。
トモエが敵をまた一人撃ち、ヘイローが点滅して消える中、執務室を見つける。
“こっちだ。”
俺が言えば、チェリノが歯を食いしばりながら駆け寄り、ドアを引っ張る。
「マリナ!ドアを開けろ!」とチェリノが命じるが、俺はため息をついて、フォアエンドを後ろに動かしてチャンバーのシェルを出して、スラグ弾を入れる。
“開けようか?”
そう聞くと、チェリノは困惑して、トモエが引き戻して壁によりかかる。
クエレブレをヒンジに押しつけて発砲してヒンジを破壊する。そうしてポンピングしてもう一つの方も狙い、撃ってドアを蹴り破る。同時にトモエが部屋にグレネードを投げ入れる。
グレネードが爆発する前に銃撃でドアが粉砕されて、爆風で穴が開く。そうして中へ突入すれば、混乱しているマリナと無力化された保安委員たちがいた。
「これはこれは──」チェリノが口を開く。「マリナ"書記長"ではないか。」と金髪の彼女はパニックに陥りながら地面に倒れ伏して、チェリノと高さまで背筋を伸ばして立ち上がる。「こうしてここに来たことだ。ここは一つ、クーデターを起こした理由でも教えてもらおうか。」
彼女は銃に手を伸ばすが、俺はゆっくりと銃を遠ざけて、掴ませないようにする。その間もチェリノは話を続ける。「お前は信頼できる同志だったのだ、マリナよ。なのにおいらがいない隙を狙ってクーデターを起こしたとは一体どういう了見だ!許されざる大罪を犯したのだぞお前は!」
「本当に申し訳ございません、チェリノ会長。」とマリナは謝るがチェリノは鼻を鳴らす。
「謝るぐらいなら理由を言え!」とチェリノは言うが、すぐに視線を逸らす。「お前のプリンを食べたからか?それともお前のクマのぬいぐるみに涎を垂らしたからか?」
マリナは不思議そうに顔を上げる。「今何と?」
「何も。」とチェリノは素早く手を振って安堵の表情を浮かべるが、俺は眉間の痙攣を抑えられずに、長い一日で感じた疲労が次第に押し寄せてくる。
「私は…ついうっかり像を壊してしまって…」と諦観するマリナだが、チェリノは困惑した様子だった。
「像?それってどこの像だ?」
「先月新校舎の完成を記念して設置された、廊下にある会長の胸像です。」とマリナは説明を続けるが、チェリノはまだ理解できていないようだ。「誤ってその像にぶつかってしまい、像の口ひげが壊れてしまいました…私の不注意で会長の威厳に泥を塗ることになってしまいました。」
たった…それだけで?像を壊しただけでこんなことになったのか?
マスクが表情の半分を覆い隠していたのが良かった。困惑が顔にどれほど出ているのかが明確に分かるからだ。
「えっ、それだけなのか?」チェリノは驚きながら尋ね、マリナは困惑した表情を浮かべる。「マリナ、お前はずっと保安委員長として私の右腕になってくれた。たとえこの私に才能があったとしても、今の地位にたどり着けられたのは、お前の支えがあったからこそだ。石像の口ひげを失うことなぞ、お前を失うのと比べればほんの些細なことなのだ。」
マリナの目に希望が戻り、俺はマスクの下で微笑みながら、ため息をつき、チェリノは更に続ける。「おいらの心の器が広すぎるせいで、そんなことでお前を罰することなど到底ありえない──」
「とでも言うと思ったかぁ!」と怒号を付け加える。マリナの希望は一瞬にして消え去り、俺は小さく笑いながら、首を振って笑い声を漏らして脇にずれる。
そして弾痕だらけで壊れてしまったソファに腰を下ろし、像が壊したことがきっかけとなったクーデターについてチェリノはマリナを追求する。それが原因なんて流石に馬鹿げている。おまけに流刑中に経験した辛い出来事も言っていたのもなおさらだ。
とはいえ、今日は生徒と一緒にクーデターごっこでかなり楽しめた。とはいえ、一日でこれ以上の刺激を受けるのは無理だが。
「先生。」とトモエが声を掛けて、俺はその方に向く。「そろそろお帰りになりますか?」
一瞬だけ考える。今日はとても楽しかったが…
“まあまだレッドウィンターのイベントとかは全部体験してはいないから、もう少しここに留まろう。多分明日までだな。”
そう言って肩をすくめる。
“祭りは一週間かそこらで始まるのか?”
トモエは驚いた様子だが、それでも微笑んで言う。「それなら、一晩宿泊できる場所をご用意しますね。」
“その必要はない。”
手を振って断る。
“自分でなんとかするから大丈夫だ。”
この辺りにはセーフハウスがある。そこに入って一晩過ごせばいいだろう。いずれにせよ、疲労はかなり蓄積しているので、昼寝をしてから向かいたい。
“とりあえずここで少し仮眠を取ってから、出発したい。迷惑にならないといいのだが。”
「もちろん構いませんよ。」とトモエは微笑む。「お疲れ様です、先生。」
“ありがとう。”
そう言って、ゴーバッグを下ろして脇に置き、足を横に投げ出す
“これでいいか?”
「そのソファはいずれ廃棄されますので、大丈夫ですよ。」とトモエは手を振る。
俺はうなずき、リラックスしながら足を肘掛けに下ろし、姿勢を変える。レッドウィンターでの長い一日を終え、目をゆっくりと閉じる。
[作者あとがき]
この章を楽しんでいただけたなら幸いです。もし興味があれば、私のcarrdもご覧ください。X/TwitterとKo-fiへのリンクも掲載しており、こちらでは作品の告知を行うほか、ベータリーダーによる校正前のファンフィクションの初期原稿も順次公開していく予定です。
ikishiが翻訳したThe Divideの翻訳版と、彼が他に翻訳している作品については、こちらのcarrdでチェックできます。改めて、ご尽力に感謝申し上げます。皆さんと一緒にThe Divideの世界を引き続き楽しんでいただければ幸いです。
(ちなみに、私は別のペンネームで、執筆練習用の短編や、マテオや他のオリジナルキャラクターを適当に配置した作品などを公開しています。N0ct15名義で読みたい方は、ぜひそちらをご覧ください。)
[訳者あとがき]
次回は6日です。