The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.22-02 レッドウィンター連邦学園

太陽がようやく昇り始めたばかりで、この時間から起きている人はごく僅かだ。俺もその一人ではあるが、今はバス停で知識解放戦線行きのバスを待っている。そこにセーフハウスがあるからだ。

 

SHDのセーフハウスは通常、図書館やコミュニティセンター、教会などの公共施設を利用している。しかし知識解放戦線は遠く、バスで行くのが一番良いだろう。

 

だが…

 

バス停を見回すと、ヘイローが浮かび、ヘルメットを被った大勢の少女たちが、仕事や祭りのことで愚痴をこぼしている。夏休み中、父の手伝いで時々セメントを運んだ時のことを思い出す。

 

確かに、あの重い資材を運んだりして動き回ったことで、体力と身体が鍛えられた。だが、90度近い*1暑さの中、休憩もほとんど取らずに歩き回るのは本当に辛い。

 

そしてあれだけ働いたにもかかわらず一切金が支払われなかったのが最悪だった。神よ、本当に…

 

俺が考えを巡らせていると、バスがゆっくりと目の前に止まる。ナンバーを見るが、目当てのバスではない。一歩後ろに下がろうとするが…

 

「ちょっと!」と誰かが声を上げ、皆が押し合いながら、あるいは俺の脇をすり抜けようとする。そんな中、聞き覚えのある声が響く。

 

バスの中で、見覚えのあるメガホンとヘルメットをかぶった人物がこう告げる。「足場5人、鉄骨10人だ!」

 

安守ミノリがバスのバスの入口から身を乗り出し、興奮した様子の作業員たちの群衆を見渡しながら、かつて父がよくやっていたように指差しをしながら話す。「ヨシ!現場が我々を待っている。全員乗車だ!」

 

俺が離れようとする前に作業員たちの波が押し寄せてきて、俺は次々とぶつかり、謝る。「ちんたらしないでよ遅れたら責任取れるの?」と作業員の一人が言う。

 

“待て──!”

俺は抜け出そうとするが、作業員たちの流れに巻き込まれてため息をつくことしかできず、あっという間に満員のバスの中へ閉じ込められてしまう。

 

そこで作業員たちは冗談を言い合ったり、ため息をついたり、ただ携帯電話を最後にもう一度スクロールしてから、その日はもう使わないか、休憩になるまでしまっておく。

 

そうして作業現場に到着し、俺も他の作業員たちと一緒に外へ出される。

 

再び、ミノリはメガホンを手に彼女たちの前に立つ。「おはよう、キヴォトスの労働者諸君!あたしは本日の現場監督を務める、レッドウィンター連邦学園の安守ミノリだ!久しぶりの仕事、全力で我々の労働力を証明しよう!無論、現場の安全性と給与の受け取りは労働者の正当な権利!少しでも疑問があれば、すぐ現場事務所まで報告するように!」

 

「おおーっ!!」と作業員たちが声を上げると、ミノリはうなずく。

 

「開始前に…あたしに倣って声出し確認!」と作業員たちが再び声を上げる。「安全第一!」

 

再び作業員たちが声を上げた後、ミノリは現場監督や父の顔に浮かびあがるような笑顔を見せる。「よし!今日も一日、安全第一で頑張ろう!!」

 

作業員たちが声を上げると、運搬作業や配置に取り掛かる。幸い、俺は引きずり込まれる前になんとか抜け出した。ミノリは現場の様子を見つめて、俺は彼女の方へ歩く。

“クーデターを起こした人物とは思えないほどに一生懸命に取り組んでいるな。”

 

ミノリは瞬きを繰り返し、こっちを向いて目を見開く。「マテオ先生じゃないか。どうして作業現場に…!?」

 

肩をすくめて、こう答える。

“まあ、バスを待っていたら…”

言葉を濁したところでミノリの目が理解を示すように閉じる。

 

「ああ、人波に揉まれのだな…」と小声で言いながら身をよじる。「それは申し訳ない。あのバス停は、工務部の集合場所だったんだ。そういえば、先生はどうして早起きしたんだ?」とミノリが尋ねる。「不躾ですまない。だが初めてクーデターを経験した時の気持ちは中々晴れないものだから。」

 

“2回目も3回目も4回目も、晴れることはなかったぞ。”

そう答え、マスクの下で微笑む。するとミノリも笑顔で返し、その目には新たな尊敬の光が宿る。

 

“ああ…先生の故郷も、動乱や不正がそこまで珍しくなかったのか…”

ミノリが呟き、俺は肩をすくめる。

 

“最近になって…起きたことだ。”

まだ身支度を整えていないせいか口の中が苦い。そうであってほしい。

“故郷が災害に襲われて、状況が日々悪化していったが、それでも改善の兆しが見え始めたところで…キヴォトス(ここ)に雇われた。”

 

「流石は資本家階級のブルジョワ。」ミノリは目を細めて吐き捨てるように言う。「労働者の立場や健康状態のことを一切考えずにただ労働に放り込むとはな。」

 

“まあ、俺の職場の医療保障は無料だったけどな。”

そんなジョークを言って、腰を軽く叩く。

“正直言って雇われた時は万全の状態ではなかったし、解雇されるのも時間の問題だったのだろう。”

 

「ふーむ…」とミノリは顎に手を当てながら唸る。「とはいえ先生のことは尊敬している。楽な仕事ではないように思えるし、それに他の所での…待遇も良いとは思えない。」

 

俺は思わず笑いながら首を振る。

“まあ、実行する人がいるからこそ契約というものは成り立つ。それに、故郷のことを考えると、今まで支払われてこなかった賃金が支払われることは多分ないだろう。”

 

「ふーむ…先生の故郷はどこにあるんだ?」ミノリは目を輝かせながら尋ねるが、俺は首を横に振る。

 

“ここからずっと遠い場所にある。まだ帰り方も分からないし、仮に分かったとしても、先生を辞めるつもりはない。”

 

そもそもそれが出来るかどうかというのも分からない。良いことなのか悪いことなのかもそうだ。

 

ミノリは納得したようにうなずく。「しかし、参ったな…今は先生を送り返せる車がない。最寄り駅はかなり遠いし …」と彼女は独り言のようにつぶやき、周囲を見回しながら頭を掻いて安全帽をかぶり直すが、俺はそれを遮る。

 

“大丈夫だ。ちょうど工務部の活動が気になっていたところなんだ。”

 

ミノリは目を輝かせて俺の方へ向く。「そうか?ならレッドウィンターにいるうちに、現場を見学するのはどうだ?」

 

“ああ。面白そうだ。”

そう言って姿勢を正せばミノリもうなずく。

 

「時間を奪ってしまったお詫びに、作業が終わったら行きつけの店で特大カツ丼を奢ろう。」ミノリはそう言いながら目を閉じて微笑む。「あそこのカツは肉厚で、疲れた身体に染みる濃いめの味噌汁が最高なんだ。やはり労働の後は、丼モノでお腹を満たすに限るな!」

 

“美味そうだな。”

思わずそう口にする。

“だがその前に、すこし用を足してくる。”

 

ミノリはうなずいて横を指差す。「トイレならあっちにあるぞ。済んだら戻ってきてくれ。」

 

俺はうなずいてミノリに礼を言うと、身だしなみを手早く整えるためにトイレへ向かう。

 

ゴーバッグに入れていた洗面用具で顔と髪を素早く整えれば、クーデターに巻き込まれた気分は消えて、経験した後の翌朝に目覚めて身だしなみを整えたような気分になった。

 

ミノリの元に戻ると、彼女はうなずく。「お帰り先生。」と挨拶すれば、手にはそれぞれヘルメットと作業用反射ベルトを持っていた。「見学する前に、これを着けてほしい。」

 

ミノリはそれを差し出せば俺はそれを受け取る。「ヘルメットと作業用反射ベルトか。」

 

ミノリはうなずく。「ああ。現場では『一に安全、二に安全』。いくらキヴォトスの生徒が丈夫といえども、ここには危険な装備がある。」

 

“それは…意外だけど、ある意味ではそうか。”

そう呟いて、ヘルメットを確認する。温泉開発部のものとは異なり、レッドウィンターの校章がプリントされている。一方の作業用反射ベルトはこれまで見慣れてきたベストとは形状が異なっていた。

 

ゴーバッグを脱いで、周囲を見渡すと、ミノリが手を差し出す。「私が持とう。」

 

“ありがとう。”

そう言って渡せば、ミノリは目を見開いて、危うく落としそうになる。

 

「うわっ!?」と声を上げて片手で掴んだ後、再び両手で持ち直す。「結構重いな。先生はいつもこれを持ち運んでいるのか?」

 

反射ベルトのベルトを腰に巻いて、接続部分を固定しながらうなずく。

“ああ。訓練の賜物だ。あのバックパック一つで他人と連絡できない状態で何週間も生きてきたことがある。”

 

可能と快適は大違いだ。俺は数週間にわたって大自然の中で、ゴーバッグだけでサバイバルできるのか?できる。だがそれを快適だとは感じるのか?

 

全くもって感じない。

 

サバイバリストである友人のパッチーなら喜んでやるのだろう。彼女はアメリカに行く前は、ロシアの荒野で人生の大半を過ごして、ブラックタスクのせいで関係が悪化するまでその生活を続けていた。そうしてアメリカ各地の広大な自然地帯や国立公園を巡り、ただひたすら生き延びることに専念していた。

 

軍事兵器の実験施設に迷い込んだ時に発見されて、スパイの容疑をかけられて保護された。その後は釈放されたが、しばらくは跡をつけられることになった。そうしていくうちに跡をつけていた奴らは混乱状態に陥り、最終的には放っておいてくれとメッセージを残して去っていった。

 

幸い、数日後にディビジョンに加わる代わりとして、跡をつけられることはなくなった。恐らく彼女はディビジョン随一のサバイバリストで、俺は…三番目といったところか。ありとあらゆる知識を教えてくれたが、俺はすぐに会得した。

 

「凄いな…」とミノリはバックパックを上下に動かして眺める。「武器を四つも持ち運んでいる人は滅多に見かけない。」

 

“ああ。四つも持ち運ぶのは正直無理がある。”

 

ミノリは俺の考えにうなずく。「すまないが先生、バッグが物に引っかかって怪我に繋がるかもしれないし、武器が破損してしまう恐れがある。」そう言って彼女は事務所らしき建物の脇に移動し、俺もその後に続く。「もう一丁持っても構わないぞ。」

 

“いや。”

そう断り、太もものホルスターに収めたアダムの鍵を軽く叩く。

“これだけで十分だ。”

 

「ならそれで。」とミノリは肩をすくめながら、俺のゴーバッグを事務所の中に入れて、ドアを閉める。「そういえば、先生も…現場作業の経験があるのか?」

 

“どうして分かったんだ?”

そう尋ねると、彼女は満足げにうなずく。

 

「勘で分かった。ヘルメットと反射ベルトをきちんと着用していたからだ。ヘルメットはまだしも、反射ベルトの方は着用方法が分からない人が多いからだ。」

 

“ああ、夏の頃に父の手伝いをしていた時にはベストを着ていた。”

その記憶が蘇り、背筋に冷たいものが走る。

“楽しくはなかったが、いい経験になった。”

 

「先生の父は何を担当していたんだ?」

 

“セメント関係だった。プールの建設や縁石・歩道の敷設などをやってて、最初から最後まで全ての工程に関わっていた。”

 

「ほう…それなら先生の期待に応えないとな。あとは不用意に危険な場所には近づかないでくれ。そして常に足元には気を配ること、分かったか?」

 

“分かった。”

そう答えて、ミノリが再びうなずけば、俺はヘルメットを装着し、ズボンのベルトループにキャップを固定する。ミノリの後を追いながら、彼女は振り返って俺がついてきているかを確認する。

 

「よし!」とミノリがメガホンで呼びかけると、他の生徒たちは待機していた。「それでは、作業開始!」

 

そしてすぐに作業が始まる。瞬く間に建物が展開されているように見えた。まず足場が組まれ、続いて予め切り分けてられていた合板が設置されていき、全員が迅速かつ効率的に作業を進めている。

 

驚愕すると同時に、一抹の不安を覚える。見れば見るほど、目の前で起きていることに感嘆を覚えられずにはいられない。

 

無駄な動きや休憩はほとんど取らずに、緻密で不自然なほどまでの速さで作業していく。その間、ミノリはメガホンで指示を出し続けている。

 

“マジか…”

思わず呟く。信じられない。

“もう1フロアが終わるのか…”

 

隣でミノリがニヤリと笑う。「感心しているようだな。でも今日はみんな本調子じゃないのか、いつもより遅い気がするぞ。」

 

“噓だろ?”

ショックで聞き返す。調べているISACを見れば、俺と同じように驚いている。

“この様子ならすぐに終わりそうだ。”

 

「そう言ってもらえるのはありがたいが…」とミノリは腕を組んで周囲を見回す。「完工の遅さが原因で、仕事が中々来ない。とはいえ──」と誇らしげに微笑む。「完成度の高さなら間違いなくキヴォトス一だ。」

 

「みんな、よくやってくれているのに、どうして遅れてしまうのだろう…」

 

効率よく作業している生徒たちを見回しながら、俺は顎を掻きながらこう言う。

“俺にも分からない。ただフロアが既に終わっただけでも十分ショッキングだ。”

 

ミノリが答える前に、入り口の向こうでドアが閉まる音が響く。振り返ると、太った…スーツ姿のオートマタがこちらへ歩いてくる。「あれは…?」ミノリは目を細めてオートマトンに近づく。

 

俺もその後に続けば、少し後にオートマトンがミノリに気付く。「ご苦労、ミノリ部長。こうして直接挨拶するのは初めてだな?」と手を差し出す。「マグマ建設の社長だ。会えて嬉しいぞ。」

 

「ああ、あなたが今回の発注者か。」とミノリはオートマタと握手をする。「依頼、感謝する。」

 

オートマタは笑ったように見えた。「お礼を言いたいのは私の方だ。無茶な納期だが、引き受けてもらって助かったよ。」

 

二人は手を離し、ミノリは首を傾げながら腰に手を当てる。「…ところで、どうしてこちらに?直接進捗を確認しにきたのか?現場の安全は、あたしが責任を持って守る。安心していい。」

 

社長は首を横に振る。「あー、そうじゃないんだ。」と言葉を濁す。その声色から何か嫌な予感がする。「実は……工務部にひとつ、お願いがあってだな。」

 

「お願い?」ミノリは明らかに話の流れが気に入らない様子で、腕を組みながら目を細める。

 

「それが、本当に恥ずかしいことなのだが…」と社長は付け加える。何でもないように思えるが、俺の胃の奥では既視感のある嫌な予感が広がり、父がセメント作業をしていた頃の不満が思い出される。「それが、別の現場と請求時期が重なってしまって…手持ちのキャッシュが足りないんだ…」

 

「つまり、給与を即日支払う話になっていたが、それが出来るがどうかが分からなくてな…」

 

作業員が一番聞きたくない言葉だ。理由もなくただ働きになった時の記憶が、まだ鮮明に残っている。思い出すだけでも腹が立ってくる。

 

ミノリはヘルメットで表情を隠したまま、オートマタが続ける。「だが明日になれば、金額を上乗せして必ず支払うから、内密にしてくれると──」

 

工事現場に鋭く澄んだ笛の音が響き渡る。ミノリが鳴らしたものだ。作業員たちは不思議そうにミノリの方へ振り返れば、彼女はメガホンを手に取る。「全員、作業中止!」

 

その瞬間、不満が波のように広がる。作業員たちは手にしていた道具や荷物を下ろし、俺は笑いが抑えられない。

 

オートマタは驚いた様子を見せるが、ミノリは続ける。「給与なき所に労働なし!労働とは、人が生存するために行われる闘争だ!全ての労働には、相応の対価が支払わなければならない!そんな尊い行為を侮辱するとは…」と言葉を濁した後、嫌悪感を露わにして目を細める。「労働の価値が分からない者の仕事など、受ける気はない!」

 

「ま、待ってくれ!支払わないとは言ってないだろう?ただ、時間が掛かるだけで…」

 

「何たる詭弁を!我々は合意のもと、労働を提供する契約を結んでいる!契約書に示されていない労働は、1秒たりとも提供できない!」

 

「そうだそうだ!」と背後で作業員たちが野次を飛ばす中、オートマタは不機嫌そうに唸る。

 

「チッ、これだから最近の働かない若者共は。」社長はそう言い、俺は目を閉じる。

 

政治というのはめちゃくちゃなものだ。俺の考えは何度も政府に見捨てられ、ブラックタスク以外にも様々な企業や組織から妨害を受けてきた他のエージェントたちのとほぼ同じだ。エージェントになる前も、両親は一生懸命働きながら俺を育ててくれた。

 

俺は黙って話を聞く。「分かった、分かった!今日はもう帰ってくれ。明日は日当を用意する…それで作業を再開してくれるな?」

 

「お金を用意できるのなら、我々も労働を約束しよう。」ミノリは途中で、何かに気づいたように瞬きをする。「… 待て、今日作業した分の給与はどうなるんだ?」

 

オートマタは鼻を振り返る。「もう言っただろ!今は手持ちがない!明日だ!明日話せばいいだろ!」

 

「そうか!」とミノリは睨みつけるように言う。「そうやって労働者を不当に扱った利益で富を築いたのだな。このブルジョワめ…!」

 

深呼吸して息を吐いたミノリの目は、危険な輝きを放つ。「労働の価値を軽んじるとは、それ相応の覚悟があるということだな!」メガホンを構えて、こう指示を出す。「爆破班!ありったけのダイナマイトを用意しろ!」

 

これはまずい。俺が動き出すと、数人の作業員たちも動き、C4を取り出して壁や支柱、さらには屋根や床の要所に正確に設置し始める。

 

俺が現場の境界線の外に退避すれば、オートマタはこう叫ぶ。「ダイナマイトだと?お前たちっ、何をする気だ?」

 

やがて作業員たちが片付けを始めると、ミノリは後ろを振り返ると、俺に気付いたのか表情を輝かせる。さらに俺がうなずくのを見れば再び表情を輝かせ、起爆装置を手に取る。だがそれはミノリが許可を求めているのではないことに気づく。

 

「ちょっとした齟齬が生じただけで現場を破壊するつもりなのか!?」

 

ミノリは肩をすくめる。「”破壊”とは何とも醜い言い草だな。ただ均衡を保つだけだ。」

 

「まつ、待て!壊したところで、明日また建て直すことになるだろう!もったいないと思わないのかっ!?職人としての誇りはないのか?芸術家としての誇りはないのか!?」オートマタは膝をつきそうになりながら、ミノリを止めようとする。

 

「資本家でも、クオリティの高い芸術作品にはそれにふさわしい価格で支払うのは分かっているぞ。」ミノリはそう言いながらオートマタに近づき、影を落としながら問いかける。「…最後に、もう一度だけ聞こう。我々の給与は持ってきたか?」

 

「何度も言わせるな!明日には持ってくるから──」

 

オートマタが言い終わる前に、ミノリはメガホンでこう叫ぶ。「発破!」

 

起爆装置が押されると、最初の爆発で大地が揺れ、続く爆発で建物は破片ごとに崩れ落ち、現場の中央に整然と積み上がる。オートマタは悲鳴を上げるが、ミノリはそれを無視して横を通り過ぎていき、顎に手を当てる。作業員たちもミノリに続いていく。

 

どうして他と比べて遅いのかという理由を指摘したり、これは間違っていると、建物を爆破させるべきではないと言いたい自分がある。

 

だがこの状況に正当性を感じた小さな俺が勝った。そして俺は口を閉ざして、マスクの下で微笑む。そしてミノリが近づいてきた所で微笑み返す。「先生、今日は大変な一日になってしまった。お腹もすっかり空いたことだし…」

 

そうしてミノリは他の作業員たちに向き直り、オートマタは膝をついたまま呆気にとられる。「よし!今日は全員に特大カツ丼を奢ろう!お腹を満たして、気分よく帰ろうじゃないか!」

 

「部長ばんざーい!!!」作業員の一人が叫ぶ。

 

「ミノリさんが現場監督ならなんだってやります!」また一人叫ぶと、俺は思わず同意してしまう。

 

“俺とだいたい同じ意見だな…”

そう苦笑いしながら認める。

“カツ丼というもの今まで食べたことがないから、貴重な経験になりそうだ。”

 

「先生…」とミノリは信じられないといった様子で言い、俺が彼女の隣に座ると、ゴーバッグを手渡される。「まさか仕事終わりに食べる特大カツ丼の味を知らない労働者がいるとは…」

 

“まあ、その時の俺はかなり若かったし、ビールばかりだったな。”

バッグを肩にかける。

“大人になってからも、一部を除いては口に合わなかった。”

 

「ああ。」とミノリは納得したかのようにうなずく。バスが来るのを待つ。「ならどんなものが奢られていたんだ?」

 

“特に思い浮かばないな。ただ、夏はマンゴーを使ったアイスクリームのようなmangonadas(マンゴナーダス)作ってくれる老婦人がいて、それに様々なスナックも売っていた。”

 

俺の故郷についての話にミノリは興味深そうに耳を傾ける。小さな思い出話ばかりで、一方の俺は人生初めてのカツ丼を味わうことになる。

 

*1
この90度は華氏度(°F)であり、摂氏度(℃)だと32.2度となる。

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