あの光だ。またあの光で背筋が震える。ホットチョコレートを一口飲む。濃厚で、スープのような飲みごたえで、故郷にはない深い味わいだ。ふむ、チョコレートか…
雪を見ると、子供の頃の思い出がよみがえる。丘の風景や、時折近くのレース場で走る車のエンジン音がかすかに聞こえる様子が目に浮かぶ。ソリを手に入れて雪の積もった丘を滑り降り、転んでも何か壊れていないかと願っていたあの頃。
雪玉をぶつけられたり、逆に投げ返したりした後、家に帰ると母が温かいホットチョコレートを用意して待っていて、父はソファで新聞を読んでいた。
さて、ノドカがストーキングをやめてくれれば、彼女のスコープに.50BMG弾を撃ち込みたいという衝動に駆られることもないだろう。
注目されること自体は構わない。むしろそれで喜ぶ俺もいる。だが俺は目の前で注目されたい。スコープだとただ戦慄するだけで、光に向けて自分の手で銃を撃ちたいという衝動に駆られる。恐らくは見ている人物の頭を狙うのだろう。とはいえ、ノドカは悪い子ではない。趣味がただ…変わっているだけだ。
一方でシグレは…確かに年齢を考えると、いけない趣味ではある。混ぜるだけなら若い頃にやってもいいが、実際に飲むとなると話は別だ。
そうして俺はため息をついて、最近知り合った顔馴染みの名前を電話に入力して耳に当てる。ホットチョコレートはまだ手に持ったままだ。ノドカの…とにかくあの光で不安になってしまってマスクが外せられない。
シグレが電話に出ると、俺は元気を取り戻す。
“もしもし、シグレ。今ノドカと一緒にいるのは分かっているから、ストーキングをやめさせてくれないか?今ノドカが今使っている道具に一発撃ち込みたくはないんだ。”
シグレは言葉を止めると、軽く笑う。「せんせ~い、何のことかさっぱり分かんないや。まあ、望遠鏡を覗いているノドカを見てると、いくらキヴォトス一のスナイパーでもノドカを狙撃するのは無理って思うんだよね。」
ため息をついて、目を閉じてからTAC-50Cを構えてストックを展開して肩に当てる。スコープを覗き込むと、光が視界に入り、自分の知識を活かして風速から照準を調整する。その間、周囲にいた生徒たちが興味深そうに俺を見つめていた。
電話を横に置いて、イヤーピースに接続するとノドカの声が聞こえるようになって、トリガーを引く。
アンチマテリアルライフルの銃声が轟き、肩に反動が押し寄せてきた後に狙いを定め直せば、光は消えていた。電話越しでも聞こえたシグレの横にいたノドカの叫び声から察するに、弾は命中した。
電話を手に取って、耳に当てる。
“シグレ、さっきのはノドカの声じゃないか?”
「あー…」とシグレは気まずそうに唸る。「ごめん、先生。」
“気にするな。人はプライバシーを物凄く大事にすると、時々ノドカに言い聞かせてやってくれ。”
「んーと…じゃあそうしとくね。」
“言いたいことはこれで以上だ。注目されるのは…悪くないが、あれはスナイパーが放つ反射光みたいだったからな。”
そう言うと、シグレは納得したようにうなずいた。
「うん。さっきの、当たったらすごく痛そう。」
言いたいこととは微妙に違っているが、まあだいたい同じだ。少なくともシグレも、ノドカも理解してくれればそれでいい。
再びレッドウィンターを歩き回ると、そろそろ帰らなければいけない時間になる。
一日が終わり、また電車に乗る。だが今回はマリナではなくトモエだった。あまり良いとは思えないが…
「あっ、先生。」とトモエは俺を見つけると笑顔で挨拶する。「お疲れ様です。本来ならマリナ委員長やチェリノ会長も同行してくださることになっていましたが…」
“前者はまだ懲罰中と?”
そう言えば、トモエはうなずく。
「チェリノ会長はレッドウィンターの平和を取り戻すために、復興に取り組んでいる最中です。」とトモエは明るい笑顔で語る。「生徒たちの意見に耳を傾けておられました。本当に素晴らしいことだと思いますよね?その姿もとても大人びたものになっていましたので。」
何も言わず、俺はただうなずく。
“成長したな。そんな姿が目に浮かんでくる。”
「先生にそっくりでした。」
“これ以上大袈裟に言うのはやめよう。”
そう口を挟む。
“チェリノは…”
そこで言葉を止めて、目を細める。一方のトモエは、何の裏表もない純粋な笑顔を浮かべている。
「何でしょうか先生?」と彼女は笑顔を浮かべたまま尋ね、俺はリラックスする。
“チェリノは…”
言葉を選びながら続ける。
“レッドウィンターの…偉大なる指導者だ。その理由は多分彼女は俺ではないからだ。”
トモエは手で口元を隠しながら小さく笑う。「まあ、先生。本当に中立的で素晴らしい意見ですね。以前にも同じようなことをおっしゃっていましたね。つまりレッドウィンターの指導者はチェリノ会長こそがふさわしいということですか?」
“しまった。”
思わず悪態をつく。トモエは笑いながら、目の端を拭うように手を伸ばす。
「すみません、先生。疑惑の目を向けられた時に少し傷ついてしまったので、少し仕返しをしようと画策していました。」とトモエは認め、俺は後頭部を掻く。
“すまない。二度と経験したくないような方法で身体に叩き込まれる指導もあるものだ。”
そう笑いながら答える。実際、俺は何度も失言をしてしまう度に、PRトレーニングを受けさせられた。エージェントとしては、命じられるような立場ではなかったが、仕事の途中に仲間のエージェントから連れ出されてマスコミ相手に何を言うべきかを叩き込まれた。
…本当に大変だった。プログラミングを教えることよりもはるかに大変だった。才能も適性もない分野だった。
トモエは首を振りながら微笑む。「では先生。またレッドウィンターに来訪する時があれば、歓迎いたします。時折立ち寄ってくださるのはどうでしょうか?」
彼女はさらに身を乗り出し、月明かりに照らされた美しい顔とピンク色の瞳を向ける。「チェリノちゃんもきっと喜ぶと思いますよ。ですが、私が提案したとは、言わないでくださいね。」
俺は笑いながらうなずく。
“ああ、要請してくれてありがとう。時間があるまた来るとしよう。”
一歩下がって、トモエは笑顔でうなずく。「では、お気をつけてください、先生。」
“身体には気を付けてくれ。”
そう返して、シャーレに最寄りの駅へ行く電車が発進するなか、俺は自分の客室へと移動する。
俺は座って楽になり、凝りをほぐすために軽くストレッチをする。アロナが視界の端に現れ、窓の外を眺めている。ISACは目の前に座り、報告書に目を通している。
“大変な一日だった。”
| A その通りでした。 |
“しかし、何か忘れているような気が…”
そう呟くが、気にしないことにする。重要なことならとっくに思い出しているはずだ。
……
その考え方のせいで多くの命が失われた。内心で焦りながらとにかく俺は必死に忘れていたことを思い出す!
ユウカは立ち尽くしていた。憤怒に満ちた姿で。俺は途中で足が止まってしまう。そして俺がやったことを思い出──あっ。
そうだった。特別クラスにシャーレの資金の使用許可を出していた。ユウカが目を光らせているシャーレの資金を。
彼女は一枚の紙を振りかざし、俺は思わず後ずさりしてしまう。「先生、これ、何ですか?」
“領収書?”
そう答えるが、ユウカは俺ほど面白がっていなかった。とはいえ、そんなことは些細なことではあったが。
「先生、シャーレの予算は一体何だと思っているんですか?」と彼女は目を閉じたまま身体を震えさせる。
そういえば、今思い出したことがある。時には勇敢さよりも慎重さの方が大事になることがある。
それでも俺はつい、こう答えてしまう。
“…金?”
それが資金というものだろ?特定の用途に使われる金のことだろ?
…明らかに大間違いだった。
「逃げないでください!!」とユウカが叫びながら追いかけてくる。「せぇぇぇぇんせぇぇぇぇい!!!」
“暗い部屋の中で鏡に向かって3回"温泉"と唱えたら温泉開発部が召喚されると思うか?”
俺は独り言のように問いかけるが、ISACは首を振り、アロナはただため息をついた。
[作者あとがき]
今回の章は以上です。ミノリは私のスピリットアニマル(自分に似ている、または理想とする性質や性格を持つ、魂の守護者とされる動物)のような存在で、この章では前章ほど227号特別クラスが中心的な役割を果たしませんでした。
以上です。特にこれ以上のことはありません。ただ今回の章を楽しんでいただければ幸いです。
興味があれば、私の《link:https://501ar.carrd.co/》carrd《\link》 を見てみてください。X(旧Twitter)とKo-fiへのリンクも掲載しており、こちらでお知らせを発信しています。
[訳者あとがき]
次回は23日です