道を通り抜けていけば、トラブルメーカー四人組の姿が見えてくる。
アルは目を虚ろにしていて、普段は完璧に整っている服装が少し破れて汚れている。他の三人は大丈夫だったが、ムツキにも服に汚れがついていた。恐らく爆薬を使って脱出したのだろう。
カヨコとハルカの方は無事だった。
“改めて、君たちのおかげで本当に助かった。”
「せ、先生!?」とアルは俺の姿を目にすると叫んで、顔をうつむかせる。
「どういたしまして。」とカヨコが答え、ムツキは小さく笑う。
「別に大したことじゃないよ~。やっぱり授業の復習っていいよね。」そう言って、ムツキはいたずらっぽく笑みを浮かべながら、そっと足を蹴り上げる。
“LMGとスナイパーライフルで敵を制圧するのは?”
腕を組みながら、淡々と尋ねる。
“基本中の基本だ。むしろ射撃し続けても銃口が跳ね上がらないことに驚いた。”
そう伝えると、ムツキは無邪気な笑みを浮かべる。
そんなムツキを無視して、俺は笑顔を浮かべるハルカの方へ向いて、頭を優しく撫でる。一瞬だけハルカの身が固くなったが、気が済むまで撫で続ける。
手を離して、ようやく落ち着きを取り戻したアルの方を見る。辛うじて体裁を保てているといった程度ではあるが。
「ま、まあ…雑作もないことよ。」と彼女は胸の前で手を組んで微笑む。「そうね…こんなに簡単な依頼を頼まれたのは…少し屈辱的ね。」
“それなのに猫探しや配達依頼には一つ返事で請け負うと?”
そう問えば、アルは身を強張らせて冷静になろうとする。だが俺はそれを制す。
“大丈夫。少し癪に障っただけだ。”
そう言い、わざとらしく鼻をすする。
“明日の仕事をタダで手伝ってくれる人が見つからないと気が収まりそうにないな、これは。”
アルはまた慌て始め、周囲はため息をついていたり、面白がっていたりしていた。「も、もちろん、一日一惡…いえ、一銭一惡よ。」と強調するが、周囲の顔を見たことでアルはようやく悟った
こっちを見たアルに、俺は故郷でいつも手を焼いていたやんちゃな子供たちにしたように、彼女の鼻をつまむ。
“後出しで報酬の交渉はダメだぞ~”
そう言って手を離すと、アルは鼻を押さえて、俺は軽く笑う。
「だ、騙したわね…」と彼女は言葉を濁して、俺はうなずく。
“仕事は仕事、俺がここで先生をやっているのと同じだ。確かに嫌な依頼がある。だが明確に聞かれない限り話を持ち出さないのが礼儀だ。それに必要以上に詳細を喋りすぎるのもよくない。”
アルは呆然とした様子で俺を見つめるも、俺はISACとアロナにうなずいて、二人は送金する。
“とはいえ、明日人手がいるのは冗談じゃないぞ。”
そう認め、ベンチにもたれかかって、便利屋は興味深そうに視線を向ける。
「まあ──」とカヨコが口を開く。「別に連邦生徒会もシャーレも不人気というわけじゃないから、人手が見つからないという状況には陥らないと思う。」
“だな。最初はシャーレの部員だけでやれてきたが、最近は忙しくなってきた。もう設立から一ヶ月も経っているし、それに俺自身も忙しい。”
「じゃあなんでうちらに依頼したの?」とムツキが尋ね、俺はため息をつく。
“ミレニアムは何か大きな案件を抱えているようだったから、依頼するわけにはいかない。トリニティは俺が行った所では一番少ない場所だし、そこの部員たちは多忙を極めている。ゲヘナは混沌としているし、不用意にそこの生徒を連れ歩きたくはない。美食研究会はどういう訳か必ず爆発を起こすからな。アビドスは今、土地関係の問題に対処中だ。レッドウィンターは…まあまだまだ忙しいようで、いつ時間が取れそうなのかが分からない。そもそも俺自身、社会基盤の作り方もよく分かっていないのもあるが。”
ため息をついてベンチから立ち上がり、便利屋に振り向けば、彼女たちは軽く笑う。
“というわけで、明日の予定は君たちに任せる。引き受けてくれるという話ではあるが。”
「それって書類仕事?」とムツキは微笑んで尋ねる「楽しそう~」
“君は最終手段として頼ることになっている。”
そう言い返すと、ムツキは頬を膨らませて、目を細める。
「あ、あの…」とハルカが口を開き、全員の注目を集める。「明日は既に仕事が入っているはずじゃ…」
周囲はその言葉に反応して、察したように身構える。俺はどうすべきか迷い、身をすくめる。
“そうか、忙しいのか。”
そう言って、ため息をつく。
“それは残念だ。”
本当に残念だ。是非手伝って…いやサポートしてもらいたかった…。とはいえ、全員が"書類仕事"の内容を正確に把握していないようだが。
「なら私が。」とカヨコが手を挙げて、他を驚かせる。「まあ、元々入っているのは爆破作業でハルカとムツキの得意分野だし、それに…」言葉を濁した後、カヨコはため息をつく。「こっちは先生に借りを作っているから、私がやる。」
「ほ、本当にいいのかしら?」とアルが尋ねると、カヨコは肩をすくめる。
「うん、大丈夫。」とカヨコは確認するように言って、俺もうなずく。
“じゃ、そう言うのなら。”
そう言ってうなずく。
“それじゃあまた明日会おう。報酬はすでに送ってある。俺はそろそろ寝ないといけないからこれで。”
「ばいばい~」とムツキが別れの挨拶を告げると、他も手を振り、俺も手を振り返す。
ゆったり歩きながら、シャーレに向かう途中で身体を伸ばし、設置した防御システムが全て正常に動いているかをざっと確認する。
計画が動き出すまでには時間がかかるはずだ。建設が必要だからだ。だが明日のことは既にミノリに手伝ってもらうよう頼んである。建設材料のことなどで話し合うために来ることになっているが、シャーレにもあるはずだ。とはいえ、彼女の専門知識に頼ることになりそうだ。
ゲマトリア…その存在感が頭から離れられない。万能なISACでさえも居場所の特定が不可能で、推測しかできない。
今のところ、黒服しか接触はしていないが、どうやら他にもメンバーがいるようだ。つまり、この先は見つけるか、見つけられるかのどちらかになる。
リンに聞くかヒナに聞くか──ヒナは諜報に慣れているようだから、彼女に聞いてみる方がいいかもしれない。
“今何しているんだろうなヒナ…”
そう独り言を呟いて、路地を通り抜ける。
「え?」という声がして、野球帽にパーカー、スカート姿の少女が路地から現れる。角とヘイロー、翼は同じだが、おそらくこれでも隠しているつもりなのだろう。
俺は立ち止まってもう一度よく見て、微笑む。
“ヘイローでバレバレだぞ。”
「ヘイロー?」とヒナは疑問に思い、壁に寄りかかっていた姿勢を正すと、自分の失敗に気づいて少し顔を赤らめる。「どうして他の人と同じ形にならないんだろう…」
“さあどうだろうな。それで、今は諜報活動中か?”
ため息をついて、ヒナはうなずいて帽子を脱ぐ。「ちょうど終わったところなの。先生はどうかしら?」
“こっちもちょうどセミナーからの依頼を終えてきたところだ。”
そう答え、小さな生徒の側に並ぶ。
“あと、ゲヘナは独自の情報網を持っていないのか?多分ヒナはそういう経験があると思うが、どうして現場に出ているんだ?”
ため息をつけば、長年の疲労が肩に絡みついているかのように、ヒナは今にも崩れ落ちそうになる。しかし強靭な意志で姿勢を正して、いつもの表情に戻る。「もちろんあるけど、あれは万魔殿のものなの。先生はまだあそこと関わったことはないよね?」
“どうしてだ?”
そう尋ねると、ヒナはため息をつく。
「そうね…失礼を承知で言うと、一度でもあそこと関わったことがあったらそんなことを尋ねないからなの。」ヒナは目を閉じて答える。「あそこから聞き出すのは…」と彼女は言葉を濁すと、瞳と角のヒビから光が強まり、そうしてリラックスすれば光がすぐに消える。「気にしないで。ゲヘナ外で起きた出来事は風紀委員会の管轄外。鎖国されたような状態であればそれが一番ね。」
俺はうなずき、ゲヘナで過ごした日を思い出して、そして…
“コメントは控えておこう。”
そう結論付ける。
ヒナはかすかに微笑むが、すぐにその表情は消える。「改めて、アコとイオリの件について謝罪をさせてほしい。」
“謝罪するのは俺の方だ。少し…手が離せない状況にさせてしまったからな。”
ヒナはうなずき、特に言うこともなくて、しばらく無言で歩き続けた。「そう言えばあの時、どうして私の名前を…?」
ゆっくりと首を横に振って、俺はこう答える。
“特に理由はない。ただキヴォトスで起きている変な事を探しているだけだ。”
「そうね…」とヒナが言えば、立ち止まって周囲を見回す。「ここで別れましょう。よければ私の方でも情報の精査をさせてくれないかしら。もしかしたら何か分かるかもしれない。」
“いいのか?”
俺は微笑んで、そう尋ねる。
“本当に助かる。ありがとう、ヒナ。”
ヒナはうなずく。「なら、時間が出来た時にまた連絡するわ。おやすみなさい、先生。」
“おやすみ。”
そう返して、前へと向き直れば、シャーレに続く道を歩く。
到着すると、シャワーを浴びて身支度を整え、ソファに横になって目を閉じ、夜を過ごして明日に備える。