The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.23-03 シャーレ

すぐに来た翌朝。俺は綺麗に整えて、ジーンズとシャツ姿に着替え、ボディアーマーとゴーバッグを着ていつものように書類仕事に苦戦する。ISACやアロナからカヨコが来たという連絡が来るか、もしくは直接来るのを待っているが…

 

時間が経過し、書類をめくるたびに眉間のシワが深くなっていって、不安と戸惑いが募る。もう三十分も経っている。カヨコは今どこにいる?普段から遅刻するような性格とは思えない。

 

横を見やれば、シロコがオフィスを覗き込んでいる。「おはよう。」と水筒を見せながら挨拶をする。「水を汲みに来たよ。」

 

“やあシロコ。”

シロコの方を向いて、うなずく。

“サイクリングか?”

 

「ん。」とシロコはうなずいて、俺のデスクに積まれた書類の山を警戒するように見つめている。「あと、対策委員会の方で使う備品を取りに来た。」

 

俺はうなずいて微笑む。

“そうなのか。少し話していかないか?”

そう尋ねて、カヨコが来るまでなんとかシロコに協力させる方法を考える。

 

時間は掛からない。それについては約束できる。

 

シロコは成長する書類の山に目を細めれば首を横に振る。俺の考えを見抜いたのは間違いないだろう。「…でも大丈夫。明日も来れるから。」と言ってうなずく。一方の俺はため息をつく。

 

“そうか…”

そう言ってマスクの下でシロコに微笑みかける。

“なら気を付けてくれ、シロコ。”

 

シロコはうなずいて去っていき、俺は一人で仕事に戻る。

 

途中で生徒たちが挨拶に来ることがあったが、休憩を取ることにした。ゴーバッグを肩に掛け、少し外に出る。オフィスを出ながら、カヨコにメッセージを送る。

 

シャーレ内にいる生徒たちに軽く手を振りながら、俺はオフィスを出て外に向かう。アロナの協力を得てISACが情報を解析する中、HUDにウェイポイントが表示されて、それを頼りに小走りで進む。まだ早朝のせいか、交通量が少なく、授業前に店先を眺めたり友人と談笑したりする生徒が少しいる程度だ。

 

とはいえ、カヨコが無断で来ないタイプには思えない。だから──

 

俺は立ち止まる。するとクルーザーの側で歩道の縁石に腰を下ろしたカヨコの周囲には小さな人だかりが出来ている。取り囲んで職務質問をしているのはヴァルキューレの制服を着ていないから、警備員だ。元々険しかったカヨコの表情は、オートマタが話を続けていくうちに、ますます苛立ちが募っていく。

 

俺はため息をつきながらそこへ向かう。元々、警察への印象はあまり良くなかったが、民間の警備に対しても良くなかった。

“何があったのか?”

そう尋ねると、オートマタは驚いて振り向く。

 

「あ、はい、先生。最近未遂ではありますが不法侵入がありまして、この生徒が不審に思えたので…」とオートマタは説明してカヨコを指差す。俺はマスクの下でため息をつく。

 

“この生徒は今日のシャーレの当番だ。”

そう説明し、眉間を揉んでからオートマタに向き直る。

“三十分も遅れている。”

そう付け加えると、オートマタは身を強張らせて、俺は腰に手を当てる。

“それじゃあ、失礼してもいいか?”

 

「は、はい。ご迷惑をおかけしてしまって申し訳ございません。」とオートマタは謝るが、俺は首を横に振る。

 

“俺の生徒には一言も謝らないのか?”

気だるげに言いながら、カヨコを立ち上がらせる。彼女はうなずいて感謝を示し、オートマタもうなずく。

 

「お時間を奪うことになってしまい、申し訳ございませんでした。」とオートマタはカヨコに頭を下げて、俺はうなずいて満足する。

 

“よし、それでは良い一日を。”

そう言って振り向き、カヨコが俺の後につきながら人混みをぬける。何故かカヨコは…照れている?

 

シャーレの近くまで来たら、俺はカヨコに振り向く。

“さっきから悩み事でもあるのか?”

 

まるで俺が何か言ってくるとは思ってもいなかったように、カヨコは驚いたように身構える。「…いや、何でもない。さっきはありがとう。それに遅刻してしまってごめん。」

俺は軽く手を振る。

 

“気にしないでくれ。”

そう答えて、歩みを緩めて一緒に歩き始める。

“それにしても、あの職務質問は何だったんだろうな?”

 

カヨコはうなずき、「そうね…」と間延びしたように答える。「警備員や警官とすれ違うたびにいつも職務質問をされて、風紀委員や便利屋が来るまでずっと質問攻めになってしまうの。」そう言って再びため息をつく。「相手によってはずっと黙って、聞き手に回った方が良いこともあるよ。」

 

俺は少し見上げ、他の便利屋が職務質問をされている光景を想像して、思わず鼻で笑う。

“待て…何のための職務質問なんだ?ここだと銃やグレネードの所持は合法だぞ。”

 

「化学兵器や違法薬物といったものを探すためね。」とため息をついてカヨコは指摘する。「グレネードはいいとして、催涙ガスは残虐行為に当たるし、他のものも明日になっても痛みが消えないの。」と彼女は身震いしながらそう言い、俺は同意するようにうなずく。いや、少なくとも理解を示すためにだ。マスクと防具を身につけるのには理由があってからこそだから…

 

“まったく、酷い話だ。”

思わずそう口に出せば、カヨコはため息をつく。

 

「先生は気にしなくていいよ。私にとっては日常茶飯事だし、それにこんな怖い顔をしているせいで起きていることだから。」

 

“そんなに怖くはないぞ。”

そう言えば、カヨコは驚く。シャーレのビルに到着すれば、俺は手を伸ばしてカヨコのためにドアを開けてやり、振り返ると彼女の目が大きく見開かれていた。

 

そしてカヨコは緊張を解いて鼻を鳴らしながら俺をやや鋭い目つきで睨む。「あくまでもお世辞、だよね。」と感謝の気持ちを少し込めて彼女は中に入る。俺は肩をすくめてドアを開けたままにし、後から入ってきた別の生徒にも頷きを返すと、カヨコの方に向き直る。

 

“まあ少しは。”

そう認めつつ、一緒にオフィスへ向かう。

“でももっと怖いのを見てきた。”

本当のことだった。ディビジョン内でよく見る人以外にも、元CIAや陸軍、海兵隊もいれば、単なる不運な巡り合わせということもあった。

 

そしてそこにはいつも死、破壊、絶望があった。決して楽しい経験とは言えない。

 

オフィス行きのエレベーターの中で、カヨコは一瞬だけ俺を見つめながらため息をつく。「まあ、改めて…ありがとう、先生。」

 

“感謝するのはまだ早いぞ。”

そう答えて、オフィスのドアを開ける。そして俺とカヨコは立ち止まり、外に出ていた合間に再び山積みになったであろう書類の山を見る。

“まだやるべきことが残っている。”

 

カヨコは書類の山を見上げ、ため息を漏らす。「そうね…」

 

そうして俺たちは重い覚悟を胸に抱いて席に着き、仕事に取りかかる。

 


 

「先生!」と声がすれば、勢いよくドアを開けた人物が慌ただしく入っていく。「トラブルが発生した。厄介な不良集団が…」イオリが話し始め、俺がパソコンの画面越しにその様子を見ていると、カヨコはソーダを飲みながら凍りついたように動きを止める。

 

“調子はどうだイオリ?”

なんとか声をかける。隠れていない方のイオリの目はしっかりとカヨコの姿を捉えていて、カヨコの方は多分視線を返していた。

 

「先生…ってなんで便利屋がここに!?」

 

俺はゆっくりと周囲を見回し、座っている椅子にもたれかかる。

“今はイオリ含めて三人しかいないぞ。カヨコに書類仕事を手伝ってもらっているだけだ。”

段々と小さくなっていく書類の山にうんざりしながら、俺はそう説明する。

 

「そこをどいてくれ先生!」と再びイオリが言って、カヨコを睨みつける。「こいつを逮捕しないといけないんだ!」

 

“イオリも手伝ってくれるのか?”

カヨコが整理してくれた山積みの書類を指差しながらそう尋ねる。イオリはその山を警戒するように見つめた後、カヨコと目を合わせる。彼女の本能と義務感が、おそらく書類仕事には不向きな自分の経験と葛藤しているようだ。

“まだ正午だ。こいつがもっと増えるかもしれない。”

 

「それは…」とイオリは言葉を濁し、ため息をつく。「しょうがない…本当はしたくないが──」と強調すると、カヨコを睨みつける。「今回は見逃してやる。」

 

カヨコはゆっくりとピストルをホルスターに戻せば、安堵のため息をつく。

“で…厄介な不良集団というのは何だ?座るか?”

 

イオリはため息をつくが、首を横に振る。「いや、緊急の用件だしそれに──」

 

“カヨコの逮捕はしないな。”

そう口を挟んで、手首を回す。

“なら、説明を頼む。”

 

イオリは俺を睨みつけた後、話を続ける。「D.U.で活動をするための手続きが一向に進まないから、シャーレの許可を貰ってそれを省略するつもりだ。」

 

俺は書類を読む手を止め、彼女の方を向く。

“待て、本来ならすぐに終わるはずの手続きを五段階も省略するつもりなのか?どうしてだ?誰が?そもそもどういう経緯でこうなった?”

 

イオリは苛立ちを露わにして、カヨコは俺に向き直る。「どうやら無駄足を踏んでいるみたいだけど、少し引っかかったことがあるの。」とカヨコはイオリと目を合わせながら説明を続ける。「ほとんどの自治区はゲヘナの不良集団が起こすトラブルに慣れていないから、受け入れたがらない。普通なら、その不良集団の対応を風紀委員会に要請して、その許可はすぐに降りる。はずなんだけど、どうしてD.U.ではここまで長引いてしまっているんだろう…」

 

イオリはため息をつき、足を床に打ち付けながら苛立ちを露わにして、尻尾を激しく振る。「そこが問題だ。何が何だか分からない。あいつらは備品や爆薬を盗んでいったんだが、どうして盗んだのかが意味不明なんだ。下のエンジェル24でセムテックスやC4を買いに行くような感覚でやれるようなものじゃないんだ。なんでいつもいい線に行った時に限ってこうなるんだ…」

 

“元々の所有者は?”

そう質問する。この話はどこかおかしい。イオリと風紀委員会は正体不明の不良集団に苦戦している。

 

「企業のもので、何社かあったけど会社名はもうどうでもよくなったから忘れた。もうあそことは相手にしたくない。」とイオリは鼻を鳴らす。「あと、なんとか介入できるようにアコちゃんが今交渉をしているけど、どういうわけかそこでの活動が制限されそうなんだ!」

 

突然、頭の中で昨夜のヒナの行動とこの話が結びつく。イオリがここまで動揺している理由が分かった。そしてアロナとISACのフィルターを通過したEメールが届く。

 

アコから送られてきたもので、一連の写真と情報が添付されていた。

“自動車窃盗、窃盗、恐喝、暴行…”

メモを取っていく。

“成績は決して優秀とは言えないが、いつも追跡を撒いていると…?”

 

「それで、出来そうなのか?」とイオリが尋ね、俺は胃の奥がざわつくのを感じながら、頬の中を軽く噛み、考えを巡らせる。

 

盗難された物品は、おそらく保険で既に補償されているはずだが、それを何の変哲もない学生たちが持ち去ってしまうのは……どうにもおかしい。

 

カヨコの方を見れば、肩をすくめていた。「私もよく分からないけど、確かにおかしいよね。便利屋は何度も捕まえてきたというのにどうしてここまで手を焼いているんだろう?」とカヨコはシッテムの箱の画面を指差す。「火のないところに煙は立たぬ、って言うしね。」

 

俺はゆっくりと画面をタップして、既にアロナとISACが用意してくれた草案が表示されて、電子署名をする。

“出来たぞ。”

 

イオリの顔が明るくなる。「よし。」

 

“俺たちも同行する。”

イオリが言い終える前にそう言って立ち上がって、ゴーバッグを背負う。

“カヨコ、準備はいいか?”

 

カヨコは一瞬動きを止めるが、やがてため息をつき、武器を確認した後、肩をすくめる。「よし、いけるよ。」

 

俺はうなずいて、二人に向き直る。

“十分後に行くぞ。その間に準備を整えてくれ、連絡したいのなら今のうちにして、必要なものがあったら自由に取っていってくれ。公用の駐車場でまた会おう。”

そう言い終えて、俺は公用の駐車場へのエレベーターに向かう。

 

何人かに連絡しておいた方がいいかもしれない。もしかしたら近くにいるかもしれない。

 

連絡先を思い浮かべながら通話ボタンを押し、電話を耳に当てると、相手が電話に出るのに合わせてため息をつく。

”やあシロコ。”

 

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