陽の光がオフィスに差し込み、ソファに体を投げ出した俺の姿を照らす。ため息をつきながら、計画とマッピングした区域を見返していく。
すべての部屋には何らかの形でセキュリティシステムが導入されている。ドローン、ファイアフライ、ハイヴ、タレット、追尾マイン、ジャマー、デコイ。すべてが俺の指示ひとつで作動し、シャーレの部室を要塞へと変える準備が整っている。今もなお、偽装されたタレットが非作動のまま、ひっそりと隠れているのが見える。
明日は、いくつかの仕事を片付けた後で、外部の強化に着手する予定だ
“ヘイアロナ、任務はどんなのがある?”
| S 依頼がどんどん溜まってきています。内容が重複しているものはあれば、現実的ではないものもあって、対応するのが少し難しいです。 |
アロナがそう言う。
“ふむ…“
俺は呟く。
“他に…俺たちが責任を持ってやるものはとかはあるか?授業とかそんな感じの。”
| S えーと…… |
アロナが話し始める。
| S 超法規的機関なので、先生は様々な学校の生徒たちを雇って協力してもらうことができます。そして、生徒たちが先生に授業のお時間をいただくこともできますよ! |
“応募状況はどうだ? 何か来てるか?”
俺が聞くと、アロナは一瞬沈黙する。
| S あります! それに、明日の授業のリクエストも来ていますよ! |
アロナの報告に、俺はうなずく。
“……まあ、明日は書類仕事があるし、授業は午後に回そう。応募者に都合のいい時間を聞いておいてくれ。”
そう言った後、俺は眉をひそめる。
“で、授業を希望しているのは誰だ?”
| S えっと……ヴァルキューレ警察学校の生徒ですね。 |
アロナの言葉を聞き、俺の表情は警察という単語に反応して、わずかに険しくなる。もちろん、警察がすべて悪いわけじゃないのは理解している。だが、俺の警官に対する経験は、ドルインフルが広まる前からあまり良いものではなかった。特に、アウトブレイク後に話した警官の多くが、俺がエージェントの死体から、もしくはエージェントを殺してスマートウォッチを奪ったと思い込んでいた。
振り返ってみると、それはもっともなことだった。俺がエージェントだった頃は、まだ若く、成人にも達していなかった。
とはいえ、多くの警官が
そして、俺のスマートウォッチによる混乱が過ぎ去った後、多くの警官は思った以上に責任感があり、警察が好きではなかった俺でも好感が持てた。
恐らく、そうでなかった者はギャングに入るか、死ぬかのどちらかだったのだろう。
俺の警官に対するイメージはそれほど良くはない。 だが…
シッテムの箱のファイルを見つめ、女の子たちの情報が表示される。その内の一人の名前は中務キリノ…
ここの警官はただの子供たちだ。
故郷のFBIとは同じようには扱えない。
もう一度彼女たちのファイルを見て、表情を緩めた。
“で、何が必要なんだ?”
| S 射撃の腕を改善したいと書いてあります。 |
アロナがそう言う中、俺はファイルを見つめる。青い髪とピンクの瞳に目を留め、低く唸る。正直、まだ信じきれてない。
まるで、四年前、まだ学校にいて常に怠け癖があり、何も心配してないからひたすら先延ばしにしていた頃の自分を鏡で見ているような気分だ。もっとも、SHDに入った後も、その性格は消えなかった。ただ、より良いエージェントになろうとすることに対しては、ずっと熱心になった。
それはそれとして、俺はどうやってあの子たちと出会ったんだ?
昨夜の出来事は、いつものように記憶の中でぼんやりと混ざり合っている。ただ、一つだけはっきりと印象に残っているのが…真っ白な髪だった。
そうだ、思い出した。
「あうぅ!身動きが取れません!応援を要請します!」銃弾が飛び交うパトカーの後ろから、白髪の少女が無線で叫ぶ。
「来ないと思うけどね。」フブキは自分達の身動きを奪っている不良に数発撃ち込み、身を伏せてから言う。「皆もう十分に忙しいからさ~、だからリラックスしよ。」彼女は箱を開け、中央に穴の空いた丸い菓子を取り出す。「ほら、ドーナッツでも食べなよ」
「いりません!」
「だからといって諦めるわけにはいきません!」キリノが叫び、身を乗り出してリボルバーを構える。数発撃つも、どれも目標を外してしまう。「そんな!」
弾に当たる寸前、フブキが彼女の腕を掴んで引き戻す。「気を付けて。」
その言葉にキリノの目が見開かれ、一瞬、尊敬の念が浮かんだ"
…が、フブキが言葉を付け加えると、それはすぐに消えてしまう。「こっちは運転したくないからね~」
キリノはがっくりと肩を落とし、涙を滲ませながら呟く「もう!尊敬したのが馬鹿みたいじゃないですか!」
その瞬間、二人は空を切る弾丸の音と、それに続く大きなバン!という音を聞き、そして全員が振り向く。
が、そこには何もなく、だが、敵はある噂に怯え、フブキとキリノは素早く衝撃を振り払って再び発砲した。
フブキとキリノは、その武器は警察がよく使用するM4だと認識できた。が、誰も無線で応答しない。
そして彼女たちは、ヘイローがない男を目撃する。彼は身を隠しながら顔を覗かせ、銃を乱射して敵の一人に熱い鉛をばら撒き、別の相手に狙いを定め、尋常ではないと反応速度と正確無比な銃撃で倒していく。その彼はマガジンに手を伸ばしたが、肩に一発を受け、反射的に手を引いた。
「ダメ!」キリノが叫び、フブキと共に前へ飛び出し、敵へ銃を向ける。
彼女たちが異常なまでに頑丈な理由は理解していたが、ヘイローがない者が撃たれた時に何が起こるのか、それは知りたくなかった。
だが、それは起こらなかった。男は素早く身を翻し、トリガーを引く。一発の弾が敵に命中し、最後の一発で気絶させる。
その時路地から別の集団が現れ、男は即座にM4を背負い、M870に持ち替える。トリガーを引くと、反動を受け止めながら集団を散弾の範囲に捕える。逃げようとする者、発砲しようとする者がいたが、次の一撃で全員がその弾幕に飲み込まれた。フォアエンドをポンピングすると、空薬莢が床に散らばる。そして再び発砲する。
五発目を撃ち、男はショットガンを背負い、M9を抜く。遮蔽物から顔を覗かせた敵の頭を撃ち、次の標的へと照準を合わせる。その手には、投げられようとしているグレネードが握られていた。M9が火を噴き、その腕を撃ち抜きグレネードが、手からすべり落ちる。
数秒後に爆発し、敵は吹き飛ばされた。彼はピストルをホルスターに収め、集団を完全に制圧した。
キリノとフブキは衝撃を受ける。ヘイローを持たない大人を目にするのも初めてだったが、それ以上に、複数の銃を死ぬほど正確に、そして手早く使いこなす者を目撃したのは初めてだった。
彼のもとへ向かおうとした時には、すでに姿を消していた。後に、シャーレの先生であったことを知ることになる。
そして運命のいたずらか、キリノはシャーレのウェブサイトの授業申請ページを見つけ、一番早い時間枠を獲得する。
フブキはサボる機会を見つけた。
…まあ、問題ないか。
“俺の服はどうだ?”
アロナに尋ねる。
”そろそろサッパリしておきたい気分だ。”
食べ物も欲しいな。
そもそも金はあるのか?
俺は自分の身を叩きながら、使えそうな通貨を探すも、完全な金欠であった。
それでも、手はショートパンツのポケットへと伸びる。そこには古い財布があり、もう何年も経っているのに、まだ使える状態であった。
開ける、中には高校生の頃のマテオの写真と、壊れたデビットカードがあったが、もっと目を引くものがあった。
俺はカードを取り出す。クレジットカードだ。触りたくないモノだった。何かこう…違和感があった。
まるで、猛暑の日にひんやりとした風が吹くようなもので…それに…妙に、俺を満たすモノだった。
結局、俺はそれをポケットへ戻し、軽く叩く。
“うん…必要になるまで触らないでおくか。”
とはいえ、問題は変わらないままだ。金がない。
それとクラフトチェンバーを使ってこの世界の通貨を作るのはやめたほうがいい。
……リンは忙しいか?
リンは眉間を押さえながら、内心うめき声を上げる。さまざまな生徒会が参加した一連の会議は、どれも前回と同様に非生産的なものであった。
昨日、マテオがシャーレから出ていったと思えば、夜には大暴れをして、それを知った会議は回を重ねるごとにますます疲弊していくものとなった。確かに大人である彼は、生徒たちのことを案じていた。
それに加えて、彼女はただ、すべてを整理する時間が欲しかった。友人でありリーダーだった人物の失踪から、彼女の不在によって連邦生徒会に生じた変化まで…
次々と押し寄せる出来事に、ただベッドに丸まり眠りたいと思うばかりだった。
彼女はため息をつき、息と共に不安を吐き出しながら指紋認証に親指を置く。そして目を開くと、自分のオフィスの光景が広がっていた。そのデスクには、連邦生徒会長によって呼び寄せられた大人が腰掛けていた。バスケットボールのショートパンツに黒いシャツ、その上からボディアーマーを着込み、ガスマスクを着けている。背負っているバックパックにはショットガン、アサルトライフル、アンチマテリアルライフル。そして、色とりどりのグレネードらしきものを収めた弾帯。さらに、ランチャーが顔を覗かせていた。
沈黙が二人の間に広がる。リンはその姿をじっと見つめ、そして再び振り返る。いつもの冷徹な表情が、あまりにも非現実的な光景によって綻ぶ。ポケットに手を入れてアプリを開き、確認し、そして、ようやく気づく。「あの…どのようにしてここに…?」
“気にするな”
彼は無頓着にそう言いながら、デスクから軽く飛び降りる。
“それはさておき、一部の警備が甘くなっていた。調べておいた方がいい。”
その言葉でリンの目がピクリと動く。確かに、こんなに大量の装備を抱えた約180cmの男を見落とすようでは、警備が杜撰だと言われても仕方がない。「カメラはどうなったのでしょうか?」
“OK、それに関しては奇跡だった。”
彼は認めるように呟きながら、首を振り、リンの苛立ちはさらに募る。
“まあ俺のことはいいとして、そっちはどうだ?ちゃんとやってるか?”
彼の声には、純粋な気遣いと心配が感じられ、リンは動きを止める。彼の茶色い瞳は真剣で、眉間にしわを寄せている。口元は見えないが、彼の感情はまったくと言っていいほど隠されてはいなかった。
ため息をつきながら、リンは背筋を伸ばした「平時よりも多い仕事量以外、問題はありません。」
マテオはうなずき、目を閉じて顎に手を当てた。
“書類仕事…実に手強い相手だ。”
「先生はおそらく、それなりの経験を積んでいるのでしょう。」オフィスの回転式のイスに座りながら、リンは言う。「大人ですので。」
“ないぞ。”
彼はそう認める
“俺はエージェントだったから、書類仕事をやる時間なんてのはなかった。”
「以前にもその言葉を口にしましたが、どういう意味なのでしょうか?」彼女は新しい先生のことが気になり、尋ねてみることにした。
“…”
何も言わなかった。複雑な表情で、ただ天井を見上げる。
“あー…どう説明すべきかは分かってる。だが自分の立場の深刻さをどう伝えればいいのかが分からないんだ。”
マテオがリンを見ると、リンは瞬きをし、彼の瞳を通して自分が見透かされているような感覚に襲われる。
そして、彼の目は穏やかなものへと戻った。
その視線にリンの背筋がゾクゾクする。
「先生は16歳あたりの頃に加入したのですか?」リンが問いかけると、彼の表情には若干の困惑が浮かぶ。「すべてを把握しているわけではありませんが、先生にヘイローがないことを考えると、先生の出身地に住む方々も同様であると推測せざるを得ません。とはいえ、16歳で人事記録がありますが少々若すぎるように思えますが…」
“それは軍や警察とかじゃなくて…民間の機関だった。政府の支援は受けていたし、形式上は連邦のエージェントだった。だが…ハッ!”
短く笑って言葉を切り、ため息混じりに膝を叩く
“軍に訓練は受けたが、俺たちは精鋭部隊ではなかった。俺たちの指令は、社会が崩壊したり、組織が機能不全に陥った場合に、法律の枠外で活動することだった。”
「あ…」彼女が声に出すと、彼の表情が愉快そうに歪む。
“そう、「あ」だ。”
彼は彼女の気まずそうな様子を楽しみながら言う。
“それはもう昔の話だ。今は可愛い子たちに囲まれた新しい環境にいる。実質楽園みたいなもんだ!”
彼女の同情は一瞬で消え去り、嫌悪の視線がマテオに突き刺さる。しかし、彼はそれを笑って受け流す。
“まあ、とにかく様子を見に来ただけだ。じゃあな。”
リンが憤慨してため息をつくと、マテオは立ち去りながら言った。 しかし、彼は何かに気づいたようにすぐに振り返る。
“それと、金がない。”
まともな世界でありますように、とリンはただ願った。
余談ですが英語版での正義実現委員会は
つまり何が言いたいかというと
どちらも略してJTFということになります。