The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.4-03 シャーレ キッチン

エプロンを付けてキッチンに立つ。右手には食料品が入った袋が置いてあり、オーブンは予熱されている最中だ。俺は目を閉じ、先祖の霊に相談しようと試みる。

 

あの時俺のケツを助けてくれた、魅力が溢れに溢れまくっている4人の美人に、俺には何が贈れる?

 

砂糖は必須だ。彼女たちは一日中動き回っている。チナツとユウカは管理業務もあるだろうから、ちょっとしたエネルギー補給は必要なはず。

 

俺は横に置いてあった缶を手に取り、ワインを持った金持ちのように回す。ただ、炭酸が抜けてしまうからやめたほうがいい。

 

キヴォトス版スプライトを一口飲み、両腕を組んで目を閉じる。…どうして…どうして俺は材料と共にここに立っている?数分後に授業が控えている。料理する時間なんてのはない!!

 

“それでも…”

独り言を呟く。

“何にするかを決めないとだな…”

 

今あるものでは大したものは作れないし、それに色んなレシピを知っているわけでもない…

 

クッキーやブラウニーはいつもオーブンに入れすぎてしまう。それでも、出来上がれば美味しく食べられるが、俺だけ知ってるレシピには何がある…?

 

 

Empanadas(エンパナーダス)か?*1ママに一度焼き方を教わったことがある。そして大失敗せずに作れる数少ないものだが…

 

そうだ! Borrachitas(ボラチータス)だ!*2ああ、考えただけでよだれが出てきそうだ。

 

エンジェル24は酒を売ってるか?

 

レシピの詳細を思い出そうとしている中、アロナが口を開いた。

S 先生、中務キリノさんと合歓垣フブキさんがお待ちしています。

 

うなずき、買ってきた食料品を片付けて返事をする。

“キリノには射撃場へ入るように伝えてくれ。フブキ…”

言葉を濁し、フロントデスクのカメラの映像をスキャンテック経由で見る。

“…も入らせろ。こっちで理由を聞いておきたい。それと、何がいるかを聞いてきてくれ。”

 

S は~い!

AIは元気な返事をし、2人にそのことを伝えた。

S キリノさんは特にないですが、フブキさんはドーナツが欲しいとのことです。

 

“分かった”

そう言って、シッテムの箱を持って部屋を出る。

“で、二人は何について教えて欲しかったんだ?”

 

S その…

珍しいことに、アロナがためらっていたので驚いた。

S 直接聞いた方がいいかもしれませんね。

 

授業の内容は既に知っていた。だが、アロナのトーンにどこか引っかかるものがある。

 

俺はエプロンを脇へ置き、まだ色々と詰め込まれていて重いゴーバッグを肩にかけ、射撃場へと向かう。途中、シャーレの居住区にいる様々な生徒たちへと視線がさまよったが、思考を振り払って射撃場に足を踏み入れた。

 

そこには、白髪の青い目の少女が待っていた。ヘイローは複雑な形をしており、どんな形なのかが見当もつかない。髪は短く編まれ、警官の制服をきちんと着こなしている。連れの方とは違って。

 

連れの方は青髪にピンクの目、ヘイローはピンク色で花のような形をした精巧なデザインだった。そしてドーナツを手にしながら、怠そうに場を見守っている。白いブーツとは対照的に、注目を引くピンクのスニーカーを履いていた。

 

それぞれが、キリノとフブキだ。

 

「あっ!先生!」キリノがまず口を開き、飛び上がって敬礼する。「本官の名は中務キリノといいます!よろしくお願いします!」すぐさまフブキへと向き、「ちょっとフブキ!失礼ですよ!」

 

「うぇ~…」フブキはうめき声をあげて「でも今日は非番だしぃ~…」

 

“ならどうしてここに?”

俺は興味深く聞いてみる。

 

「パトロール。」そう簡潔に答えた。「んで、ドーナッツは?」

 

“それは生徒のためのものだ。怠け者のためじゃない。”

そう咎めるとフブキはしょげる。

”何か欲しいならカフェでいつでも食べられるぞ。”

 

「んえぇ~~~…」フブキは唸り、俺はキリノの方へ向く。

 

“で、キリノ…”

緊張からか微動だにしないキリノを見て、言葉を濁す。

“リラックス、まあ、射撃の腕を改善したいからここに来たんだろ?”

俺はスキャンテックを通してリクエストを読み上げる。自分が困惑しているのが伝わってるせいか、その言葉で尻込みするキリノが視界に映る。『的だらけの街にいるっていうのにどうすれば当てられないレベルになるんだ。』と一言言いたくなった。

 

「はい…」目から現実で見ないような涙がコミカルに流れ出し、キリノが言う。「二週に一度行われる射撃試験の結果はいつも散々で……ですが!」と、突如背筋を伸ばし、目を輝かせながら声を張る。「先生のご助力さえあれば、次こそは上手くやれるはずです!」

 

“落ち着け。”

俺は興奮しすぎた少女に声をかける。

“まず何を改善すればいいのかを把握しないといけない。向こうのレーンで準備して、そして実際にやって改善点を俺が教えていくぞ。”

 

「分かりました!」そう返事をしてキリノは1番のレーンに向かい、イヤーマフを手に取る。

 

キリノが銃を置くと、俺はキリノの横に寄りかかる。スミス&ウェッソンのリボルバーだ。テーブルには練習用の弾がいくつか置いてある。「あの、先生はイヤーマフを付けないのですか?」

 

頭を横に振り、イヤーピースに指差す。

“大丈夫だ。コイツが遮音してくれるから問題ない。構え方を見せてくれ。”

 

キリノはごくりと喉を鳴らし、わずかに戸惑いながらもうなずく。「は、はい。」

 

ゆっくりと、リボルバーを持ち上げる。その様子を見た俺は片眉を上げた。

 

見たところ、何も問題はない。腕は真っ直ぐと伸びており、視線は的へと集中しており、足の位置も適切に広げられている。キリノが使っている教科書に今の構え方が完璧なものとして、図解されていてもおかしくはないぐらいだ。

 

つまりは、教科書通りのスタンスだ。

 

“よし、では撃て。”

俺がそう言うと、キリノはうなずく。俺は的との距離を近づけて、目を離さないようにする。

 

「撃ちます!」息を飲みこみ、手がわずかに震えていたようだが、すぐに抑える。

 

一発発射される。腕が反動で後ろに跳ねて、すぐに元の位置へと戻る。この一連の動作は五発撃つまで繰り返され、キリノはリボルバーを置く。

 

“結果はどうだ。”

俺は手を伸ばして、的を持ってくる。

 

それを目の前にすると、俺は愕然とし、キリノは打ちひしがれていた。「ですよね…」

 

どこにも当たっていなかった。かすりもしなければ、胸の部分にも届いてなかった。まるで弾が当たらない呪いにでもかかっているかのようだった。

 

“俺が…”

言葉を濁し、テーブルにあるリボルバーに指差す。鼻をすすって今にも泣きそうなキリノはうなずき、場所を替える。シリンダーをスイングアウトし、慣れた手つきでシリンダーに5発装填してから閉じる。

 

的を元の位置に戻し、俺は狙いをつける。

 

一発目の銃声とともに、腕が反動で後ろへと跳ねる。そしてゆっくりと元の位置へ戻し、再び狙いを定める。二発目はやや反動が弱まり、三発目を撃つころには、数々のリボルバーを撃ってきた時の筋肉の動かし方を思い出していた。やがて連射するうちに、反動はほとんど気にならなくなっていた。

 

最後の弾を撃ち終えると、シリンダーを空にして、テーブルの上に置く。静寂の中、的を手元へ引き寄せると、静かな部屋に機械の駆動音が響く。それを見た瞬間、俺は満足げにうなずいた。

 

一発目は胴体。二発目は肺。三発目と四発目は首。そして、五発目は眉間に命中していた。

 

まあこんなものだ。16歳の頃、SHDエージェントの採用施設に迷い込んだ時でさえ、百発百中だった。初めて実銃を手にした瞬間がその時だった。これまではBB弾やペイントボールを撃つものを握っていたが、本物なんてのは一度もなかった。

 

振り返ると、キリノは目を見開き、フブキは感心した様子でこちらを見ていた。「先生!今のはどうやって…!?」

 

“こっちとしては、あれだけ多く外せたことに感心している。”

俺がそう言うと、キリノはまるで矢で貫かれたかのようにショックを受けた。そうして痛みに悶えている間、俺はリボルバーを調べる。

銃の整備は得意ではないが、銃の状態で生死が決まるとなると、それはまさしく死ぬ気で覚えていくものだ。それに、アメリカではギャングから拾った銃のほとんどは状態が良いものとは言えなかった。少し調整が必要だが、カチカチっとやれば大丈夫だろう。

”正直に言おう、このリボルバーは手入れがしっかりと行き届いているから、本当に綺麗だ。だがサイトを少し右下にずらす必要がある”

 

銃のサイトをずらすという意味を持つ言葉があるかどうかは実のところ知らない。だから俺はバックパックから道具を取り出し、変化を加えることにする。

“よし。もう一回だ。”

 

不本意そうに、キリノは的に向かって銃を構え、再び五発撃つ。

“…もしかして…シチュエーションか?ストレスがかかっている方が上手くなる人もいるからそれか?”

 

キリノは、この言葉に苦しげな表情を浮かべる。「いえ…そうではないと思います。」

 

「キリノはいっつも上の命令を無視して勝手に突っ走るけど、それでも当てたことなんてのはぜーんぜん。」と、フブキが口を挟んだ。

 

「フ~ブ~キ~!」キリノはうなだれながらうめき、リボルバーをテーブルの上に置き、そしてそのままうなだれてしまった。

 

“そうだな…”

俺はバックパックを開き、唸りながら中身を探る。セラミックプレートも、食器皿もない。ただ、ボールならある。

 

ゴム製のボールだ。

 

…いや。

 

あの話をするのは止めておこう。本当に…

 

姿勢を正し、赤と青のボールを手に取り、軽く握りながらこう言う。

“よし、別の方法でやるぞ。今度は…赤いのを撃ってみろ。”

俺が赤いボールを持った手を掲げると、キリノはうなずく…現実では見ないような涙を頬に流しながら。

 

「はい。」そう言い、射撃場へ向き直り、銃を構えて待機する。

“3で投げるぞ、3!”

俺は両方のボールを同時に投げる。右手の赤いボールは横へ飛び、左手の青いボールは反対側へと向かう。

 

銃声が鳴り響き、射撃場全体が静まり返った。

 

赤いボールは無傷で床に落ち、青いボールの中身は床に飛び散っていた。

 

「…あれ?」キリノは銃を下げたまま、顔が青ざめていく。

 

「…え?」フブキが声を漏らす。

 

“マジか。”

静寂の中、俺が呟く。"

“今のは一体何だったんだ?”

 

「わ、分かりません。ただ赤いボールを狙っていただけでしたが…」キリノは口ごもりながら銃を見下ろし、グローブ越しに側面をなぞる。「どこもおかしくないのに…」

 

“うそだろ…”

ただ呟く。

“右を狙っていたはずなのに、どうして左に当たるんだ?”

 

そ、そんなはずはない…よな?

 

“キリノ……的を狙え。でも今度は、当てようとするんじゃなく、わざと外すようにしてくれ。”

頼む……噓であってくれと証明してくれ。どうか…

 

「えっ?しかし…」彼女は戸惑い、理屈にしがみつこうとしている。だが、エージェントにとって理屈なんてのは役に立たない。

俺は常識では考えられないような馬鹿げたことを何度もやってきた。普通なら成功するはずのないことが、どういうわけか成功してしまったりする。

例えば、車のバッテリーとジャンパーケーブルを常備しておいて、水をばら撒き、適当にワイヤーを投げて、ケーブルをワイヤーに接続し、何人も感電させた。

そういえば、前の車のバッテリーを失くしていたな。だから、新しいのを手に入れたほうがいいかもしれない。いつ必要になるかわからないからな。

 

“キリノ、頼む。ホントのことにしたくないんだ。”

そう懇願し、キリノはしぶしぶ俺の指示に従った。ゆっくりと銃を構え、完璧な射撃姿勢をとり、そして数インチ外すつもりで狙いを定める。

 

銃声が響く。瞬間──泣き崩れるキリノ、天井を見つめ絶望する俺。

 

俺はそこそこ無頓着で、そう簡単に驚くタイプじゃない。だが、世の中にはどうにもならないことがある。そしてそれ以上に、受け入れることすら難しい現実が存在する。

 

……まぁ、いいや…

 

“ほら、次はお前の番だ。”

俺がそう言うと、こども警官フブキは凍りついたように固まる。まるで、俺が予想外のことを口にしたかのように。

 

「げっ…私はただパトロールでここに来ただけだから…」この場から抜け出そうとするも…

 

“ナイストライだ。だが警察はシャーレに対する正式な管轄権を持たない。行け。”

俺がそう言うと、その警官はゆっくりとレーンへ向かい、銃を置いてから練習用の弾を取りに行く。だが、俺がその銃に視線を向けた瞬間、スキャンテックに"Error"の表示が出た。こんなことは今まで一度もなかった。

 

ISACはスタームルガー Mini-14だと示したが一般的なものと形が違っていたのが原因だったのだろう。

 

フブキのレーンで立ち止まり、マガジンを外す。銃を調べると、その汚れ具合に目を疑った。思わずえずくが、だがそれだとマスクをしている状態では最悪な判断になる。慌てて顔を少し下げ、目を閉じて空中で嘔吐感をこらえながら顔をしかめる。

隣のレーンから、キリノが射撃を止める音がした。視線を向けると、彼女は驚いたように目を見開いていた。

キリノの方に向く。

“ん?”

と呟く。

 

それに気づいたのか、キリノは慌てて言葉を継ぐ。「ご、ごめんなさい。先生の素顔を見たことがないので…多分、先生が就任した日に同行した人しか見ていないはずです。」

 

も、もしかして自己紹介の時にマスクを外すのを忘れていたのか?

 

“あぁ…悪かった、失礼だったな。”

俺は頭の後ろをかきながら言う。マスクとグローブを外し、手を差し出す。

“まあ、もう知ってるかもしれないが、名前はマテ──いや、ヴェルネス マテオだ。シャーレの顧問で、教えてもらいたいことがあればなんでも教えてくれる先生だ。”

 

キリノは瞬きをし、微笑む。「はい。改めて、お会いできて光栄です、先生。」

 

“よし、で、眠むガキは?”

俺は不満げに唸りながら、練習用の弾薬が置かれたエリアへと向かう。

 

箱を覗くと、ちびガキを隠そうとしたかのように位置が微妙に動かされている。

 

視線を下げると、ピンク色の瞳が俺をじっと見つめていた。俺が眉をひそめると、それはただ微笑みを返すだけだった。

 

俺は手を伸ばし、その頬をつまんで引っ張る。

*1
エンパナーダ(西: empanada)とは、具入りのパンまたはペイストリーである。この名前は、パンで覆うまたは包むという意味のスペイン語およびポルトガル語の動詞「empanar」から派生した。エンパナーダは、生地またはパン生地を折りたたんで具を包んで作る。(Wikipediaから引用: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%91%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%83%80 )

*2
ボラチータスについては次回のまえがきにて解説します。

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