The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.4-05 ゲヘナ自治区

「ドイツ」

ゲヘナを一言で表すならこうなる。

暗く、これまで訪れた場所のような清潔さはない。それでもかつての世界のような無政府状態にはなっていないから、上手くなんとかしているのだろう。

 

反射的にゴーバッグを揺らし、アグレッシブな姿勢へと移行する。アサルトライフルを掴んで走り出さないのは、ただ自制心が働いているからだ。

ここの生徒は暗めの服を着ていた。制服を思わせるが、どこかカジュアルな雰囲気を纏い、独特の存在感を放っている。そして、その中には「風紀」と書かれた腕章と他とは違う制服を着ている生徒もいた。

 

武器もまたドイツ製がほとんどだが、第二次世界大戦の年代のものが多かった。

 

何人かが俺を値踏みするような視線を向けてきたため、入り口から離れざるをえなかった。

 


 

とある建物の中、女性が興味深く呟く。

「これは…面白いですね。そちらから動くか、それともこちらから動くことになるのかを……ちょうど気にかけていたところです。」

スマホを取り出し、誰かに電話をかけようとした瞬間、逆に着信が入る。ため息混じりに応答し、画面から視線を外す。しかし、再びモニターに目を向けた途端先生が消えていることに気づき、動きを止める。

 


 

ゲヘナのテーマとなる国としてドイツを挙げたが、移動した感覚としてはメキシコの都市部やそれに似た都市環境と同じだった。

上を見上げれば、多くの建物の屋根同士が板で繋がれているのがわかる。それだけでなく、どこか心地よい懐かしさを感じる景観が広がっていた。大きな建物に這い上がっているツタ。道端で物品を売る人々。寮の一角で物を売る生徒たち。そのすべてが、ドルインフルの前後で訪れたメキシコの光景を思い出させていた。

 

とにもかくにも、D.C.のコミュニティを思い出してしまって、ホームシックになりかけた。

 

俺は路地を忍び歩きながら、監視カメラを避け、無理そうならサプレッサー付きのM9で撃ち落として、風紀委員会の場所への道を拓いていく。チナツが訪問を気にしないことを願いつつ……そういえば、チナツのモモトークを手に入れるべきだな。

 

建物に十分に近づくと、スマートウォッチに手を伸ばし、スキャナーPulseを起動する。コンタクトレンズがオレンジ色に点滅し、生徒たちの姿が浮かび上がった。

 

A 目標を発見

ISACが喋り、他の姿が遠のく中、チナツの輪郭が浮かび上がる。俺は建物へ向かって慎重に歩を進めた。

 

幸いにも、窓が開いていた。2階までよじ登って、そこから建物内へと飛び込む。

監視されているような感覚が薄れ、少しだけ緊張が和らいだ。

 

部屋を出て、曲がり角を覗く。すると、チナツの姿が角を曲がるのが見え、そして腕には紙の束と箱を抱えて、何かぼやいているチナツと真正面から向き合うことになる。

 

「ん?誰かいますか?」チナツが問いかけながら、見ようとして身を動かす。だが俺はそれを止めた。

 

“忙しそうだな。ほら、少し手伝わせてくれ。”

俺は積み上がった書類の一部を取り上げる。それに伴い、チナツが驚いていく。

 

「えっ、先生?ここで何を?」チナツは驚きながら、少し慌てた様子を見せる。乱れた髪と目の下の薄いクマが、彼女の疲れを物語っている。

 

“君に会いに来た。あのとき助けてもらった礼を言いたくてな。覚えてるだろ?”

動揺するエルフに説明する。

 

「確かにそうおっしゃっていましたが、まさか本当に来るとは思ってもいませんでした…!」まだ落ち着かない様子のまま、チナツは目を閉じ、一度深く息を吸う。

「それと、ありがたいのですが、この程度なら私だけでも大丈夫です!」

 

“ふむ、そう言うのなら。”

俺は手にした書類の束を彼女の積み上げた書類の上に戻す。バランスを崩したチナツはよろめき、そして俺が半分持ち上げると、逆に体勢を整えすぎてしまう。

 

「あの…手伝っていただけるのですか?」チナツが驚いたように尋ね、俺は隣で待ちながら軽くうなずいた。

 

“もちろん、先生だからな。”

そう答える。

 

チナツはためらい、何か言い返そうとするも諦める。「なら、断るのは逆に失礼になってしまいますね。ありがとうございます、先生。」

 

“じゃあ案内してくれ。”

俺の言葉にチナツは軽くうなずき、先に歩き始める。俺はその後を追いながら質問をする。

“そういえば、どこに向かうんだ?”

 

「ここを真っ直ぐ進んで曲がります。そのあとに階段を降りるので気をつけてください。」

彼女の背中を見つめながら眉を上げる。視線をそれ以上下げないよう意識し、会話を続けることで視線を維持した。

 

“危なくないか?もし俺の視力が悪かったら、チナツを書類の山と見間違えていたかもしれないぞ。”

俺がそう言うと、チナツは首を横に振る。

 

「そこまで危険ではありませんね。いえ…その、ちょっとは…」そう認めると、瞬きをし、なぜかくすっと笑った。「今思えば、そのことを言われたのは初めてかもしれませんね。ありがとうございます。」

 

“それはちょっと心配だな…”

小声で呟く。

 

チナツはただ首を振る。「このようなことには慣れていますので、問題ありません。」

 

“他の生徒はどうなんだ?”

俺が問いかけると、チナツはまるで俺が変なことを言ったかのように困惑して俺に振り向いた。

 

「先生、ゲヘナの生徒は…あまり…」ゲヘナの生徒について説明できる言葉を探すかのように、しばし間を置く。「きれいに整えておくことが得意ではありません。ですので、このような作業は片付けられていないことが多くて、私が後始末しなければなりません。」

 

“医療を担当してる人が医療と関係ない事務作業をしても…いいのか?”

 

チナツはため息をつきながら肩をすくめる。「よく分かりませんね…楽しいものではありませんが、それでも誰かがやらなければどんどん溜まっていきますので…」

 

しばし沈黙が流れたあと、チナツが口を開く。「私のようなつまらない人に相応しいですよね、こういったお仕事というのは…はは…」

 

“俺はチナツのような綺麗で優しい人がつまらない奴とは思わないな。”

思わず口にした言葉に気づき、ほんの一瞬だけ動揺するも、すぐに続ける。

“少なくとも、周りのためにここまで尽くす姿勢には尊敬するよ。”

 

チナツは沈黙し、勢いよく振り向くと、眼鏡が赤面した顔からしばらくずれたまま凍りついた。しばらくして、ようやく声を絞り出す。「い、今なんと?一瞬気を失いかけてて…ま、まさか私のことでは…」

 

“信じてくれ、ここに来てから出会った子の中で、チナツは間違いなく一番綺麗な人の一人だ。”

俺はそう伝え、動揺するチナツの表情を楽しむ。チナツは手に持っていた書類の束を使い、ずれた眼鏡を直そうとする。

 

「わ、わた、ゎたし…は…い、急ぎましょう!」そう言って階段を駆け下り、俺は笑いながら彼女のあとを追った。

 

その後、チナツが働いているオフィスに着いた。「ここです。」

 

チナツがドアを開けると、そこには医療器具とが並ぶ保健室が広がっていた。いくつかの簡易ベッドもある。チナツは書類の束を机の上に置き、こちらを向いて言う。「ご協力ありがとうございます。それはここに置いてくだされば大丈夫です。後は私がやりますので。」

 

俺も書類の束をチナツが置いたものの隣に置き、チナツに向く。

“本当に手伝わなくても大丈夫か?俺はこういうのは不慣れだが、終わらせるのなら喜んで手を貸すぞ。”

 

 

「えっと…しかし…他の方へと会いにいくはずではなかったのでしょうか?」チナツは少し頬を染めながら、困惑した様子で尋ねる。

 

“そうだ。でも、こっそり忍び込んで、机の上に置いて出ていくことも出来るぞ。”

俺の言葉にさらに困惑した表情を浮かべる彼女だったが、何かを悟ったようだった。

 

「…先生、入口でのサインは…?」目を細め、腰に手を当てて問いかける。

 

“してない。”

正直に認める。

“嫌な予感がしたから監視カメラを避けた。いくつかは壊したからその…申し訳ない。”

 

チナツは驚いた様子を見せたが、ため息をついて気を取り戻す。「大丈夫です。これ以上先生のお時間を頂くわけにはいきませんので。ですが…」言葉を濁し、指先をいじりながら、頬を赤らめ、控えめな笑みを浮かべる。

「先生のおかげで、今日の作業はとても楽なものになりました。毎日手伝ってほしいとは言えませんが、先生がよろしいのなら…またいつか…」

「ちょっとお時間…頂きますね。」

 

それは良かった。思わず笑みがこぼれる。それを見たチナツも小さな笑みを浮かべて続ける。「そうすればお互いを…確かめ合えられますので。」

 

…とてもエロティックなものだった。下手に詮索しない方がいい”含み”だらけだった。ああそうだとも。チナツはホットだ(暑い)から顔が赤くなっている。ガスマスクをつけていてよかった。とはいえ、髪を掻く仕草でとっくにバレバレだが。

 

“うん、まあ、そうだな…なら良かった。”

どもった自分を内心呪いながら俺は受け入れる。

“…っと、忘れてしまう前に…”

バッグを開け、タッパーと牛乳を取り出す。

“大したものじゃないが、気に入ってくれたら嬉しい。”

 

「あ…ありがとうございます。」チナツは微笑みながら受け取り、うなずく。そして頬の赤みが消え、言葉を続ける。「後で美味しくいただいておきますね。」

 

“それじゃあ。”

そう答えながら外へ出ようとするが、足を止める。

身体を窓の方向に動かし、視線を向ける。

 

「…先生?」チナツが問いかけながら、俺の視線を追う。

俺は背後のゴーバッグへと手を伸ばし、バリスティックシールドの感触を確かめる。

 

…一瞬感じた。誰かに見られている。

ISACが周囲をスキャンして、熱視線を送っている者の居場所を探す。それを見たチナツが口を開く。

「先生?どうかしましたか?」

 

チナツの手が銃へと伸び、戦闘に備える。だが俺はというと肩を落とし、彼女を止めて頭を振る。

“いや、なんでもない。ただの被害妄想だ。”

 

「大丈夫ですか?」心配そうな声で聞いてくる。

 

“ああ、さっきのはたぶん監視カメラか何かだ。”

俺は軽く手を振り、彼女の不安を払うように言う

“それと、シャーレへの申請は承認されたぞ。気が向いた時にいつでも来てくれ。”

 

チナツが答える前に、俺は部屋を後にする。廊下を進みながら、これまでの経験を振り返る。

 

SHDに入る前、俺は叔父の狩りについていったことがあった。そこで、俺には異常なまでに鋭い第六感があることを学んだ。その感覚は、ディビジョンエージェントとしての訓練を経てさらに研ぎ澄まされ、シャープシューターとしてのスペシャリゼーションを選び、そして本当の第六感へと昇華した。

 

今、それが俺へと告げる。お前を見ていたヤツはお前自身を狙っているわけではない。お前の手にある、そのお菓子を狙っている、と。

 

 

どうやら俺は関わってはいけない奴に狙われてしまったようだ。

 


 

屋上、得物のスコープを覗き、少女がふふっと笑う。

「どうやら先生は不思議な逸品をお持ちのようですわね。フウカさんも、そう思いませんこと?」

 

その横には、拘束されて必死に逃げようとする角が生えた少女がいた。

 

「あぁ…未知なる体験を味わう瞬間が楽しみですわ!」

 

だがまずは、あのタッパーを入手または先生を説得して譲渡してもらう方法を探さなければならない。

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