The Divide   作:粋刺@翻訳

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作者がイラストリクエストをしたものがこちらです。(イラスト:froggie氏)
https://www.pixiv.net/artworks/121844733


Chap.4-06 トリニティ自治区

チナツのモモトークのメッセージをじっくり見ていると、思わず微笑んでしまった。ゲヘナに抱いた感情をトリニティにも持てれるのならいいが……

 

トリニティは良いところではある。だが誤解しないでほしい、ドルインフル後のアメリカから来た身としては、ゲヘナの混沌さの方がずっと居心地がいい。トリニティの華やかさや宗教の押しつけがましさにはどこか馴染めないところがある。

 

だがしかし、厄介なことに狂気が待ち構えている領域へと迷い込んでしまった。まるで俺が疑うことを知らず、のこのこと入ってきた阿保かのように…

 

とはいえ、ここの建物は正直に言うと見事なものだった。店の並びは、ドルインフル前のイギリスの写真で見た風景を思い出させるし、生徒は皆ベレー帽かそれに似たものをかぶっている。

私立学校の光景を思い出してしまって、公立の俺にとってはどうも落ち着かないものとなっている。*1

 

それと、視線だ。本当に気に食わない。

 

路地に入り、周囲からの視線や噂話から逃れた。ため息をつきながら空を見上げる。

“注目されるのはどうしても慣れんな…”

 

「私は興奮しちゃうのですが、皆が皆そう感じるわけではありませんよね。」声に反応して視線を戻すと、緑色の瞳とピンク色の髪、レティクルのような二重円を描くピンクのヘイローが浮かんだ女性がいた。

それだけでも十分奇妙だったが、さらにネイビーとホワイトのノースリーブのシャツを着ていた。

 

一歩後ずさる彼女を見て、俺はさっきの言葉を訂正するべきだと悟った。

 

ノースリーブのシャツじゃない、ワンピース水着だ。そのワンピース水着は…そう…身体にピッタリとフィットしていた…

 

相手は高校生だ。いいかマテオ。高・校・生だ。

 

特に苦労もせずにお前が彼女らと関われていけれるのは…”マテオ”から離れたという実感が一度もないからだ。だがお前は21歳だ。もう大人だ。覚えているだろうな。

 

それはともかく、視線が交わる。その瞳には悪戯めいた光があり、俺には困惑が広がっていく。

 

「ストップ!」

 

俺の口から言葉を発せられるようになる前にゴミ箱の影へと身を隠し、気配を消す。

それはかつてD.C.に来た最初の数週間、そしてブラックタスクの侵攻後、さらには数々の異動先で何回もやらざるをえないものであった。

 

「あら~今回はとっても早く()ったみたいですね。」ピンク髪の少女が言う。黒のセーラー服とベレー帽を身に着けた少女が駆け寄ってくるのを待っていたようだった。

 

「勝手に前に行かないでください!」哀れな黒髪の少女はそう指摘するが、もう一方はただくすくすと笑っていた。

 

それにしても、ハスミに似た服装だ。尾行するものありかもしれないが、それだと奇行になってしまう。とはいえ、ゴミ箱の影からタイミングを考えずに飛び出すのもアレだ。

 

ふーむ…一体どうすれば。

 

「先生?」新たな声が背後から聞こえた。聞き覚えのあるそれが俺を元気づけた。

 

振り向くと、見覚えのある銀髪の子が首を傾げていた。彼女の顔には戸惑いがはっきりと浮かび、俺は思わず固まってしまう。

幸い、幸いにも、もう一人の少女はピンク髪の子との会話に夢中になっていて、しかもピンク髪の方が巧妙に話を誘導しているおかげで、俺は余裕で逃げることができる。

 

ゆっくりとスズミのほうに歩み寄り、マスクの下から彼女に微笑みを向ける。

“スズミ、調子はどうだ?”

 

「特に問題なく。」スズミはそう認めて、俺は路地の壁にもたれかかる。「サンクトゥムタワーの件の後に、少し不良とのトラブルがありましたが解決しました。そういえば、先生が不良に誘拐されていた生徒を助けたというのは本当なのですか?」

 

そういえばそうだったな。

“そうだ、時間つぶしにやったみたいなものだ。じっとしてるのが苦手だからな。”

 

「ありがとうございます。」スズミはそう言って、お辞儀をする。「正義実現委員会と自警団は平和のために尽力を尽くしていますが…どうしても見落としてしまうことがありますので…」

 

俺は手を振り、感謝の気持ちを流しながら、周囲の視線を少し気にしてしまう。

“まあ気にするな。やってることはここに来る前のことと変わらないからな。”

 

「そうですか?」スズミは真剣さと感謝の気持ちでいっぱいの赤い瞳を俺に向けて尋ねる。俺はというと軽く笑う。

 

“ああ、正直、書類仕事さえなければ、ここは故郷みたいなものだ。”

俺は笑顔でそう認めると、彼女は背筋を伸ばした。

 

「では、今日はお仕事でここに?」そう聞いてくる。「それなら、ハスミさんに案内をさせてもらうように頼みましょうか?ハスミさんの方が私よりも上手に案内できますので。」そう付け加えると、俺は肩をすくめる。

 

“いや、今日は個人的なことで来た。ほら。”

タッパーと牛乳を手渡す。

“あの時のお礼だ。”

 

「あっ…」スズミは小さく呟きながら、ゆっくりとタッパーと牛乳を手に取る。そしてようやく、小さな微笑みを俺に向けた。「ありがとうございます、先生。」

 

“どういたしまして。”

俺は応じる。

“時間があるなら、ビルに立ち寄ってくれ。いつでも歓迎するぞ。”

 

スズミはうなずき、何か言おうとするが、銃声によってかき消された。お互い反射的にそちらへ視線を向け、互いの目を見交わして、無言で意思を確認する。

俺はスマートウォッチに指を滑らせる。ゴーバッグの中にいたタクティシャンドローンが起動し、上空へ飛び立つ。

同時に、ケミランチャーを手に取り、ライオットフォームのキャニスターを装填する。

 

“状況は?”

俺はスズミに聞き、スズミはスマホを下げる。SHDネットワーク経由で聞くこともできたが、個人の端末にはISACを介入させないようにしていたため、直接確認するしかなかった。

 

「近くの通りで不良が戦っているようです。」彼女はそう答えてアサルトライフルを握り、マガジンをチェックして装填する。「正義実現委員会が向かっていますので、それまではこちらの方で混乱が広がらないようにするしかないですね。」

 

“分かった。”

ドローンが所定の位置に到達し、俺のHUDに不良の輪郭と武器が映し出される。

“敵は20人ぐらいでスナイパーはいないがアサルトライフル持ちだらけだ。屋上で狙撃するのが得策だろう。”

 

「先生がやるのですか?」スズミがバックパックに取り付けられたTAC-50Cを見て尋ねる。「そういえば、先生はどうやって色々なものを持ち運んでいるのですか?重くないのですか?」

 

“慣れってヤツだ。”

そう認める。

“だが、こいつで撃った瞬間、俺の居場所と正体がバレてしまう”

D.C.みたいな場所だと、皆が互いに敵意をむき出しにしている。

市民軍が関わった途端に標的になるし、エージェントが介入すればどうなるかは言うまでもない。

“俺たちが先に着いた場合、こっちから仕掛けるしかない。それか先に誰かがいた場合は、迂回して背後から叩く。”

 

「はい。」スズミは確認するようにうなずく。「不良の増援が来た場合は?」

 

“正義実現委員会よりも早く来た場合は、店内に籠って応戦する。敵の注意を引きつけつつ、弾薬を温存するしかない。”

そう説明して周囲を見回し、視線がISACブリックに留まる。今はアキレスPulseを起動しているが、ジャマーPulseやバンシーがあればもっと有用だろう。それかいっそのこと、たとえ機器がバラバラだったとしても、可能ならひとまとめにする方法を探すべきか。

 

「分かりました。では行きましょう。」スズミはそう言うと、俺はM4を手に取り、マガジンを確認してから装填し、セーフティを解除する。

聞き慣れた銃声が響き渡り、周囲を見渡す。敵がいること以外は何もおかしい箇所はなかった。

 

すぐにスズミと共に建物の角の影に隠れて不良集団が撃ち合っている様子を観察する。その光景はハイエナとアウトキャストの争いから血を引いてとても魅力的な女の子を足したものだった。

 

「先生、どう仕掛けますか?」

 

“閃光弾を投げて右の方へ行け。”

指示を出す。

“俺は左に行って、そして二人で敵を後退させ──”

 

突然、電話の着信音が俺の指示を遮り、スズミが困惑した様子で視線を向ける。

一方、ISACは無線を傍受した。

 

あっ!委員長そこドアじゃないです壁で──

話していた人が途中で言葉を止める。そして静寂の中、壁が崩壊していく音が響き渡る。やがて別の人がしゃべり始める。

ありゃー…壁ぶっ壊しちゃったっすねー…

 

は?

 

考える間もなく、通りの壁が崩れて甲高い雄叫びが響き渡った。

「ゲェァアアアアァッアハハハハッッーー!!!」

 

現れたのは、まさに悪魔としか言いようがない存在だった。目は鋭く、床に届くほどの長い黒髪。前かがみになりながら、その瞳と笑顔には狂気に満ちた光が宿っていた。黒いスカートには赤い液体が飛び散り、まるでヘイローから滴り落ちているようだった。

二丁のウィンチェスター Model 1887レバーアクションショットガンを棍棒の如く振るい、叫び声を上げながら敵を次々と吹き飛ばしていき、黒い翼が羽ばたいていた。

 

敵が次々と倒される光景に、俺は目を疑った。「正義実現委員会が来ましたね。」スズミはそう呟き、敵はショックで悲鳴をあげる。

 

“味方の増援が来たってことになるのか。”

俺はそう呟きながらスズミの方を向く。

“行くぞ。店内を回って避難が必要な人を助けるぞ。閃光弾は適宜投げること、分かったか?”

 

「分かりました。」スズミはうなずき、少しためらってからこう聞く。「先生は被弾しても大丈夫でしょうか?」

 

“大丈夫だ。”

俺は軽く目を回しながら応じる。

“一発程度なら余裕だ。さあ行くぞ!”

 

最後にもう一度頷き、スズミは右へと飛び出す。その瞬間、少女の視線が俺たち二人の方へ向けられる。

スズミは気づいてなかったが、だが距離が開いていても俺には彼女の動きの意図が理解できた。

彼女は左へと突進しながら叫び、敵の一人を蹴り飛ばして壁が崩壊し、それに叩きつけられた敵は気絶した。

そして、混乱を引き起こしながら、敵の注意を右から逸らす。その隙にスズミは身を隠した。

 

俺は小さく笑いながらケミランチャーを手に取り、集団に狙いを定め、トリガーを引く。

弾は弧を描きながら飛んでいき、着弾。同時に粘着性のある泡が吹き出し、あの少女から離れた位置にいる集団を包み込んだ。

「なんなのこ──」と、言いかけたところで、俺はそれを遮るようにM4で狙い、トリガーを引き続け、銃弾を絶え間なく撃ち込んでいく。マガジンが空になり、再び遮蔽物に隠れてリロードしてチャージングハンドルを引く。俺を狙った銃声が一気に押し寄せてくるが、少女の叫び声が響き渡ると同時に、それは止んだ。

 

ISACが無線を傍受する。

ウチらやばいことになってる!

 

今そっち向かってる!

もう一方の声が応じる。ISACはマップに増援の位置を表示し、タクティシャンドローンが増援をスキャンしてHUDに輪郭を描き出した。俺は背中に手を伸ばし、ブルワークバリスティックシールドを掴み、展開しながら、あの少女の方へ向かって駆け出した。

 

増援の車両が無造作に通りを走っていくのを視認する。敵が窓から身を乗り出し、少女を狙う。が、その前に俺が立ちはだかる。

銃弾がシールドを叩き続けていく。少女は驚いたような唸り声を上げ、それを受け止める俺を見ていた。俺はシールドで攻撃を防ぎつつ、M9で反撃する。

“スズミ!”

 

「閃光弾!」スズミが叫び、筒が飛んでいくのをスキャンテックが捉える。俺は狙いを定め、トリガーを引く。

閃光弾が早めに炸裂し、運転手の視界と聴覚を奪う。そして車は蛇行運転をして衝突した。

 

通りに静寂が訪れる。俺はため息をつき、少女を見て心配する。

“おい、大丈夫か?”

 

少女の瞳はどこか霞んでいるようで、焦点が定まらず、瞬きをしながら俺をじっくりと見つめていた。

そして彼女はうなずき、俺も微笑みながら同じようにうなずいた。

“なら良かった。”

 

その時、見覚えのある閃光が走り出す。俺は迎え撃とうと動き出し、それと同時に少女が低く唸る。だがその閃光は聞き覚えのある銃声と共に消え去った

 

「先生!」俺が振り向くと、長身で豊満な体格のハスミがこちらへ駆け寄ってくるのが目に入った。「ここで何を?」

 

“ハスミとスズミを探していたところだ。”

俺が説明すると、スズミが合流する。

“スズミとはもう既に会って、それでこうなったわけだ。”

 

ハスミはうなずきながら、少女へと視線を向ける。少女もまた、静かにうなずく。「委員長とはすでにお会いになられたようですね。」

 

俺は固まったままの少女に目を向ける。ぎこちなく硬い笑みを浮かべて、ハスミへと視線を戻す。

“まだ自己紹介とかをやってないけどな。今のうちにやっておこう。”

俺はそう呟いて右手のグローブを外して、マスクを外す。静止したままの少女に笑みを向け、手を差し出す。

“名前はヴェルネス マテオ。シャーレの顧問であり先生だ。よろしく頼む。”

 

彼女はじっと俺を見つめる。長い沈黙の後、かすかに何かを呟きながら俺の手を握りしめた。その表情はさっきのとは対照的な、柔らかい表情だった。

「…剣先ツルギ、正義実現委員会委員長…です。」

 

握手をし、手を放してマスクとグローブを付け直す。

“会えて嬉しいぞ。それと、忘れないうちに…”

俺はゴーバッグを肩に掛け、少女たちの好奇心に満ちた視線を浴びながらタッパーを取り出し、ハスミへと手渡す。

“ほら、俺からのプレゼントだ。あの時協力してくれてありがとう。”

 

ハスミの目は恐怖で見開かれ、俺は戸惑い、心が少し傷つく。完璧なものではないが、そこまで酷いものじゃないよな?何か問題でもあるのか?「うっ…その…先生、お気持ちは本当にありがたいのですが…」

 

“何か問題でもあるのか?”

俺はわずかに傷ついた心を隠せないまま問いかける。ハスミは息をのみ、恥ずかしそうに目をそらす。

 

「えっと…いえ、ただ…」ハスミは説明しようとしたが、俺はまだ拗ねていた。久しぶりに焼いたものだから、口に合わないとなっても特に驚くものでもない。でもそんなにはっきりと言われるとなると……

 

やがて、ハスミは溜息をつき、視線を落とす。「…後で美味しく頂きますね。」

 

俺は微笑み、タッパーを彼女の手に置く。

“ぜひご賞味あれ。”

 

ハスミは喉を鳴らし、慎重にタッパーを見つめる。俺はその場を離れ、軽く手を振りながら駆け出した。

 

どういうわけか、ツルギが再び叫び出したが、声色がどこか変でしっくりとこなかった。ひとまず今は気にせず、後回しにすることにした。

*1
アメリカでの公立学校は基本的に制服がなく、宗教教育が禁止されているが、私立では制服を採用している学校が多くまた、宗教に基づいた教育をしているものもある。

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