The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.4-07 ミレニアム自治区

どうしてこんなことをするんだミレニアム?ヒビキはここの生徒でクールなのに、どうしてここは俺をヒヤヒヤさせまくってくるんだ?

 

なぜなら、監視装置だらけであるからだ。それに、俺自身もガジェットだらけだからだ。D.C.にいた頃は二つしか持っていなかったが、今は全部身に着けている。バッグの形が少し歪んでしまう程にまで色々と詰め込んでいるため、今の俺はかなりやかましい存在になっている。それでもふとした瞬間に気配を消すのは余裕ではあるが。

 

エンジニア部の頭脳派たちがもっと楽に持ち運べるようにしてくれるのならヒビキに頼むべきか。だがそれだと、ファイアフライ、ドローン、ハイヴのようなSHDテックに限られてくるだろう。粘着爆弾やケミランチャーのキャニスター用の収納システムは既に作ってあるし、バリスティックシールドはすぐさま変えられるものじゃない。

 

それはそれとして、出来る限り厄介事に巻き込まれないように隠密行動へと戻る。

 

A 急ぐことを推奨します。あなたを経由してSHDネットワークへのハッキングを試みている者がいます。

ISACの声が耳元で聞こえ、俺は瞬きをする。

 

“SHDネットワークってもう既にある通信インフラか何かにタダ乗りしてるだけじゃなかったか?”

俺はそう聞く。

 

A キヴォトスにSHDが存在しない以上、そうなります。中々興味深いものです。

ISACが答え、俺はスピードを上げる。

A 有事以外は個人情報に干渉しないというあなたの方針と、そして今回がSHDの交戦規則を完全に無視したものであると加味しても、今の状況では本来の能力と比べてかなり限られたものとなっています。

 

“まっ、こんな役割を押し付けられたのは俺のせいじゃないけどな!”

そう言い返して息を吐く。

“よし、すぐに渡して帰るぞ。何も問題が起きなければいいが。”

 

俺はウェイポイントが示す建物に入る。廊下を避け、生徒に近づきすぎると隠れていって慎重に進む。もはやこれはただの訓練だった。

 

少し歩くと、”Seminar”と書かれた光沢のあるプレートが飾ってある部屋にたどり着く。

“なんでプレートが?ちょっと気取ってなくないか?”

その疑問に対して返ってきた答えは心地よい沈黙だけだった。ドアの取っ手に手を伸ばし、しっかりと握る。だが、ひねっても何も起こらない。息をつきながら呟く。

“ここのセキュリティが厳重なのは当然か。”

 

俺はハッカーには全く向いていない。俺が唯一ハッキングに近いことが出来るのは、恨みを持ったテクノロジーをショートさせるくらいだ。だが、そいつはあまり良い手段にはならない。よな?

 

「18時28分01秒、セミナーの部屋の前で一人の見知らぬ男性を発見する。」背後から女性の声が響く。俺は振り向き、ピストルを向けそうになるのを必死で抑える。「詳しく観察した結果、その男性は先生だった。これがノア・ウシオとつかみどころがないシャーレの顧問が初めて出会った瞬間である。」

少女はノートを閉じ、使っていたペンを挟む。紫色の瞳が俺を鋭く射抜いた。

 

彼女は白いドレスシャツに青いネクタイを締め、白いブレザーとストッキング、白いヒールを履いている。さらに、腕には白いテックコートを掛けている。頭上には二層のヘイローが浮かび、内側の輪はシンプルな青で外側は白。

その形はユウカのものに似ているが、配色はまるで正反対だった。

いや、むしろノアのスタイルそのものが、ユウカの対極と言ってもいい。

 

今の彼女は、レーザーみたいにまっすぐと俺を見つめて機をうかがっている。そして言葉に反応して微妙に動揺する俺を見て、彼女の瞳が輝く。ノートを取り出し、ペンがカチッと鳴る。

「18時29分15秒、先生は書記の視線に晒されながら動く。」

 

“えっ!?”

俺は思わずため息をつく。

“書くことはそれでいいのか?!持っている武器やガジェットじゃなくて?”

 

「それだと事実をただ単に書き殴っただけになってしまいます。」

「セミナーの書記として、出来事は簡潔に、そして客観的に記録しなければなりませんので。過剰な詳細は蛇足になります。」

 

今セミナーの書記って?

 

“つまり、ユウカと一緒に仕事をしてるのか?”

そう聞くと、ノアはうなずく。

 

「はい。ですがユウカちゃんをお探しでしたのなら、ちょうど行ってしまったところです。」そう言って、ノートを見下ろしながらページをめくると、読み上げる。

「17時30分00秒、ユウカは落ち着きを取り戻し、シャーレに行くことを決める。」

「17時30分48秒、ユウカは書記の発言によって赤面する。」

「17時31分15秒、ユウカは勢いよく退室する。」

 

そこまで詳しく知らなくてもいいが、それでも俺は安堵のため息をつく。

“そうか、なら良かった。感謝の気持ちとしてユウカにあげたいものがあるんだ。出来れば…”

俺は言葉を濁しながら、目の前の扉に視線を向ける。

 

「いいですよ。」ノアはそう言って扉を開くと、書類が散らばっているオフィスのような部屋が現れる。

「会長が先生に会いたがっていたようですが、現在は校外へと出ています。」

 

俺はうなずきながら、書類が積まれたデスクを見つけ、それがユウカのものだと分かった。ゆっくりと歩き、タッパーと自販機で買った牛乳をその上に置き、もう一度うなずく。

“任務達成!”

 

「で、どんな任務だったんですか。」鋭い声が背後から聞こえ、俺は慌てて振り向く。そこには、手を腰に当て、唇を尖らせたおなじみのツインテールの少女がいた。「せ~ん~せ~い~」

 

俺は首を傾げ、一歩横にずれながらタッパーを指し示す。

“あの時のゴタゴタを片付けてくれたお礼だ。”

 

「あっ…」ユウカの視線をタッパーへと移り、少し恥ずかしそうに呟いた。「すみません…」

 

“大丈夫だ。”

俺は軽く手を振って流しながら、ユウカの頭に手を置いて少し撫でる。無論ユウカは狼狽えていた。

“さて、そろそろ戻らないとな。今日はだいぶ動き回ったな。”

 

「ちょっと待ってください。その前に一つお聞きしたいことが、部室奪還の任務の経費の精算書はちゃんと提出しましたよね?」

その言葉に、俺の動きが止まる。

 

 

はい?

 

俺の困惑が露骨だったのか、ユウカも目を細めた。「…先生。ちゃんと、提出、しました。よね?」

 

正直に言おう、俺は本気で困惑している。どうして精算書なんてものが任務で必要になるんだ?

あの時使ったのは弾薬とスズミの閃光弾くらいだからそんなのは──

 

あっそうだった。

 

金が掛かるんだった。

 

D.C.では、ディビジョンエージェントはこんな書類仕事をする必要はなかった。必要なものはただ弾薬箱から補充するだけだった。

まあ、それが世紀末になった世界ってヤツだよな。

 

俺は頭をかきながら、鋭く細めたユウカの目を見つめる。

“あー…やり方が分からないんだが?”

 

ユウカは目を閉じ、眉間を押さえながら、呆れたように息をついた。「先生ったら本当にどうしようもないですね。」

 

オッケー、それはちょっと言い過ぎ。

“なあ、こういうのは今まで一度もやったことがないんだ。”

大統領の死んだ後の政府は文字通り崩壊していたことは言うまでもない。

 

「兵士なら兵站ぐらいは理解しているはずでは?」

ユウカは疑わしげに問いかけてくる。

 

“兵士が対物兵器の運用権を持てるわけがないだろ。頼む、ユウカ、助けてもらえるとありがたいんだ。頼む!”

俺は両手を合わせ、懇願するかのように身を乗り出した。

“君くらいしか頼れる人がいないんだ!”

 

彼女の顔が赤く染まり、視線をそらしながら、唇をかすかに震わせる。「せ、先生がそうおっしゃるのなら、しょうがないですね…」

 

「ユウカちゃんのその表情、とっても面白いですよね。」ノアが口を挟むと、ユウカは飛び跳ねた。

 

「ノア!」ユウカは叫び、ノアは二組の書類を取り出した。その瞬間、俺は手が痛くなってしまうことを予感する。

 

「はい。こちらを参考にしながらご記入ください。」ノアはウインクしながらデスクに書類を置く。「私は別のお仕事がありますので、ユウカちゃんをお願いしますね。」

 

“ああ任せろ。ユウカの顔は見ていて楽しいからな。”

俺はそう認め、ユウカは再び叫び、ノアは口元を手で覆いながら笑いをこらえた。

 

「同感です。怒っている時のユウカちゃんはすっごく可愛いんですよ。今みたく。」俺とノアがユウカの方を見ると、ユウカは怒りに顔を歪ませ、恥ずかしさで赤く染まっていた。

 

「二人とも…」ユウカが言葉の洪水を浴びせる直前に、ノアは素早く撤退し、俺だけが巻き込まれることとなった

 

少し手間はかかったが、なんとか記入をして提出することができた。シャーレに着く頃には、太陽はすでに沈みかけていた。

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