The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.1-03 アメリカ合衆国ではないどこか

目を開けると、視界は消え、混乱して周囲を見渡す。

“…ん?”

 

綺麗なオフィスにいた。大きな窓からはオフィスと同じような綺麗な街が見えた。アメリカや世界中の無政府状態に陥っている街とは対照的な街だった。

 

“カンザスにはもういないってことか?”

俺はそう呟きながら立ち上がる。久しぶりに感じる馴染み深い重さのせいで、ほんの一瞬バランスを崩す。自分の体を軽く叩いて確認すると、かつてSHDロケーションを奪還した後に手に入れた自分の装備を身につけていることに気づいた。

以前の粗末なアーマーは、修理のために技術者たちに預けていた「ターディグレイド」アーマーシステムに変わり、古いガスマスクは、オレンジのアクセントが入ったナイトウォッチャーマスクに変わっていた。ゴーバッグにはいつもの装備がすべて補充されて、武器はTAC-50を除いてすべてホルスターに収められていた。まぁ、対物ライフルなんてモノはほとんどの場面では過剰だから、そこまで問題じゃない。 スマートウォッチをタップすると、オレンジ色の光が戻り、HUDが作動して俺の身体をスキャンした。

 

 

A 警告:接続が見つかりません 最寄りのSHDネットワークに接続してください おかえりなさい エージェントヴェルネス

ISACがARで表示されるHUD内蔵のコンタクトレンズ─────スキャンテックにホログラムで映る不死鳥の画像とオレンジ色のサークルを表示すると、俺はため息をついた。HUDがホログラムで表示されると円は消えて、あることに気づいた。

 

“SHDテックが使えないみたいだな。”

これまで頼りにしていたPulseは、以前持っていたバリスティックシールドとともになくなっていた。 少なくともグレネードとアーマーキットはまだある。

 

つまりは、ワシントンへの旅の時と同じだ。

 

A 信号を受信 SHDサーバーハブの場所を表示

俺が戸惑っているのをよそにISACは場所をホログラムのディスプレイに写した。というのも、装備全部が、俺たちがアメリカに戻っていない証拠であり、そしてSHDネットワークにアクセスできないということを示した。 視界にはコンパスの針が現れ、30キロ離れた場所を指している。

 

ISACの声が響くが、俺は困惑する。この状況が示すのは、ここがアメリカではないという事実だ。それなら、SHDネットワークへのアクセスができるはずがない。そもそもSHDネットワークを利用するには、衛星と二つのノードが必要だ。一つは通信範囲を拡張するためで、もう一つがISACを保持するために必要なものだ。

視界の隅にコンパスの針が現れ、それは三十キロ先の地点を指し示していた。

 

俺はぼんやりと、部屋の中で窓の外を眺めながら、目的地を指し示す針に従った。

 

口が開いたまま、目を見開き、衝撃と信じられない気持ちが全身を駆け巡る。

 

確かに、すでに目にしてはいた。だが、アメリカの都市よりは遥かにマシだ。だからこそ、こうしてじっくりと見るとなると……。

 

ゆっくりと窓際まで歩き、ガラスに腕を置き、その跡が残るのを無視して、美しい街の地平線を眺める。これまでエージェントとして様々な場所をみてきたが、この街の”清潔さ”に匹敵する場所はなかった。美しかった。ドルインフルが流行った後のアメリカの都市で見られる、ボロボロになった建物とは対照的だった。崩れた都会のビルやアメリカ郊外の古びた家が醜いというわけではないが、再び自然が生い茂り、ツタがビルを覆い、木々が無造作に並んでいる光景には魅力がある。

 

少なくとも、自分にはそう言い聞かせている。

 

ドルインフルが世界を破壊し尽くす前から、こんな都市は見たことがなかった。シルバーク…いや、D.C.の後に行ったあの場所にも、D.C.そのものにも、ニューヨークにも…俺が行ったどこにも、こんな都市はなかった。

 

“そうだな”

この洒落たオフィスから街を眺めながら、俺は言葉を濁した。

“ここはカンザスじゃない。”

 

もう片方の前腕をゆっくりと窓ガラスに置き、見知らぬ街の通りを見下ろした。 しかし、俺はすぐにISACに答えを出さなければならないことを思い出す。

 

ISACに答える前に足音が聞こえた。俺は太もものホルスターに手をかけ、セーフティーを外してオフィサーM9A1を取り出した。この距離から落ちても生き残れるのか…なんていうことを考え込みながら、オフィスを見渡し、そしてドアを開けようとした。

 

が、開けるのはやめた。その代わり、窓ガラスに向かって弾を数発発射した後、椅子をつかみ、窓ガラスに投げつけて割った。破片が落下し、床と地面の上でカタカタと音を立てながら、敵かもしれない新しい住人を騙すために、音もなく机を飛び越え、机の後ろに隠れた。

 

足音が大きくなり、罵声が飛び交うなか、俺は手元のサプレッサーを親指でひねり、決断を下した。

 

ドアが開くと、俺はそれを戻して、M9を準備する。

 

再びドアが開き、床を踏むヒールの音が鳴り響き、女性が必死になって部屋に入ってきた。

 

 

俺は21歳だ。その間、少なくとも16年間は…意識しながら生きてきたし、3年間はSHDのために尽くしてきた、 SHD前の訓練については言うまでもない。だがこれまでの人生で、これほどまでに美しい女性は見たことがなかった。

 

健康的な青白い肌に真っ青な目、白いワンピースと青いネクタイに大きな…胸、肩には大きなジャケットをかけ、脚にはストッキングを履き、ピストルがついてあるベルトをしている。

…ああ神よ、俺を天国にお送りになさったのでしょうか!あの女性には天使の輪が付いているではありませんか!

 

 

注意は払っている。いや、注意は払っているんだ、ただムラムラしているだけで。

 

俺はピストルを構えて静かに歩みを進めた。女性は無言で誰かのことを気にしており、俺は彼女のピストルに目をやる。デザートイーグルだ。そして彼女の焦点は周囲ではなく割れたガラスに向いていた。まるで待っていた誰かが窓から飛び降りたとでも思ったかのように、心配しているみたいだ。ではなぜ彼女は武装している?

 

服装から立ち姿まで見ても、兵士でもなければ戦闘員でもないことがわかる。では白と青の服装は? 確かに格好はいいが、ドルインフルが流行った後のアメリカでは殺されかねない。故郷に帰っていないのは明らかだ。もっとここについて学ぶ必要がある。

 

唇を舐めながら、俺は動く。

 

慣れた動きで、ほとんど音を立てずに、自分のピストルをホルスターに収め、彼女のピストルをつかんでホルスターから取り出し、ピストルを回転させながら、銃身が下を向き、マガジンの底が彼女の後頭部に向くように構える。 なんだって? 俺より年下の、それも最年少と思われるディビジョンエージェントに俺が銃を突きつけるとでも? 18歳以上には到底見えないんだ。うん。

 

銃を構えるとHUDにエラーメッセージが表示された。ISACは俺が知っているにも関わらず、この銃の正確なモデルを特定できなかったようだ。

“動くな。”

俺は女性を静止させて、女性は銃に手を伸ばしたが何も掴めず、苛立っているかのように息をついたので命令した。

“さて…”

"ここはどこだ?"と一瞬で求めたいものに辿り着き、質問をした。

 

「何故その質問を?」彼女は少し唸りながら、そう訊ねた。残った窓ガラスには、十字架のような表情と細められた目が映し出され、穏やかな表情とはまったく相反するものだった…

 

実際、彼女の顔立ちは秘書を思わせるほどシャープで、その表情はよく似合っていた。

 

“俺は人生のほとんどを同じ場所で過ごしてきたが、こんなにきれいな場所はどこにもなかったんだ。頼むから俺の気を悪くさせないでほしい、質問に答えるだけでいい。”

彼女は落ち着いたように見えたので、俺はそう頼み、そして彼女は瞬きをして気が付いた。

 

「…まさか、ここかどこなのかが分からないと?」彼女は顎に手を当て、呟いてこう尋ねた。「では…ここにはどのようにして入ったのでしょうか?」

 

“信じられないかもしれないが…分からない。”

体重を移動させながら、左手で自分の腰を叩いてそう答えた。

”俺は…”

ふとあることに気づいて、言葉を発するのを止めた。

“俺は…何を…ん!?”

急いでシャツを上げると、クレイモアで負った傷が消えていて、円形の傷跡と普通の傷跡だらけの肌があらわになった。

“どうして…!?”

「…」彼女は最初は答えなかったが、

「もしかして…あなたが大人…でしょうか?」と尋ね始めた。

 

動きを止めて、まばたきをしながら顔を上げてこう呟いた。

”俺はその…ここじゃあ大人らしいことはしてないが…法律的には……大人と言えるなぁ……そういえば、窓を割ってこんな風にしたのは申し訳ない。”

 

彼女は、まるで予測していなかったかのように驚いていた。

 

「大丈夫でしょうか?」と。 彼女は混乱しているようだが、すぐに普通の状態に戻った。 「それでは、そちらを向いてもよろしいでしょうか?把握しておきたいことは私にもあるので面と向かってお話を…。」

 

銃口下部を叩きながら、俺は妥協案について考え、従うことにした。この状況全体が最悪だったからだ。

"よし、いいぞ。"

 

一歩下がって、彼女はゆっくりと振り向いた。おそらく、何を見るにせよ、大人を見ることを期待していたのだろう。だが、目を見開いたところを見るに、彼女は俺の姿と、そしてその男の手にある銃が自分のもので、握り方が間違っているという事実は予想できなかったみたいだ。 俺はガスマスクの下で微笑みながら、彼女の銃を持ちながら手を振った。

 

彼女は私のスマートウォッチに目を細め、それからバックパックのISACブリックに目をやった。

「エージェントヴェルネスさん、ですかね?」と彼女は尋ねた。そして俺が手を伸ばすと、彼女は自分の銃を握り、ホルスターに収める前に何も異常がないことを確認する。

 

“どこでそのことを?”

彼女の耳がエルフ耳であることと、俺の方が背が高いことに気づきながら、俺はそう尋ねた。 また、マスクの下から聞こえる自分の声がいかに小さく聞こえるかということに少し意識を割いていた。

 

彼女は何も答えず、ただデスクに向かい、書類棚を開けて、恨みを抱いてそうな分厚いファイルを持ってきた。

 

「現在行方不明になっている生徒会長は……」生徒会長…大統領みたいなものか?大統領といえば…くそ、エリスというあのネズミのことを思い出してしまった…思わずうなり声を上げそうになったがなんとか我慢した。

「このファイルを残していきました。」

 

…ファイル?彼女はデスクの向こう側でそれを回転させ、マニラフォルダーを俺の方へ滑らせ、俺はその表紙に書かれた言葉を読む。

 

Classified.(機密事項)

 

ほう、興味深いな。俺はそれを開く。黒塗りだ。数人の名前を除いて、その多くが黒く塗りつぶされていた。1枚目の紙を光にかざして目を細めて見るが、ほとんどが黒く塗りつぶされていて、まばらに書かれた日付と名前を除いては、光の下でもほとんど読めなかった。名前と日付は、俺がエージェントとして活動していた頃に関わった出来事に関連していた。エージェントとして活動を開始した日や、ワシントンD.C.からニューヨークへの移動した日などだ。他にはフェイ・ラウはもちろんのこと、キーナーのローグエージェントたちやキーナー本人が”死んだ”日付や、その他重要な情報まで載っている。

 

つまりこれって…何て言うんだっけな…

 

記録するものだから…

 

そうだ人事記録だ!

 

それには俺がディビジョンの採用施設に迷い込んだ日から、これまでの活動や、ワシントンやニューヨークでの生活、そしてここに連れて来られる前にいたすべての場所まで記されている。

 

“どうやってここまでの…?”

そう言いかけたが、厳格そうな女性が遮った。

 

「私には分かりません。ですが、あなたがエージェントヴェルネスさんであるのなら、生徒会長はあなたのことについておっしゃっていたと……。」彼女の言い方は何か引っ掛かるものだったが、こちらには思い当たる節はなかった。

「私は七神リン、キヴォトスの連邦生徒会にて首席行政官を務めています。」

彼女は自己紹介をし、近づく。これから一波乱が起きると俺は実感した。

「そしてあなたはおそらく、私たちがここに呼び寄せた先生…のようですが。」

 

"自信なさげだな"

俺はそう指摘し、リラックスして机の上に飛び乗った。彼女は鋭い視線を送っていたが。

 

「申し訳ございません。推測形でお話ししたのは、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです。」彼女はそう言うと、俺をちらりと見て、「それにしても…あまり混乱しているようには見えませんが」と疑問を付け加えた。

 

肩をすくめて、俺は立ち上がった。ふと、ワシントンで若い生存者たちに色々と教えた記憶がよみがえった。

“そうだな。”

ナナガミが投げかけた言葉については認めた。

“だが……”

と、突然の爆発音が自分の言葉を遮った。記憶と経験が俺を緊張させ、窓の外を見ると煙が舞い上がり、空にたなびいている。バックパックを揺らし、期待と不安が俺を駆け巡る、

 

“まずはあっちの方を心配しないといけないみたいだな、ナナガミ?”

彼女は混乱しているようだが、すぐにあることに気づいたようだ。

「…七神というのは姓で、リンが名です。」

 

“じゃあリン、ここの平和を取り戻して話を手早く終わらせるぞ。”

俺はそう言い、彼女はうなずいた。

 

「ではヴェルネス─────」喋り始めるや否や俺は

“マテオ。”

と割り込み、彼女がまばたきしたので、肩をすくめて

“マテオ・ヴェルネス、それが俺の名前。ヴェルネスが姓だ。”

リンはうなずき、「ではマテオ先生、私についてきてください。」俺がそう呼ばせると、彼女はそう言った。

俺の視線はリンの背骨をなぞり、後ろ姿を見つめた。ヴェルネスママならもっといいことを教えてくれてたな…

 

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