The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.5-04 アビドス自治区 通学路

最後に自転車を乗ったのは…いや、もうほとんど歴史の一部みたいなものだな。

 

記憶が正しければ、黒帯級の大人と話していた時だった。

その大人にボコボコにされた後、良いサンドバッグになってくれたお礼としてサイクリングを勧めてきた。

そしてその後にちょっとやり過ぎたと謝ってきたが、どっちもどっちだった。

 

とにかく、それは家族と一緒に森の中を走るもので、いい時間になった。

 

それにしても、すべてが地獄と化す前に、ほとんどの授業を終えることすらできなかったのは、今でも少し悔いを持っている。

だが、生き延びているということは、俺は正しいことをしてきたことになるに違いない。

ギャングからローグエージェント、さらにはハンターまで、こんな中途半端なエージェントの俺が、シルバークリーク、ニューヨーク、D.C.、ボストン…そしてさらにその先へと生き抜いてきた。

 

ああもう!シロコは一体何のシャンプーを使っているんだ!?

 

お前はなあ!生徒に欲情しているんだぞこのクソ野郎が!手を出してみろ!そうすればM9を口に突っ込むことになるぞ!

 

脳内に浮かぶ情けない俺を容赦なく罵倒しながら、実体の俺はオレンジ色のラインを辿って、アビドスへと向かっていた。

 

「行き過ぎてる。右に曲がって。」シロコの声が思考を遮る。俺は狼の耳を持つ二年生を見る。

 

そういえば、シロコには狼の耳だけじゃなく、人間の耳もある。普通、獣人ならどちらか一方だけになりそうなものなのに、シロコには尻尾がないのがまた不思議だ。

 

ともかく、彼女は俺よりもこの場所を熟知している。だから指示に従うべきだろう。

 

太陽が昇り始めているのが見えて、角を曲がる。周囲を見渡しながら、俺は考える。

 

エージェントとして、俺は様々な場所を渡り歩いてきた。砂漠、森林、熱帯地方…そんな旅の中で気づいたことがある。暑い場所が嫌いだ。

そして、もうひとつ気づいたことがある。

 

それは今まで見てきたどんな自然災害も、アビドスには到底敵わないということだ。

 

もちろん、ハリケーンで壊滅した町や地震で倒壊した建物、誰も住まなくなった家々を見てきた。

助けを必要としていたのに、手を差し伸べられることはなく、埋もれてしまった遺体を掘り起こしたこともある。冬の間、暖を取るすべもなく凍てついてしまった人々の身体を目にしたこともある。

 

どの状況においても、誰かが何かしらのことを”できた”はずだった。実際、多くの人が行動を起こした。火を焚く者、呼吸を極限まで抑えようとする者、さらには極悪非道の手段へと走った者もいた。

ドルインフルでほとんどの人が死に絶えた後、住む場所を失った人々には行き先が無限にあった。何者であっても止めることができる法の力なんてのはなく、人々は思うがままに移動した。

 

だがアビドスは?

 

誰もいない。

 

周囲を見渡すと、砂に埋もれた家々の中には、崩れかけていたり、屋根に空いた穴から砂が染み込んでいたりするものもある。

 

キヴォトスの人々、そして生徒たちは頑強だ。俺が知る限りの者よりも、ずっと頑丈だ。特に生徒はなおさらだ。

だがふと思った。砂の中に閉じ込められた者はいたのだろうか?

 

俺は頭を振り、シロコの指示に従いながら、自転車を漕ぎ続ける。

 

周囲には誰もいない。それでも、生徒たちはここに留まり、移ろうとしない。

 

この時点で、明確なことが一つのことあった。ここの少女たちが持っているのは誇りではない──愛だ。

 

何かしらの理由があるから、彼女たちはこの地を愛している。

 

頭を振ると、建物が近づいてくるのを目にする。「あそこ。」シロコはそう言いながら、動いた拍子にスカートがずれ、すぐに直そうとする。

 

ここにいるのが俺だけだったら自分自身をぶん殴っていたのにな…

 

その代わり、脳内の自分自身を情け容赦なく殴り倒すことにするが。

 

そんなことをしながらも、俺のスキャンテックは建物の輪郭を捉え、情報を引き出していた。

 

分校?マジか、一体どれだけ広いんだアビドスは?

 

「着いた。」シロコはそう言うと、俺は自転車を止めた。足が地面を引っかいて、砂を巻き上げながら静止する。「ありがとう先生。良い経験になった。」

 

“どういたしまして。”

俺はそう言いながら、弾薬の入ったバッグを取り出す。

“しかし良いバイクだ。壊れなかったのは奇跡としか言いようがない。”

 

「ん、」シロコの瞳が誇らしげに輝く。「もしよかったら、またいつか一緒に乗ろう?」

 

“えー…”

そう言い始めるも、シロコの表情は変わらない。期待に満ちた瞳だった。

“時間が…あれば、乗ろう。”

 

シロコはうなずいたが、その目の輝きは消えない。「なら他の皆にも紹介するね。」

 

俺もうなずき、シロコは周囲を見渡しながら言う。「ちょっと散らかってるけど、気にしないで。」

 

“いや、”

と俺は答えつつ周囲を見回す。

“大丈夫だ。いきなり来たからな。”

 

「…」シロコは何かに気づいたように、急に振り向く。「ん…疲れてる?」

 

俺はシロコの様子を見て瞬きをする。彼女は少しもじもじしながら、不安そうにしていたが、俺は手を振って答えた。

“いや、そんなことはない。良いライドになったし、身体もほぐれた。”

そう言って、軽くストレッチをして、言葉の意味を強調する。

 

「本当?」少し困惑しながらそう聞いてきて、俺はうなずく。

 

“本当”

 

「…」シロコは瞬きをして、リラックスした。「先生のスタミナ、凄い…」

 

“先生たるもの、そうでないとな。”

肩をすくめてそう答える。

“じゃあ、他の生徒に会いに行くか。”

 

シロコはうなずき、俺は彼女に続いて学校へと入った。廊下を抜け、空っぽの教室をいくつも通り過ぎながら、階段を上がる。

そして、部室へとたどり着く。部屋の前の上には紙が貼られていて、HUDには”アビドス廃校対策委員会(Abydos Foreclosure Task Force)”と翻訳された文が表示された。

 

「ただいま。」シロコはそう言い、その後ろに俺が続く。

 

「先輩遅い!もっと早く来て!」中から声が響き、黒髪のツインテールに赤いクロスヘアのヘイローを持つ猫耳の少女が姿を現した。ISACが正しければ彼女はベレッタ AR-70/223のメンテナンスをしている。アビドスの制服を着ていることから、明らかにこの学校の生徒だ。

 

彼女の視線は一瞬シロコに向かうが、すぐに俺へと移る。赤い瞳が鋭く細められ、手の動きが止まる。「シロコ先輩…」黒見セリカ、ISACが俺にその名を示す。彼女は低く鋭い声でそう言いながら、慎重に部品を布とともに置き、そのままゆっくりと脇のピストルへ手を伸ばした。

前髪の影に覆われた赤い瞳は、俺の姿から決して離れないまま、ピストルを握ったものの、トリガーに指を掛けていなかった。だからといって、完全に外しているわけでもない。

「そのいかにも怪しいヤツは誰?」

 

俺はすぐさま両手を上げる。

“ちょっと待──”

 

「アンタじゃない!」セリカは睨みつけて俺を黙らせた。「部外者に用はないから!」

 

“流石にその言い方は失礼だぞ。”

俺は目を細めながら言い返す。

“こっちは贈り物まで持ってきたっていうのに。”

そう言って俺は足元のバッグを軽く突くが、セリカは見向きもしない。

 

「持って帰ってちょうだい。押し売りは結構!」

セリカはそう言い放った。その言葉に反応するように、シロコがテーブルへ水のボトルを置く。意表を突かれたのか、セリカの動きが一瞬止まる。それでも俺は彼女から視線を逸らさなかった。

 

作戦基地の設置を拒まれるのは、これが初めてじゃない。キーナーとラウの件の後なら、なおさらだ。

だがしかし、俺が引き下がっていくことにはならない。

 

「セリカの水。」シロコがそう言うとセリカは驚いた様子でペットボトルを見る。

 

「あっありがとう…」ペットボトルを見た後、視線は俺へと向け言い放つ。「…っていうか先輩!コイツは結局誰なの!?」

 

シロコが答える前に、ドアが開いた。「おっはようございま~」母性溢れる声が響き、引き戸が開く。入ってくる人の邪魔にならないように俺は動く。「セリカちゃん、シロコちゃんはもうもど…」

金髪で緑色の瞳をした女性がそう言いかけると、俺を見て言葉を止める。彼女の長い髪は横でまとめられ、指抜きグローブをつけていた。その手には、機関銃のような武器を好むエージェントが使う武器──M134ミニガンが担がれている。

「あら、どうも~」彼女は微笑みながら言う。彼女の頭上には、クロスボウのような形をした緑色のヘイローが浮かんでいた。ただし、通常のとは異なり、弦が四本ではなく三本の構造だった。

「ここでは何をしに?」

 

“お仕事を。”

俺は微笑みながら手を差し出し、グローブとマスクを外す。

“事前に何か言うべきだったが、生憎急いでいたからな。アビドスに来たのは夜中だった。”

 

「あっ!」十六夜ノノミの後ろから、別の声が聞こえた。俺が視線を向けると、短い黒髪に琥珀色の瞳を持つ少女が立っていた。赤い眼鏡がその顔を引き立て、通常より長めの耳には蝶の髪飾りがついている。

「もしかして先生ですか?」奥空アヤネは信じられないというような目で俺を見つめた。

 

俺は微笑み一歩引く。

“そうだ。名前はヴェルネス マテオ。シロコを引き止めてしまったことを許してくれ。”

“弾薬は俺一人で運べたかもしれないが…”

俺はそう言って床に置いたバッグを握り、拾い上げながら続ける。

“一人だと時間がかかりすぎると思ったからな。だから、シロコの自転車を借りてもらった…が、結局思っていたより時間がかかってしまった。”

 

全員驚いた様子で俺を見つめる。俺はバッグをテーブルの横へと置く。

“こいつを持ってきた、俺と君たちの分だ。何かいい案を思い付くまでは、しばらくはここに滞在するつもりだ。仲良くやれるといいが。”

 

少しずつ、彼女たちは表情を和らげた。セリカでさえも、握っていたピストルから手を離した。

「先生にしてはちょっと怪しすぎないかしら…?」

 

“だな。”

俺が肩をすくめると、彼女たちは再び驚いた様子を見せた。

“とにかく、好きなだけ持っていけ。量は十分にある。”

 

「ほっきゅっうひぃん~」ノノミが楽しげに歌うように言いながら、アヤネがその後ろへとついていく。セリカは驚異的な速度で銃を組み立てていた。

バッグがテーブルに置かれると、シロコとセリカとノノミが中身を確認し始める。弾薬や危ないものを見つけるたびに、歓声が上がった。

 

「先生。」横から声がかかり、俺はアヤネへと振り向く。「すぐに来てくれるだけでなく、弾薬も持ってきてくださって本当にありがとうございます。奥空アヤネといいます。」

彼女はそう名乗りながら、赤いクロスヘアのヘイローが頭上に浮かんでいた。俺は手を差し出し、アヤネは軽くお辞儀をしようとする。が、そこで互いの動きが噛み合ってないことに気づき、凍りつく。俺は手を引き、アヤネは逆に俺の手を掴もうとする。そして気づけば最初に戻ったような状態で、彼女は頬を赤らめ、俺の唇はとんがっていた。

 

結局のところ、俺はアヤネの頭にそっと手を置くことにした。

“気にするな。助けが必要そうだったから、こっちはできるだけ早く動いただけだ。”

 

アヤネの顔はじわじわと赤く染まり始めて、俺は手を離す。その間、セリカが俺に向けた嫌悪感溢れる視線はあえて無視していた。

「あの、手紙は数日前に送りましたよね?」アヤネはそう言いながら、皆へと視線を移し、他の皆はうなずく。「届いたのは昨日…でしたか?」

 

“そうだ、読めたのは夜中だった。”

俺がそう確認すると、彼女の目が大きく見開かれる。

 

「では、昨日はよく眠れましたか?」そう心配そうな目で尋ね、俺は最も理にかなった行動を取る。

 

俺はマスクを滑らせるように戻し、嘘をついた。

“しっかり眠れたさ。ただ寝つきが悪かったから、もういっそのことここに行くことにした。”

 

「迷いませんでしたか?」アヤネがそう聞いて、俺は首を振る。

 

“ああ。道を見つけるのは得意なんでな。”

俺はそう答えた。そのことについては本当だった。

 

「チャリで来た」シロコはそう言いながら、グレネードを上着の中へ滑り込ませる。表情は変わらないが、その瞳にはわずかな敬意が込められていた。「あと私と出会ったのは先生が不良と戦ってる時だった。」

 

彼女たちが話を続けようとしたその時、銃声と叫び声が響いた。「カタカタヘルメット団…!」シロコが低く呟くと、セリカが動く。

「おーい!ホシノ先輩起きてー!」セリカの叫び声が壁越しでくぐもって聞こえ、ピンク色の袋を抱えて部屋へ入ってきた。「ヘルメット団が来てる!」

 

実際は、袋じゃなくて人だった。長いピンクの髪に、頭頂部には一房の立ち上がった毛(カウリック)。目は閉じたまま、ヘイローが浮かび上がる。ピンク色のそれを見て、俺は動きを止める。さらに彼女が目を開くと、俺は更に凍りついた。片方は青、もう片方はオレンジの左右で異なる色の目。彼女はため息を吐く。「んも~寝させてよ~…」そう不満を垂らして、俺の方へと視線を向ける。その瞬間、俺の体に何かが駆け巡った。

 

彼女は普通じゃない。どんな基準で測っても、そうとしか言いようがなかった

 

「よっ、先生。」小鳥遊ホシノがニヤリと笑いながら言う。「アビドスへようこそ~…って言いたいところけど、ちょうどお客()()が来ちゃったからまずはそっちをしないとね。」

 

“大丈夫だ。”

バッグを軽く揺らして答える。

“助けがいるなら、俺も手伝うぞ。”

 

ホシノは笑顔のままうなずき、次々とショットシェルをスカートのポケットへ入れていく。「よし、これで時間稼ぎが出来るね。」

 

“俺としては、全員追い払いたいところだが。”

そう言うと、彼女たちは驚いたように俺を見つめる。

“計画がある。聞きたいのなら話そう。それか、俺が戦いに加わってもいい。”

 

その言葉に、全員がホシノへ視線を向ける。ホシノは驚いたように瞬きをし、次の瞬間、安堵したように微笑む。「介護してくれるのならおじさんとっても助かるよ。それで、先生。」そう言うが、彼女の表情とは裏腹に、瞳には別の何かが宿っていた。「たった一日でキヴォトスを救った男性は、どんなのを考えついたのかな~?」

 

俺は計画を伝え、全員の無線の周波数に接続し────俺たちは動き出す。

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