The Divide   作:粋刺@翻訳

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Chap.5-05 アビドス高等学校前

ゆっくりと、ヘルメット団が校舎へと迫る。群がるハイエナの如く騒ぎを起こし、空へ銃弾を放ち、嘲笑っていた。

 

そのうちの一人が何かを見つけたのか、目を細めて上を見上げる。「なんだ──」

 

その言葉を最後に、彼女は倒れた。彼女の頭に撃ち込まれた弾丸によって、不良たちは一瞬黙らされ、そしてすぐさま動き出す。「アビドスだ!」さらに銃弾が放たれ、ヘルメット団員らの瞳が驚愕で見開かれた。「シャーレの先生もいるぞ!」

 

団員たちは慌てて遮蔽物へと隠れていく。一方、対策委員会は前進し、ノノミはミニガンによる制圧射撃で敵を抑え込む。ホシノはゆっくりと前進し、彼女の周りには銃弾が誰にも傷つけることなく地面へと落ちていく。その後ろには、慎重に進むセリカがいた。

 

「はあっ!?どっから弾持ってきたの!?もうないはずじゃ!?」

 

「増援呼んで!」団員の一人が叫び、別の者がスマホを取り出そうとする。だが、その瞬間、端末はショートし、他の少女たちのポケットの中にあるスマホも次々に故障していった。彼女たちは感電しないよう慌てて投げ捨て、安堵のため息をつく。

 

「おっ、そこだね。」前線にいた敵のすぐそばから声が響く。そして慌てて振り返ると…

 

ホシノのショットガンから放たれた"力"がヘルメットのバイザーに直撃し、砕け散る。ヘイローが消え、セリカは素早く車の上へ飛び乗る。

青い炎が彼女の周りに燃え上がり、それが彼女の怒りそのものを映し出しているかのようだった。「アビドスから出ていきなさい!」セリカは銃弾の嵐を降らせ、敵を押し戻していく。彼女の正確無比な猛攻の前に、敵は防戦一方となった。

 

さらに、一発の銃弾が響き渡り、敵がまた一人倒れ、別の一人が悪態をつく。「ああもう!マジでどっからあんなのをもらったんだ!?ミレニアムか?!」

 

誰かが答えを出す前に、背後の換気口から回転音が響いた。敵の視線が床に転がる奇妙な装置へと移り、その周囲に微小なドローンがふわりと、タンポポの綿毛のように浮かんでいた。

 

「いいから前線を援護して!」声が響くと、一番最初にいた敵の集団が混乱しつつ振り向く。増援が角を曲がって現れる……が、誰も増援を呼んではいないはずだった。

 

次の瞬間、待ってましたと言わんばかりに、ドローンが一斉に動き出す。

 

「あ゛っ゛!」

 

ドローンは通りの両端から敵を標的にし、群れを成して襲いかかる。まるで昆虫のように飛び回りながら、小規模の連鎖爆発を引き起こし、混乱が敵を包み込んだ。

 

“今だ!”

鋭く、統率の取れた声が響く。

シロコとマテオが一方の端から飛び出し、一斉に銃撃を浴びせる。同時に、ホシノ、セリカ、ノノミも同様に浴びせ、遮蔽物を求める敵は圧倒されていく。

 

シロコとマテオは、それぞれグレネードと閃光弾を敵の真っ只中へと投げ込む。対策委員会側は目を閉じて光を遮る。銃撃は収まり、視界を奪われた敵はよろめき、その隙を狙い、セリカ、シロコ、ホシノが止めを刺した。

 

最後に一人、取り残される。そして足元をふらつかせながら必死に体勢を整えようとしていた

 

戦闘が終わると、対策委員会の四人は銃を構え、逃げようとする少女を狙っていた。

 

彼女の膝裏が蹴られ、悲鳴が上がる。さらに襟元を掴まれ、抵抗しようとしたその瞬間、腕を押さえ込まれ、動きを封じられた。

ヘルメットを地面に押し付けられた彼女の視線の先には、スニーカーがあった。そして拘束している人物が言う。

“暴れるな。”

彼女は抵抗をやめ、そして恐る恐る顔を動かしてマテオを見ようとする。頭の中に浮かんだのは、マスクをつけて睨みつけているシャーレの先生だった。そして彼女の声が彼の心情を露わにしていた。

 

「な、何しやが──あ゛ぁ゛っ゛!」言葉を出すもすぐに痛みが止めさせる。

 

マテオは彼女の腕を捻っていた。

彼の脳裏には、かつてケルソから学んだ尋問の技術とその経験が浮かび上がっていた。これまで尋問された者は皆、大人だった。苦しみを与えてもなお、悔いることのない者たちだった。

だが、目の前にいるのはただ何も知らないだけの子供であった。

 

心理戦が得意だったわけではないが、マテオには多少の経験があった。だが十代の少女にそれを仕掛けるのは適切か?おそらく違うだろう。

だが、マテオはギャングというものが本当に好きではなかった。特に、苦しむ者たちが既にいる場所をさらに滅茶苦茶にさせるような連中の場合となると、なおさらだ。

 

“静かに。”

マテオは低く唸るような声でそう言い放ち、見やる。その瞬間、不良の体が強張る。マテオはほぼ無意識のまま動き、足を背中へねじ込むように踏み込み、さらに腕への締め付けを強める。

“向こうのお友達に聞いてきたが、”

彼は頭を軽く振り、気絶した団員らの方を示す。彼の足元で押さえ込まれている少女の視線が、シロコへと移る。青い目出し帽(バラクラバ)をかぶった彼女は、団員達の財布を回収していた。

“ありがたいことに、色々と話してくれた。”

 

「なっ───く゛あ゛う゛っ゛!」言いかけるも言葉は途切れ、マテオはさらに足を背中へ押し込み、同時に腕を捻り上げた。

 

“静かにしろ。”

そう低く言い放ち、少しだけ力を緩めると、シロコへと視線を向ける。

“おい、ボニー、スマホを回収しろ。”

 

シロコはそのことに首を傾げる。「…私?」

 

マテオはうなずくと、ジャマーPulseでショートされていなかったスマホを手に取る。シロコはそれらを渡し、ISACが即座にハッキングを開始する。

データ、メッセージ、通話履歴、動画…ISACは情報を精査しながら、マテオは少女の腕をゆっくりと捻り続けた。

 

「ちょちょちょい゛っ゛た゛ぁ゛!ま、まだ何も言ってないんだけど!」少女は叫ぶが、マテオは意に介さない。

 

そしてついにISACが処理を終える。

“俺の相棒が手間取っていたみたいでな。”

 

「どういうこと──!」少女が言いかけた瞬間、マテオは彼女の腕を解放し、彼女は自分の銃へと手を伸ばす。

 

だが電流が身体へと走り、低いうめき声を上げ痙攣し続ける。マテオはゆっくりと彼女の銃を蹴り飛ばし、しゃがみ込み、互いの視線が交錯する。

マテオの目は大きく開かれ、瞬きすらしない。少女の目は逸らそうとするが、マテオが放った弾丸により身体は依然として痙攣したまま、思うように動かない。

 

“公共図書館。”

彼が口を開くと彼女は凍りついた。マテオは優しく微笑むもその視線は逸らさなかった。──にもかかわらず、先生が見ているものは自分自身ではない……彼女はそう感じた。

“スーパーマーケット?ショッピングモール跡?”

 

彼が場所を挙げるたびに、彼女の表情が変わっていく様を対策委員会らは見ていた。そしていくつか特定の場所が挙げられると、彼女はわずかにうなずき始めた。

 

七つ目の地点を告げた後、マテオは納得したように頷き、スマホを取り出す。適当な番号を入力すると、呼び出し音が鳴る。数秒後、誰かが電話を取り、挨拶をした後、事故について愚痴を不満げにこぼした。その背後からは、まるでパーティーのような喧騒が漏れ聞こえていた。

 

ニヤリと、マテオは不敵に笑い、一歩後ろへ下がる。

“ほら行け。こっちはもう十分な情報を得た。仲間には二度と戻ってくるなと伝えておけ。”

 

そうして、ヘルメット団員の少女は一目散に逃げ出し、マテオはため息をついた。

 


 

俺は振り返り、対策委員会の皆の表情を目にする。

「先生…」ノノミが口を開いた。わずかに引きつった笑みを浮かべ、こう続ける。「これはちょっと…」

 

ため息をつき、俺は髪をかき上げる。

“分かってる分かってる。ちょっとやり過ぎた。”

皆が言いたいことは分かるし、後悔している気持ちはまだ残ってる。

俺はギャングと対峙すると、いつも全力で潰しにかかる。だからヘルメット団という若いギャング達を目の前にしたときには、そいつらがハイエナではないことを忘れていた。

“癖っていうのは中々抜けないものだからな。”

 

セリカの鋭い目線が俺へと向けられる。「一体全体どういう仕事をしてきたらあんな癖がついちゃうわけ…」

 

第一応答者(ファーストレスポンダー)を。”*1

そう答える。これに関してはあながち間違いではない。だが皆は完全に信じたわけではなかった。

“要は警備だ。”

その瞬間、全員納得したようにうなずいた。

 

俺のイヤーピースから声が入る。

先生、先ほどのはどんな場所でしたか?こちらで調べてみても、古くて荒れ果てたものしか見つかりませんでした。

 

俺は一台のスマホを手に取り、ロック画面のないそれを開く。モモトークを立ち上げると、画面を示しながら言う。

“これだ。”

 

ホシノは好奇心を抱いた様子で画面をスクロールする。その背後ではセリカとノノミが肩越しに覗き込んでいた。

一方、ISACはマップを更新し、新たな情報を追加していく。

 

そう、コントロールポイントと敵の拠点の情報を。

 

「これって…」ホシノが低く呟き、シロコは耳を動かしながら、青い目出し帽を静かに脱いで、仕舞う。

 

「何?そこにさっきのヘルメット団がいるってこと?それのどこが大事なの?」セリカが問いかける。

 

“略奪者やさっきみたいなギャングは、災害が起きた後に居座る傾向がある。”

俺は少し講義じみた口調で説明を続ける。

“統制の取れた部隊や指揮系統をもった軍隊とは違い、ギャングや暴徒にはそのようなものはない。”

“だから下手に頭を狙うと、別の勢力やギャングからの不意打ちを許してしまうだけになる。”

 

「まずは残党狩り?」シロコが聞いてくると、俺は思わず笑みを浮かべた。

 

“その通り。”

俺がそう言うと、シロコの耳が微かに動く。そしてドローンが近づき、俺のゴーバッグにあるポートへと静かに収まる。

“それによって、不意打ちの可能性を減らせる。メインの部隊を倒し、そして残りを潰すことで、周囲の状況をより正確に把握できるようになる。”

 

対策委員会の面々は、思案に沈む。それぞれ眉間に皺を寄せるが、その中でホシノだけが俺の姿に視線を留めていた。が、俺はあえて無視する。

“それはそれとして、皆よくやった。”

手を打ち鳴らし、皆の気を引く。

“完璧な立ち回りだった。”

 

「おぉ~!ありがとうございま~す!」笑顔でミニガンを抱きつくノノミ。

 

ホシノは前のめりに崩れ落ちるように息をつき、微笑みながら言った。「いやぁ~まさか勝っちゃうなんてね!ヘルメット団もかなりの覚悟があったみたいだけど。」

 

まさか勝っちゃうなんて、じゃありませんよホシノ先輩……

アヤネが通信越しに、心配そうな声で割り込む。

勝たないと学校が不良のアジトになっちゃうじゃないですか……

 

シロコの瞳が誇らしげに光る。「ん、先生のおかげで流れを変えることができた。私たちだけでは無理だった。」

 

シロコの称賛に、俺は思わず照れ笑いを漏らす。久しぶりに、自分の仕事に対する純粋な称賛を受けた気がした。

“そこまで大したことはしてないさ。”

実際のところ、俺がしたことと言えば、デコイをスナイパータレットと組み合わせて配置し、ドローンにシロコを追尾させて弾丸を反射させ、ジャマーPulseでヘルメット団の通信を遮断した程度だ。

ホシノはハイヴを展開し、セリカは俺が設置したジャマーの操作を担ってくれた。

 

「ううん、先生の経験も決め手だった。リソースも装備も支援も…凄く上手に使っていた。」

シロコが断言するように言い切る。その背後で、ホシノはいたずらっぽく微笑む。

 

「ヒュー!シロコちゃんったら先生に一目惚れしちゃって~!」ホシノがからかうように言った。俺はそれを聞かなかったことにし、シロコが頬を染め、マフラーで口元を隠す様子も見ないことにした。

確かにシロコは可愛いが、俺はそういう道には進みたくはない。

 

「確かに、弾の消費がいつもよりも少なかったですね☆」ノノミがそう指摘しながら教室へと足を向けていく。「ではでは、戻ってアヤネちゃんと一緒にお祝いをしましょう!」

 

「アイツからもらった弾、一体何だったのかしら…」セリカがマガジンを取り外し、中身を確認する。そこには先端が灰色の銃弾が詰められていた。

 

“高速弾だ。”

俺が答えると、セリカはじっと俺を睨み、「ふんっ!」とそっぽを向く。そして対策委員会の面々とともにセリカは校舎へと歩いていく。

 

“通信助かったぞ、マニ──ア、アヤネ。”

うっかりマニーと言いかけてしまった。

 

ありがとうございます。良ければ先生もご一緒にしますか?

そう尋ねてきて、俺は思わず驚いてまばたく。

 

“その、本当にいいのか…?”

俺の存在に気を許しているのは、シロコとアヤネくらいだろう。ノノミですら、俺の少し行き過ぎた行動のせいで警戒しているのがわかる。

“アレをやった後だと…その、気まずくなるだけなんじゃないか?”

 

確かに少し怖かったです…

アヤネはそう認め、俺は肩をすくめる。

が、先生を無下にする訳にはいきません。

 

「先生!」誰かが呼びかけてきて、好奇心から振り向くと、ホシノが手を振っていた。「ほらこっち!こんなに年老いてるおじさんでも歩いて帰れるから、先生ならお茶の子さいさいでしょ!」

 

助けて頂いたのにも関わらずお礼をしないのは失礼ですからね。

アヤネがそう付け加え、俺は頭を振る。

 

…俺も、まだまだ助けていきたいな……

 

ジョギングで彼女たちへ向かい、そして思わず言い返す。

“ホシノ!俺とそんなに歳変わらないだろ!”

*1
ファーストレスポンダー(もしくは第一応答者)は、災害や事故等で救急車などが到着するまでに職務上で救急の措置が求められる職業群を指す。余談だがベニテス隊長も9.11同時多発テロの時にはファーストレスポンダーとして活動していた。参考:https://www.jfem-9599.com/ファーストレスポンダー/ファーストレスポンダーとは

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