数時間後、ショッピングモール跡は崩壊しつつあった。
ホシノはIronHorusとショットガンを構え、突進する。弧を描くようにショットシェルのペレットは放たれ、巻き込まれた敵を押し戻す。彼女に命中した数発の銃弾は、ただ地面へと空しく弾かれていった。
スナイパーライフルの音が響き渡り、ホシノの頭は動かす。「シロコちゃん!」
同時に、コードを引かれ、改造されたドローンが起動。小型ロケット弾の弾幕が空へと解き放たれる。スナイパーを仕留めるとすぐに、ドローンは別のスナイパーへと向かう。
「ノノミ~いっきま~す!」ミニガンナーが弾幕のスプレーを吹き付け、対策委員会らは押さえつけられる。だが同時にノノミが姿を現し、自らのミニガンで弾幕を張る。銃弾の嵐が弧を描くように放たれ、敵数人を押し戻し、敵のミニガンナーを移動させた。
「くらいなさい!」セリカが叫びながら、新しいマガジンを叩き入れる。怒りの炎に包まれた身は乗り出され、いつもよりも素早く、銃弾をばら撒く。移動しながら射撃を続け、数発で敵を倒していった。
ホシノは前へと詰めるも…背後にいたショットガンナーに気付かず、散弾を浴びてしまいよろめく。だが唇を噛み締めながら、お返しの一発を撃ち込んで倒す。
しかし、その場には雲のように混乱が広がり、自己嫌悪と嫉妬がホシノの心に突き刺さる。
だがそれでも、アヤネがホシノの隣に救急箱を置く。同時にノノミの悲鳴が響く──銃撃を受け、再び身を隠せざるを得なかった。
残りの弾薬はすでに半分にまで減っていた。シロコが倒したヘルメット団から弾薬を回収していなければ、今頃三割を切っていたのだろう。そうして、対策委員会が担当する三つのコントロールポイントの制圧はほぼ完了された。あとは先生と図書館で合流するだけだ。
ホシノの脳裏に、大人との記憶がよぎっていく。その瞬間、彼女は必要以上に力を込めてシールドを敵へと叩きつける。
だが、誰も気づかなかった。疲れ果てていたからだ。
彼女たちは敵のパトロール部隊とコントロールポイントの制圧を同時にこなしてきた。その結果、移動時間も消費弾薬も予定よりもかなり多くなっていた。
何も変わらないはずだった。いつも通りの戦いのはずだった。
確かに苦戦はした。しかし終わってみれば、状況は良くなっていくはずだった。なのに、今回は違う。
シロコは柱の陰に身を隠しながらリロードをし、照準を定めるその瞬間、散弾が横腹に食い込む。後ろへ下がりながら狙いをつけ、連続でバースト射撃を放って敵をなぎ倒し、再び仲間の元へ戻る。
誰もが、それを隠そうとした。だが感じていた──この戦場に先生という存在はいない。
ホシノはそれを嫌悪していた。だがそれは巧妙に隠し、それは誰にも勘づかれなかった。だがホシノは戦う中、自分に感じた無力感を憎んでいた。
トリガーが引かれ、最後のヘルメット団をシロコが倒す。彼女はため息をつき、他は周囲を警戒しながら見渡している。
気楽な笑みを浮かべ、ホシノの手はひらひらと振られる。「んーっと…これで最後だね。」
シロコは戦利品漁りに没頭していた。自分の不満げな表情を隠すため、あえて仲間から視線を逸らして…
セリカはノノミと共に警戒を続け、ホシノは砂に埋もれた座席に寄りかかり、色褪せたカイザーのポスターを見つめていた。
──どうして?どうしてこうも満たされない?
それはシロコが正しかったからだ。それは先生が間違っていたからだ。
そして今、それを自分たちが証明しつつあるからだ。
弾薬の供給が改善されたことで、ヘルメット団への攻撃を積極的に仕掛けられるようになった。それでもまだ、ポケットやマガジンに感じた空白感はあった。それでもまだ、射撃に対する慎重さは残っていたため、動きを改善できるはずだった。これまでよりも速く、効率的に、ヘルメット団を薙ぎ倒せた。
それなのに──先生がいるときほど、うまくいかなかった。
動きは鈍く、被弾も増え、負傷も増えてしまった。もちろん、ただ単に弾薬を手に入れた状態で、先生抜きで同じ戦術を実行していたならある程度の改善は見られただろう。だが、先生の指揮下で戦ったときと比べれば、それは微々たるものだった。
そして今、先生の指揮を受けた後だからこそ分かる。彼女たちは気づいてしまった──自分たちの戦術が効率的ではないことを、戦略の欠陥があることを。
たとえそれが些細なものであろうとも、痛烈な弱点であるとホシノはそう捉えざるを得なかった。
彼の自信は皆を安心させ、彼の指示は単純明快、彼はヘイローを持たぬ身でありながらも、揺るぎない存在感を示し、彼の射撃の腕は皆の負担を和らげる。
彼がどうやるのかは関係ない。重要なのは、彼が出来るという事実──特に、アヤネへと共有された情報がそうだ。
ホシノは彼を猛烈に憎みたかった。自分たちを"見捨てた"彼を猛烈に軽蔑したかった。だがそれを許さない二つの要素があった。それは、"自分たち"の一員ではなかったこと。信頼を寄せていたこと。
自分は存在しないものを作り上げていると理解していた。自分が抱く心配をよそに、自分と後輩らはヘルメット団を圧倒できるだけの力を持っている。
にもかかわらず、その大人と向き合うたび、彼女の中の劣等感と戸惑いは悪化していくばかりだ。
人付き合いは決して得意ではなかった。撃ち合いのほうがいつだって得意だった。だが彼女はもう、数年前に死にかけの学校へ巻き込まれるかのように入った少女ではない。度重なる大人との接触が、そうさせてしまった。
して、彼は何を隠している?
「シロコちゃん終わった?」そう聞くと立ち上がり、脚に付いた砂を払う。
「ん。」瞳に興奮が宿ったシロコがそう答える。
「アヤネちゃん、先生は今どんな感じ?」今度はアヤネに聞くと、対策委員会一同はショッピングモール跡を後にする。
『向かっているとのことです。』アヤネは無線越しで答え、タイピングをしながら微笑み、続ける。『先生から建物の設計図とご指示を受け取りました。』
ホシノはわずかに息を吐く。普段なら誇らしげな態度に見えるかもしれないが、今はただ、皆に安堵をもたらすものだった。
彼女たちはとても上手くやっていた。だが先生の考えた戦略と比べると、どちらが優れているかは明白だった。「教えてー。」
「ちょっとまっ──!」セリカが反論しようとするも、アヤネがそれを遮る。
『成績に関係しているみたいで、好成績を残せば先生が奢ってくれるみたいです。』その言葉に、四人は興味を示す。『計画では、裏口を探してノノミ先輩を先に突入させて、階段上へと誘導させた後、私とセリカさんがその敵を倒し、ホシノ先輩は最後尾で階段下の敵を掃討することになっています。』
ホシノは設計図を眺めながら、これをどうやって手に入れたのかと考えたが、すぐに首を横に振る。これは堅実な作戦だ。
「それじゃ行こっか。」彼女が声をかけ、対策委員会らが後に続く。
ほどなくして彼女たちは入口を発見する。武者震いをしているノノミは、一番前へと立っていた。
「レッツゴー!」扉を蹴破り、銃弾のシャワーを図書館へと浴びせに浴びせていく。団員たちは不意を突かれ、瞬く間に数人が倒れていく。対策委員会らは階段へと駆け上がり、ノノミの後にはシロコとセリカが加わり、敵を押さえつけていく。
混乱する敵──その時、一発の銃声が響き渡る。.50BMG弾が頭へと命中し、複数の敵が膝から崩れ落ちる。衝撃波が周囲の敵にもダメージを与えたようで、残った敵は逃げようと駆け出す。
アサルトライフルと火炎放射器の音が鳴り響き、敵を階段へと追いやった。図書館の中、ライフルの銃声がこだまして、一部の敵は裏口から逃げよう試みた。
「先生!」ホシノが鋭い声で呼びかけながら、彼女に気付いていない敵へ散弾を撃ち込み、別の敵へシールドを叩きつける。そしてショットガンをシールドに固定すると、バックショット弾を広範囲にばら撒いた。
階段の上で、セリカとシロコが駆け上がろうとする敵を一掃。ついに、静寂が辺りを包見込んだ。
“よくやった!”
そう言うと、隠れていたマテオが姿を現し、目を閉じながら微笑む。その表情はガスマスクに隠された。
“90点、全員合格だ!”
シロコ、アヤネ、ノノミ──彼が近づくと、彼女たちは目に見えて明るくなる。一方ホシノはライフルのストックを折り畳み、バックパックへ収納する大人の様子をじっと見つめる。そして彼女の視線は、その弾薬の不統一さや、微細な傷跡へと向かう。
彼はそこまで弾薬を消費したようには見えず、わずかに露出した肌には乾いた血の跡が残るものの、傷らしい傷はほとんど見当たらない。
何か見落としている────彼女はそう確信した。
「うへ、後は頼んだよ先生。おじさんが行けれない場所に皆を連れてってね~。」彼女は大げさに振る舞いながら言う。セリカは目を丸くし、ノノミはただ微笑む。
“いいのか?”
彼の目には心配の色が明確に映っていてそう問う。ホシノは静かにうなずく。
「後で追いつくからいいよ~。それに先生にはご飯を奢る借りがあるでしょ?」彼女がそう警告すると、彼は笑みを浮かべ、肯く。
“じゃ、そこで待つからな。”
先生はそう言いながら、シロコ、ノノミ、アヤネと話し始める。セリカは相変わらず、意地を張ったままだった。
彼女は彼らの背を見送り、十分な距離ができたと感じた瞬間、立ち上がる。
すぐに先生のコントロールポイントへ向かい、自分の抱いた感情の正体を確かめるために動いた。
その感覚は真実へと変わった。先生の通った跡には、あちらこちらで倒れている敵の身体を、彼女は見た。数を数えると、自分たちが対処した数の二倍、いや三倍にも及んでいた。
その時、彼女は悟る──自分たちは、誤った情報を与えられていた。
二つの思考が彼女の中で交錯する。危険な要素を未然に処理しろと一つ目の思考が主張する。後輩の為に、彼が動く前にやれ──大人が皆そうしてきたように。
だが、一つ目の思考は次のものへと遮られる。
二つ目の思考:どうして?
どうして?彼は倒した敵の人数を隠した?
どうして?彼は助けを求めなかった?
どうして?彼は一人でこれをやった?
どうして?彼はそのことを他の皆に隠そうとした?
ホシノはベンチへ座り込み、両手で頭を抱えながらそれを理解しようとした。
大人は自分勝手だった。
──自身の利益のために、ホシノや対策委員会のような生徒を利用する。
大人はうそつきだった。
──常に気にかけているふりをする。そう、自分への見返りのために。与えるものが何もない時でさえもだ。
大人はわざと無知だった。
──生徒の苦悩は目を背け、自身の利益に目を向ける。
大人にとって、生徒は利益を得るための数字だった。
ホシノはうそつきがだいきらいだった。
自分をこんなところへと誘い込んだ男がだいきらいだ。
自分に希望を与えてくれた先輩がだいきらいだ
自分を連れ去った大人たちがだいきらいだ。
自分を押さえつける者たちがだいきらいだ。
そして──噓をつく人間がだいきらいだ。
先生もうそつきだ。
自分の世界の方が厳しいとうそをついた。ファーストレスポンダーだとうそをついた。
先生がいなければ、自分たちの戦術はより洗練される──先生は自分たちを信頼していた。
ちがった。
ホシノは頭をさすりながら、どうして?彼がうそをついたのかを考えた。
本当のことを話せば、もっと楽できたのでは?
やがて陽が沈み、冷たい風が初めて吹き抜けた。身震いをすると、先輩を罵った。
『ホシノちゃん見て~!流れ星だよ!ほら早く!願い事叶えなくちゃ!』
『はい?いきなり何を──』
『復興したアビドスをホシノちゃんが見られますように!』
『ちょっとバカなんですか!?願い事は普通黙ってやるものなんですよ!』
『そうだった…』
そんな思い出が流れる中、彼女は息を吐きだす。「先輩、声に出してしましたね。おかげで今では、全部ややこしくなっていますよ。」